成年後見制度の利用促進について



2017.3.25/2017.5.21/2018.12.28/2020.6.12/2023.12.22/2026.2.20



 認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理や日常生活等に支障がある人たちを社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資することです。

 しかし、成年後見制度はこれらの人たちを支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていません。これに鑑み、成年後見制度の利用の促進に関する法律が平成28年4月15に公布され、同年5月13日に施行されました。 

 この法律では、その基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、また、基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進委員会を設置すること等により、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するとされています。





成年後見利用資格取得できず
 権利制限 見直し方針  朝日新聞 2017(平成29)年3月25日
 認知症の人や障害者らの支援体制を強めるため、政府は24日、成年後見制度の利用促進基本計画を閣議決定した。
 現行では財産管理などを後見人に委ねると、公務員や公認会計士、会社の取締役など200以上の仕事や役割につけなくなる。批判も根強い。今回の見直しは2019年5月までに結論を出す予定。(三戸部六実)



 政府においては、今後、この法律に基づき、成年後見制度利用促進基本計画を定め関係府省が連携して成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進していきます。

◆ 内閣府:成年後見制度の利用促進基本計画について
 成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されました(平成29年3月24日)


   成年後見制度利用促進基本計画 平成29年3月24日閣議決定 (PDF)

   成年後見制度利用促進基本計画について (PDF)

   成年後見制度利用促進基本計画の策定について 平成29年3月24日通知 (PDF)


<成年後見制度基本計画のポイント>
〇意思決定支援
・支援のあり方の指針策定(2017年度から検討) ・制度利用開始時の医師の診断書に財産管理以外の項目も追加(19年度中に運用開始) 
チームで援助
・後見人だけでなく医療や福祉関係者らも支援に参加(17年度から検討) ・地域連携ネットワークとその中核機関づくり(17年度から検討)
〇不正防止など
・預貯金を引き出すときに弁護士や司法書士が関与(17年度から検討) ・権利制限の見直し(19年5月までに法改正など)

 成年後見の不正 昨年26億円被害     朝日新聞 2017(平成29)年3月25日
 成年後見制度で、昨年1年間の後見人による不正の被害総額が約26億円に上ることが、最高裁のまとめでわかった。2015年の約29億7千万円より減少した。弁護士や司法書士などの専門職による不正は15年に37件(被害総額約1億1千万円)あったが、昨年は30件(同約9千万円)に減った。 

 



◆成年後見活用 自治体に差 
  相談支援機関の設置「未定」半数  朝日新聞 2018(平成30)年12月25日

 認知症などで判断能力が十分ではない人を支援する成年後見制度は、介護保険と並び超高齢社会を支える「車の両輪」として導入された。この制度の利用を促す自治体の取り組みに格差が生じていることが、朝日新聞の105自治体アンケートで分かった。相談支援の軸となる機関の設置は、約半数が「未定」の状況だ。
首長の利用申請も濃淡
 朝日新聞は7~8月、主要自治体(政令指定市・東京23区・中核市・県庁所在地)にアンケートを実施。利用促進のカギと位置づけられる「中核機関」と、利用を申し立てる家族がいない場合の安全網となる「市区町村長申し立て」について尋ねた。
 中核機関は利用相談の窓口となり、家庭裁判所をはじめ、医療福祉関係者、法律家らと連携して本人や家族を支援する。国の基本計画(17~21年度)では、自治体が設置することとなっている。ただ努力目標なので、未設置でも法令違反にはならない。
 この中核機関は17市区(16.2%)が「設置済み」、「今後設置する予定」が34市区(32%)あった。 しかし「現時点では未定」が49市区(46.7%)で、後ろ向きの姿勢が目立った。 「未定」の市区は、「他都市の動きを見て検討したい」などと説明。

 中核機関の設置や市区町村申し立てなどの自治体別の状況は明らかにっていなかった。厚生労働省は
11月から、全市区町村を対象にした初の実態調査に乗り出している。
視/点 高齢者の権利保障 検証を
 自治体に設置が求められる「中核機関」は、利用者からみれば、申し立て段階や後見人が決まった後の総合相談窓口という位置づけだ。家庭裁判所が選んだ弁護士ら専門職の後見人への不満・不信を抱く家族も少なくないなか、その人たちにあった後見人選びや交代の調整などでも役割を期待されている。多くの自治体が中核機関を設置しないままなら、国が掲げる「成年後見の利用促進」は看板倒れになってしまう。
 市区町村長申し立ては、ひとり暮らしで認知症の人や高齢者虐待の被害者ら、本人や家族による申し立てが難しい人にとって、成年後見につながる唯一のルートといえる。独居高齢者が増えるなか、その安全網としての機能は重みを増す。申し立てがほとんど使われていない自治体で、高齢者の権利が守られているのかどうか。国や自治体自らが検証を急ぐ必要がある。   (編集委員・清川卓史)


市区町村長による申し立て(例)/「中核機関」の役割(イメージ) 

厚生労働省:成年後見制度の利用の促進に関する施策の実施の状況(令和5年5月)

問い合わせ先 厚生労働省 社会・援護局 地域福祉課 成年後見制度利用促進室


 電話03‐5253‐1111(内戦2228)  住所〒100‐8916東京都千代田区霞が関1‐2‐2





 教えて!  成年後見制度 
朝日新聞 全10回:2019(平成31)年2月6日~2019(平成31)年2月21日

 成年後見制度は、申し立て手続きの煩雑さや費用負担の重さに加え、専門職の後見人に対する不信の声も聞こえてきます。そもそも、なぜ制度が必要なのか。全10回で考えます。


成年後見制度①

 認知症・経済的虐待で出番 
  利用伸び悩み 促進法も 2019.2.6

 成年後見制度は2000年4月に始まった。介護保険と「車の両輪」で超高齢社会を支える仕組みだ。認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人に、預貯金などの財産管理、福祉サービス利用、施設入所契約などの支援をする。
 判断能力の度合いに応じて、「後見」「保佐」「補助」という三つの種類がある。制度利用の申し立てができるのは本人と配偶者、4親等内の親族ら。判断能力があるうちに将来の後見人を決めておく「任意後見」もある。

 支援の緊急性が高い、身寄りのない認知症の人らの「安全網」として、制度は一定の役割を果たしている。だが一方、500万人を超すとされる認知症高齢者に対し、成年後見の利用は約21万人(2017年12月)と伸び悩む。介護保険のように広く一般に活用されているとは言えない。
 こうしたなか成年後見制度利用促進法が16年に施行され、翌17年には利用促進の「基本計画」が閣議決定された。財産管理に偏りがちな運用を見直し、利用者がメリットを感じられる制度に改善することや、地域で関係機関が連携して利用を支援すること、不正防止徹底などがポイントだ。

(編集委員・清川卓史)

成年後見制度②
 定期預金が引き出せなくなる? 2019.2.7
 親が認知症になったら家族でも定期預金は引き出せなくなる――。
 成年後見制度の利用申し立ての動機として一番多いのが「預貯金などの管理・解約」だ。認知症になると、口座は凍結されるのか。金融機関での対応を、グループ1万6千人が認知症サポーター養成講座を受けるなど、高齢顧客への対応に取り組む三井住友銀行に聞いてみた。
 同行によると、重要なのは、あくまで窓口でのやりとりで預金者本人の意思確認がとれるかどうか。認知症と診断されると、一律に口座が凍結されてしまうということではない。

 「お客様の財産を守るため慎重に対応する。どうしてもご本人の意思確認がとれなければ、家族が同席されていても、払い出しをお断りすることもあります」担当者は説明する。こうした場合は成年後見制度の案内をするという。
 事前に備える方法はあるのか。同行の場合、本人の入院などに備え、代理人指名の仕組みがある。親子など2親等以内の家族が対象だ。意思能力が明瞭なうちに事前に代理人を選任しておけば、その後に認知症で意思能力を失っても、代理人になっている家族が払い出しを続けることができる。同種の代理人制度がないか、金融機関に尋ねてみるのは一手だ。 

(編集委員・清川卓史)

成年後見制度③
 費用負担はどれくらい? 2019.2.8
 東京家庭裁判所が示す「目安」では、成年後見人の基本報酬は月2万円。財産額が1千万超5千万円以下なら月3万~4万円、5千万円超なら月5万~6万円とされる。このほか、判断能力の鑑定が必要となれば、一般に5万~10万円程度の費用が掛かるとされる。年金暮らしの高齢者にとって重い負担であることは間違いない。

 低所得者の高齢者に成年後見の申し立て費用や報酬を助成する公的仕組み(成年後見制度利用支援事業)はある。厚生労働省によれば全市区町村の約8割が実施している。(2016年4月現在)。ただし、身寄りがない高齢者について市区町村長が申し立てた場合だけ助成される、言い換えれば本人や親族が申し立てたときは助成対象にならない自治体も少なくない。所得要件も「生活保護に準じる程度」など、かなり限定的だ。
 公的助成制度がない、または不十分なため、支援が必要でも報酬を払えない高齢者がいる。

 認知症高齢者らの成年後見制度利用の現状に詳しい東京都立松沢病院の精神科医長・井藤佳恵さんは、「経済的、社会的に困難を抱える層が成年後見制度からこぼれ落ちているのではないか」と懸念する。 注意を払うべきは、年金など生活保護基準を上回る収入があるものの、借金や医療・介護費で、後見報酬の支払い能力がない人々。井藤さんはそう指摘する。
 「こうした経済状況の人は多く、実態を調べなければならない。このままでは恵まれた人のための成年後見制度になってしまう」

(編集委員・清川卓史)


成年後見制度④
 相談はどこにするの? 2019.2.9
 成年後見制度の仕組みや利用する手続きは複雑だ。利用することを考えたとき、どこに相談すればいいのだろうか。
 わかりにくさを招いた一因は、成年後見制度の成り立ちだ。成年後見制度は民法の禁治産者制度を見直して作られたため、法律を所管するのは法務省。実際に申し立てを受けたり後見開始の審判をしたりするのは家庭裁判所、利用促進に取り組むのは厚生労働省だ。複数の役所、さらに行政だけでなく司法にもまたがる「縦割り」が、「窓口」が見えづらい状況を生み出してきた。

 こうした状況を受け、国は2017年に策定した基本計画で、市町村に対し、必要な支援につなげる相談窓口となる「中核機関」を設置するよう求めた。ただ全国的にみれば動きは鈍い。
 朝日新聞が昨年実施した主要105自治体アンケートでは、約半数が中核機関の設置を「現時点では未定」と答え、消極的な姿勢が浮き彫りになった。相談態勢すら整わなければ、国が掲げる「全国どこでも利用できる制度」のスローガンは「絵に描いた餅」になりかねない。

(中村靖三郎)


成年後見制度⑤
 なぜ専門職の選任が多いの? 2019.2.13
 
親族が自ら後見人になりたいと望んでも、弁護士ら第三者が選ばれることは多い。最高裁判所家庭局は「裁判官が事案ごとに判断し、一般的な基準はない」としつつ、財産が多かったり、遺産分割など法的に難しい課題があったり、親族間で意見の対立がある場合などに専門職が選ばれることが多いと説明する。具体的には「預貯金や流動資産が1200万円超」だと専門職が選任されたり、親族による後見を監督する専門職がつけられたりすることが多いが、最終的にはやはり裁判官次第だ。

 最高裁の統計では、親族が後見人などに選ばれる割合は年々減少。2008年の68.5%から17年は26.2%まで下がった。単身高齢者の増加もあるが、「親族の不正事案の増加も要因」と最高裁はいう。ただ、後見人は一度選任されると交代は難しく、金銭管理だけで生活面をほとんどみてくれないといった専門職への不満も多い。
 どうしたら本人の生活を支え、家族も納得できる後見人を選べるのか。最高裁によると、昨年までに少なくとも6割の自治体と家裁との間で意見交換を始めて改善を模索中だ。「自治体に支援や関与をしてもらうことで、より親族後見人を活用できないかも議論している」(家庭局)という。

(中村靖三郎)


成年後見制度
 地域住民も担い手になれるの? 2019.2.14
 2025年には、高齢者のおよそ5人に1人が認知症になるという推計がある。一方、親族に頼れない人も多く、第三者の立場で成年後見人となる司法書士や弁護士ら専門職の数も限られる。こうしたなか、地域の住民に担い手になってもらう取り組みが始まっている。
 
 成年後見人の役割には、預貯金などを扱う「財産管理」と介護サービスの契約や入退院の手続きなどを担う「身上監護」がある。飯能市社協は13年から市民後見人の育成を開始。研修では成年後見人制度の仕組みに加え、医療や介護、障害の制度を受講し、介護施設での実習を通じ認知症の人らへの関わり方を学ぶ。これまでに67人が研修を終え、認知症の人や障害のある人など12人の後見支援員となっている。

 市民後見人になるまで
(品川区。個人で担当する場合)   朝日新聞をもとに作成 

 養 成

講座は区在住の20~74歳が対象。基礎講座が6日間、実務研修5日間を修了するとされる名簿に登録される
マッチング 
 区・社協が開催する「ケース会議」などで、市民後見人が担当する事案化、その場合どんな人が適切かを検討し、名簿から選ぶ
 申し立て

区役所などが家庭裁判所に申し立てる。その際、マッチングした人を「候補者」として挙げる

 決 定 裁判所の面接や審判を経て選ばれたら、実際の活動が始まる


(高橋健次郎)


成年後見制度⑦
 
 後を絶たない不正どう防ぐ? 2019.2.15
 「成年後見人が、管理していた高齢親族の預貯金約900万円を着服」――。成年後見制度をめぐり、こんな不正は後を絶たない。最高裁判所によると、2017年には294件の不正があり、司法書士や弁護士ら専門職の不正は3%台。子どもや配偶者など親族後見人が大半を占めた。不正は防げるのか。
 対策の一つが「後見監督人」だ。第三者の立場から成年後見人の業務をチェックする役割で、裁判所が司法書士や弁護士ら専門職を監督人に選ぶ。

 親族後見人による不正の多さも専門職後見人の増加につながっているとされるが、後見人業務に詳しい弁護士は「人となりを理解しているのは親族。トラブルさえなければ、親族が後見人となる方がよい」と話す。こうしたなか、親族後見人を支える動きも出てきている。東京都の中野区成年後見支援センターで11年度から年2回、専門家を招いて「親族後見人勉強会」を開いている。
 

 本人のお金を、会食の費用や家族の家の修繕費などに使ってよいかは、ケース・バイ・ケース。「親のお金だから自由に使ってよいと思った」などとして引き出し、結果的に不正と認定される恐れもある。センターの担当者は「悪気があるケースはまれ。制度の理解不足で『不正』と捉えられてしまうこともある」と話す。親族後見人に制度の理解を深めてもらうことも必要だ。

(高橋健次郎)


成年後見制度⑧ 
 「かかりつけ弁護士」って何? 2019.2.16
 自分の家族のことを何も知らない専門家がいきなり後見人に選ばれ、ほとんど本人に会いもせずに財産管理をして、高い報酬をとられる――。成年後見制度が敬遠されるのは、こうしたイメージが強いからだ。
 高齢者と専門家が信頼関係を築き、安心して成年後見制度を利用してもらうには、どうすればいいのか。その試みの一つが「ホームロイヤー契約」だ。ホームロイヤーは、個人向け顧問弁護士、いわば「かかりつけ弁護士」。日本弁護士連合会などが普及に向けてPRしている。

 特徴は、判断能力がしっかりしているうちからの長期継続的な支援にある。各地の弁護士向けホームロイヤーセミナーで講師役を務める野口敏彦弁護士(東京都)はこう説明する。「判断の力が低下して始まる法定後見では『誰に』『何を』『どのように』任せるか、いずれも自分では決められない。ホームロイヤーは、あらかじめ自分の希望を弁護士に伝えておくことができます」

 見守り安否確認から各種トラブルの法律相談、預貯金などの財産管理、医療介護サービスの手続き支援、遺言書作成。任意の契約なので、本人の依頼に応じて様々な活動をする。家族に財産管理を託す「家族信託」を利用したければ、その契約作成の助言、サポートを頼むこともできる。いよいよ判断能力が衰えたとき、見ず知らずの後見人が選ばれないないようにするために、成年後見制度の任意後見につなぐことを想定している。任意後見は、あらかじめ公正証書の契約で後見人を決めておく仕組み。ホームロイヤーを任意後見人とすれば、顔なじみの弁護士が継続支援できる。信頼できる別な人を選んでおいても構わない。

(編集委員・清川卓史)


成年後見制度⑨ 
 手術の同意・選任方法・・・どう改革する? 2019.2.20
 成年後見制度では「後見人には医療行為に対する同意権はない」というのが法務省の見解。身寄りがなく家族に同意を求められない医療機関が、後見人に判断を求めてくることは多い。司法書士でつくる公益社団法人「成年後見センター・リーガルサポート」の調査(2009年度)では、医療同意を求められた会員は76%に上った。人工呼吸器の停止といった生死にかかわるものもある。

 成年後見制度は今、様々な問題に直面している。国は今後、どう改革していくのか。その全体像をまとめたのが17年3月に閣議決定した国の基本計画だ。
 17~21年度の約5年間を想定し、「利用者がメリットを実感できる」「全国どこでも必要な人が利用できる」など四つの目標を掲げ、工程表も定めた。医療同意についても、同意がなければ本人が手術などを受けられない恐れがある状況を踏まえ、厚生労働省は後見人がどう対応できるかを検討していく考えだ。ただ、政府関係者は「計画通り進んでいるとは、とても言えない」とみる。

 まず、基本計画を進める柱となる市町村の中核機関の設置が遅れている。制度の相談を受けたり、本人と専門職をつないだり、全体の調整役を担う想定だが、「自治体の人材不足や予算などがネックとなっている」(厚労省)
 この遅れが、他の改革メニューにも影響を及ぼす。
 さらに、基本計画は現行法の枠組みを前提に作られたため、関係者からは「法改正を含め、制度の抜本的見直しが必要」と指摘する声もある。

(高橋健次郎、中村靖三郎)

 
成年後見制度⑩
 識者に聞く 利用前から意思決定の援助を 2019.2.18
 中央大法学部教授 小賀野晶一さん
 成年後見制度の支援の内容は成年後見制度は大きく分けて二つに分かれます。ひとつは預貯金などの「財産管理」、もうひとつは医療や介護サービスの契約などの生活支援で「身上監護」と呼ばれます。
 現在は、財産管理に重点が置かれています。安心して地域で暮らすため、身上監護が果たす役割はますます大きくなります。生活を守るための身上監護が制度の本質で、そのための財産管理です。家庭裁判所と国や自治体、病院、介護事業者、金融機関などの連携も進めなければなりません。

 身上監護を中心にした制度の運用改善に加えて、必要な取り組みがあります。成年後見制度は、判断能力が低下した後(事後)の支援システムです。しかし現実には多くの高齢者が、判断能力低下がはっきりする前から、消費者被害にあったり、契約トラブルに巻き込まれたりする不安を感じています。成年後見による支援の手前から援助する意思決定サポートシステムが必要なのです。
 モデルはあります。例えば社会福祉協議会が実施する「日常生活自立支援事業」です。本人との契約で預貯金の出し入れなど日常的な金銭管理や見守りなどのサービスを提供しています。とてもよい仕組みなので、予算や人員を確保し実施体制を充実させることが期待されます。

(聞き手・清川卓史)




後見利用の除外「違憲」
 旧警備業法の「欠格条項」
 朝日新聞2026(令和8)年2月19日 

 判断能力に不安のある人の財産管理を支える「成年後見制度」を利用する人は、警備業の仕事に就けない。こう定めていた警備業法の「欠格条項」は憲法違反かが争われていた訴訟で、最高裁大法廷(裁判長=今崎幸彦長官)は18日の判決で、「違憲」とする初判断を示した。
 
▶社会・総合面=判決要旨

最高裁が初判断
 最高裁が法令を違憲と判断したのは、戦後14件目。一方、地裁と高裁が認めていた国の賠償責任は否定した。裁判官15人のうち5人は「国に賠償を命じるべきだ」とする反対意見をつけた。
 原告の男性は軽度の知的障害がある。2014年から警備会社で仕事をしていたが、17年に成年後見制度の「保佐人」をつけた後、欠格条項によって退職を強いられた。

 男性は、18年、国に賠償を求めて提訴。欠格条項は警備業法のほか国家公務員法など約180の法律にあったが、19年の改正でまとめて削除された。
 大法廷はまず、障害者権利条約の批准(14年)などで国民の意識が変化し、「障害を理由とする差別が禁止されるべきだとの考え方が確立した」と指摘。男性が退職した17年3月時点で、保佐人をつけた人が一律に警備業から排除される不利益は「看過しがたいものとなっていた」と述べた。
 そのうえで、欠格条項は「職業選択の自由」を定める憲法22条や、「法の下の平等」を保障する14条に反していたと判断した。
 一方で、男性の退職までに、欠格条項の違憲性をめぐる学説の発表はほとんどなかったと指摘。国会が長期間にわたり法改正などを怠ったとはいえないとして、国の賠償責任を否定した。

(米田優人)

国の賠償責任は否定
 「法改正怠る」は一転認めず

 最高裁の違憲判断に対し、原告の男性は判決後の会見で「うれしい」と語った。一方、弁護団は、国の賠償責任が否定されたことを批判した。
 一、二審は欠格条項について、違憲性が明らかなのに国会が必要な法改正を怠ったとする「立法不作為」を認めて国に賠償を命じた。だが、最高裁は判断を一転させた。
 最高裁は三権分立の原則から、国会の判断への介入に慎重な姿勢をとってきた。立法不作為まで認めたのは、海外に住む日本人に最高裁裁判官の国民審査を認めないのは違憲とした22年の判決などに限られる。
 立法不作為を認めるには、①法律の規定の違憲性が明白②国会が長期間にわたって規定の改廃などを怠った、という2点を満たす必要がある。判決は、違憲性に関する議論は蓄積されておらず、国会の対応には限界があったとみて、①と②を満たさないと判断した。立法不作為を認めるハードルの高さを改めて鮮明にした形だ。

5人が反対意見
 これに対し、5人の裁判官は反対意見で、立法不作為を認めると主張した。裁判官の間で「あるべき国会の像」が異なっていたと言える。検察官出身の三浦守裁判官は、欠格条項の見直しが「あまりにも遅きに失した」と批判。24年に大法廷が違憲と判断した旧優生保護法にも言及し、欠格条項の問題について「国会や政府が障害者への誤った認識に基づく違法な政策を続けてきたという歴史が重なっている」と述べた。

 欠格条項をめぐる問題に詳しい新潟大の上山泰教授(民法)は、条項が長く維持された背景に、成年後見制度を使う人には判断能力がないという偏見があったとみる。「偏見の是正につながる大きな意義のある判決だ」と評価した。一方、障害者権利条約の批准などで国会は条項が違憲だと気づけたはずで、判決は国の賠償責任を認めるべきだと指摘した。

(米山優人、西田有里、森下裕介)

障害の有無関係なく「強み生かす」
 先駆的条例をつくった兵庫・明石市

 障害者が働く現状はどうなっていいるのか。
 兵庫県明石市は、成年後見制度を利用して後見人や保佐人をつけた人も市職員として採用できる条例を16年4月に施行した。先駆的で珍しい取り組みとされた。

 明石市が障害者の職員募集を始めたのは13年。身体障害者に限っていたのを知的・精神障害などにも広げる検討を進めるなか、障害のある子を持つ親からの意見を参考に、条例づくりが始まったという。25年6月時点の障害者採用の職員は55人。成年後見制度を利用しているかについては業務に関係がなく個人情報にも関わるため、採用を始めた当初から、確認しないことにしている。
 24年には専任のジョブコーチ2人を採用。配属前に仕事に慣れてもらったり適性を見極めたりするなどの対応も行う。

 明石市の条例づくりに関わり、障害者の保佐人を務めた経験もある青木志保弁護士(44)は「保佐人をつけたことで一律に職場から排除した法律や運用は人権侵害、差別にあたる。政府は、障害者権利条約の取り組みを審査した国連の障害者権利委員会から、心身の故障に基づく欠格条項などの侮辱的文言、法規制を廃止するよう勧告を受けている。人権を守る法制度が急務」と指摘する。

(森本美紀)



成年後見と警備業法 最高裁判決 (要旨)
 成年後見制度の利用者は、警備業の仕事に就けないとしていた警備業法の「欠格条項」を違憲と判断した最高裁大法廷の判決要旨は以下の通り。

【憲法22条1項、14条1項違反の判断基準】
 憲法22条1項は、職業選択の自由や職業活動の自由を保障している。憲法14条1項は、法の下の平等を定めている。
 警備業法にあった欠格条項は、成年後見制度の保佐人をそうでない者と区別し、職業選択の自由を制約する。合憲と判断するには、条項による規制が公共の利益のために必要かつ合理的であることを要する。
【欠格条項は憲法に違反するか】
 警備業法は1982年、精神障害などにより判断能力が低下していると家庭裁判所に宣告された「準禁治産者」などを欠格事由と規定した。当時の知見の下では、準禁治産の宣告を受けた心神耗弱者らに警備業務の適正な実施を期待できないとみることには相当の合理性があった。99年の民法改正で成年後見制度が導入され、「被保佐人」を対象とする規定に改められた。
 その後、成年後見制度は主に財産の処分などに関する判断能力に関わるものと理解されるようになり、2010年の政府の研究報告で、成年後見が開始しても他の能力が直ちに欠如しているとはいえないと評価された。
 14年の障害者権利条約の批准や16年の障害者差別解消法の施行などから、徐々に障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進んだだ。障害を理由とする労働者への差別は禁止されるべきだとする考え方が確立した。
 遅くとも原告が退職した17年3月時点までには、警備業の業務に必要な能力を備えた者が欠格条項により一律に排除される不利益は看過しがたくなった。立法府の合理的裁量の範囲を逸脱し、憲法22条1項と14条1項に違反するに至った。
【国家賠償法上、違憲といえるか】
 障害を理由とする差別が禁止されるべきだとの考え方が社会で確立したことにより、欠格条項は違憲となった。だが、こうした変化はその性質上、外形的事実として観察できない。
 原告が退職した17年3月までに、欠格条項の見直しの必要性は指摘されていたが、憲法上の問題を理由とするものではなかった。憲法適合性を論じた学説はほとんど存在せず、裁判所の判断もなかった。
 多数の法律に設けられた欠格条項の見直しに向けた検討には相応の期間を要する。警備業法の欠格条項のみを先行して見直しが必要だったとはいえない。
 欠格条項が違憲であることが明白なのに、国会が正当な理由なく長期にわたり立法措置を怠ったっとは言えず、国家賠償法上、違法ではない。














































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