障害(者)観を変えた国際障害分類と国際障害者年
国際障害分類試案/国際障害者年/国際生活機能分類
作成 2009.12/2017.3/2024.1.20



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 障害(者)観の変化は、障害者支援に関する考え方も変化させ、障害者施策に関わる法制度にも大きな影響を及ぼし現在に至るわけですが、その契機となったのが1980(昭和55)年に世界保健機関(WHO)が障害に関する世界共通の理解を促し、科学的アプローチを可能にすることを目的に作成した国際障害分類(ICIDH)を発表したことと、その翌年の1981(昭和56)年の国際障害者年です。






 国際障害分類(International Classification of Impairments,Disabilities,and Handicaps : ICIDH)

 従来の一般的な障害(者)観は、いわゆる「障害」を個人の心身上の生物学的な不全又は欠陥という医学レベルの問題として捉えてきました。それはいわば専門的な治療の対象として治癒や改善がみられなければ、仕方がない個人の問題だとする見方であったと思います。

 しかし人の生活の質とか生活のしづらさなどの問題を考えた場合、それは単に個人の心身上の問題であるというだけではなく、その生活する社会環境との関連で考えるべき問題でもあるという理解認識が促され、障害(者)観は大きく変化し現在に至っています。

 そうした理解認識を促す大きな契機となったのは、1980(昭和55)年に世界保健機関(WHO)が障害に関する世界共通の理解を促し、科学的アプローチを可能にすることを目的に作成した「国際障害分類(ICIDH)」を発表したことと、その翌年1981(昭和56)年の国際障害者年です。

 この国際障害分類の考え方は、障害のレベルを ①機能障害 impairments ②能力障害 disabilities ③社会的不利 handicaps の三つに分類する考え方であり、簡単に言えば、疾病等によって生じた機能障害は、生活上の能力障害(能力低下)や社会的不利を伴うという考え方です。
 三つに分類される障害の内容は次のとおりです。
①機能障害
  疾病等により、心身の機能または構造の一時的または永続的な喪失や異常を意味する。肢体不自由や視覚、聴覚、思考、情緒、感情などが正常に機能しない状態をいう。
②能力障害(能力低下)
  機能障害に起因する能力(人間として正常とみなされる方法や範囲で活動する能力)の何らかの制限や欠如を意味する。食事、排泄、衣服の着脱などの身辺動作やコミュニケーションがうまくできない状態をいう。
③社会的不利
  年齢、性、社会、文化的諸因子からみてその個人に生活上の不利益が生じていることを意味する。多くの人々に保障される生活水準、社会活動への参加、社会的評価などが保障されない状態をいう。

 この三つの障害レベルに分類する考え方は、障害者を取り巻く社会的環境条件の問題にも目をむけ、「障害」の本質を明らかにし、障害をもつ人の支援の方向性を明確にするという意味で画期的とされました。
 しかし心身機能の不全や欠損が生活能力に影響し、それが社会的不利をもたらすという考え方だけでは不十分であるということから、医療、福祉、行政、障害当事者などの各分野の関係者が参加して分類の改訂作業が進められることになりました。
  ⇒ 国際生活機能分類(ICF)




 国際障害者年(International Year of Disabled Persons : IYDP)

 国際連合では世界が抱える人類共通の問題を1年を通じて考え取り組む「国際年」を定めていますが、国際障害者年とは、障害者等に関する世界規模の啓蒙活動と国際的行動を展開するために国連が定めた1981(昭和56)年の国際年のことです。

 国連は、1971年に知的障害者の権利宣言、1975年に障害者の権利宣言を採択し、その権利宣言の具現化を図り、障害者の社会参加や就労機会の保障などの実現を目的に、1981年を国際障害者年とすることを決議しました。国際障害者年はスローガンとして完全参加と平等 (Full Participation and Equality)を掲げました。
 さらに国連は、国際障害者年の掲げた目的の計画的な達成のために、1982年に障害者に関する世界行動計画を決議し、1983(昭和58)年~1992(平成4)年の10年間を国連・障害者の十年」と宣言し、各国が計画的に課題に取り組むこととなりました。

 これらの取り組みにより、人の生活の質や生活のしづらさなどの問題は単に個人の心身上の問題であるというだけでなく、その生活する社会環境との関連で考えるべき問題でもあるという理解認識がうながされ、障害者にかかわる問題は人権の問題であるとして、障害(者)観も大きく変化することになります。
 こうした流れに大きな影響を与えたのが、国際障害者年の前年に世界保健機関(WHO)が、障害に関する世界共通の理解を促し、科学的アプローチを可能にすることを目的に作成し、1980(昭和55)年に発表した「国際障害分類(ICIDH)」だといってよいと思います。




 国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health : ICF)


 世界保健機関(WHO)が1980(昭和55)年に発表した三つの障害レベルに分類する国際障害分類の考え方は画期的なものとされたものの、それは《疾病/変調⇒機能障害(能力低下)⇒社会的不利》というように直線的に障害を捉える考え方であり、それだけでは不十分であるということが問題となりました。
 
 例えば、社会的不利に関する問題を考えた場合、心身の機能や能力の不全が社会的不利を招くだけではなく、社会的環境条件によっても心身の機能や能力が妨げられるような障害の原因を生み出すこともあるわけで、それが疾病や変調となって現れることもあり得るということから、1990年代には人と環境との関係が重視され、障害者にとって暮らしやすい社会は人々すべてにとっても暮らしやすい社会であるはずだと考えられるようになりました。

 こうした考え方に立って、医療、福祉、行政、障害当事者など各分野の関係者が参加して国際障害分類の改定作業が進められました。そして2001(平成13)年5月、世界保健機関(WHO)の第54回総会で採択されたのが「国際生活機能分類(ICF)」です。

 国際生活機能分類(ICF)の特徴は、改定前の分類の考え方をさらに積極的に推し進め、人間の生活に関連するすべての生活機能や生活能力に着目するものであり、人の生活機能や生活能力の障害を ①心身機能・身体構造 ②活動 ③参加 の三つの次元に分類し、それらは、健康状態(変調または病気)と背景因子(個人因子と環境因子の二つ)とも関連する相互作用として捉えようというところにあります。

 要するに、障害の発生には個人のもつ心身の特徴だけではなく、環境の影響が大きいことにも着目をし、生活機能と生活能力のすべての構成要素に影響をおよぼす背景因子として、「個人因子」との関連で「環境因子」という観点を加え、各次元の要素が相互に関係し合うという考え方を示したところに国際生活機能分類(ICF)の大きな特徴があり、障害をどのように考えるかの指針となる最新のもので、あらゆる分野での活用が期待できるといえます。










 厚生労働省:「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)
WHO(世界保健機関)
訳:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課


















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