教育と体罰について

2013. 2. 6/2014.1.15/2016.12.23/2019.11.30/2020.4.1
/2022.10.15/2023.1.25




 大阪市立桜宮高校バスケットボール部主将の2年生男子生徒(17)が顧問の男性教諭(47)の体罰を受けた翌日に自殺した。
 桜宮高校は普通科のほかに、体育科とスポーツ健康科学科を併設している大阪市にある公立高校。

 生徒の父親は、体罰を加えた顧問の男性教諭を暴行容疑で大阪府警に告訴し、受理された。体罰は日常的に繰り返されていたとされるが、告訴は自殺前日の体罰に絞られた。
 捜査一課によると、告訴内容は平成24年12月22日、桜宮高校の体育館であった練習試合の際、顧問が生徒に暴行したというもの。生徒は翌23日、自宅で首をつっているのが見つかった。 顧問は市教委などの調査に、平手でたたいたと、体罰を認めている。
 1課は、捜査に必要な資料は任意で提出を受けており、学校などへの捜査は見送る方針。大阪市教委の教育長は会見で「捜査に全面的に協力する」と話した。

 遺族は報道陣に、自宅のインターホン越しに「対応できません。すみません」とだけ答えた。 
 文部科学省は、全国の国公私立の小中高校や特別支援学校を対象にした体罰の実態調査を始めた。 


 2013(平成25)年1月24日付 朝日新聞より






学校教育法でいう 「懲戒」 と 「体罰」
育てるとは、教えるとは、指導するとは、
部活の体罰はなくせるか
コミュニケーションと体罰
桜宮高校の体罰による生徒の自殺をめぐる入試中止の是非
指導者が暴力 そのとき親は
親の体罰禁止へ指針 厚労省








学校教育法でいう 「懲戒」 と 「体罰」

 学校教育法は、学生・生徒等に懲戒を加えることはできるとしているが、体罰を加えることはできないと明確に定めている。

学校教育法
第11条 (学生・生徒等の懲戒)

 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。


懲戒とは
 ・不正または不当な行為に対して制裁を加えるなどして懲らしめる(こらしめる)こと。
  ・習慣や伝統または社会的ルールにそむいた者に加えられる懲らしめや罰。
 ※「懲らしめ」とは、懲りて(こりて)二度としないようにするということ

体罰とは
 ・悪い行為を懲らしめるために直接的に心身に苦痛を与える罰(制裁 仕置き)


(参考:広辞苑 大辞泉 大辞林)







育てるとは、教えるとは、指導するとは、

 かつては、体罰を加えるなどのことはあたりまえのように行われていたのは確かです。そして現在も体罰を是認する考えは根強いと思います。
 人を育てる、教える、指導するということと、不正または不当な行為に対して制裁を加えて懲らしめるということは本来的には性質の異なるものであるのですが、それを一緒くたにしてしまっている現状があるのではないでしょうか。

 
育てるとは、心身に苦痛を与えるということではないはずです!
 
教えるとは、心身に苦痛を与えるということではないはずです!
 指導するとは、心身に苦痛を与えるということではないはずです!


 人が人を育てる、教える、指導するというのは相手をよりよい方向に向かわせたいという思いに基づくものであるはずです。それは相手を尊重し、思いやる気持ちの込められたものであり、どうやったら相手が理解をし、納得をしてくれるかと苦心をすることであり、頑張ってやろうという“やる気”を出させることであるはずです。

 育てる、教える、指導する側が、自分の思い通りにならない場合に激高し、自分のやり方を責めることなく、相手を責めるというのが体罰であれば、それは明らかに稚拙かつ卑劣な行為であり、自らの教育力や指導力のなさを証明してみせているということだと思います。

 育てるとは、育てる自分も育つことであり、教えるとは、教える自分も教わり、学ぶということだと思います。


部活の体罰はなくせるか

 
部活動は指導者、顧問のためにあるのではない。「部活は誰のため、何のため」ということがわかっていない指導者とか顧問が存在するような教育環境が改まらないかぎり、部活の体罰はなくならないと思います。






コミュニケーションと体罰

 人と人との関係性において大切なコミュニケーションは、意思や感情の表出を伴ってこそ成立するわけです。そうしたコミュニケーションによって受ける刺激は人の意欲(やる気)を引き立てもしますが、喪失させもします。
 
 それは人の成長や発達に良くも悪くも大きな影響をおよぼすことになります。そこに教育や指導をする側とされる側とのコミュニケーションの大切さがあると思います。
 言い換えれば、教育力や指導力の有無はコミュニケーション能力の有無に置き換えるとよいと思います。

 コミュ二ケーションの方法はいろいろあると思います。「愛のムチ」とか「体罰」というのも、人と人との関係性において存在しているということであれば、それもコミュニケーションの手法の一つと考えてよいと思います。だとすれば、愛のムチや体罰は是認されるべきものということになります。

 しかし、「愛のムチ」であろうが、「体罰」であろうが、それが心身に苦痛を与えるものであり、不毛な暴力の類と区別がつかないようなものならば、それによってコミュニケーションなど成り立たないことになります。

 人としてのコミュニケーションが成り立たないような危険な手法は使わないほうがよいと思います。




桜宮高校の体罰による生徒の自殺をめぐる入試中止の是非  

 大阪市の橋本徹市長は、重大な問題であり、「男子生徒が所属していた高校の体育科は生徒の受け入れ態勢ができていない」として、入学願書の提出期限が約1カ月後に迫っていたが、同高校の体育科とスポーツ健康科学科の入試中止を市の教育委員会に求め波紋は広がった。

 入試の願書提出期限が迫っていたにもかかわらず、体罰により生徒が自殺した高校は生徒の受け入れ態勢ができていないから入試は中止せよという「荒療治」が必要だったとしても、自殺した生徒と同じくらいに受験生のことも考え、在校生やこれから学ぼうと希望する生徒のことも考えた対応が大事なはずです。

 桜宮高校がこれまでのよい面の特色を失わずに、生徒たちが充実した高校生活を誇りをもって送れるように、これからの学校運営の立て直しが円滑にいくのかどうか大変気がかりです。なぜならそのための具体策の提示がないままに、入試の中止だけを先行させたように思えるからです。

 桜宮高校での体罰はほかにも以前からあったという。今回の体罰が自殺を招いたことから入試の中止に発展した問題をめぐる報道内容の概略を次のように整理しておこうと思います。



2013(平成25)年2月11日付 朝日新聞より

≪大阪市の橋本市長が入試中止を求めた理由≫
①生徒、先生、保護者にも一緒に考えてもらいたい。クラブで勝つことよりもはるかに重要なことがある。
②顧問の教諭による体罰を誰も止められず、生徒が死に至った。実態の解明もできない段階で新入生を受け入れられない。(入試を中止しなければ市長権限で予算を止める可能性を示し、廃校もありうるとも発言。) 
 注)入試の変更に関する権限は市教委にあるが、予算は市長の権限。
③体罰をなくすには学校の伝統をいったん断ち切るべきだ。桜宮高の全教員を異動させて総入れ替えにする。

≪入試中止に対する受験生や中学校長、保護者、その他の反応≫
①出願を1ヵ月後に控え、受験生や中学校長は強く反発。
②入試の中止に反発する桜宮高校の保護者約150人が、集会を開いた。
③市役所には300件以上の抗議や意見が相次ぎ、38の個人と団体が入試継続の要望書を寄せた。
④桜宮高校の室内プールの窓ガラス5枚と、隣の合宿用施設の窓ガラス3枚が石などで割られた。最寄り駅の駐輪場に「桜宮高」のステッカーを貼って止めた自転車数台が、タイヤをパンクさせられたり、サドルを抜かれたりした。
⑤入試の中止が決まった日、桜宮高校3年の運動部の元キャプテン8人が市役所で記者会見し、「勝利至上主義ではなかった」「市長には生徒の声をもっと聞いてほしい」と訴えた。

≪橋本市長の求めを受けた教育委員会の反応≫
①「何の落ち度もない受験生の進路に悪影響を与えないよう予定通り入試をするか」「生徒の自殺を防げなかった桜宮高校の学校運営に問題があるのであれば混乱と非難を覚悟の上で入試を中止するか」で悩んだ。
②結論は、 体育系2科の入試を中止して同じ人数を「普通科」で受け入れる一方、 受験科目は従来どおりと変えず、 入学後のカリキュラムも「スポーツに特色のある内容を策定する」とする市長と受験生に配慮した折衷案を5人の教育委員のうち4人が指示して決定。

≪文部科学省は、大阪教委の判断を尊重≫
①下村博文文部科学相は、記者団に「市教委の判断を尊重。ただ受験生に配慮した対応をとってほしい」と話した。
②入試科目を変更しない点については、「 (体育系2科の募集停止は) 実態上は代替措置。受験生に影響がないような配慮であるなら、良しと考えた」と評価した。

≪朝日新聞 「社説」 2013.1.24≫
 桜宮高校入試中止 わかりにくい折衷案だ
 ~体育系2科を志願してきた中学3年生にとっては入試中止の事態は避けられた。
 とはいえ、わかりづらい点も少なくない。市教委はスポーツに特色のあるカリキュラムにする方針だ。「勝利至上主義ではなく他者を慈しむ心を育てる」というが具体的に何を教えるのか。~ 出願まで1ヵ月を切っており、早急に示す必要がある。
 来年度、市教委は改革の進み具合をみて学科のあり方を再検討するともいう。体育系2科が復活するのか、普通科で入学した生徒は編入できるのか。不安を抱えたままの受験となる。
 もとのままの入試が実施された場合の予算執行停止にまで言及して、市教委を追い詰めたことには強い違和感が残る。
 入試中止に加え、教員の全員入れ換えなどのかけ声が先行し、学校やクラブ活動をどうよくするかという本質論が先延ばしになったのは残念だ。
 市長が直接、方針を示す「荒療治」を是とする意見もある。社会には、教育現場への不信感があるのも事実である。~

≪市教委からの要請を受けた弁護士による外部監察チームの調査結果の報告内容≫
 事実関係を調べていた市の外部監察チームが、(桜宮高校のバスケットボール部)顧問の男性教諭による男子生徒らへの「暴力行為」が常態化していたと指摘する報告書をまとめた~ 特に自殺直前の練習試合での暴力が生徒を追い込む一因になったとも認定。市教委は顧問教諭の懲戒免職も含め厳しい処分を検討する。
 報告書では、顧問の暴力が非行行為に対する生活指導などとは異なり、男子生徒が昨年9月に主将になってから練習中に平手打ちなどを繰り返していた点を重視。「体罰」との表現は使わずに「暴力行為」だったと結論づけた。
 報告書はまた、男子生徒が自殺した前日の昨年12月22日、バスケ部が桜宮高校体育館で他校と練習試合をした際、顧問が男子生徒の顔や頭を平手打ちで数回たたいたと認定。同18日の練習試合の合間にも、コート内で男子生徒のほおを平手で数回たたくなどしたと確認した。これらの行為が「自殺の要因の一つとして考えられる」と指摘した。






≪参 考≫ 文部科学省初等中等教育長による児童生徒に対する指導及び懲戒・体罰に関する考え方(通知)

問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)


18文科初第1019号
平成19年2月5日

各都道府県教育委員会教育長
各指定都市教育委員会教育長       殿
各都道府県知事
附属学校を置く各国立大学法人学長

文部科学省初等中等教育局長
銭谷 眞美 


 いじめ、校内暴力をはじめとした児童生徒の問題行動は、依然として極めて深刻な状況にあります。
 いじめにより児童生徒が自らの命を絶つという痛ましい事件が相次いでおり、 児童生徒の安心・安全について国民間に不安が広がっています。また、学校での懸命な種々の取組にもかかわらず、対教師あるいは生徒間の暴力行為や施設・設備の毀損・破壊行為等は依然として多数にのぼり、一部の児童生徒による授業妨害等も見られます。
 問題行動への対応については、まず第一に未然防止と早期発見・早期対応の取組が重要です。学校は問題を隠すことなく、教職員一体となって対応し、教育委員会は学校が適切に対応できるようサポートする体制を整備することが重要です。また、家庭、特に保護者、地域社会や地方自治体・議会を始め、その他関係機関の理解と協力を得て、地域ぐるみで取り組めるような体制を進めていくことが必要です。
 昨年成立した改正教育基本法では、 教育の目標の一つとして「生命を尊ぶ」こと、 教育の目標を達成するため、 学校においては 「教育を受ける者が学校生活を営む上で必要な規律を重んずる」ことが明記されました。
 いじめの問題への対応では、いじめられる子どもを最後まで守り通すことは、児童生徒の生命・身体の安全を預かる学校としては当然の責務です。同時に、いじめる子どもに対しては、毅然とした対応と粘り強い指導により、いじめは絶対に許されない行為であること、卑怯で恥ずべき行為であることを認識させる必要があります。
 さらに、 学校の秩序を破壊し、 他の児童生徒の学習を妨げる暴力行為に対しては、 児童生徒が安心して学べる環境を確保するため、適切な措置を講じることが必要です。このため、教育委員会及び学校は、問題行動が実際に起こったときには、十分な教育的配慮のもと、現行法制度下において採り得る措置である出席停止や懲戒等の措置も含め、毅然とした対応をとり、教育現場を安心できるものとしていただきたいと考えます。
 この目的を達成するため、各教育委員会及び学校は、下記事項に留意の上、問題行動を起こす児童生徒に対し、毅然とした指導を行うようお願いします。
 なお、都道府県・指定都市教育委員会にあっては所管の学校及び域内の市区町村教育委員会等に対して、都道府県知事にあっては所轄の私立学校に対して、この趣旨について周知を図るとともに、適切な対応がなされるよう御指導願います。




 生徒指導の充実について

     省 略

 出席停止制度の活用について

     省 略


 懲戒・体罰について

(1) 校長及び教員(以下「教員等」という。)は、教育上必要があると認めるときは、児童生徒に懲戒を加えることができ、懲戒を通じて児童生徒の自己教育力や規範意識の育成を期待することができる。しかし、一時の感情に支配されて、安易な判断のもとで懲戒が行われることがないように留意し、家庭との十分な連携を通じて、日頃から教員等、児童生徒、保護者間での信頼関係を築いておくことが大切である。

(2) 体罰がどのような行為なのか、児童生徒への懲戒がどの程度まで認められるかについては、機械的に判定することが困難である。また、このことが、ややもすると教員等が自らの指導に自信を持てない状況を生み、実際の指導において過度の萎縮を招いているとの指摘もなされている。ただし、教員等は、児童生徒への指導に当たり、いかなる場合においても、身体に対する侵害(殴る、蹴る等)、肉体的苦痛を与える懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間保持させる等)である体罰を行ってはならない。体罰による指導により正常な倫理観を養うことはできず、むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ、いじめや暴力行為などの土壌を生む恐れがあるからである。

(3) 懲戒権の限界及び体罰の禁止については、これまで「児童懲戒権の限界について」(昭和23年12月22日付け法務庁法務調査意見長官回答)等が過去に示されており、教育委員会や学校でも、これらを参考として指導を行ってきた。しかし、児童生徒の問題行動は学校のみならず社会問題となっており、学校がこうした問題行動に適切に対応し、生徒指導の一層の充実を図ることができるよう、文部科学省としては、懲戒及び体罰に関する裁判例の動向等も踏まえ、今般、「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方」(別紙)を取りまとめた。懲戒・体罰に関する解釈・運用については、今後、この「考え方」によることとする。






相撲部顧問ら暴力行為
 日大東北高 ハンマーで部員たたく 
 朝日新聞 2016(平成28)年12月19日
 日本大学東北高校(福島県郡山市)は18日、相撲部の顧問とコーチが、ゴム製ハンマーで部員を殴るなどの暴力行為を繰り返していたと発表した。「行き過ぎた指導だった」として、顧問を19日から自宅謹慎とし、処分を検討する。
 顧問は20代の男性教諭で、今年度から同校に正規採用された。4月以降、男子部員の一人に対して、顔を平手打ちしたり尻を蹴ったりしたほか、道場の修理に使うゴム製ハンマーで頭をたたいたりしたという。
 5月には、稽古後の入浴で裸になった同じ部員を、デッキブラシでたたいて負傷させた。顧問は「この生徒を強くさせたかった」と説明したという。部員5人のうち、この部員だけに暴力を振るっていたという。コーチだった50代の男性非正規職員も、この部員が腕立て伏せをする際、体の下に刃を上に向けた状態のノコギリを置いたという。
 7月に保護者が連絡し、デッキブラシによる暴力行為が発覚。部員は7月末に転校した。学校側は顧問に反省文を提出させたが、指導は続けさせていた。コーチは9月末に退職した。
 その後、ハンマーやノコギリによる暴力行為も判明したため、改めて処分を検討することにした。記者会見した松井弘之校長は「大変重大なことと考えている。私の指導力が足りなかった」と釈明した。
 同校相撲部は全国高校総体に14回出場するなどの実績がある。顧問は学生相撲の強豪、日大相撲部で主将を務め全日本選手権で準優勝したことがあるという。





指導者が暴力 そのとき親は   朝日新聞 2019(令和元)年11月14日
 根絶が叫ばれるスポーツ指導上の暴力だが、最近も、高校野球や高校サッカーの監督が部員への暴力行為で解任されるなど、根深い状況だ。撲滅を阻む背景の一つに、子どもを教える指導者の暴力や不祥事に直面した時の保護者の甘い姿勢はないだろうか。二つの事例で考えてみた。

(中小路徹、木村健一)


容認や続投希望…対応に甘さも
 西日本の中学生の地域野球クラブ。息子が加入する母親はかねて、監督が子どもたちに暴力、暴言を繰り返すのを目撃してきた。顔を殴られて鼻血が出るなど、ときには目を背けたくなる光景もあった。
 クラブが加盟する団体に告発が届き、監督は謹慎処分に。母親は、預けた以上は任せるのが基本と考え、告発者を憎んだ。何人かがやめる中、残った子の保護者間には「頑張ろう」と一体感ができた。「これが監督の暴力暴言を容認する素地となった」と振り返る。

 監督は謹慎が明けて復帰。しかし、暴力暴言はやまず、2度目の告発でクラブを去った。すると、保護者達は「ボランティアで生活を犠牲にして教えてくれているのに」と、告発した〝犯人捜し〟と、監督復帰の道を探る嘆願書の署名活動を始めた。
 母親は、暴力をふるうのは間違った指導だと考え始め、署名はしたくなかったが、「集団の圧力に負けて書いてしまい、自責の念に苦しんでいる」という。

 「『指導者を告発するとスポーツ界をだめにする』と言う人までいた。でも、本当はどっちが汚していますか? 暴力暴言を本音では嫌がる子どもたちに『たたかれるのは見込みがあるということ』とか、保護者が暗示をかけている。悪習に染まった狭いスポーツ界にとどまらず、広い世界観を学ぶ機会が必要だと今は考えています」

過去の実績を重視
 東海地方の私立高校強豪バレーボール部の男性顧問は今年6月、日本スポーツ協会の公認上級指導員養成講習会の検定試験で、「替え玉」を使ったことが発覚した。顧問は別の高校で部員に平手打ちをしたとして諭旨免職となり、2014年に公認スポーツ指導員資格を取り消されていた。
 高校は「替え玉を使ったことは教員失格」と教員から外し、職員として雇用。試合でベンチに3カ月入らせない処分を科した一方、指導を続けさせている。

 校長によると、替え玉発覚後の保護者会では「子どもたちのためにバレー部に残ってほしい」という声が次々と上がり、反対意見は出なかったという。校長は「保護者からも部員からも信頼されていることが分かった。子どもたちのために顧問を残した」と話す。
 ある保護者は「子どもは春高(全日本高校選手権)に連続出場させている指導がいいと思って入学した。これまでの流れがある。替え玉を反省してもらって、先生には残って指導を続けてほしいという思いだった」と話した。

「ノーと言える勇気もって」
 指導者の暴力や不正に直面した親はどうすべきか。
 「勇気をもってノーということが悪い指導者を淘汰し、長い目で見れば自分の子を守ることになる」と友添秀則・早大教授(スポーツ倫理学)は言う。
 「スポーツ教育学の成果では、暴力をふるい、不正をする指導者の下で育った小中高生は暴力に親和的になり、不正を容認するようになるという報告がある。民主的な指導技術があって、はじめて子どもの正しい人格がなされることを親はしっかりと知ってほしい」と指摘する。

 スポーツにおける暴力や不祥事に詳しい望月浩一郎弁護士は、指導者が問題を起こしても支持する背景として、「保護者には、この指導者がいれば『全国大会に行ける』『進学に有利になる』といった利益がある」という現実を挙げる。

 2012年に大阪・桜宮高バスケットボール部主将が顧問の暴力などを理由に自死した問題では、部員と保護者、卒業生ら約1100人から、大阪市教育委員会に顧問の処分に際し、「適切な判断を求める」とする嘆願書が出された。「でも、それが正しいかどうか。もし指導者の暴力や不正を知ったら、指導者資格を出している競技団体や日本スポーツ協会などに相談してほしい」と話す。



衆議院:平成三十一年三月四日提出 質問第七三号
 
児童虐待防止法に体罰禁止を規定することと民法第八百二十二条との関係に関する質問主意



親の体罰禁止へ指針 厚労省決定
 「食事与えず」「長時間正座」   
朝日新聞 2020(令和2)年2月19日
 親が子どもに体罰を加えることを禁じる改正法の4月施行を前に、厚生労働省は18日、体罰の具体例などを示したガイドラインをまとめた。ただ、「しつけができなくなる」などと体罰禁止に反対する意見も根強い。専門家は、「体罰によらない育児」を広める必要性も指摘する。

 体罰禁止は、保護者による相次ぐ虐待事件を受け、昨年6月に成立した改正児童虐待防止法などに明記された。ガイドラインは体罰の具体的な線引きを示すもので、「言うことを聞かないので頬をたたいた」「長時間正座をさせた」など、具体例を列挙。こうした行為は「どんなに軽いものでも体罰に該当し、法律で禁止されます」とした。
 ただ、厚労省が昨年末にガイドライン案を公表すると、ネット上などでは「しつけは、時には手を出さなければいけない」などと、反発する声が相次いだ。厚労省にも63人から意見が寄せられた。なかには「自分で痛みを知らない人間は他人の痛みを理解できない」などの声もあったという。



 体罰禁止のガイドラインの内容 朝日新聞をもとに作成
  体罰の例
 ・宿題をしなかったので夕ご飯を与えない
 ・他人のものを盗んだので、お尻をたたく
 ・大切なものにいたずらをしたので、長時間正座させる
  体罰ではない例
 ・道に飛び出しそうな子どもの手をつかむ
 ・他の子どもに暴力を振るうのを制止する
  体罰によらない子育てのポイント
 ■子どもの気持ちや考えに耳を傾ける
 ■大声で怒鳴るよりも「ここでは歩いてね」などと肯定的・具体的に落ち着いた声で伝える
 ■子どものやる気が増す方法を意識する
  「靴をそろえて脱いでいるね」など、できていることを具体的にほめる
 ■困ったことがあれば市区町村の相談窓口に連絡する

 
ガイドラインから抜粋


 体罰を容認する意識の根強さは、民間の調査結果でも出ている。子どもの貧困支援などにあたる公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が、全国の20歳以上の男女約2万人に実施した意識調査では、「しつけのための体罰」を容認する人は約6割にのぼった。

(浜田知宏)




民法改正案 嫡出推定見直し 閣議決定
 親の懲戒権削除も  朝日新聞 2022(令和4)年10月15日(1面)
 政府は14日、「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」という「嫡出推定」を見直し、再婚後に生まれれば「現夫の子」とする民法改正案を閣議決定した。今の臨時国会に提出し、成立を図る。
 また、改正案には、虐待を正当化する口実と指摘されてきた親から子への「懲戒権」規定の削除も盛り込まれた。代わりに「体罰」や「心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動」の禁止を明記する。   (田内康介)

体罰禁止 民法にも明記   朝日新聞 2022(令和4)年10月15日(3面)
 現行法では、親権者は「監護及び教育に必要な範囲内で、子を懲戒することができる」と規定。親は子を懲らしめる権利をもつという印象与え、児童虐待を正当化する口実に使われると指摘されてきた。
 このため、この条文自体を削除し、新たな条文を作成した。監護や教育にあたっては「子の人格を尊重するとともに、年齢や発達の程度に配慮しなければならない」とし、「体罰」や「心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動」の禁止も明記した。
 近年も、しつけと称した親の虐待で子どもが命を落とす例が後を絶たない。
 児童福祉法などが19年に改正されて体罰禁止の規定が設けられたが、民法の懲戒権は残ったままだった。   (田内康介)



児童虐待防止対策:こども家庭庁





 




 




























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