幼保無償化について







政府から幼児教育と保育の無償化策の制度設計を委ねられていた有識者会議(座長:増田寛也総務相)が、
平成30年5月31日に報告書を提出した。







◆3~5歳全員 幼保無償化まとまる 朝日新聞 2018(平成30)年6月1日

 2019年10月に実施する方針の幼児教育・保育の無償化策の全体像が固まった。焦点の認可保育施設の無償化は、国の指導監督基準を満たすところが対象となった。だが5年の経過措置を設けるなど、保育の質の確保には課題が残る。
 政府から無償化策の制度設計を委ねられていた有識者会議(座長・増田寛也元総務相)が、5月31日に報告書を政府に提出した。政府は6月にまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に盛り込む考えだ。
認可外補助3.7万円上限
 無償化の対象は、市区町村に保育の必要性があると認定された家庭。このうち0~2歳については住民税非課税世帯に限り、3~5歳は世帯所得の条件を設けない。厚生労働省によると17年の3~5歳児は計約307万3千人。
 施設やサービスによっては「利用料金の補助」となる場合もあり、その際は、0~2歳児は4万2千円、3~5歳児は3万7千円を月額の補助上限とする。
 質の確保のため国の指導監督基準を満たした施設を対象としたが、満たさない施設を利用せざるを得ない家庭もあり経過措置を設けた。増田座長は「猶予期間は短い方がいいかもしれないが、事業者の保育士の確保や整備など時間が必要であろうことを加味した」と語った。

(浜田知宏)


全員認可が先■質の確保は 
 無償化の対象を幅広く認めたことで、質をどう担保するかの難しさは増す。一方、親からは「認可園に全員入れる方が先だったはず」と落胆の声もあがっている。
 認可外施設は原則、自治体の監査を年1回以上受けることとされているが、実施が不十分との指摘が根強い。東京都が16年度に行った立ち入り調査は、約18%の施設にしか行われていなかったことも明らかになっている。
 「保育園を考える親の会」代表の普光院亜紀さんは、5年間の「経過措置」を設け、現時点では国基準を満たさない認可外施設も対象としたことを問題視する。「安全が担保されていない施設に、5年にわたって子どもが置かれ続けることになるのではないか」。監査が不十分な態勢のままなら、経過措置期間後も基準を満たさない状態が続きかねない。将来的な無償化を否定するわけではないとしつつも「子どもにとって大事なのは、お金の公平さより、質の高い保育をみんなが受けられる公平さ。そのためには認可にも認可外にも、適切な監査が必要だ」と話す。
 「希望するみんなが保育園には入れる社会をめざす会」代表の天野妙さん(43)は、「まず希望者全員が認可園に入れるようにしてほしいと求めてきたのに」と憤る。会のメンバーからも、「安全性に目配りせずにお金だけ配ることは求めていない」との声があがっている。

(田渕紫織、中井なつみ)


◆朝日新聞 社説  2018(平成30)年6月7日
 子育て支援 無償化ありきでなく  

 手薄だった子育て支援を思い切って拡充することには賛成だ。それだけに、貴重な財源の使い道をよく考えてほしい。
 安倍首相が昨秋の衆院選で掲げた幼児教育・保育の無償化の具体策が政府の「骨太方針」の原案で示された。3~5歳児では認可保育所の利用料を無料にしたうえで、認可外の施設を利用する人にも一定の補助をする内容だ。今後、法改正などの準備にとりかかるという。

 国の懐に余裕があるならば、無償化は理想だろう。しかし待機児童の解消も進まぬなか、施設をすでに使っている人たちの経済的な負担を軽くすることが最優先の課題だろうか。無償化ありきでなく、政府は政策の優先順位を柔軟に見直すべきだ。選挙戦の目玉として唐突に打ち出された無償化だけに、具体策には無理が見える。

 認可施設の利用者だけを対象にすると、希望しても認可施設には入れない人ととの間で不公平感が広がる。一方で、施設の面積や保育士の配置が不十分な施設の利用にまで税金を投入することには、批判もある。

 新たな方針では、市区町村で保育の必要性があると認められた認可外の利用者に対し、月3万7千円を上限に補助をする。対象施設は認可外に対する国の指導監督基準を満たすことを条件とするが、5年間は経過措置として基準を満たさない施設の利用も補助の対象になる。
 だが、この案でも、認可施設との不公平感は解消されない。そもそも認可の利用料は所得に応じて定められている。高所得者世帯ほど優遇される、との批判は与党内からも出ている。

 これらは待機児童問題を解消しないまま、認可施設の無償化を先行させることにより生じるゆがみだ。今は無償化の対象を必要性の高い人に絞るべきではないか。
 待機児童ゼロに向けた新たな保育所の整備計画は、首相が無償化を打ち出す前に作られた。無償化を進めれば利用者はさらに増えることが予想される。
 無償化に多くの財源を使ってしまい、新たな受け皿整備に回す予算がなくなっては、本末転倒である。まずは潜在的なニーズも含めてしっかり把握し、計画を見直し、必要な財源を確保することが先だ。

 保育所の整備が進まない理由の一つに、深刻な保育士不足もある。人材確保のための賃金の引き上げや、職員の配置の増加といった取り組みにも、財源が必要だ。
  無償化以外にも、やるべきことはたくさんある。


◆「幼保無償化 市長村も負担」と
  政府原案 必要財源の5割超   
朝日新聞 2018(平成30)年11月8日
 2019年10月に始まる幼児教育・保育の無償化について、政府は必要財源を8300億円と見込み、この5割超を市町村の負担とする方向で検討している。19年10月からの半年間に限り市町村分の2200億円を全額国費で負担する考えだが、全国市長会は「無償化は国が決めたこと。新たに必要となる財源はすべて国費でまかなうべきだ」と反発。
 政府原案によると、私立保育所・幼稚園の運営費については、国が2分の1、都道府県と市長村が各4分の1、公立保育所・幼稚園は市町村が全額という今の負担割合を無償化後も維持する。無償化に伴い新たに公費負担が生じる認可外保育施設や預かり保育は、国・都道府県・市町村が3分の1ずつ負担。この割合に基づいて算出すると、市町村負担は無償化に必要な8300億円の半分にあたる4370億円。政府は消費税率8%から10%への引き上げによる増収を約5.6兆円と見込んでおり、増収分などから国も地方も財源を捻出できると考えている。
 全国市長会は「地方のお金の使い方を、国が指定するのはおかしい。無償化に反対しないといけないかもしれない」と反発。「政府は無償化の財源を示していなかった。地方の増収分を充てるべきではなく、国費で全額確保してもらいたい」
 内閣府や財務省は、消費増税の恩恵を受ける地方も一定の負担をするのは当然との立場だ。


 文部科学省:
  幼児教育専攻科育・高等教育無償化制度の具体化に向けた方針(平成30年12月28日 関係閣僚合意)


 
内閣府 文部科学省 厚生労働省:
  幼児教育・保育の無償化について 令和2年2月3日



◆幼保無償化 遅れる安全
  認可外の指導監督強化不透明 
朝日新聞 2019(令和元年)年5月11日

 無償化のための改正子ども・子育て支援法が成立した10日の参院本会議。裁決時の討論で、立憲民主党の牧山弘恵氏は厳しく批判した。「今回の無償化は、選挙向けの政策として生煮えのまま打ち上げられた。長期方針も一貫性もない、安易かつ目先のばらまきだ」

 政府は当初、国の設置基準を満たす認可保育園などを想定していた。ところが認可施設などに入れず、認可外施設やベビーシッターを利用する保護者などが「不公平だ」と反発。政府は対象を認可外にも広げ、さらに5年間は、基準を満たさなくても対象とすることにした。これに対し、無償化の費用を一部負担する自治体側は「劣悪な施設への公費投入は耐え難い」と激しく反発。政府は昨年末、当初より国の負担割合を増やし、無償化の対象とする認可外施設を、市町村の条例で限定できるようにすることで決着を図ってきた。

 ただ、懸念は消えていない。厚生労働省によると、認可外施設は17年3月末時点で全国に7013カ所あり、利用者は約22万人。内閣府の調査では、04~17年の保育施設での死亡事故195件のうち、131件が認可外で起きていた。
 国は都道府県などに年1回以上、立ち入り調査するよう求めているが、16年度の実施率は68%。しかも実施した施設の半数弱が基準を満たしていなかった。政府は、都道府県などが立ち入り調査を行う職員を1人増やすための地方交付税の手当てなどで指導監督の強化を図ると強調するが、実効性は不透明だ。

 田村和之・広島大名誉教授(行政法)は「子どもの安全を保護するための最低限の基準すら満たさなくてもいいとお墨付きを与える無償化は、保育の質の低下につながる」と指摘する。

(浜田知宏)



◆認可外「基準外」も無償化
  条例で制限 75市区町で2市区のみ 
朝日新聞 2019(令和元年)年7月8日

 10月から始まる幼児教育・保育の無償化をめぐり、全国の主要75市区町のうち、国の指導監督基準を満たさない認可外保育園を、無償化の対象から除外する自治体が現時点で2市区にとどまることが朝日新聞の調査で分かった。政府は、保育の質が懸念される園まで無償化されるとの批判に対し、市区町村の判断で除外できるとしたが、独自基準を設ける動きは鈍い。

 今回の無償化策では、基準を満たさない場合も経過措置として5年間は無償化の対象とする。一方、基準を満たさず、安全性が担保できない認可外園まで一律に無償化の対象とすることに全国市長会が反発。市区町村が独自に条例を定めれば、無償化の対象となる認可外園の範囲を限定できることになった。

※認可外保育園は、認可保育園と違い、届け出だけで開設できる。都道府県や政令指定都市、中核市に都道府県などが原則年1回以上立ち入り調査を実施することになっているが、17年度の実績で対象の3割は調査できていない。

 朝日新聞社は6月、20政令指定都市と東京23区、昨年4月時点の待機児童数が100人以上だった32市町の75市区町を対象に条例制定の方針についてアンケートを実施。「検討中」と答えた自治体には、7月に再度聞き取りを行った。
 その結果、条例を定めて指導監督基準を満たさない認可外園を無償化の対象から外す方針としたのは、東京都杉並区と埼玉県朝霞市の2市区だった。2年連続で待機児童ゼロの杉並区の担当者は「対象を広げ、わざわざ質を下げる危険をおかすことはない」と話す。朝霞市も保育の質の確保を理由にあげる。

 一方、75市区町のうち、条例を定めず、届け出のある全ての認可外園を無償化対象とする方針を示したのは、47市区町(63%)に上った。26市区町(35%)は「検討中」と答えた。
 多くの自治体が除外規定を設けないのは、認可外園が待機児童の受け皿となっている実態があるからだ。一方、制度上、認可外園の指導監督は都道府県などが担うことになっているため、調査時点でも認可外園の情報を把握できていない自治体もあった。東京都新宿区の担当者は「質の担保以前に、普段関りがない事業者の実情がわからない」。

 厚生労働省によると、2017年度に都道府県などが立ち入り調査した認可外の5332園のうち、指導監督基準を満たしていなかったのは半数近い2407園(45%)にのぼった。人手不足などで調査に行けていない園も2357園あった。

 認可外保育園の基準は緩い
 主な基準  認可保育園  認可外保育園
職 員
 原則、全員が保育士  3分の1以上が保育士
 保育室面積
 (1人あたり)
 2歳児以上は1.98㎡以上  年齢に関係なく1.65㎡以上
園 庭  設置(近くの公園などでも可)
 規定なし

(有近隆史、栗田優美、丸山ひかり)

/点  一定の線引きは必要 
 待機児童問題がいまだ解消されない中で、認可保育園に入れなかった子どもたちの受け皿となる認可外保育園を、幅広く無償化することは一見、合理性があるように思える。認可施設に入れない上、費用まで自分持ちでは、大きな格差が生じてしまうからだ。
 それでも、一定の線引きは必要だ。一口に認可外園と言っても、その質は様々。認可園以上の運営をしている園もあれば、必要な保育士の数が足りないなど、国の指導監督基準を満たさないところもある。

 そして、保育中の子どもの死亡事故の多くは、基準を満たさない園で起きている。こうした園は行政による指導や処分の対象となってきたのに、一転して公費を投入し、無償化の対象としては、国が質の低い施設にまで「お墨付き」を与えることになる。
 そもそも待機児童を解消しないまま国が無償化を急いだ結果、子どもの命にかかわる重要な決断を市区町村に丸投げする結果に陥った。このまま無償化に突き進むのであれば、自治体による認可外園への指導監査体制を強化した上で、各施設への指導の詳細を公表するなど、せめて保護者が劣悪な施設を避けることができるよう環境を整えるべきだ。

(伊藤舞虹)



幼保無償化の意味を考え、現状を考えたとき、
無償化よりも早急にやるべきことがあるにもかかわらず、
その優先順位を理解しないような施策は、やはり愚策だと思います。



◆幼保無償化 準備、大丈夫? 
朝日新聞 2019(令和元年)年9月23日
 幼児教育・保育の無償化が10月から始まる。全ての3~5歳児と、低所得世帯の0~2歳児が対象だ。安倍晋三首相が2年前の衆院選で打ち出した少子化対策だが、制度の検討や周知は十分ではなく、現場では混乱も起きている。子どもの安全や保育の質の確保といった課題も残されたままだ。
預かり保育「無償化辞退」各地で
 幼稚園が夕方まで行う「預かり保育」は無償化の対象だが、園側の申請が必要で、無償化するかどうかは各園の判断次第だ。内閣府や文部科学省によると、「申請手続きが手間」「無償化で利用者が増えれば職員増が必要になり、人件費がかさむ」などの理由で、こうした「無償化辞退」が各地で起きているという。
安全・保育の質 課題残したまま
 無償化が動き始めたのは17年9月。安倍首相が衆院解散・総選挙に踏み切る際、消費税率10%への引き上げによる増収分の使い道を変え、無償化に充てると表明した。具体的な制度設計は後回しだった。

 政府は当初、無償化の対象は認可施設の利用者を想定していたが、認可外施設の利用者や与党から「不公平だ」と批判されると認可外も対象に。認可外は保育士の配置などの基準が緩いが、5年間は基準を満たさなくても対象にすることにした。今度は子どもの安全や保育の質が担保されないとの懸念が強まったが、自治体が条例で対象施設を限ることを認めるにとどめた。東京都杉並区は条例を定め、埼玉県朝霞市は検討中だが、こうした動きは一部にとどまる見通しだ。

 内閣府によると、保育施設で昨年起きた死亡事故は、認可保育所(約2万3500カ所)で2件、認可外施設(約7700カ所)で6件。04年からの累計では認可61件、認可外137件だ。都道府県などによるに認可外への立ち入り調査は、17年度は対象施設の7割にとどまり、このうち4割超が国の基準に違反していた。ベビーシッターは立ち入り調査の対象外だ。
 
 全国保育団体連絡会の実方伸子副会長は「本当に心配。国が責任をもって、子どもの安全と保育の質の確保を早急に講じるべきだ」と訴える。
 無償化よりも保育所整備や保育士の処遇改善で、待機児童の解消を優先すべきだとの声はやまない。企業主導型保育所では定員割れや休園などが相次ぎ、審査や指導監査の甘さが問題となっている。課題を残したまま、国と地方を合わせて年8千億円を投じる無償化がスタートする。


(浜田知宏、石川春奈、山本恭介)



◆朝日新聞 社説 2019・9・23
  幼保無償化 待機の解消こそ本丸だ 
 政府は2020年度までの3年間に32万人分の保育サービスを整備し、20年度末に待機児童をゼロにする目標を掲げている。だが、この計画は無償化の方針が示される前のものだ。
 無償化で地域の需要はどう変わるのか。これまで認可施設の利用をあきらめていた人など、潜在的な需要が表に出るのではないか。まずは地域の実態を把握し、整備計画を機動的に見直すことが求められる。無償化はしたけれど、施設の整備が追いつかない。そんなことがあってはならない。 

 無償化の検討過程では、5年の経過措置とは言え、国の基準を満たしていない認可外の施設の利用に公費を投じることに、自治体側から反対の声が上がった。
 国は、認可外の施設に対する指導・監督を強化し、安全性と質の確保に努めるとしている。しかし自治体では、年1回の監査にも手が回らないのが実情だ。実効性のある指導・監督ができる態勢を早急に整えるとともに、認可外から認可施設への移行を促す支援策も強化する必要がある。

 保育の「受け皿」拡充の切り札として、近年急増している企業主導型保育所では、地域の保育需要ととのミスマッチや、経験の乏しい事業者の安易な参入、不安定な施設運営などの問題が起きている。質の確保にも目を向けるべきだ。
 施設を整備しようとしても、保育士不足で思うように進まない現状もある。せっかく施設ができても保育士を確保できず、子どもの受け入れ数を抑える例もある。一方で、資格を持ちながら働いていない「潜在保育士」は多い。保育士の待遇や職場環境の改善も、待ったなしである。




◆幼保無償化で便乗値上げ? 
朝日新聞 2019(令和元年)年10月2日
 今月から始まった幼児教育・保育の無償化に合わせ、一部の幼稚園や保育園が利用料や授業料をあげています。よりよい運営のためという園がある一方、十分な説明がない場合もあり、「便乗値上げだ」と疑念を抱く保護者もいます。

 名古屋市の幼稚園、10月以降、毎月の授業料をこれまでの「2万3700円(給食費込み)」から、「授業料2万5700円、給食費4500円」にするという。値上げ後の授業料は、今回の無償化で幼稚園の園児1人当たりが無料になる上限額。
 認可保育園や認定こども園などの利用料は市区町村が決める。一方、この幼稚園のように、「子ども・子育て支援新制度」に移行しない幼稚園や認可外保育園は、各園の裁量で自由に設定できる。


<幼児教育・保育の無償化>
  すべての3~5歳児と、住民税非課税世帯の0~2歳児が対象で、財源は消費税の増税分の一部が充てられる。認可保育園や認定こども園、2015年からの「子ども・子育て支援新制度」に移行した幼稚園は、原則無料になる。
 移行していない幼稚園は月2万5700円まで、認可外保育園は3~5歳児の場合月3万7千円まで補助が出る。昨年4月時点で新制度に移行した幼稚園は全体の4割強の3271園。


質の向上へ チェック必要
 文部科学省は、私立幼稚園の入園料や利用料について毎年調べている。今年度からは、前年度の料金や引き上げた場合は理由も調査し、年内にも結果を公表する方針だ。
 厚生労働省も今春、児童福祉法施行規則を改正。認可外保育園について、利用料を上げる時は、園のウェブサイトなどで理由を説明するよう義務付けた。9月27日の自治体への通知では、実際に一部の園で値上げの動きがあるとして実例を示し、便乗値上げの可能性がある場合は事実の確認と、必要に応じて指導するよう求めた。

 全国の私立幼稚園約8千園が加盟する全日本私立幼稚園連合会は「質の向上を伴わない引き上げは社会的な信用を失うことになる」として、便乗値上げをしないように加盟園に呼びかけてきた。必要に応じて引き上げる時は、保護者らの納得が得られる説明が求められるとしている。
 柴田悠・京都大学大学院准教授(社会学)は「値上げ額が職員の労働環境や給与改善、幼児教育・保育の質として100%使われるか、関係者全員が納得できる説明と、国や自治体がチェックする仕組みが必要」と話す。

(栗田優美、伊藤舞虹)


◆認可外除外は6市区 
  指定市など調査 幼保無償化始まる  朝日新聞 2019(令和元年)年10月2日

 10月から始まった幼児教育・保育の無償化で、認可外保育施設を独自に無償化の対象外としているのは、東京23区や政令指定都市など100市区のうち6市区にとどまるとの調査結果を1日、民間団体「保育園を考える親の会」が発表した。
 関連法では、認可保育所などに加え、認可外も5年間は国の基準を満たさなくても経過措置を定めている。ただ、子どもの安全が確保されるのかとの懸念は根強く、自治体ごとの判断を認めている。
 条例で、認可外を対象外としたり経過措置を短くしたりしているのは、東京都の江戸川区・世田谷区・武蔵野市と、埼玉県の新座市・和光市、神奈川県座間市。
 厚生労働相は1日の記者会見で、認可外で死亡事故が多いことに触れ、「監督・指導を担う都道府県等とよく連携を取り、質の向上に取り組みたい」と述べた。

(浜田知宏)


◆幼保無償化「全ての子に」のはずが
 開始1カ月 恩恵に差/利用料値上げも   
朝日新聞 2019(令和元)年11月6日
 幼児教育・保育の無償化が始まって1カ月余り。政府は3~5歳の「全ての子どもが対象」とうたってきましたが、通う施設によって恩恵がなかったり、利用料の値上げに直面したりという現実が、浮かび上がってきました。急ごしらえの制度の不備が、各地で波紋を呼んでいます。

「類似施設」の園児は対象外
 「まさかこんなことになるとは……」。東京都江戸川区の「キリスト教幼児教育・きのみ」に娘を通わせる母親は、声を落とした。無償化と前後して来春の園児募集が始まったが、10月半ば時点で入園希望者が数人しかいないと知ったからだ。定員は30人。このままでは存続も危うい。
 「きのみ」は見た目は普通の幼稚園だが、園庭の広さがわずかに基準を満たしていないなどの理由から、法律上の幼稚園ではない「類似施設」だ。今回の無償化の議論で「対象外」と整理された。

 無償化で幼稚園に通う子は月2万5700円まで利用料が無料になった。花島宣人園長は「保護者にとって年約30万円の補助は大きく、対象の園にと考えるのは仕方ない」と受け止める一方、国や自治体の対応には憤る。
 園は1968年創立から半世紀、近くの千葉県市川市や浦安市の子も受け入れてきた。「実績が考慮されない。国の施策で、まじめにやってきた園が立ちゆかなくなるようなことがあっていいのか」

 文部科学省によると幼稚園類似施設についてはっきりした定義はないものの、200以上あることがわかっている。萩生田光一文科相は10月、類似施設の扱いについて「ガイドラインの見直しに取り組み、新年度までに新しい方針を示せるよう努力していきたい」と述べた。花島園長は「園児募集は始まっている」ともどかしさを訴える。

 ■3~5歳の子が無償化の対象になるかどうか
 幼稚園  全員が対象。利用料月2万5700円まで無料
 認定こども園  全員が対象。利用料は原則、全額無料 
 認可保育施設
 認可外保育施設  保育認定があれば対象。利用料月3万7千円まで無料
 幼稚園類似施設 ×  救済措置をとる自治体も


「質の向上」チェック機能なく
 国は、質の向上を伴わない利用料の引き上げを認めていない。文部科学省は私立幼稚園について、引き上げの実態や理由を調査。厚生労働省は認可外の施設に対し、値上げの際は保護者に理由を説明するよう義務付けている。

 しかし、日本総合研究所の池本美香・主任研究員は「そもそも、『質の向上』を客観的にチェックする機能がないまま、無償化を始めてしまったことが問題」と指摘する。「公費を投じている以上、国は第三者評価機関を設け、値上げした園の運営状況を公表するなど、質の向上が確実になされる仕組みをつくる責任がある」と断じる。

 寄せられた利用料引き上げの例 (額は月額)
 石川県・私立幼稚園  無償化の上限まで引き上げ   2万1000円2万5700円
 東京都・認可外保育園  無償化の対象となる3~5歳児のみ引き上げ  4万5500円 5万5500円
 沖縄県・認可外保育園 「諸経費の上昇」を理由に1万円引き上げ  2万5000円 3万8000円
 利用料以外の費目を上乗せ 「教材費」として 8000円
「教育充実費」として 8500円
「施設整備費」として 5000円

(栗田優美、伊藤舞虹)


◆33施設 保育料便乗値上げか
  幼保無償化 国が指導・助言へ    
朝日新聞 2019(令和元)年11月8日
 幼児教育・保育の無償化に便乗して公費を多く受け取ろうと、不適切に保育料を上げた可能性がある認可外保育施設が計33施設あるとの調査結果を7日、厚生労働省と文部科学省がまとめた。今後、自治体などを通じて改善に向けた指導や助言を行うとしている。

 認可外保育施設については、便乗値上げが疑われる事例を自治体に示して調べた。10月時点で、自治体が事例に該当すると把握していたのは14施設。引き上げの理由に疑義があり、詳しい調査が必要なのは14施設だった。
 私立幼稚園で10月1日から保育料を上げるなどしたのは619園あり、このうち理由が「妥当」だったのは478園だった。

 認可外保育施設と一部の私立幼稚園は、保育料を自由に設定できる。無償化に合わせて保育料を引き上げれば、上限額の範囲内で公費補助を多く受け取れるため、便乗値上げの可能性が指摘されていた。

(浜田知宏)


◆幼保無償化 300億円超不足 補正へ    朝日新聞 2019(令和元)年11月22日
 10月に始まった幼児教育・保育の無償化で、今年度の財源が300億円超足りなくなる見通しとなった。内閣府などは、策定中の今年度予算案に計上する方針だ。想定よりも保育所の利用者が多かったことが影響したという。

 無償化の対象は、3~5歳児と、住民税非課税世帯の0~2歳児。内閣府などは計約300万人が対象になる見込み、今年度当初予算に、10月~来年3月の半年分として約3882億円を計上している。
 保育料は所得に応じて異なり、低所得世帯は無償化の前から減免されている。内閣府などは、無償化で中・高所得世帯の保育ニーズが高まったことや、幼稚園よりも単価が高い保育所の利用者が増えたことが財源不足の要因とみている。


 












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