幼稚園と保育所の機能を併せ持つ「認定こども園」と「子ども・子育て支援新制度」を考える












保育・幼児教育の意義と重要性
《現状の問題について》

2019.6.8/2019.12.27/2020.3.30/2020.10.2/2021.12.25/2022.7.16
/2022.11.5/2022.12.27/2023.3.31/2023.12.22


スマホ版



 戦後に制定された新たな教育法制度によって、現在は、障害の有無に関係なく、学齢に達した児童の義務教育が保障されています。児童の全員就学の制度があるにもかかわらず、なぜその前段階の保育所の利用が思うようにならないのでしょうか。待機児童の問題は不可解な政策的怠慢の問題だと思います。

 保育も幼児教育も就学前の人間的成長発達に関わる大切な基礎の部分であり、その取り組む目標は次代を担う子どもの健やかな成長を願うという点では同じはずです。保育も幼児教育も義務教育と同等に考えるべきことではないでしょうか。
 就学前の保育・幼児教育への投資はきわめて有効であるという認識を欠いているところに大きな問題があると思います。

 政府は、待機児童解消に向けた緊急対策(平成28年3月28日 厚生労働省)として、保育所の設置に関する基準緩和による受け入れを自治体に要請し、受け皿を増やすとしました。しかし緊急対策とはいえ、基準を緩和して受け皿を増やせばいいという問題ではないはずです。
 保育所の質の維持確保が伴わなければ、いくら保育所の数を増やしても意味がありません。

 保育士不足、保育所での死亡事故や虐待、保育所建設に対する地域住民の反対運動などが錯綜していますが、これらは政治的貧困や歪みの結果が招いているといっても過言ではないと思います。

 子ども数が減少する一方で、都市部を中心とする保育所の「待機児童」の問題は、日本の急速な経済成長に伴う、人口の都市集中化や農山村等における過疎化、家族構成の変化、高齢化の問題などの社会構造の変化とも関連しているわけです。






《日本の保育施策》


 保育における乳幼児の福祉対策は、児童福祉法が施行されるまでは、主として民間社会福祉事業家によって行われてきた。
 児童福祉法施行当時の昭和23年3月の記録によれば、保育所数は1476カ所、保育児童数は13万5503人に過ぎなかったが、平成29年4月1日現在では、保育所等の数は3万2793カ所、定員は273万5238人、利用児童数は254万6669人となっている。
  なお保育所等には、子ども・子育て支援新制度における幼保連携型認定子ども園等の特定教育・保育施設と特定地域型保育事業が含まれる。
 この著しい伸長の背景には、戦後の児童福祉法、児童憲章および児童の権利宣言等による児童観の発展とわが国の社会構造の変革ならびに急速な経済成長等がその要因となっているとみられる。

(社会福祉の動向編集委員会編「社会福祉の動向2018」 中央法規出版2017.12.25)




《少子化と待機児童問題の背景》

 待機児童問題は20年以上前から認識されてきたものの、高齢化が進む中で政策の優先順位は低い状態が続いた。2000年代に入ってようやく政策に掲げられるようになる。01年に小泉純一郎首相は3年で保育の受け皿を15万人分増やす「待機児童ゼロ作戦」を打ち出し、08年には福田康夫首相が「新待機児童ゼロ作戦」と銘打って10年間で100万人分増やすとした。民主党政権でも鳩山由紀夫首相が「子ども・子育てビジョン」で幼稚園と保育園をひとまとめにする「幼保一体化」を進めて解決を目指した。だがいずれも解決されなかった。子どもが減る中で解決できないのは、働く女性が増えて保育ニーズが高まっていることが背景にある。 

(朝日新聞「待機児童」2017.11.1)


 今日における経済成長を支える1つの要因となった女性の労働力の質的量的な増大と、夫婦共働き家庭が一般化してきたことが保育需要の増加の要因となっている。さらに保護者の労働形態、すなわち勤務時間や時間帯、職種等の多様化、通勤距離の遠距離化などにより、保育需要も多様化してきている。
  

(社会福祉の動向編集委員会編「社会福祉の動向 2018」中央法規出版2017.12.25)




「こども庁」創設
 首相改めて意欲
 「まず党内で検討を」 
朝日新聞 2021(令和3)年4月6日
 菅義偉首相は5日の参院決算委員会で、教育や福祉など子どもに関連する課題に一元的に取り組む「こども庁」の創設に改めて意欲を示した。「子どもは国の宝だ。子どもたちの政策を何としても進めないといけない」と述べた。

 首相は「子どもに関する政策は厚生労働省や文部科学省、警察庁、総務省など多くの省庁が関係する」として、「縦割り打破、組織のあり方をもう一度抜本から考えていく必要がある」との認識を示した。ただ、具体的なスケジュールについては「まず党内で検討を進めてほしい」と述べるにとどめた。
 「こども庁」をめぐっては首相は1日、党で具体的な検討を進めるよう指示していた。次期衆院選の公約に盛り込み、自らが掲げる「縦割り行政の打破」の目玉にしたい考えもありそうだ。


こども庁 器作りが先行
自民党が初会合 具体策見えず  朝日新聞 2021(令和3)年4月14日

 子どもに関連する諸課題に一元的に取り組む「こども庁」の創設に向け、自民党は13日、「『こども・若者』輝く未来創造本部」の初会合を開いた。「縦割り行政の打破」を掲げる菅政権は、同庁創設を次期衆院選の目玉公約としたい考えだが、具体的な施策はいまだ定かではない。関係府省ではさっそく、新組織をにらんで主導権争いの動きも出ている。


5歳の教育計画 文科省が作成へ
 早期教育に慎重意見も 
朝日新聞 2021(令和3)年7月21日

 幼児期から小学校への移行をスムーズにするため、文部科学省は5歳児向けの教育プログラムを作ることを決めた。今年度中にまとめ、来年度から一部地域の幼稚園や保育園などでモデル事業を試行する。内容を検討する中央教育審議会の特別委員会が20日あり、行き過ぎた早期教育にならないよう求める意見も出た。
 幼児教育・保育は2019年10月に無償化されており、すべての5歳児に一定程度の学びの質を保障する狙いがある。小学校入学後に集団生活になじめなかったり先生の言うことが理解できなかったりする「小1問題」の解消も図る。

 国は幼稚園教育要領や保育所保育指針などで「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を示し、「健康な心と体」「自立心」「協同性」など10項目を挙げている。ただ、「小学校教育にどうつながるかイメージがしにくい」「幼児教育の現場でカリキュラムの参考になる資料が少ない」などの声が出ていた。今回のプログラムでは、より具体的に幼児教育の現場で実践できる学びを示す予定だ。
 ただ特別委では、幼児期の教育(を担うの)は一義的には保護者にあることを認識しなければならない」「早期教育が保護者や教育関係者を焦らせてしまうことには注意が必要」など、慎重な検討を求める声も上がった。

(伊藤和行)



《朝日新聞社説 2021.12.22

 政府のこども政策の基本方針が閣議決定された。子ども関連の政策の司令塔となる「こども家庭庁」の新設が柱で、23年度のできる限り早い時期の創設をめざすという。
 だが、縦割り行政の象徴とされる幼稚園と保育所・認定こども園の一元化は見送られるなど、これまでと何が変わり、子ども本位の政策の拡充にどうつながるのかは、なお見えない。関連法案が提出される来年の通常国会で、しっかり議論を深めてほしい。

 こども家庭庁には、他省庁の大臣に「勧告権」をもつ専任の大臣を置き、保育や虐待防止なども担う厚生労働省、少子化対策などを担う内確府の関係部局が新組織に統合される。
 ただ、幼稚園や義務教育は引き続き文部科学省が担当する。代わりに、こども家庭庁と文科省は、幼稚園や保育所での教育内容の基準などを共同でつくることを法律上、位置づけるという。政府は「実質的な一元化」と強調するが、なぜ幼稚園と保育所の所管を分けたままなのか、疑問はぬぐえない。

 子育て支援、子どもの貧困対策などは、育休の取得促進や長時間労働の是正、就労支援などの雇用政策とも深いかかわりがあるが、そうした分野は厚労省に残る。そこもしっかりとした連携が必要だ。
 そもそも、行政組織を作り替えれば政策が前に進むわけではない。政府の基本方針に先がけてまとめられた有識者会議の報告書は、「こども政策を実現するには、安定的な財源を確保し、思い切った財源投入」が不可欠と指摘している。
 こうした財源論は、社会保障全体の給付と負担の議論にかかわり、こども家庭庁だけでは結論を出せない。政権として具体的な目標を定めて取り組むことが求められる。

 政府の基本方針は、子どもの最善の利益がはかられるよう、子どもの権利の保障、子どもの意見を政策に反映する取り組みも進めるとしているが、どう具体化するのか。先の有識者会議は「こども基本法(仮称)」の制定を検討課題に挙げ、日本弁護士連合会も「こどもの権利基本法」の制定を政府に要請している。そうした検討も急がねばならない。
 当初は、「こども庁」だった名称は、与党との調整で「こども家庭庁」になった。こどもだけでなく親などへの支援も大事なことはわかるが、「子育ての責任を負うのは家庭だ」という自民党内の保守派への配慮で変えたのであれば筋違いだ。
 そうした古い家庭観こそ、施策の拡充を阻んできた一因であることを忘れてはならない。



保育士配置基準 進まぬ改善 3党合意10年
 財源は待機児童解消・無償化に  朝日新聞 2022(令和4)年12月4日
 約10年前、保育制度をめぐって、ある約束がなされた。政府が、保育士1人あたりみてよい子どもの数を定めた、国の「配置基準」を見直すというものだ。保育現場で痛ましい事故が起こるたび、人手不足の問題にも焦点があたるが、財源の問題などから先送りされてきた。子どもの安全を守るのもギリギリという現場の状況は、いつになったら改善されるのか。 

(田渕紫織)

<保育士の配置基準:1人が見てよい子ども数
  0歳児……  3人
  1歳児……  6人
  2歳児……  6人
  3歳児…… 20人
 4~5歳児… 30人(1948年から変わらず、先進国平均の約2倍)

 
配置基準の見直し これまでの経緯  (朝日新聞をもとに作成)
 配置基準の見直し これまでの経緯  見直しについて
 22012年  自民、公明、民主の3党で合意した「社会保障と税の一体改革」で見直し  約束
   15年  子ども・子育て支援新制度の開始時に見直す  実行されず
 16年  ブログ「保育園落ちた日本死ね!!!」が社会問題化  先送り
 17年  待機児童数が2万6081人とピークになり、むしろ基準の緩和が進む
 22年  待機児童数が2944人と過去最少に。「こども家庭庁」の23年創設が決定  まだ見直さず



《朝日新聞社説 2022.6.21
こども家庭庁 「器」だけでは不十分だ

 「こども家庭庁」を新設する法律が成立した。子どもや子育て支援に関する政策を一元的に担わせるという。この分野の充実に政治が目を向けたのは前進だが、「器」を作るだけでは十分ではない。来春の発足に向け、具体的な政策や必要な財源の議論を急ぐ必要がある。
 新組織は、厚生労働省や内閣府の関連する部門を統合し、約300人体制で発足する。他省庁への勧告権をもつ専任の大臣も置くという。

 縦割りの象徴とされてきた幼稚園と保育所の一元化は見送られた。幼稚園や義務教育は引き続き文部科学省が担う。就学前の教育内容の基準を共同で作るなど、「実質的な一元化」を進めるというが、ならばなおさら所管を分ける必要性は薄い。将来的な一元化を目指し、議論を続けてほしい。
 一方で、新組織だけでは解決しない課題も多い。いじめや不登校、子どもの貧困、ケアを担う子への対応などでは、学校現場と福祉部の連携が必要だ。少子化に歯止めをかけるには、若者の雇用の安定、子育てと仕事が両立できる環境整備、長時間労働の是正など、労働政策とも協調が欠かせない。
 そうした連携がうまく機能するのか。新たな組織を作ることにより、別の縦割りが生まれるようでは本末転倒になる。

 国会審議で議論が集中したのが、子ども政策にかける予算の少なさだ。岸田首相は倍増を目指す方針を掲げたが、実現の期限を問われても最後まで明確にしなかった。野党からは、防衛予算への前のめりぶりと比べて、決意が感じられないと批判する声もあがった。
 倍増する予算を何に使うのかもはっきりしない。野党の一部は、児童手当を高校生まで広げる案を掲げるが、与党はこの間、児童手当の所得制限の復活を後押ししてきた。岸田政権はどう判断するのか。

 保育士などの専門職の確保と待遇改善も課題だ。10年前の税・社会保障一体改革の際に、保育士の配置を手厚くすることが約束されたが、その後の政権は実現を置き去りにしてきた。組織をつくっても「空手形」を繰り返すようでは困る。
 こども家庭庁の設置法とあわせて「こども基本法」も成立した。政策の基本理念や政府・自治体の責務を定め、子どもの権利の保障をうたう。
 与野党の一部は、子どもの権利が守られているか監視する政府から独立した第三者機関の設置を求めたが、見送られた。子どもの人権、意見を尊重する実効性のある仕組みをどのように築くか。大きな課題が残っていることを忘れてはならない。


保育利用 働いてなくても
 政府方針 空きなし・人材不足 朝日新聞 2023(令和5)年3月24日

 親の就労状況に関係なく保育所を利用できるようにするため、政府が条件を緩和する検討に入った。「未就学児」「無園児」と呼ばれる子どもにも支援が届くようにし、すべての親が必要なサービスを使えるような環境整備を目指す。3月末にまとめる少子化対策のたたき台に盛り込む方針。

 現在、保育所を利用するには、保護者が一定以上働いていたり、同居家族の介護をしていたりするといった「保育の必要性」が認定される必要がある。条件の中には、保護者の就労時間(フルタイム化パートタイム化など)によって保育の利用可能時間を区分する基準もある。

 このため、就労していない親などの子どもが未就園児となり、親が「育児疲れ」に追い込まれたり、孤独感を抱えたりするケースが少なくない。支援団体からは、親の就労状況にかかわらず、保育所を定期的に利用できるようにするべきだとの要請も出されていた。

 少子化を背景に認可保育園などに入れない「待機児童」は減少しているものの、昨年4月時点で2944人いる。特に集中する都市部では、そもそも「空き」がなく、人材不足となっている保育士をどこまで確保できるかも課題だ。

 一方、政府は育児に携わる親の経済的負担を軽減するため、自営業やフリーランス、非正規の人らが加入する国民年金で、出産前後の保険料の免除期間を延長する検討にも着手した。現行では出産前後の4カ月間、保険料が免除されるが、子どもが1歳になるまで延長する案を軸に、今後、制度改正を目指す。



子ども政策 問われる「司令塔」
3部局400人 こども家庭庁4月1日発足

 虐待最多 少子化も危機的 
朝日新聞 2023(令和5)年3月30日
 こども家庭庁が4月1日、発足する。政府の子ども政策を束ねる「司令塔」の役割を担う。妊娠期からの子育て支援、虐待や貧困といった困難に直面する子どもや若者への支援、さらに少子化対策にも取り組む。ただ、組織の統合だけでは実現するのは難しい。実効性を高める運営と十分な財源確保が課題だ。

 組織は3部局からなる。
 一つは、すべての子どもの育ちを支援する「成育局」。妊娠初期から2歳までの「伴走型相談支援」といった政府が力点を置く子育て支援のほか、保育園やこども園をめぐる政策も守備範囲になる。
 もう一つは、困難を抱える子ども・若者を受けもつ「支援局」。家庭での虐待、貧困、いじめ、ヤングケアラーといった分野を担当する。
 最後は全体の調整をする長官官房で、ここで少子化対策もとりしきる。

 新しい中央省庁ができるのは2021年のデジタル庁以来。国の財政が厳しい中でも新設したのは、それほど子どもたちをとりまく状況が危機的だからだ。



<こども家庭庁発足後の体制>
朝日新聞をもとに作成

 厚生労働省     内閣府
      分離・統合
  こども家庭庁厚生労働省 
政府の子ども政策の「司令塔」
他省庁に改善を促す「勧告権」を持つ
担当大臣、長官(事務方トップ)
以下、約400人規模

長官官房
  ・企画立案、総合調整 ・少子化対策も

 成育局      支援局
        ・すべての子どもの育ちを支援  ・支援局・困難を抱える子どもの支援
      ・妊娠・出産の支援、保育所など ・虐待、貧困、いじめの防止など

         連携
   文部科学省
 引き続き幼稚園、小中高校、大学を担当





勧告権や財源確保 課題
 
子どもをめぐる問題は多岐にわたり、複雑に絡み合う。これまでの縦割り行政を打破し、一元的に対応できるかがこども家庭庁に問われる。そのために付与された権限が「勧告権」だ。他省庁の対応に問題や不備があれば、改善を求めることができる。
 ただ、どこまで司令塔として機能するかは未知数。
 また、対策の遅れの要因の一つが、子どもにあてる予算の少なさだと指摘される。政府はこうした政策費用の財源について、6月の骨太の方針に「大枠」を示すとしている。

 日本も批准する国連の子どもの権利条約には、子どもの生きる権利や意見表明できる権利などが盛り込まれている。こども家庭庁は、この条約に対応するための国内法「こども基本法」の理念にのっとり政策を進めていくことになる。
 こどもの視点に立ち、こどもの利益を第一に考えることを「こどもまんなか社会」という言葉で政府は表現する。こども家庭庁の設立準備室は小学1年生からおおむね20代までの人から意見を募る試みも始めた。 こうして集めた肉声を政策に反映させられるか。子どもや若者を一人の個人として尊重する価値観を社会に浸透させられるか。こども家庭庁のかじ取りが問われている。


(久永隆一)





「激戦」0歳児クラスに異変
 認可保育園で空き増 コロナの影   朝日新聞 2021(令和3)年4月20日
 入園が難しいとされてきた認可保育園の0歳児クラスに、今春、大都市圏などでも空きが出る異変が起こっています。ここにも、長引く新型コロナウイルスの流行が影を落とし、経営不安を訴える園も出てきています。

 共働きの増加などで保育ニーズが増すなか、これまで激戦となってきたのが認可園の0歳児クラスだった。持ち上がりで進級する1歳児以上のクラスと異なり、0歳児の4月はほぼ全定員が「新規入園」の枠。そのため、このタイミングを狙って入園させようと、早めに育児休業を切り上げて復職するなど、希望者が多く集まるのが常だった。

 しかし今回、4月入園に向けての1次選考の状況を、朝日新聞が全国の主要自治体に聞いたところ、例えば東京23区の認可園の申込者数は前年より5千人以上減り、うち0歳児が1468人だった。理由を尋ねたところ、コロナ感染拡大などの影響を、多くの自治体担当者が指摘した。
 大阪市では4月1日時点でも、市内の認可保育園の0歳児クラスで定員に1千人以上の空きがあった。

欠員で補助金減 経営に不安
 園児不足は、保育園の経営に直結する。園は定員数に応じた職員配置を整えておく必要があるが、行政から補助される運営費は、入園している子どもの数に応じて支給される仕組みだ。
 定員数と実際に預かる子どもの数の差が出れば、園の持ち出しが増える。特に、0歳児の場合、子ども3人につき職員1人と手厚い配置が必要なため、影響が大きくなる。
 さらに深刻なのは、立地などでコロナ前から希望者が減少傾向にあった園だ。全国的に施設整備が進んだここ数年、一部地域や施設に希望者が集中し、ほかでは空きが出る現象が出始めていた。




待機児童急減  園は運営不安
 少子化 定員満たない園も   朝日新聞 2022(令和4)年7月13日 (1面)
 認可保育園などに入れなかった今春の待機児童について、朝日新聞が政令指定都市や東京23区など計62自治体を対象に調査したところ、回答した60自治体で計782人となり、昨春(2013人)の半分以下に減少した。少子化や、コロナ禍による「預け控え」などの影響とみられる。欠員も増えており、園から運営を不安視する声も自治体担当者に寄せられている。▶2面=現場や保護者は

「隠れ待機」高止まり 本社調査
 前年の調査でも、対象自治体は一部異なるものの、待機児童が約5千人から約1700人と大幅に減少しており、傾向は変わっていない。 しかし、希望する認可園に入園できずに育児休業を延長せざるを得なかった場合など、待機児童に数えられない「隠れ待機児童」が今回の調査で4万1235人と高止まりしており、よりきめ細かな保育施策が課題となりそうだ。

 今回の調査は政令指定都市などのほか昨年4月時点で待機児童が50人以上いた19自治体も加えた。政令指定都市が計32人(前年比112人減)、23区が計32人(同256人減)と大幅に減少。50人以上の自治体が計718人(同863人減)だった。
 全国の待機児童は、厚生労働省によると、匿名のブログ「保育園落ちた日本死ね‼!」の投稿で注目された2016年に2万3553人。昨年4月は統計を取り始めて以来最少の5634人まで減った。

 一方、定員に満たない園も出ており、アンケートでは自治体に経営不安の声が寄せられている。

  <運営に不安を抱える保育園の声> 朝日新聞
・在園児童減に伴う市からの運営費の減少により、運営が維持できるか不安 (札幌市)
・運営費が高く設定されている低年齢児の欠員は、運営に与える影響が大きい (東京都板橋区)
・定員に満たず経営に影響が出ており、定員を減らしたい (東京都目黒区)
・入所児童数の減少が続いており、将来の運営に不安を抱いている (新潟市)

 園の定員は本来、出産や復職のタイミングに合わせいつでも入園できるよう余裕がある方が望ましい。育児不安や入院など、急に保育を必要とする場合にも定員の余裕は必要だ。
 経営不安の要因に、国や自治体から給付される運営費が定員に対してではなく、入園している園児数に応じて支給されることがある。定員に応じて配置した保育士の人件費などが運営を圧迫するからだ。定員削減にもつながりかねない。

 東京大学の山口慎太郎教授(経済学)は「少子化やコロナ禍による雇用の縮小で保育ニーズがしぼんだ。保育園が子どもの発達や子育て世帯に寄与する役割は大きく、待機児童が今年減ったからといって、保育士や保育園などの保育リソースを安易に減らすべきではない」と指摘する。


(石川春菜)

待機児童 減ったけど 0歳児欠員「年2000万円消えた」
「保育園「運営費の仕組みかえて」   
朝日新聞 2022(令和4)年7月13日 (2面)
 園からは経営不安の声も聞こえてくる一方、隠れ待機児童の高止まりも見られるいびつな状態だ。国の保育施策の課題も浮き彫りになってきた。

 「保育士やスタッフの給与を下げるわけにはいかないし、正直参っています」。東京都杉並区で認可保育園を運営している社会福祉法人「虹旗(こうき)社」本部事務局長の杉浦英祐さん(45)は肩を落とす。0歳児クラスは12の定員に対し、昨年は8人、今年は5人だった。
 0歳児の欠員は保育園経営に大きな打撃だ。在園児同数に応じて国や自治体から支払われる運営費の単価が、ほかの年齢の園児より手がかかる分、高い。保育士の配置人数も多く、定員に達しなければ、保育士の人件費などの一部は入ってこなくなる。「ざっと見積もって年間で2千万円ほど、本来なら入ってくる運営費が消えた」と杉浦さん。

 国は2001年以降、待機児童問題の解決策として、定員拡充を中心とした受け皿整備を進めてきた。東京都内では認可園がここ数年、年間150~200ずつ増えて、21年は3477園。20年前の倍だ。一方で、コロナ禍の預け控えなどの影響もあり、0歳児の定員割れが相次ぐ。
 都民間保育園協会が昨年初めて調査したところ、0歳児の定員割れは1783人(昨年9月時点)だった。このうち23区が約8割を占めたという。
 定員に余裕のある状態は、通年での入園を可能にするために必要な状態だが、現在の運営費の算定の仕組みではそうした状態を支えられない。杉浦さんは「運営費の仕組み自体を変えてほしい。閉鎖を余儀なくされる園が出てくるのも時間の問題だ」と訴える。


(川口敦子、堀川勝元)

希望する園 入れない フルタイム就労優先 足かせに
 待機児童が大幅に減少する中、保育の利用を望みながら、待機児童にカウントされないケースも多い。週5日のフルタイム勤務以外の多様な働き方や、突然の体調不良への対応など、保育園の柔軟な利用につなげるには、なお定員の余裕が必要だ。
 一方、園児を受け入れたくても受け入れられない園側の事情もある。待遇の低さなどに伴う、深刻な保育士不足だ。今回、待機児童が前年より54人増えた鹿児島市の担当者は「保育士不足により、保育所の定員が昨年より減少した」と話す。同市保育園協会によると、市内に認可外保育施設などが増え、保育士の働く場の選択肢が広がったことも原因になっているという。
 都内では1月現在、有効求人倍率が3.43倍と高くている。

  岸田政権は処遇改善として2月から、保育士らの収入を3%程度(月9千円)上乗せする補助事業を開始した。しかし、国が定めた保育士の配置医基準では、園児の安全が十分に保てないなどとして、基準以上に雇用している園が多く、実際の上乗せ額は月9千円に満たない人が大半だ。

(中井なつみ)


 
刻刻
保育園の実地検査 急減
 コロナ禍で実施困難/園増加で検査員不足   朝日新聞 2022(令和4)年11月8日
保育士不足など指摘事項は高止まり
 保育園が適切に運営されているか、年に1回以上、自治体職員が現場を確認することが義務づけられている「実地検査」について、新型コロナウイルスが拡大した2020年度以降、実施できなかった認可保育園の数が急増したことが朝日新聞のアンケートでわかった。一方、実地検査を受け、問題が見つかった園に示される「文書指摘」は2千~3千件台で推移していた。

 園側に示される文書指摘の数は、検査件数が減っているにもかかわらず高止まりしていた。19年度が3578件、20年度が2281件、21年度が2599件だった。この点について、浜松市の担当者は「保育の質確保の重要性についての認識が年々高まっていることが指摘の増加につながっている」と話す。
 文書指摘では子どもの安全に関わる内容も目立つ。特に多かったのが、保育士の配置不足だ。 1人の保育士が何人の子どもを見るかの「配置基準」を満たさないケースが3年間で852件にのぼっていた。

(中井なつみ、田渕紫織)

保育園の質「リモートでは守れない」
 実地検査が十分に行えていない状況を踏まえ、厚生労働省は昨年から、毎年1回の実地検査を書面やリモートでも代用できるとする法改正を検討している。
 だが、同省が2度にわたりパブリックコメント(意見公募)にかけたところ、「書面やリモートでは、虐待や不適切な保育は発見できない」など反対の声が多く、11月の施行予定は先送りされる見通しだ。

(石川春奈、滝沢卓)



園バス放置死   
 人手不足のまま 現場に絶望感     朝日新聞 2022(令和4)年12月4日

 今年9月、静岡県の認定こども園のバスに置き去りにされた3歳児が亡くなった後は、保育士の配置基準の低さにも改めて焦点があたった。しかし、決まっていくのはバスへの安全装置の設置義務付けやマニュアルの整備で、それを実行するための人手をどうするかは聞こえてこない。

園児虐待 保育士3人逮捕 静岡・裾野
 殴打・宙づりの疑い 市長、公表遅れ陳謝   朝日新聞 2022(令和4)年12月5日

 8月に関係者から市に通報があり、園の内部調査で15項目の悪質な行為が認められ、市が11月30日に公表した。


待機児童 最小2680人
受け皿増・出生減が影響 
 保育士不足が深刻 質の低下に懸念 
朝日新聞 2023(令和5)年9月2日

 保育所などに入れなかった未就学児の待機児童は、今年4月時点で2680人(前年比264人減)と、5年連続で過去最少となった。こども家庭庁が1日、発表した。受け皿整備が進んだことに加え、出生数減の影響が鮮明になった形だ。
 認可保育所などへの申込者は全国で280万4678人。待機児童の約6割が首都圏や近畿圏といった都市部に集中。調査対象の9割近い1510自治体で待機児童はいなかった。要因の一つが新規開設など受け皿の整備。加えて「80万人割れ」の出生数減も影響した。(高橋健次郎)

 待機児童問題を解消するため政府が保育の受け皿拡大に注力する一方、肝心の保育の質が懸念されてきた。こども家庭庁は脅迫的な言葉がけなど「不適切な保育」の実態調査を実施。昨年4~12月に市町村が不適切な保育と確認したケースが全国の認可保育所で914件あり、うち90件が虐待に当たると確認された。
 重大事故も増えている。国に昨年報告された死亡や全治30日以上の治療が必要な重大事故は、認可保育所で1190件。15年に報告された344件のおよそ3.5倍だ。
 こども家庭庁の担当者は「報告が徹底されるようになったことが一因」と言う。一方、保育現場の労働問題に詳しい中央大の小尾晴美助教(労働社会学)は「そもそも国の配置基準には無理があり、この約20年間の保育環境の変化で施設運営は綱渡り状態だ。そのほころびが表面化している」とみる。
 保育ニーズの高まりで1日11時間以上開所する施設が増加。保育士が時間差で勤務し、短時間で働く非正規の保育士も増え、「保育の質や事故防止に密接に関わる保育士間の情報共有や連携、コミュニケーションが難しくなった」と指摘する。(平井恵美)





《参考資料》

東京都練馬区:
保育の歴史とこれから 〜長期的な視点から保育サービスを考えるために〜 令和2年3月

幼保一体化問題 (asai-hiroshi.jp)

教育の義務制と保育園・幼稚園 (asai-hiroshi.jp)

待機児童問題に関する現状 (asai-hiroshi.jp)

認可外保育園 どう選ぶ (asai-hiroshi.jp)

幼保無償化について (asai-hiroshi.jp)
























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