待機児童問題に関する現状






《待機児童問題に対する無理解が浮き彫りに》

《住民の保育園開設反対について》
《待機児童と「隠れ待機児童」について》

《待機児童対策と企業主導型保育所》
《待機児童「ゼロ」への課題》




2016年2月
◆「保育園落ちた 日本死ね!!!」と題した匿名のブログが待機児童問題の深刻さとともに、為政者の無理解を浮き彫りにする事態となって・・・・ 

 保育園に落ちた母親が匿名のブログで「一億総活躍社会じゃねーのかよ」「会社やめなくちゃならねーだろ」と激しい言葉で怒りをぶつけた。 これを国会で野党が取り上げたところ、安倍首相は書き込みが匿名であることを理由に「実際それが本当かどうかも含めて、私は確かめようがない」と答弁。与党の議員からは「本人を出せ」のヤジも飛んだ。

 このことに対して同じような悩みや不安を抱える人たちが強く反発。国会前での抗議活動や、保育制度の充実を求める署名活動へ広がった。政府与党は慌てて、待機児童解消に向けた新たな対策の検討を始めたというのがあらましの経緯だ。





《待機児童問題に対する無理解が浮き彫りに》


◆保育士足りない

  保育所 空きはあるのに入れない
   朝日新聞 2016(平成28)年3月18日 
 保育士が足りず、子どもの受け入れを制限した結果、定員割れに陥る保育所が相次いでいる。
 待機児童が問題になるなかで施設を増やす一方、保育士の処遇改善が進まず、人材が定着しないことが原因だ。政府は処遇改善や経験者らの現場復帰策を打ち出すが、どの程度の効果があるか不透明だ。

◆小規模保育定員拡大へ
 政府・与党検討 待機児童巡り規制緩和  
朝日新聞 2016(平成28)年3月24日

待機児童問題をめぐり、政府・与党は小規模保育所の定員枠を緩めて保育の受け皿を増やす検討に入った。4月時点で入れない待機児童の緊急対策として月内にも打ち出す方針だ。

小規模保育所は認可保育所より小さい面積で設置できるため、空き店舗やマンションの一室を活用して短期間で整備できる。土地や物件を確保しにくい都市部を中心に、待機児童の8割以上を占める0〜2歳児の受け皿として整備が進められている。

 定員の上限は19人だが、政府・与党は20人以上の子どもが入れるように規制を暖めることを検討。定員枠の増加分は数人ほどが軸になりそうだ。緩和する対象を待機児童が多い地域に限定したり、期限を設けたりすることも考えている。

 自民党と公明党は今週中にも対策案をまとめ、厚生労働省などはこれを踏まえて緊急対策を打ち出す方針だ。ただ、保育職員の人数を増やさずに入所できる子どもの数を増やせば、保育職員の目が行き届かなくなるといった質の低下を招く恐れがある。

小規模保育所
 原則0〜2歳の乳幼児を対象に預かる定員6〜19人の認可保育施設。平成27年4月に始まった「子ども・子育て支援新制度」で新たに認可対象となった。保育職員の全員に保育土資格が求められる認可保育所と異なり、職員の半数以上が保育士であれば認可を受けられる場合がある。平成27年4月時点で東京都、埼玉県、大阪府などの都市部を中心に1655カ所が認可され、約2万5千人分の受け入れ枠がある。
 

(伊藤舞虹、池尻和生)

 

◆保育・介護一体施設普及へ 
  厚労省 人材・設備 共通化へ指針  
朝日新聞 2016(平成28)年3月25日

 保育や介護といった複数の福祉サービスを提供する「多機能型」の施設を普及させようと、厚生労働省は24日、現行ルールで共通化できる人材や設備を示す指針をまとめた。保育の受け皿を増やして待機児童の解消を進める狙いもあり、近く自治体に通知する。
 少子化を背景に、保育施設の新設に後ろ向きな自治体もある。厚生労働省は、多機能型施設にすることで、受け入れる子どもが減ってもスペースの一部を高齢者向けなどのサービスに転用して活用できるとしている。

 指針では、多機能型施設が提供できるサービスの具体例として、デイサービスやショートステイなどの高齢者向けの6種類と、保育所や小規模保育、放課後児童クラブなど子ども向けの7種類を列挙。その上で、対象が異なるサービスを一緒に提供する場合でも、施設の管理者は1人で兼務できることとし、調理室についても共有化できるとした。
 厚労省は今後、人員配置や設備の基準緩和の検討も進めるという。  

(久永隆一)


◆保育枠緩和 急場しのぎ 
自公、参院選にらみ提言 都市部の「小規模」目玉策
  広さや職員数 親ら懸念 「基準 むしろ引き上げを」  朝日新聞 2016(平成28)年3月26日 
 
「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名ブログをきっかけに政治問題化した待機児童問題で、与党が緊急提言をまとめた。財源のあてがないなか、規制を緩めて受け皿を広げることが柱となった。急場をしのぐ狙いだが、保育の質低下への懸念も出る。

厚生労働省:待機児童緊急対策
 「待機児童解消に向けて緊急的に対応する施策について」平成28年3月28日 (PDF)



待機児童の解消に向けた政府の緊急対策 


保育の受け皿拡大
 保育士配置や部屋面積の基準が手厚い自治体に国基準までの緩和を要請
 小規模保育所の定員上限を19人から22人に広げ、3歳でも継続利用できる特例を活用
 20%超の定員オーバーでも補助金減額を猶予する期間を2年から延長
 「一時預かり事業」の定期利用化と利用料軽減
 企業が主導して事業所内などに設ける保育所の積極活用

保育人材の確保
 短時間勤務の正社員制度の活用推進
 保育士の子どもを優先的に入園させる


 厚生労働省:「保活」の実態に関する調査の結果(中間とりまとめ)平成28年4月28日
「待機児童解消に向けて緊急的に対応する施策について」(平成28年3月28日)に基づき、平成28年4月11日から開始した実態調査


◆保育 自治体に緩和要請
   国より手厚い基準対象 待機児童対策
  朝日新聞 2016(平成28)年3月29日(1面)
 政府は28日、認可保育施設などに入れない待機児童の解消に向けた緊急対策を発表した。昨年4月時点で待機児童が50人以上いた141市区町村を主な対象とし、規制緩和やいまの制度の活用で子どもの受け入れ人数を増やすよう自治体側に求めることが柱だ。
 緩和要請 戸惑う現場 自治体見直し「危険」 保育士負担増を警戒 (3面)
 政府が28日に打ち出した待機児童解消の緊急対策は、自治体に基準の緩和を促すことが柱になった。施設に一人でも多くの子どもに入ってもらう狙いだが、独自に手厚い保育サービスを行う自治体には戸惑いが広がる。待機児童を減らしつつ保育の質を維持するという難しい対応になりそうだ。
 「隠れ待機児童」新たに1万人
 厚生労働省は28日、昨年4月時点で保育所に入れず親が育休を延長した人が5334人、求職活動をやめた人が4896人いたと発表した。厚労省の認定ルールに従い、認可保育施設に入れないのに自治体が待機児童に含めなかった。
 自治体が通えると判断した認可保育施設に入らず、「特定の施設を希望」 したことなどをを理由に対象外とした計4万9153人を含め、「隠れ待機児童」は全部で5万9383人いたことになる。自治体が昨年4月に待機児童と認定した子どもは2万3167人で、その2.6倍に上った。


◆保育枠緩和 省令に抵触か
  政府、「特例扱い」通知へ  
 朝日新聞 2016(平成28)年4月7日
 待機児童の解消に向けて政府がまとめた緊急対策で打ち出した規制緩和策が、「保育の質」の低下を防ぐための厚生労働省令に事実上抵触することがわかった。厚労省は「省令違反ではない」としつつ、近く市区町村に出す通知では省令の特例扱いとする方針だ。

 政府の緊急対策では、保育士の配置や部屋の面積の基準について、国の基準より独自に手厚くしている市区町村に対して国の基準並みに緩和して一人でも多くの子どもを受け入れるよう要請するとした。例えば、国の基準で1歳児6人につき保育士1人という配置を「5人に1人」としている市区町村が対象になる。

 保育施設の最低基準は、国の基準に沿って都道府県や政令指定都市、中核市が条例で定めている。厚労省例では、この条例による最低基準を上回る施設整備や運営をしている保育所に「最低基準を理由に設備や運営を低下させてはならない」と明記。国の基準並みの緩和を求めれば事実上、この規定違反になる。

 これに対して厚労省保育課の担当者は、文面上の解釈では違反に当たらないとした上で、「原則は省令にのっとるべきだが、今回は待機児童の現状を踏まえ、あくまでも緊急的に対応をお願いしたい」としている。
 全国の子育て世代でつくる「保育園を考える親の会」が6日に公表した緊急声明で指摘した。普光院(ふこういん)亜紀代表は「基準緩和は保育士の負担を増すだけでなく、子どもの発達にも悪影響を及ぼしかねない。むやみに最低基準にまで質を下げないよう求めた省令を尊重してほしい」と訴える。  


 (伊藤舞虹)

◆待機児童に幼稚園活用策
  保育士確保で要件緩和 文科省通知  
朝日新聞 2016(平成28)年4月22日(夕刊)
 待機児童解消に向け、文部科学省などは22日、幼稚園で0~2歳児を受け入れやすくする通知を出した。幼稚園施設での一時預かりや11時間保育は現在も保育士を確保すればできるが、要件を緩める。 文科省、内閣府、厚生労働省の連名で通知した。
 子どもを長時間預かる場合、必要とされる保育士のうち、半分は子育て支援員を充てられるようにする。小規模保育事業に取り組む際に必要とされる、土曜日の開設や0歳児の受け入れは、幼稚園では難しいため、必須にしないなど柔軟な扱いができるようにする。


◆幼稚園で長時間預かり促す
   政府が要件緩和
 効果は不透明   朝日新聞 2016(平成28)年4月23日
 認可保育施設などに入れない待機児童の解消に向け、政府は22日、幼稚園で乳幼児を受け入れやすくする方針を打ち出した。預かり保育などの要件を緩和して、長時間でも預かれるようにする狙いだ。ただ、待機児童が多い都市部では、園児だけで定員がいっぱいの幼稚園も多く、解消への効果は不透明だ。

 文部科学省によると、預かり保育をする幼稚園は2014年6月時点で1万93園あり、全体の82.5%を占めた。ただ、このうち午後6時以降も預かっているのは3割弱だった。また小規模保育所(定員19~6人)は昨年4月に1655カ所が認可されたが、学校法人が設置したのは91カ所(5.5%)にとどまる。

 文科省は、保育所を利用したい親のニーズに応えるため、幼稚園で11時間の「長期預かり保育」をする場合の補助要件を緩和。いまは5年以内に認定こども園への移行を目指す園が対象だが、この移行期間を延ばす。さらに、必要な保育士のうち半数までは、自治体の研修を受ければなれる[子育て支援員]で代替できるようにする。
 3歳未満児を受け入れる小規模保育所は、特に見守りが必要な0歳児を受け入れなくても設置できるようにする。   

(伊藤舞虹)



◆「待機児童数 高止まり 本社調査80自治体に1.4万人
 保育緩和策要請「応じる」ゼロ  
朝日新聞 2016(平成28)年6月11日(1面) 
  認可保育所などに入れない今年4月時点の待機児童数について、朝日新聞社が全国の主要自治体を調べたところ、回答した80自治体で計1万3991人いた。34自治体(42.5%)前年より増加。政府が求めた保育士配置や面積基準の緩和を予定するとしたところはなく、この対策は空振りしそうだ。 目標とする2017年度末までの「待機児童ゼロ」達成の厳しさが、改めて浮き彫りになった。 

◆保育の質低下 自治体懸念 規制緩和に慎重 朝日新聞 2016(平成28)年6月11日(2面) 
 待機児童問題が都市部を中心に依然として深刻な実態が、朝日新聞の主要82自治体への調査で浮かび上がった。
 「保育園落ちた」との匿名ブログをきっかけに政治問題化し、政府は3月に急きょまとめた対策で規制緩和策を打ち出したが、現場との意識のずれもあらわになった。

◆満1歳で入園 予約制 認可保育所 厚労省が導入支援へ  朝日新聞 2016(平成28)年8月24日
 待機児童の解消に向け、厚生労働省は認可保育施設などの「入園予約制」の導入を目指す方針を決めた。事前に予約して1歳で入園できるようにすることで、それまでの間は育児休業をとりやすくする。予約制を設ける自治体を支援するための必要経費を2017年度予算の概算要求に盛り込む。
年度途中OK 育休とりやすく 待機児童の多い都市部では認可保育施設の定員にほとんど空きがなく、年度途中での入園は難しい。また、1歳児の枠は0歳児からの進級でほとんど埋まる。そのため保護者が新年度に合わせて育休を切り上げ、子どもが0歳のうちから入園を申し込むケースが多くなっている。ただ、育休後に子どもを預ける手立てがあれば、子どもが1歳になるまで育休の取得を希望する親も多い。

 入園予約制は自治体の認可保育施設などで子どもが1歳になった時に入園できる仕組み。あらかじめ予約の枠を確保しておくことで、年度途中からでも入園が可能になる。1歳児に必要な保育士の配置は0歳児の2分の1のため、保育士1人が受け持つ子どもの定員を増やすことができ、待機児童の解消につながる。また、深刻化する保育士不足にも対応したい考えだ。
 3歳以上の子どもに限って受け入れる認可保育所などで、3歳未満児も対象にした「サテライト型小規模保育所」の設置も支援する方針。こうした保育サービスの拡充のため、厚労省は17年度予算の概算要求に126億円を計上する。
 待機児童の解消には保育の受け皿を増やすことが急務。政府は17年度末までの5年間で50万人分の整備目標を掲げており、来年度に予定していた2万人分の整備費を今年度の補正予算案に前倒しして盛り込むなど、整備を急いでいる。
 

 (水戸部六美、伊藤舞虹)


入園の仕組み
 
認可保育施設への入園は、市区町村が保護者の希望や施設定員の空き状況などを踏まえて調整する。入園希望者が定員を上回ると、保護者の就労状況や認可外保育所の利用の有無などを点数化し、優先順位を決める。


◆入園予約制 運用に課題 「保活」負担緩和/不公平感の恐れ  朝日新聞2016(平成28)年8月25日
 育児・介護休業法では、子どもが原則1歳になるまで育休を取れることになっている。ただ、待機児童の多い都市部では、年度途中に1歳になっても認可保育所の空きが出ることが少ない。入園予約制が導入されれば、子どもが1歳になる年度途中から0歳児クラスに入れたり、育休後の年度初めから1歳児クラスに入れたりできる。

 厚労省は保育所を探す「保活」の負担を和らげ、安心して育休をとれる環境を整える考え。育休明けから入園までの間はベビーシッターなど別の保育サービスの充実を検討。独自に国の基準よりも保育士の配置を手厚くしている市区町村もあり、厚労省は枠確保のため配置を国の基準まで緩和してもらうことも視野に入れる。制度導入に必要な人件費などを市区町村に補助する。
 一方、予約できた人より保育の必要性が高い家庭の子どもが待機児童になる「逆転現象」や、自営業など育休を取れない人が制度を利用できない、「年度途中の予約のため予約枠を設ければ、新年度に預け先が見つからなかった保護者との取り合いになってしまう」との懸念も出る。 

(伊藤舞虹、長富由希子)


◆受け入れ自治体 実はゼロ 保育士の配置基準緩和  朝日新聞 2017(平成29)年4月26日
 待機児童解消に向けた緊急対策の柱だった保育士の配置基準の緩和要請について、受け入れ自治体がゼロだったことが25日、分かった。厚生労働省は2自治体があったと公表していたが、自治体側の回答ミスがあったとしている。

 政府が昨年3月に打ち出した対策では、1人の保育士がみる子どもの数について、国の基準より手厚い独自基準を持つ152自治体に国基準まで緩和するよう要請。昨年10月時点で2自治体が受け入れたと、厚労省が18日に公表した。
 厚労省によると、民進党からこの2自治体について問い合わせを受けたため、改めて確認。その結果、1自治体は緊急対策前から緩和を実施していたことが分かり、もう一つは実施予定なしと回答を修正。いずれも自治体側の回答ミスだったとしている。
 厚労省の担当者は「自治体は保育の質が下がる懸念を抱いていることが、改めてわかった」としている。       

(西村圭史)

     



《住民の保育園開設反対について》


◆住民理解得られず 保育園の建設断念 朝日新聞 2016(平成28)年4月13日
 千葉県市川市で、開園する予定だった私立保育園が、近隣住民の理解を得られずに開園を断念していたことがわかった。保育園を運営する予定だった社会福祉法人は園の建設を説明したが、住民約40人が法人や市に白紙撤回を求め要望書を提出。「保育園建設反対の貼り紙も掲示した。
 子どもの声がうるさいことや、3~4メ-トルの幅の道路に車や人が増えることが反対の理由だという。法人側は説明を重ねたが理解を得られず、「子どもは地域と一緒に育てたい。住民の理解が得られないので取り下げた」と話す。
 全国の子育て世代でつくる「保育園を考える親の会」の代表は「子どもは社会全体で育てるという土壌がなくなってきている。歩み寄れるよう話し合いがもっとできたらよかったのに残念」と話した。

◆保育園の開設、住民の理解得るには ?  どうすれば近隣住民とのトラブルは防げる?
 道路幅の狭さ懸念 子の声は騒音? 歩み寄りが大切   朝日新聞 2016(平成28)年4月14日

保育園、迷惑ですか?
  音への印象 人間関係次第  
朝日新聞 2016(平成28)年12月5日  



《待機児童と「隠れ待機児童」について》

◆認可保育所 隠れ待機児童  
朝日新聞 2014(平成26)年11月26日 

認可保育所
 国の設置基準(施設の広さ、保育士数など)を満たして認可された保育所。定員20人以上。保育料は所得に応じて軽減がある。
認可保育所に入れない状況は同じでも、国や自治体が公表する待機児童数に含まれない子どもがいる。
 待機児童とは見なされない「隠れ待機児童」が4月1日時点で、20政令指定都市と東京23区のうち41自治体で約3万人いたことが、朝日新聞の取材で分かった。公表された同日時点の待機児童の3.8倍。待機児童の数え方が自治体ごとにまちまちなためで、実態がつかめないのが現状だ。認可保育所に入れない子どもの多くは認可外保育所などに預けられるとみられる。

 なぜ、隠れ待機児童がいるのか。厚生労働省は待機児童の定義を「認可保育所への申し込みが提出され、要件に該当しているが入所しない児童」としている。しかし、様々な注釈や例外規定があり、それを自治体が独自に解釈していることが背景にある。
 平成27年4月から「子ども・子育て支援新制度」が始まる。新制度では、今は「認可外」の保育所となっている小規模保育(定員6~19人)や家庭的保育(同1~5人)も、基準を満たせば「認可」となる。ただ、待機児童の定義をどうするかについて、厚労省は「検討中」だ。
 「保育園を考える会」の代表は「保護者のニーズや待機児童の実態がわかるように数え方を明確にしてほしい」と求めている。   

(大井田ひろみ)


◆「隠れ待機児童」解消へ定義検討  
朝日新聞 2016(平成28)年9月16日 
 認可保育施設に入れない待機児童の定義を見直すため、有識者と自治体関係者9人で構成する厚生労働省の検討会が15日に立ち上がった。統計に表れない「隠れ待機児童」も含めるよう対象を広げる狙い。年度内に新基準を設け、来年4月時点の集計から適用する。
 厚労省は「隠れ待機児童」として4月時点で6万7354人いることを公表した。待機児童の数は2万3553人で、3倍近くに上る。自治体の判断には、ばらつきが出ている。
実態と溝 保護者不満
 横浜市に住む自営業の女性(40)は長女(3)を認可施設に入れられず、一時保育を利用する。空きがないときは出張先で託児所を探すこともあるといい、「そうした苦労が統計に表れないのはおかしい」と憤る。

待機児童に含まれないケース   
 特定の保育施設を希望
  自治体が「通える」と判断した施設に入らず、きょうだいで別々の保育施設を指定されて断る
3万5985人  
 認可施設以外を利用
 
一時預かりを定期利用

      1万6963人
  求職活動を休止
 保育施設が見つからなかった場合に「求職活動をやめる」と事前に回答
    7177人
  育児休業中
 (自治体によって含む場合も)保育施設が見つからず、やむなく育休を延長 
    7229人 
  平成28年4月1日時点、厚生労働省まとめ

(伊藤舞虹、足立朋子) 



◆待機児童解消 多様な施策の総動員で
    朝日新聞≪社説≫ 
2016(平成28)年9月23日
 保育施設を増やしているのに、待機児童が減らない。厚生労働省によると、自治体が待機児童として公表している子どもの数は4月1日時点で2万3553 人で、2年続けて増えた。保育所が見つからないために育休を延長している家庭などのいわゆる「隠れ待機児童」も6万7354人にのぼる。
 安倍内閣は17年度末までに待機児童をゼロにする目標を掲げるが、利用希望者の増加に施設整備が追いついていない。はたして今の整備計画が地域の需要をきちんと反映しているのか。実態を調べ直し、計画を練り直す必要がある。
 実際の需要に見合うだけの施設を整えていくには、財源の議論が不可避だ。子育て支援策は消費税収で充実させることになっているが、10%への増税の先送りで不安が高まっている。
 保育士の配置を手厚くするといった「質の向上」も、施設を増やす「量の拡大」とともに大切だが、財源のめどが立たず手つかずのままだ。安定した財源の確保は最優先の課題である。

 運用面でも改善できる点が少なくない。例えば、待機児童の8割以上は0〜2歳児が占め、都市部に集中している。比較的整備しやすい0〜2歳児向けの小規模保育所などの活用が効果的だが、子ともが3歳になった時に別の保育所に移るのが難しいとの声が聞かれる。そうした心配を解消できれば、「受け皿」の多様化がもっと進むのではないか。
 保育所が見つからない場合は育休を最長1年半とれるが、子どもが1歳になってからでは預け先を見つけるのが難しいとの不安が根強く、0歳から入所させる親が多いとの指摘もある。

 厚労省は、育休明けの人がスムーズに子どもを預けられるようにする「入園予約制」の導入を打ち出した。実効性のある仕組みにしてほしい。育休を最長2年まで取れるようにすることも検討されているが、子育てを女性任せにしたままでは取得は広がらないだろう。多くの女性は、職場の状況や自身のその後のキャリアを考えて1年以内に職場復帰しているからだ。
 例えば、育休の一定期間を父親に割り当てる北欧の「パパ・クオーヌ制」のように、夫婦で育休を取ることを促す工夫ができないか。
 長時間労働の是正など、仕事と子育てを両立できる環境づくりも待ったなしだ。「待機児童ゼロ」をスローガンに終わらせないために、様々な課題に並行して取り組まねばならない。

◆「待機児童ゼロ」いつ? 
  17年度達成 首相「厳しい」   
朝日新聞 2017(平成29)年2月18日
 安倍政権が掲げる2017年度末までの「待機児童ゼロ」が見通せなくなっている。安倍晋三首相は17日、目標達成について「厳しい」という認識を初めて示した。保育施設の整備は各地で進が、女性の社会進出も進み、都市部で増える需要に追いつかない。

自治体補助の認可外 待機児童に含めず  朝日新聞 2017(平成29)年3月25日
 待機児童の定義見直しで、厚生労働省は24日、自治体が補助する認可外保育所などに入っている子どもは従来通り待機児童に含めないことを決めた。昨年4月時点で「待機児童」とされる7万人弱のうち約25%を占める。ほかのケースの扱いも今月中に決める。この日開かれた有識者検討会で、厚労省が提案。「自治体が運営費を出しており、一定の質も確保している」などという意見が相次ぎ、了承された。

◆「待機児童ゼロ」3年先送り 朝日新聞 2017(平成29)年5月31日 (1面)
 認可保育施設に入れない待機児童を解消する時期について安倍政権は、17年度末までに「ゼロ」にする目標を掲げていたが達成は絶望的。3年遅らせて2020年度末とすることで最終調整に入った。17年度末までの「ゼロ」を盛り込んだ待機児童解消加速プランに代わる新たな計画も打ち出す。
 待機児童の定義のうち、「保護者が育児休業中」の場合は自治体によって判断が分かれ、厚生労働省は3月に定義を見直し、「保護者が育休中」の場合も復職の意思があれば待機児童に含めることで統一した。今回の調査では約3割の26自治体が定義を見直さなかったが、18年度からはすべての自治体が適用することになる。そのため、待機児童はさらに膨らむ可能性がある。    
待機児童
 認可保育施設に申し込んで、入れなかった子どものこと。毎年4月時点で自治体ごとに集計する。昨年は計2万3553人で、2年連続で増えた。施設に入れなかったのに「特定の施設のみを希望」などとして待機児童に含まれない「隠れ待機児童」もおり、昨年は6万7354人だった。  

 (西村圭史、足立朋子)


◆待機児童4年ぶり減 2万人下回る 
 「隠れ」7.1万人 遠いゼロ   
 朝日新聞 2018(平成30)年9月8日
 自治体が認可した保育施設に入れない今年4月時点の「待機児童」は4年ぶりに減少に転じ、前年より6186人(約24%)減の1万9895人だった。7割が都市部に集中する一方、土地や保育士は不足しており、政府が掲げる「待機児童ゼロ」への道のりは遠い。
 厚生労働省が7日に公表した。安倍政権は当初、この春に「待機児童ゼロ」を達成するとしていたが昨年、2020年度に先送りした。施設整備が進んだが、1741市区町村中、約4分の1の435市区町村に待機児童がおり、首都圏、近畿圏で多い。両圏に加え、政令指定都市、中核市の待機児童の合計は1万3930人で70%を占める。
 都市部では土地の確保が追いつかず、例えば、東京都世田谷区では、空き店舗や土地を活用した保育所整備を呼びかけている。保育所不足で定員を減らしたり、そもそも開園できなかったりする施設もある。
 「きょうだいと同じ園を希望」「場所が遠い」などの理由で特定の保育所を希望したと判断されたり、認可外の「企業主導型保育所」に入ったりしたため厚労省が待機児童数から除いている「隠れ待機児童」は7万1300人だった。
 隠れ待機児童は、やむを得ず認可外の保育施設に通う利用者が多いことを示している。     (高橋健次郎)


◆こども園での指導 特例延長
  幼稚園教諭と保育士 どちらでも可能  
朝日新聞 2018(平成30)年10月10日
 内閣府は9日の「子ども・子育て会議」で、幼稚園教諭の免許か保育士の資格のどちらかがあれば、幼保連携認定こども園で教育・保育する「保育教諭」と認める特例を、2024年度末まで5年間延長する方針を示し、了承された。


 子ども・子育て支援新制度の主な施策の見直し
幼保連携型認定こども園では、幼稚園教諭免許か保育士資格のどちらか一つがあれば保育教諭と認める特例措置
24年度末まで延長
認定こども園での3歳児以上の8時間保育は「子ども35人に対し職員1人」との経過措置 20年度から「3歳児は20対1、4歳以上は30対1」に
 乳児4人以上が利用する幼保連携型認定こども園では、保健師、看護師、准看護師のうち1人に限って保育教諭とみなす 24年度末まで延長



◆保育園落選 今春も4人に1人 
   本社調査72自治体で6.5万人超  
朝日新聞 2019(平成31)年3月18日

 今年4月の入園に向け、全国72自治体で認可保育施設に申し込んだ人のうち、4人に1人が1次選考に落選したことが朝日新聞の調査でわかった。前年からほとんど改善しておらず、落選者は合計で6万5千に人超。10月からの幼児教育・保育の無償化を目指す政府は、全国で待機児童の解消を進めた上で実施するとしてきたが、開始を半年に控えてなお、一部自治体で入園が「狭き門」であることが浮き彫りになった。
 認可保育施設への入園は、保護者からの申し込みを受けて自治体が審査。4月入園分は、1~2月ごろに行われる1次選考で大半が決まる。



 《落選率の高かった自治体》

 落選率 (%)  申込者数 (人)  内定者数 (人)
 朝日新聞は、 政令指定都市と東京23区、 昨年4月時点で待機児童が100人以上いた自治体の計75市区町に0~5歳児の1次選考結果を尋ね、名古屋市、兵庫県明石市、広島市を除く72市区町から回答を得た。
 72自治体で計24万2377人が申し込み、 26.9%にあたる6万5156人が落ちていた。前年は27.2%。
 前年と比較可能な69自治体のうち、申し込みが増えたのは46自治体。複数回答で要因を尋ねたところ、最多は「共働き世帯の増加」(35自治体)で、「無償化を見越したニーズ増」を挙げた自治体も10市あった。那覇市の担当者は「すでに幼稚園に通っていても、より時間の長い保育園を利用して働きたい親からの申し込みがある」と話す。
 3~5歳児の落選率は28.4%(前年27.2%)と、0~2歳児の26.6%(同27.1%)を上回った。
  東京都港区  52.2 2265 1083
  福岡県筑紫野市  45.3  537  294
  沖縄県南風原町  44.5  604  335
  東京都世田谷区  40.2 6447 3857
  東京都台東区 40.0 1634  980
  東京都中央区 39.9 1720 1034
  福岡県大野城市  38.8  613  375
  神奈川県藤沢市  38.5 2654 1632
  沖縄県西原町  38.4  487  300
  東京都江戸川区  37.5 2941 1838
  新規申込者数と内定者数を調査。東京都台東区、神奈川県藤沢市は転園希望者を含め、東京都江戸川区は私立のみの回答


(田渕紫織、有近隆史)


◆待機児童3割減っても7894人 75市区町調査
 「20年度末にゼロ」 政府目標見通せず   
朝日新聞 2019(令和元)年7月9日
 認可保育園などに入れない待機児童について朝日新聞が主要75市区町に調査したところ、今年4月時点の待機児童数が7894人いることがわかった。政府は当初「2017年度末に達成する」としていた待機児童ゼロの目標を20年度末に先送りしたが、その達成も見通せない状況だ。
 調査は20政令指定都市と東京23区、18年4月時点で待機児童が100人以上いた32市町の計75市区町を対象に実施。全自治体から回答を得た。

 待機児童は全体で前年の1万1165人から3271人(29%)減少。大都市を中心に施設整備が進み、75市区町のうち54市区町で待機児童が減った。札幌市、新潟市、静岡市、名古屋市、京都市、北九州市と東京都港区、杉並区の8自治体は待機児童ゼロだった。
 最も多かったのは東京都世田谷区で470人(前年比16人減)。昨年度中に保育施設の定員を1396人分増やす計画だったが、土地代の高騰で整備が進まず、実際には492人分しか整備できなかった。兵庫県明石市が412人(同159人減)、さいたま市が393人(同78人増)と続いた。

 保育士不足が足かせとなった自治体もあった。待機児童が250人(同112人増)だった那覇市では保育士が61人足りず、31施設で256人分の受け入れを見送った。ほかに保育士不足が原因で子どもの受け入れ人数を減らした自治体は17市区町にのぼった。

 調査では幼児教育・保育の無償化の影響についても尋ねた。 保育料が無料になることで保育ニーズが増えると見込んだ自治体は49市区町(65%)、増えないと見込んだ自治体は16市区町(21%)だった。残る10市区は「不明」などとして回答を控えた。
 無償化に向けた懸念を複数回答で聞いたころ、「施設・保護者への周知」が67市区町(89%)で最多となった。

 無償化をめぐっては当初、与党・自民党内からも「そもそも待機児童を解消するのが先だ」との意見が出ていた。安倍晋三首相は17年11月の衆院予算委で「まずは受け皿づくりを先行させているのは事実。その先に無償化がスタートする」と述べていたが、十分な受け皿整備が整わないまま、無償化に踏み切ることになる。

(伊藤舞虹、栗田優美、有近隆史)





《待機児童対策と企業主導型保育所》

市区町村が関与せず、多様な保育サービスを「早く、柔軟に」提供できる――。
保育の受け皿拡大をうたい、政府が企業主導型保育所を導入したのは2016年。


◆企業主導型保育所 出足は好調   朝日新聞 2016(平成28)年9月7日  
 待機児童対策の切り札として安倍政権が始めた「企業主導型保育所」の出足が好調だ。
 企業が主として従業員向けに整備する施設で、内閣府は6日、1次募集で38都道府県の150施設(定員3887人分)への助成を決めたと発表した。来年度末までに5万人分の整備を目指している。

「地域枠」は直接申し込み
 企業や病院などが事業所内に設置するほか、子どもを連れて通勤する負担を減らそうと、従業員が多く住む住宅街や駅周辺にも整備。今回助成が決まった約75%にあたる113施設は従業員以外の子どもも受け入れる「地域枠」を設ける。受入数は保育所によって異なる。利用したい場合は保育所に直接申し込む。
「質」確保へ監査体制
 企業主導型保育所は今年度から新設された仕組みに基づき設置される。慢性的に不足する保育士は、職員全体の半数を確保できれば開設できる。市区町村の認可がなくても施設の整備費の4分の3が国から助成されるため、企業からの申請を後押しする。

 定員20人以上の認可保育所では保育に関わる職員全員に保育士の資格が必要となるが、企業主導型保育所では職員の半数以上に資格があればよい。
 助成決定の実務を担う公益財団法人児童育成協会(東京都渋谷区)が計画的に企業主導型保育所への指導監査をする体制づくりを早急に進める考えを表明。

企業主導型保育所と認可保育所の違い

企業主導型保育所      認可保育所
 企業など  運営者  社会福祉法人など
 主に従業員の子ども
保育所によっては地域の子どもも可
 受け入れ対象  主に地域の子ども
 認可保育所の水準を参考に企業が設定  利用料  保育者の所得に応じて0円~10万4千円
 認可保育所の配置基準に加えて全体でもう1人  職員数    0歳 ⇒子ども3人につき1人
 1・2歳 ⇒ 6対1
   3歳 ⇒20対1
 4・5歳 ⇒30対1
 半数以上  保育士の割合  全員
 整備費は認可保育所並み、運営費は保育士の割合に応じて5%程度以上少なく
国の助成金 整備費の4分の3、運営費の一部


(伊藤舞虹)


◆企業主導の保育所 固定資産税など半減 政府方針  朝日新聞 2016(平成28)年11月22日
 政府は「企業主導型保育所」の税負担を軽くする方針を固めた。来年度から、運営する企業が施設分として払う固定資産税や不動産取得税などを半分に減らす。企業に保育所整備を促し、都市部で深刻な待機児童を減らす一助にするねらいだ。
 一般的な認可型の事業所内保育所は、従業員の子ども以外に地域の子どもの受け入れ義務がある。一方、企業主導型は無認可で、大半は地域の子どもを受け入れているが、義務ではない。保育士の割合などの条件も認可型より緩い。
 ただ、設置や運営の補助金はもらえるが、原則非課税の認可型と違って税負担がある。内閣府などは、企業主導型も土地・建物の購入時にかかる不動産取得税や毎年度の固定資産税、都市計画税を非課税にするよう求めていた。
 政府・与党は、公益性の高い社会福祉法人が運営する例が多い認可型と区別するため、企業主導型への課税は残すものの、税を半減して運営しやすくするよう検討中だ。

 (奈良部健)


◆企業主導保育所2万人増 政府目標 今年度内に定員7万人  朝日新聞2017(平成29)年8月15日(夕刊)
 企業が主に従業員向けに作る「企業主導型保育所」について、政府は2017年度末までの定員目標を2万人上積みして7万人とすることを決めた。6月に公表した新たな待機児童解消計画で、20年度末までに22万人分の保育の受け皿を整備するとしており、その一部とする考えだ。
 企業主導型保育所は、16年4月に創設された。保育士の配置基準が認可保育所より緩く、職員の半数を確保できれば開設できる。市区町村の認可がなくても施設の整備費の4分の3が国から助成される。
 企業が設置しやすいため、福利厚生の一環として整備が加速しており、17年4月時点で全国に871施設が設置され、定員2万284人分となった。 今年度分の募集でも多くの申請があり、当初の定員目標の5万人を超える見込みだ。従業員の子ども以外も受け入れる「地域枠」の上限について、現行の50%から引き上げることも検討している。
 ただ、認可保育施設と同様に待機児童問題が深刻な都市部では用地確保に難航するケースも多い。保育士の配置基準が緩く、安全面を懸念する声もある。


◆企業主導型保育所 トラブル続出  朝日新聞 2018(平成30)年11月3日

 政府が待機児童対策の切り札として始めた企業主導型保育所をめぐって、待機児童が全国で3番目に多い東京都世田谷区で、保育士の一斉退職などのトラブルが相次いでいる。 企業主導型保育所は認可外のため設置の審査が緩く、トラブルの可能性が当初から指摘されていた。
 企業主導型保育所は2016年度に創設。 一定の基準を満たせば、認可並みの助成金が出る。審査や指導を担う公益財団法人「児童育成協会」によると、今年3月末の時点で、全国の2597施設(定員5万9703人分)に助成が決まっているという。

 同協会によると、同区上北沢の保育所で10月末、保育士ら7人が一斉に退職し、1日から休園。同じ会社が運営する同区赤堤の園でも11人が退職した。協会の調査に対し、職員らは「給与未払がある」と話したという。 赤堤の園に次女を預けていた会社員の男性によると、一斉退職について園から伝えられたのは31日夜のメール。「なぜ急にこんな話に」と驚いた。安心して預けられないと判断し、次女は1日から欠席しているという。男性は「これまでも保育士の入れ替わりが激しく、不信感を抱いていた」と話した。
 運営会社の社長は朝日新聞の取材に、ほとんどの職員と連絡が取れない状態だと認めた。給与については「支払っていた」と説明。世田谷区では、別の会社が運営する園も7月に休園。別の園でも保育士が一斉退職し、9~10月に一時、預かる人数を制限するなど、少なくとも4件のトラブルが起きている。区の担当者は「似たような事態が続き、驚いている。区には審査や指導の権限はないが、今回は一時保育で受け入れる態勢を取っている」と話した。

(中井なつみ、中村和代)


◆開所しない保育所 助成金がかえらず
    企業主導型の2ヵ所     
朝日新聞 2018(平成30)年11月8日 
 企業主導型保育所事業で、助成金を支給された2社が経営難で保育所を開所できず、施設整備に使われた助成金が返還されていないことが、運営主体の公益財団法人「児童育成協会」(東京)への取材で分かった。関係者によると数千万円にのぼるという。協会は返還を求めているが、めどはたっていない。
 企業主導型保育所は認可外の保育施設だが、面積基準など一定の条件を満たせば、整備費や運営費を国が助成する。同協会が審査や助成金の支給、指導を担っており、17年度は全国の2597施設(定員5万9703人分)が助成を受けた。今年度予算は約1700億円。
 協会によると、助成金が返金できなくなっているのは、沖縄県のコールセンター業「CFO」と、名古屋市の貸し会議室運営「ファイブフロッグス」。16年度に設置申請をしたが、いずれも経営難になり、開所されなかった。

(国吉美香、川崎優子)


◆企業主導型保育所 定員割れ
 入所率8割未満/制度のひずみ指摘も  
朝日新聞 2018(平成30)年11月19日
 待機児童対策の切り札として国が導入し企業主導型保育所で、入所率が半数以下だったり、実態を把握していなかったりするところが相次いでいる。朝日新聞が今月、20政令指定都市と東京23区に聞き取り調査をした。
 企業主導型は認可外だが一定の基準を満たせば認可並みの助成金が支給され、自治体は入所している子を待機児童から除外できる。
 企業が自社の従業員向けに設置したり、保育事業者が複数の企業と契約したりできるほか、「地域枠」を設ければ外部の人間も利用できる。
 事業の運営は内閣府から公益財団法人「児童育成協会」に委託されている。待機児童の解消には自治体との連携が必要だが、同協会は朝日新聞の取材に、要望のあった自治体に一部の入所者の名前などを提供しているものの、数の集計はしていない、と説明。
国、調査を検討 
 内閣府は「具体的な調査方法を検討したい」としている。

(中井なつみ、国吉美香、河崎優子)



地域の需要 自治体と共有を /点
 制度の趣旨を考えれば運営主体の協会と認可保育所を管轄する自治体との連携が必須だが、情報共有の仕組みが不十分なのが実態だ。 協会は、毎月助成金の申請を通じて個別の入所状況を把握しているが、自治体ごとの集計はしていない。「制度が始まったばかりで定員に届いていないところが多く、集計の事務作業も多い」と説明する。
 企業主導型は企業が自社の従業員向けにつくるだけでなく、保育事業者が勤務先と契約して運営する場合もある。
 待機児童数が全国3位の世田谷区の担当者は「認可保育所は地域ごとの需要も考えて設置を進めているが、既に足りている地域に企業主導型ができ、既存園と競合して利用者が十分集まらない状況が起きている」。同区では今月、企業主導型保育所が保育士の一斉退職で休園し、区が預け先の確保などに追われる事態になった。「複数の企業が関わっており、責任の所在が不明確。協会は審査の段階で、実績や財務状況などをもっとチェックするべきだ」と話す。
 保育問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さんは「質よりもスピードを重視した制度のひずみが出ている。地域の需要を把握している自治体がきちんと関与できる仕組みが必要」と指摘する。

(仲村和代)


◆企業主導型保育の質や継続性検証へ
    有識者会議を設置   
朝日新聞 2018(平成30)年11月21日
 保育士の一斉退職による休園や大幅な定員割れなどの問題が相次いで発覚している国の企業主導型保育事業について、政府は質の確保や事業の継続性、指導監査のあり方などを検討する有識者会議を設置することを決めた。年内に初会合を開く。有識者会議で現状を検証し、改善策を策定するという。
 この事業は2016年、国の待機児童対策の切り札として導入された。事業に対しては自治体からも改善を求める声があがっている。東京都世田谷区は、自治体の関与の強化や審査の見直しなどを内閣府に要望したことを明らかにした。
 企業主導型保育所は、企業が自社の従業員向けにつくるだけでなく、保育事業者が利用したい人を募った後に、その人の働く企業と契約を結ぶ形でも設置できる。世田谷区内で問題が起きているのは、保育事業者による施設だという。保育事業の経験が全くない事業者でも書類審査のみで参入でき、昨年度までは「書類が整えば審査を通る状況」(児童育成協会)だったという。
 「保育事業を考える会」の代表は、「制度設計があまりにも安易だ。事業者の財務状況や動機についてチェックする仕組みが甘く、多額の助成金目当てに参入する業者がいても見極められない。自治体などがきちんと関与できる仕組みづくりが必要だ」と指摘。

(浜田知宏、仲村和代)


◆保育助成金、支払い遅れ
  企業主導型 運営費の一部  
朝日新聞 2018(平成30)年11月29日
 休園などのトラブルや、大幅な定員割れが明らかになった国の企業主導型保育事業で、今年度分の助成金の一部の支払いが遅れていることがわかった。運営主体の公益財団法人「児童育成協会」と内閣府の説明によると、事務作業の遅れなどが主な理由。事業者からは「資金繰りが厳しく、保育の質にも関わる」などと不満の声があがっており、事業者らがつくる協議会は改善を要望した。
 助成金には、開所時の工事費用の「整備費」と、毎月支給の「運営費」があり、「運営費」は、利用者数などに応じて決められた「基本額」と、家賃や延長保育などの実績に応じて支払う「加算額」からなる。


   企業主導型保育事業の仕組み
内閣府
           委託
 児童育成協会
   申請    審査・指導    助成金
事業者


 内閣府と同協会によると、今年度は「加算額」がまだ支払われていないという。主な理由は、内閣府が加算額を審査する基準となる要綱を出すのが遅れたため。内閣府は「明確な理由があったわけではなく、関係各所との調整に時間がかかった」という。今年は加算金の申請受け付けを始めたのは10月。支払いは早くて12月になるという。助成金の支払い遅れは事業者にとっては死活問題だ。
 児童育成協会の体制を巡っては、国会でもたびたび問題になり、少子化担当相は、28日の衆院内閣委員会で、「様々な課題が生じており、事業の実施体制を強化することが急務。有識者からなる検討委員会を設置する」と答弁している。   (河崎優子、国吉美香)
「質の維持困難に」施設運営者
 協会の対応について、兵庫県で五つの企業型保育施設を運営する男性(51)は「保育にも影響が出かねない」「助成金が滞るほど、保育の質つを維持することが難しくなる。保育士を多く雇いたいが、この現状ではどうすることもできない」と話す。 


(中井なつみ)


◆企業主導型保育見直しに賛否 朝日新聞 2019(平成31)年3月20日
保育士比率75% 親代表「質担保できる」
5年の実績条件 事業者「参入しづらい」


 制度設計の甘さが指摘されていた国の企業主導型保育事業について、見直しを進めてきた内閣府の有識者検討委員会が改善に向けた報告をまとめ、18日に公表した。
 審査が不十分だと指摘されていた助成金の受給の在り方を見直すことなどが盛り込まれ、新年度から実施される見通し。自治体関係者や保護者の団体からは評価の一方、事業者からは反発の声もあがる。

 この事業は、国の待機児童対策の目玉として、2016年度に創設。審査や指導は公益財団法人「児童育成協会」が担い、昨年度までに2597施設、定員5万9703人分に助成決定された。だが、突然休園するなどのトラブルが相次ぎ、政府が見直しに向け検討委を設置した。

 報告では、今後、保育事業者が設置する場合、新規参入は5年以上の実績がある業者に限ることや、定員20人以上の施設で職員に占める保育士の割合を50%から75%に引き上げることなどを提言。
 また、児童育成協会の態勢が整わず、助成金の支払いが遅れるなどの影響が出ていたが、今年の夏に改めて実施機関を公募し、来年度分の新規募集は新しい機関が担うよう提言した。

 報告書について、東京都世田谷区の担当者は「新規参入は5年以上の経験がある業者に限るなど、要望をかなり反映してもらった」と話す。同区内の企業主導型保育所では、保育士が一斉退職して休園し、区も対応に追われた。「特に低年齢児は声をあげることができず、保護者にも保育の実態はわからない。具体的にどう実現していくかが問題だ」

 「保育を考える親の会」の普光院亜紀代表は「保育所にも市場原理を導入して数を増やせばいい、という考え方では質を担保できない。保育士比率を上げるなどの対策を盛り込んだことは評価できる」。今後の実施機関の公募について、「公正中立な運営ができる機関が選ばれるか見守りたい」と話す。
 一方、今年1月に設立された一般社団法人「企業主導型保育連盟」の代表理事は、「質を保つために審査や監査を厳しくすることは大いに賛成」としつつ、実績重視の方針には疑問を呈する。「ニーズに応じて柔軟に対応でき、新規事業者も参入しやすいのが制度の利点だったはず。事業者への面談などで、理念のある事業者も参入できるようにしてほしい」と指摘。実施機関の公募についても、「3年の積み重ねをゼロにするのは疑問だ」と話した。

(仲村和代、国吉美香)


◆252企業保育所 事業中止 助成決定後
  内閣府、審査厳格化へ  
朝日新聞 2019(平成31)年4月27日
 内閣府は26日、「企業主導型保育所」の2016~17度の運営状況に関する検証結果を発表した。国の助成が決まった施設の約1割の252施設が保育事業を取りやめ、このうち214施設は開所にも至らなかった。
 企業主導型保育所をめぐっては定員割れや休園などの問題が相次いでおり、審査や指導監査の甘さが改めて浮き彫りになった。

 検証結果によると、252施設が保育事業を取りやめた理由は「児童数を確保できなかった」(34施設)、「土地の取得や賃貸が困難になった」(12施設)など。110施設については「申請者の都合」としか分かっていない。57施設にはすでに助成金が払われ、このうち7施設からは返還されていないという。
 事業譲渡は44施設、助成取り消しは2施設、16年度に助成を決定したのにいまだに開所していないの4施設だった。1施設を運営していた1法人が破産。9施設運営の2法人が民事再生手続きを申請していた。

 現在の施設整備費助成は新設を前提に、施設規模に応じて7580万~1億8130万円。改修の場合の助成区分が設けられておらず、改修だった15施設も上限額を受け取っていた。

 内閣府はこの日、改善策を発表。改修費を水増しして申請する施設を審査段階で除外するため、改修の場合の上限を新たに設定する。夏までに今より低い具体的な上限額を設定するとともに、審査方法の厳格化も図る。助成の可否の審査や指導監査する機関も、改めて公募する。現在は公益財団法人「児童育成協会」が担っている。

 改修費の水増し申請が疑われる事例は、内閣府の資料や関係者によると、神奈川県内の企業主導型保育所は17年度に100平方メートル強の改修工事を行い、約5300万円の助成を受けた。業者によると、この規模の改修費の相場は2500万~3千万円程度という。
 内閣府幹部は取材に対し、「書類がそろっていれば、審査は通る状態だった」と審査の甘さを認める。

(西村圭史)


◆企業型保育所補助金 8000万円不正受給疑い
  運営会社元代表ら3人逮捕  
朝日新聞 2019(令和元)年5月29日
 東京都内の企業主導型保育所の開設工事をめぐり、工事費を過大に見積もって国の補助金計8千万円を不正に受け取ったとして、愛媛、徳島、山口、沖縄各県警の合同捜査本部は28日、保育所を運営していた女ら3人を補助金適正化法違反(不正受給)容疑で逮捕し、発表した。
 愛媛県警によると、3人は2016年8月~11月、杉並区と目黒区の2カ所の保育所開設にかかる工事費を水増しして、補助金交付を審査する公益財団法人「児童育成協会」に申請し、16年12月と17年3月に計約8千万円を不正に受け取った疑いがある。


◆待機児童の受け皿 「量」急いだ果て
 審査ずさんな企業主導型 「質」置き去り  
朝日新聞 2019(令和元)年7月10日

事業実績を問わず
 市区町村が関与せず、多様な保育サービスを「早く、柔軟に」提供できる―。保育の受け皿拡大をうたい、政府が企業主導型保育所を導入したのは2016年。「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名ブログをきっかけに待機児童問題への関心が高まり、対策が迫られた時期と重なった。

 政府は全国の企業から集めた「事業主拠出金」を財源に、市区町村の認可がなくても一定の職員配置や施設基準を満たせば認可施設並みの施設整備費や運営費が助成される新しい仕組みを大々的にアピール。企業が自社の従業員向けにつくる施設のほか、保育事業者が地域の子ども向けに開設する場合も幅広く助成の対象とし、国や自治体が補助金を出す認可施設とは別に、17年度末までに5万人分の受け皿をつくるとした。
 この目標が達成されると、さらに6万人分を20年度末までに整備するよう計画を上積み。助成対象の施設数は、今年3月末時点で3817施設(定員8万6354人分)まで急増している。
 保育士を自社の正社員並みの処遇で雇用し、経験豊富な人材を確保するなど、保育の質の確保に力を入れる企業もある。

 一方で、保育事業の実績を問わず、ほぼ書類審査のみで助成金が出るこの仕組みには様々な事業者が参入。必ずしも質が担保されているとは言い難い現状も生んだ。
 企業主導型保育所への立ち入り調査(17年度)では、実施できた800施設のうち、職員配置や保育内容などに関する指導監督基準を満たしていないとして指導を受けたのは7割にのぼった。中には、職員が不足していたり、乳幼児突然死症候群(SIDS)を防ぐために行う子どもの昼寝中の定期的な呼吸チェックができていなかったりした施設もあった。


助成めぐり詐欺も

 
金目当ての悪質な事業者も引き寄せた。
 東京地検特捜部は今月3日、名古屋市内の企業主導型保育所の整備費名目で偽りの「助成決定通知書」を金融機関に提出し、約1億1千万円の融資金をだまし取ったとして、全国で複数の企業主導型保育所の運営に関わる福岡市の経営コンサルタント会社の社長ら3人を詐欺容疑で逮捕。ほかにも、東京都内の企業主導型保育所の工事費を過大に見積もって助成金を不正に受け取ったとして、別の保育所運営会社元代表らが逮捕されるなどしている。

 「量の整備に重点が置かれすぎ、質の確保への意識が必ずしも十分ではなかった」。昨年12月に事業の見直しに向けて設置された検討会の場で、宮腰光寛・少子化担当相はこう口にした。
 内閣府はすでに改善策をまとめ、ずさんな審査が問題視された児童育成協会に代わって審査や指導監督を担う機関を今夏にも公募する。保育事業者が新規参入する場合には5年以上の実績を求めるなど、要件も厳格化するという。


(伊藤舞虹)

◆企業保育の助成 搾取容疑
 東京地検コンサル会社社長再逮捕  
 朝日新聞 2019(令和元)年7月24日
 内閣府が所管する企業主導型保育事業をめぐって、国の助成金計約2億円を搾取したとして、東京地検特捜部は23日、福岡市の経営コンサルタント会社「WINカンパニー」社長の川崎大資容疑者(51)=福岡市=を詐欺の疑いで再逮捕し、発表した。同社元社員の佐藤佑紀容疑者(29)=川崎市=も逮捕した。地検は認否を明らかにしていない。同社は助成の申請手続きの代行をしていた。

制度・審査ずさん
 
助成をめぐる不正は各地で相次ぐ。背景には、国の制度設計のずさんさや審査の甘さがある。
 審査は、内閣府から委託を受けた「児童育成協会」が担った。整備費などを助成し、最大50%の前払いも認めた。関係者によると、当初の審査は建築基準法など最低限の法令さえ守っていれば通る状態で、簡単な書類審査のみで前払いも認めていたという。関係者は「量を増やすことを優先し、悪質な業者の参入を許してしまった」と振り返る。
 両容疑者の逮捕容疑となった17年度は2597施設に助成を決定したが、審査人員は約20人だけだった。18年度は3817施設に対して約50人。単年度の事業のため、十分な人員を確保しにくかったのだという。
 また国の要綱には整備費の助成額に土地単価などを反映する基準がなかったため、申請額が高額でも妥当か判断しにくかったっという。検察幹部は「審査の甘さにつけこまれても仕方ない状況だった。制度設計自体に問題があった。内閣府は公金を扱う意識が低かったのではないか」と指摘する。
 会計検査院は4月、大幅に定員割れしている保育所が多数あるとしたうえで、審査体制のずさんさを指摘した。内閣府も同月、19年度までに助成決定を受けた252施設が事業を取りやめていたと公表した。今後、審査方法の厳格化を図り、新たな審査機関を公募する方針だという。

◆児童育成協会を再選定   朝日新聞 2020(令和2)年3月7日 
 内閣府は6日、企業主導型保育事業の立て直しに向けた実施機関の公募で、これまでと同じ公益財団法人「児童育成協会」を選んだと発表した。他に1社が応募したが、要件を満たしていなかったという。ずさんな審査で助成金詐欺が相次いでいたため、内閣府は同協会に対し、専任理事を置くことや、審査に必要な人材確保プランの報告などを付帯条件として課した。


◆企業保育所 事業中止239施設
 16~18年度 国の助成決定後  
 朝日新聞 2019(令和元)年12月27日
 企業が主に従業員向けに設置する「企業主導型保育所」をめぐり、2016~18年度に国の整備・運営費の助成が決まった4089施設のうち、239施設が保育事業を取りやめていたことが明らかになった。主な理由は「着工に至らなかった」(99施設)、「土地の取得・賃貸が困難」(27施設)など。内閣府が26日、調査結果を発表した。
 同日までに助成が取り消されたのは、整備費の水増し請求や工事の進捗状況の虚偽申請などをしていた18施設。このうち12施設には助成金の返還を求めており、5施設は返還を求める金額を調査中、1施設は助成金を払う前に不正が発覚した。このほか事業譲渡が46施設、破産が1施設あった。
 内閣府は今年4月、16、17年度の事業取りやめは252施設と発表していたが、集計ミスで実際よりも多かったとして訂正した。



《待機児童「ゼロ」への課題》

◆待機児童 最少と言われても
 1万6772人 「ゼロ」へ課題山積  
 朝日新聞 2019(令和元)年9月7日
 認可保育施設に入れない待機児童は、今年4月1日時点で1万6772人になったと厚生労働省が6日発表した。前年同期より3123人少なく、2年連続の減少。これまで最少だった2007年の1万7926人を下回った。
 ただ、都市部などでは依然厳しい状況が続いており、「ゼロ」に向けた課題は少なくない。

 政府は待機児童の解消を最重要課題と位置づけ、当初は17年度末までのゼロを目指したが達成できず、20年度末に先送りした。再び達成できない事態を避けるため、「受け皿」の整備を進める。子育て世代が多い新興住宅地での対策強化など、地域の特性に応じた取り組みを進め、保育士確保にも力を入れる方針。
 待機児童は、東京都世田谷区が470人で最も多く、兵庫県明石市が412人、さいたま市が393人で続く。

(石川春奈)

土地・保育士 足りず
 政府は、無償化に地方と合わせ公費年7764億円(国費年3065億円)を投じる。一方、今年度の施設整備にかける国費は1260億円、今年4月から始まった保育士の月3千円の賃上げは97億円だ。
 保育園を考える親の会の普光院亜紀代表は「子育てに何千億円もの予算が一気に投じられることは本来歓迎すべきことだが、使い道の順序が違う」と指摘。深刻な保育士不足で子どもの受け入れ人数が抑制されるばかりでなく、保育の質の低下や保育士の過労にもつながっているとし「保育士の処遇改善を急ぐべきだ」と話す。

(伊藤舞虹)


◆待機児童ゼロ 見えぬ達成 
 安倍政権下で半減 質より量優先  
朝日新聞2020(令和2)年9月5日

 厚生労働省が4日発表した今春の待機児童は1万2439人で、安倍政権下で半減したが、「待機児童ゼロ」は首相の在任中に達成できなかった。女性活躍をうたうアベノミクスは首相の看板政策として大幅な受け皿拡大を進めたが、施設基準や保育士配置などの規制緩和の側面も強く、疲弊した保育士の離職が定員拡大の足かせになった。

3年連続減少 なお1.2万人
 今年4月1日時点での待機児童数は、前年同期より4333人少なく、3年連続減少し、1994年の公表開始以来最少となった。企業主導型保育園など一部の認可外も含めた「保育の受け皿」は前年から7万9千人増の313万6千人分整備され、待機児童の減少につながった。
 ただ、働く女性の増加で、認可保育園などの申込者数は5万8千人増の284万2千人となった。「特定の園のみ希望している」などの理由で待機児童の定義から外れる「隠れ待機児童」は全国で8万4850人にのぼり、前年から4456人増えた。
 今年度末までの「ゼロ」達成見通しについて、加藤勝信厚労相は4日、「なかなか厳しい状況にある」とし、年末に向け、待機児童解消に向けた新たなプランづくりに入る。


 第2次安倍政権は発足直後、成長戦略の柱として「待機児童ゼロ」を公約し、15年に打ち出した「新3本の矢」でも「希望出生率1.8」の実現を盛り込んで施設整備を加速させた。
 一方、15年度から始まった「子ども・子育て支援新制度」は、「量と質」を両輪で確保するとし、増税分とは別に3千億円超を確保し、その一部で保育士の配置基準を改善することになっていた。保育士1人がみる1歳児の数を、6人から5人に減らすなどの具体策が決まっていた。
 だが、政府はむしろ基準緩和にかじを切る。「保育園落ちた日本死ね !!!」と題されたブログで関心が高まった16年、政府は自治体が独自に手厚く設定している保育士配置基準などを緩和し、一人でも多くの子どもを受け入れるよう要求。同4月からは、職員に占める保育士の比率が認可基準を下回っても、整備費や運営費の一部を補助する企業主導型保育園を新設した。20年4月までの7年間で保育の受け皿は70万人分以上増え、待機児童は政権発足前の2万4825人から半減した。

 保育現場の環境整備が不十分なまま施設増を急いだ一方で、保育士が足りずに定員通りに子どもを受け入れられない事例が全国で続発。企業主導型では、審査の甘さから補助金詐取や定員割れなどが社会問題化した。そんな中、昨年10月から消費増税分のうち8千億円を割いて「幼児教育・保育の無償化」に踏み切ったが、保育の質が置き去りになった中での無償化には、当の保護者達から「優先順位が違う」と批判も強い。

現場の保育士重い負担
 保育士の配置基準の改善は急務だ。
 東京都の18年に実態調査では、現役保育士9379人のうち2103人(22%)が離職の意向を示した。
理由として「給料が安い」(69%)に次いで「仕事量が多い」(62%)を挙げる。忙殺される現場で目指す保育ができず、志がありながら職を離れる一因となっている。
 大豆生田啓友・玉川大教授(保育学)は「目の前に保育を利用できない子どもたちがおり、どうしても保育の量が優先されてきた面があるが、日本は先進国と比べても極めて保育士の負担が重い。新政権のトップには、そうした面にも手厚いサポートを期待したい」と話す。

(田中瞳子、伊藤舞虹)


◆保育園申込者減 コロナ影響か
 本社調査 落選23% 改善進まず  朝日新聞2021(令和3)年3月24日

 4月からの認可保育園の入園について、これまで申込者数の増加が続いていた大都市圏などでも、前年より減るケースが目立つことが朝日新聞の調査で分かった。例えば東京23区の申込者数は、前年比1割近く(約5300人)減って6万1555人だった。自治体の担当者は、新型コロナウイルス感染拡大による利用控えや雇用悪化などの影響を指摘している。一方で、4人に1人が落選する状況は大きく改善していない。

 申込者数が減少した理由(複数回答)を答えた46自治体では、「新型コロナの影響」を挙げた自治体が半数の計23自治体あった。「求職活動中の保護者が減った」(広島市)、「感染リスクを考慮した申請控え」(東京都目黒区)などの声が上がった。
 ただ、保育園の入りやすさは大きく改善していない。内定者数を回答した55自治体について、申込者に占める落選者の割合を「落選率」として計算したところ、平均は23.2%だった。前年(26.7%)から微減にとどまり、依然4万8265人が落選していた。

(中井なつみ、栗田優美、浜田知宏)




























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