「障害者」という
用語問題


2019.5.10/2020.5.15/2021.3.18/2024.2.16





 「障害を持つ(持っている)人」又は「障害のある人」という意味で、一般的には「障害者」と表現(表記)されてきました。それは病気になった人のことを「病人」「患者」「罹患者」などという場合と同じだといってよいと思います。

 しかし「障害」という言葉に「者」をつけた「障害者」という表現を不快に感じるという意見も多いようです。

 
法律や公用文で使う漢字は、常用漢字表に基づいており、「障害者」と表記されています。




「障害」と「障害者」

 「障害」とは、じゃま、さまたげ、さしさわりとなるものごとを意味します。人の生活上の妨げとなる障害はいろいろですが、それは身体的な欠損や不全によるものとは限りません。
 人にとって障害となるものを大きく挙げるとすれば、病理的障害、物理的障害、制度的障害、文化的障害、情報的障害、意識的障害、対人・対社会的障害などが考えられます。これらが人の生活上の妨げとなり、それを避けることができない状態にある人を「障害を持つ(持っている)人」又は「障害のある人」という意味で、一般的には「障害者」と表現(表記)して現在に至っています。

 それは決してその人が障害そのものであるという意味ではないはずです。便宜的に障害を持つ人という意味で「障害者」と言い慣わされてきたのだと思います。それは病気になった人を「病人」「患者」「罹患者」などという場合と同じだといってよいと思います。
 しかし「障害」という言葉に「者」をつけた「障害者」という表現は、害になる虫という意味で「害虫」と呼ぶのと同じように解釈されてしまうところの問題があり、不快に感じるという意見も多いようです。

 そのため「害」の字の替わりに、妨げるという意味の「礙(がい)」の俗字である「碍」を用いて「障碍者」と表記することや、「障がい者」「しょうがいしゃ」のように仮名表記が提唱されています。
 どのような用語でも意味不明では困るし、的確にその意味内容が伝わるものでなければなりません。また意味内容を伝えることができるにしても、それが意識的にためらわれるようなものであってもならないわけで、人々が理解・納得できるものでなければなりません。

 言葉は大切であり、言葉にこだわることはよいと思います。しかし用語問題において注意を要することは、言葉にこだわりすぎて、なぜその用語を必要とするのかという肝心な物事の本質を見失い、結果的にその本質から遊離した論議になりがちではないかということです。

障害者制度改革推進協議会:
「障害」の表記に関する検討結果について
 
2010(平成22)年11月


◆障碍者表記 文化審議会が見解 朝日新聞2018(平成30)年11月23日
 2020年東京パラリンピックを見据え、法律で障害を「障碍」と表記できるよう「碍」の1字を常用漢字表に加えるよう求めた衆参両院の委員会決議に対し、文化審議会国語分科会は22日、常用漢字への追加の是非の結論を先送りし、「常用漢字表は自治体や民間組織が『碍』を使うことを妨げるものではない」とする考え方を示した。

 法律や国の公用文で使う漢字は、常用漢字表に基づく。「障害者」などの表記には「害」が持つ否定的なイメージを不快に思う人がいる。障害者のスポーツ参加促進などを理由に、衆院文部科学委員会が5月、参院文教科学委員会が6月に全会一致で「碍」を常用漢字表に追加する検討を政府に求める決議をした。

 決議を受け分科会は検討を始めたが、同日、「常用漢字の選定基準に関わる問題」として相応の審議が必要と結論づけた。一方で、常用漢字表は「目安」で個々の事情に応じて適切な考慮の余地があるとし、「現状でも『障害』と異なる表記を用いることが可能」との考え方をまとめた。
 「碍」をめぐっては、29年ぶりとなる10年の常用漢字表改定に際しても追加意見が多数出たが使用頻度などの選定基準をふまえ見送られた。この際にも位置付けについて「漢字使用の目安」としていた。

 文化庁によると、「障害」と「障碍(礙)」は明治期から同じ意味で使われており、明確な使い分けはなかったが、戦後の当用漢字表やその後の常用漢字表に害の字が入り、「障碍(礙)」という表記は少なくなっていった。   

(上田真由美)



◆公文書に「障碍」表記へ 
 宝塚市 全国初、障害者施策など
 
朝日新聞 2019(平成31)年2月5日夕刊(PDF

 障害者施策などに関する公文書について、兵庫県宝塚市は4月から「障害」の文字を使わず「障碍」と表記する方針を決めた。災害や害悪など「害」に否定的なイメージがあり、障害者の中に不快に思う人がいるというのが理由。市によると、公的に「碍」を使う自治体は全国初という。

 文化審議会国語分科会は昨年11月、「地方公共団体や民間の組織が『碍』を使うことを妨げるものではない」との考えを示していた。この見解を受け、市内の障害者の関係団体の意見を聞いた結果、おおむね異議はなく、表記を改める方針を決めた。

 宝塚市はこれまでホームページや広報資料では「障がい」と平仮名交じりで表記してきた。今後、法律や固有名詞などを除き、市の判断で表記を変えられる公文書や広報誌などに適用していく。当面は文字にルビをふって周知を図るという。     

(太田康夫)


「精神薄弱」から「知的障害」へ









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