消費税の導入と増税を考える
     2019.10.9


 1970年代後半になると、日本でも将来の財政を安定させるため、欧州など海外で導入が始まった消費税についての議論が本格化した。
 そして1989年4月に税率3%で消費税が導入されてから30年たち、3度目の消費税の引き上げで税率は2桁となり、消費税の増税は2014年4月以来、5年半ぶりとなる。
 税率の8%と10%への引き上げは2012年、当時の民主党政権と野党の自民党、公明党の「3党合意」で決定。安倍政権は8%はスケジュール通りに引き上げる一方、10%は予定されていた2015年10月から2度延期した。



消費税導入と増税をめぐる歴史 
典拠:朝日新聞 2016(平成28)年6月1日~6日


 食品など生活必需品にもかかる消費税は景気の影響を受けにくい。戦後の高度成長が一服した1970年代後半になると、将来の財政を安定させるため、欧州など海外で導入が始まった消費税の議論が本格化していった。
 日本の歴代政権が、その導入や導入後の増税を意図した際に用いた名称には、「一般消費税」「売上税」「国民福祉税」などがある。

消費税率 1979年 1月  大平内閣が「一般消費税」導入を閣議決定。同年10月の総選挙中に導入断念を表明
1987年 2月  中曽根内閣が 「売上税」法案を国会提出。同年5月、世論の反対を受け廃案に
1988年12月  竹下内閣が提出した「消費税」法が成立 
 3% 1989年 4月  消費税法が施行され、3%の税率を導入。竹下内閣は同年6月に総辞職 
1994年 2月
11月
 細川首相が税率7%の国民福祉税構想を発表も、翌日撤回 
 村山内閣が提出した、税率を5%(うち1%は地方消費税)に引き上げる法律が成立 
 5% 1997年 4月
 橋本内閣が消費税率を5%に引き上げ 
2012年 6月  民主・自民・公明が税率を14年に8%、15年に10%に引き上げることで合意
 同年8月、野田内閣が提出した消費税法が成立
8% 2014年 4月
11月
 安倍内閣が税率を8%に引き上げ 
 安倍内閣が15年10月の増税を1年半延期
2016年 6月  安倍内閣が17年4月の増税を2年半延期 

 消費税法が成立したのは1988年12月で、翌年の1989年4月に施行され、3%の税率が導入された。
 消費税率の引き上げがはじめて実現したのは1997年4月であるが、増税後に景気が急速に悪化し、当時の橋本龍太郎首相の退陣につながった。その後、消費税率の引き上げは「タブー」になった。

欧州では頻繁に増税  朝日新聞 2016.6.1 
 欧州各国では、日本の消費税にあたる「付加価値税」の税率が20%前後と高い。00年以降も税率引き上げは頻繁に行われている。英国ではリーマンショックの影響が残る10年と11年に、2.5%ずつの増税を実施し、それまで15%だった税率を20%にした。スペインでも、10年に2%、12年に3%上げた。
 一方、07年に16%から19%に引き上げたドイツでは、付加価値税の増税に反対する野党側が、代りに所得税の増税を掲げて選挙に臨んだ。ただ生活に欠かせない食品などに軽減税率が適用されていることもあり、日本ほど増税が政争の道具になっていない。
 中央大学大学院の森信茂樹教授(租税法)は「3党合意で消費税を政局から切り離せたはずだった。また元に戻ってしまった。増税の必要性を国民に理解してもらう努力も足りない」と話す。   (大平要)

 安倍政権は、2017(平成29)年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを2年半先延ばしすると表明。
 消費税の10%引き上げは、2012年に当時の政権党だった旧民主党と野党だった自民党、公明党との3党合意で決まった。あれから4年。3党はそろって増税延期を打ち出し、合意はなし崩しにされた。


◆消費増税先送りの経緯と安倍晋三首相の言葉 朝日新聞2016(平成28)年6月1日
 2014年11月18日
 消費税率10%への引き上げを15年10月から17 年4月に1年半延期し、衆院を解散すると表明
 
「再び廷期することはないと断言する。確実に引き上げていく」 (18日の記者会見で)
 2015年 9月24日
 「1億総活躍社会の実現」をめざす方針を発表
 
「消費税の引き上げはリーマン・ショックのようをことが起こらない限り予定通り実施していく」 (24日の記者会見で)
 2016年 3月16日
 「国際金融経済分析会合」を開始
 
「中国の景気減速の懸念、原油価格の低下など世界のマーケットは大きく変動しており、サミットでは現下の世界経済の情勢が最大のテーマになる」
 (16日の国際金融経済分析会合でのあいさつで)
2016年 5月30日
 自民党役員会で再延期の方針表明
 
「10%への引き上げを2年半延期したい。 新興国経済の落ち込みは長期化も懸念。 世界経済の不透明感が増す中、日本を再 びデフレのトレンドに戻すわけにはいかないl」  (30日の自民党役員会で)

 国民に負担を強いる消費増税は、政権にとっては難題だ。しかし、財政は先進国のなかで最悪の水準。少子高齢化が急速に進み、支出も膨らんでいく。必要な財源を確保するための増税を「政争の具」にしないための仕掛けが、3党合意に基づく「社会保障と税の一体改革」だった。
 一体改革では、消費税率の引き上げ分を「すべて社会保障に充てる」ことが確認された。使途を限定した目的税のように扱うことで、将来世代に借金を付け回さないねらいだ。具体的な使いみちも決まっている。


◆首相、説明ちぐはぐ 消費税をめぐる流れと今後 朝日新聞2016(平成28)年6月2日






消費税の導入と増税を考える



 国家財政において、所得税や法人税による税収は景気の影響を受けやすい。消費税は誰もが買い物の際に収めるもので、その税収は景気によって左右されにくい。その点で、消費税の導入は社会保障の充実策として有効である。
 しかし日常的な消費に伴う税のため、安易な導入や増税は国民の反発を招きやすい。


増税延期「評価」56% 首相説明に「納得」28%   朝日新聞2016(平成28)年6月6日
朝日新聞社は4、5の両日、参院選(22日公示、7月10日投開票)に向け、連続世論調査(電話)の1回目を実施したとして次のように報道。

 消費税率10%への引き上げを2年半延期するとした安倍晋三首相の判断を「評価する」56%が「評価しない」34%を上回った。
 安倍首相が延期理由として挙げた「世界経済が大きなリスクに直面している」との説明には「納得する」28%に対し、「納得しない」は58%だった。
 
 参院選では、公職選挙法の改正で選挙年齢が20歳以上から18歳以上となることから、今回から調査対象も18歳以上とした。
 安倍首相は1年半前に消費税の引き上げ延期を決めた際、「再び延期することはない。断言いたします」と述べていた。この発言を踏まえ、首相が約束を守らなかったことは大きな問題だと思うかどうかも尋ねたところ、「大きな問題だ」37%、「大きな問題ではない」53%だった。

 今回の引き上げ延期の評価については、内閣支持層の70%、自民支持層の71%、民進支持層でも51%が「評価する」とした。無党派層では「評価する」48%、「評価しない」39%だった。

 安倍首相の引き上げ延期の理由説明に納得するかについては、内閣支持層でも45%、無党派層では65%が「納得しない」とした。
 1年半前の消費増税の約束を守らなことに対しては、内閣支持層の72%、自民支持層の70%が「大きな問題ではない」としたが、無党派層では「大きな問題だ」45%、「大きな問題ではない」43%と見方は分かれた。

 安倍内閣の経済政策をどの程度評価するかについては、「大いに」「ある程度」を合わせた「評価する」は55%。「あまり」「まったく」を合わせた「評価しない」は41%だった。
 内閣支持率は45%(20歳以上の5月定例調査では43%)、非支持率は34%(同33%)だった。

朝日新聞社の世論調査が示す内容をどう理解するかが重要
 朝日新聞社の世論調査が示す内容は、要するに「消費税引き上げ延期の理由には納得しない」が、「引き上げ延期は評価する」ということであり、理由のいかんによらず、増税は歓迎しないということだと思います。
 したがってそうした民意をリードするには、国民的な理解や信頼が得られるような説得力ある消費税の目的・使途についての明確な説明がきわめて重要なことになります。
 明確な説明のためには、社会福祉と社会保障についての確固たる理念・姿勢がなければなりません。そこに先進国・文化国家を自称する日本が、今後を見据え、万難を排して取り組まなければならないきびしい財政問題を抱えた現状と課題があるといえます。


◆消費税10% 5年半ぶり増税   朝日新聞2019(令和元)年10月1日(1面
 消費税の税率が1日、8%から10%に上がる。政府は増税にあわせ、飲食費と新聞の税率を8%に据え置く軽減税率を初めて導入。現金を使わないキャッシュレス決済へのポイント還元なども実施し、景気への影響を最小限に抑えたい考えだ。ただ仕組みは複雑で、当初は消費者がとまどう可能性がある。景気の先行きへの不安も残る。
 
 消費税の増税は2014年4月以来、5年半ぶりだ。1989年4月に税率3%で導入されてから30年たち、3度目の引き上げで税率は2桁になる。税率の8%と10%への引き上げは12年、当時の民主党政権と野党の自民、公明が「3党合意」で決定。安倍政権は8%はスケジュール通りに引き上げる一方、10%は予定されていた15年10月から2度延期した。安倍晋三首相に、8%への増税が景気の低迷を招いたとの思いが強かったためだ。14年度の実質国内総生産(GDP)は0.4%のマイナス成長に陥った。今回の増税で、安倍政権は、消費増税を2度実施した初の政権となる。

 今回は前回の反省を踏まえ、低所得者対策として軽減税率を導入する。生活必需品として酒類と外食を除く飲食品と、定期購読の新聞の税率を8%に据え置く。中小の店舗でキャッシュレス決済した場合にポイントが還元される制度や、プレミアム付き商品券などの対策も手厚い。今年度予算では増収分を上回る総額2兆円規模の対策費を計上した。

 増収分の使途も大半が借金返済に充てる予定だったが変更し、一部は幼児教育の無償化などに充てる。しかし、米中の貿易摩擦の激化などで景気の先行きには不透明感が漂う。政府は、景気後退の可能性が強まった場合は、追加の景気対策を検討する方針だが、景気の低迷が深刻化すれば、増税時期や判断の是非が問われることになる。

 
《10月から暮らしはこう変わる》  2019.10.1 朝日新聞をもとに作成
税 金 消費税引き上げ
 8%から10%に。飲食品と、定期購読の新聞は8%に据え置く軽減税率を適用。店内での飲食は10%
自動車税引き下げ
 新車が対象、小型車を中心に年1千~4500円減税。自動車取得税は廃止
還元・値上げ キャッシュレス決済のポイント還元
 消費増税にあわせて開始。全国約50万の対象店で、買い物額の5%か2%
鉄道・バスの運賃値上げ
 山手線の場合、初乗りはICカード利用時で133円から136円に
郵便料金値上げ
 手紙(25㌘以下の定形郵便物)は2円増の84円、はがきは1円増の63円に
医療費の窓口負担引き上げ
 3割負担の場合、初診料は18円増の864円、再診料は3円増の219円に
など
働 く 最低賃金引上げ
 
都道府県ごとに順次改定、全国平均は27円増の901円。初の900円超え
子育て・年金 幼児教育・保育の無償化
 全ての3~5歳児と住民税非課税世帯の0~2歳児が認可施設など無料に
低年金者に給付金
 一定の要件を満たす人に月5千円を基準に支給する制度がスタート
放送 ・通信 携帯電話料金のルール改正
 2年契約を途中解約時の違約金が1千円以下に。端末代金の大幅値下げ禁止
NHK受信料、設置月は無料に
 テレビを設置した月は無料に


(岡村夏樹)

 支え合う社会の将来像描け 朝日新聞社説 2019・10・1
 消費税の税率が5年ぶりに上がり、10%になった。当初は2015年10月の予定だったが、安倍首相が2度先送りした。今回は、2%分の増税で景気の足を引っ張らないことを最優先に、国の増収分を上回る2兆円規模の対策を積んだ。

本来の目的はどこに
 キャッシュレスでの買い物への9カ月間のポイント還元策では、店によっては増税分より多い5%のポイントを付ける。子育て世帯などには、25%分のプレミアムが付いた商品券も出す。防災・減災という名の公共事業も入った。
 税率を上げた直後の景気が落ち込んだ過去の「反省」が大きく、対策のねらいや効果の検討は二の次となった。増収分の使い道も見直し、保育所や幼稚園の無償化などに回した。

 負担増を求めながら、目先の景気や日々の暮らしでのお得感を強調する。一方、首相がほとんど説明しないことがある。なぜ増税するのか、だ。
 消費税は、年金、医療、介護と子ども・子育てに使う税金だ。こうした社会保障の給付は保険料や税金で支え、足りない分は国債という借金で埋め合わせている。今回の増税のもともとの目的は、この将来世代に対する負担の押しつけを、できるだけ減らすことである。いまの現役世代への支援を手厚くする分、首相はここを削り、使い道の半分に抑えた。

 消費税が始まった30年前、1割強だった高齢化率は、今3割近く、団塊ジュニア世代が全て75歳以上になる30年後は4割近くになる。社会保障の給付費は、30年前の45兆円がいまは123.7兆円。医療や介護を必要とする高齢者が増えれば、この先はさらに伸びる。
 一方、制度を支える働き手となる年齢層の割合は、30年前の7割が6割に減り、30年後には5割まで落ち込む。労働力も納税者も減る時代が迫るなか、低金利を前提とした借金頼みのままでは、だれもが人生のどこかで必ずかかわる社会保障制度は、持続可能とは言えない。将来にわたって給付と負担のバランスをとり、社会の支え合いの機能を高めていかねばならない。

必要な再配分の視点
 まず、どんな社会保障のメニューをだれにどう届けるのか。どこまでを「自助」や地域の力に頼り、国や自治体にしかできない「公助」で何を支えるのか、議論する必要がある。
 同時に、どのくらいの経済成長が続けば負担増は避けられるのか、避けられないとすれば、給付を支える負担の仕組みはどのような形が望ましいのか、考えることが求められる。

 10%になった消費税は、国に入る税収だけで来年度は20兆円を超える見通しで、所得税と並ぶ柱だ。ただ、所得の低い人の負担感が大きい税でもある。今回、食品と定期購読の新聞の税率を8%のままにする軽減税率がはじめて入ったのも、そのことへの配慮という面がある。
 急増する社会保障給付などの公共サービスを続けていくには、景気の影響を受けにくく、安定した税収のある消費税は欠かせない。しかし同時に、所得や資産が少ない人への配慮、すなわち「再配分」の視点を忘れないようにすべきだ。

 日本の社会は少子高齢化とともに、格差の広がりにも直面する。所得税や相続税の引き上げなど、税の再i配分機能を高める改革は避けられない。新しい時代にふさわしい社会保障と税制の姿を描く議論を、急ぎたい。

選択肢を示し議論を
 「高齢化社会という新しい時代に耐える税」
 30年前、創設が決まった消費税を、安倍晋太郎・自民党幹事長はこう表現した。竹下登首相は「やがて『導入してよかった』と感じていただける日が来ることを信じております」と国民に呼びかけた。現役を終えた世代にも、消費を通じて、広く担い手となってもらう期待を込めた。
 しかし、全ての消費者に目に見える形で負担を求める税だけに、国民の拒否感は強い。政治家は選挙を意識し、財政が厳しい状況にあっても、増税の話は遠ざけがちだ。安倍首相もいま、「今後10年間くらいは消費税を上げる必要はない」と、負担増の議論を封印している。

 だが、今回の10%は7年前、野党だった自民党と公明党が民主党政権へ歩み寄り、踏み出した一歩ではなかったか。当時は社会保障の姿と併せて意見を交わし、理解を得ようと国民への説明をいとわなかった。
 社会保障の将来に対する国民の不安は強い。だからこそ、給付と負担の選択肢を組み合わせて議論を重ね、国民の納得感を高めたうえで、改革を進めていく責任が政治にはある。
 将来へも目配りし、世代を超えて支え合う社会へ。
 消費税が10%になったからと、議論を封印している余裕はない。高齢化も少子化も、立ち止まってはくれない。


消費増税に「納得」54%  景気への悪影響「不安」61%

朝日新聞2019(令和元)年10月22日


 朝日新聞社は、19、20日に全国世論調査(電話)を実施した。安倍政権が10月に消費税率を10%に引き上げたことに「納得している」は54%で、「納得していない」の40%を上回った。食料品などの税率8%に据え置いた軽減税率を「評価する」は58%、「評価しない」は33%だった。
 今回の増税を「納得している」は自民支持層で74%にのぼった。一方で、無党派層は「納得している」44%、「納得していない」47%と割れた。

 今回の増税による家計への負担感も尋ねた。家計負担は、「かなり」と「ある程度」を合わせた「重くなっている」が45%に対し、「あまり」と「全く」を合わせた「重くなっていない」は52%と上回った。
 調査方法などが異なるものの、消費税率が8%引き上げられた2014年4月の調査では、「かなり」と「ある程度」を合わせた「重くなっている」は64%で、「あまり」と「全く」を合わせた「重くなっていない」は33%だった。

 今回の増税で、景気への悪影響が出る不安感も尋ねた。「大いに」にと「ある程度」を合わせた「感じる」は60%にのぼり、「あまり」と「全く」を合わせた「感じない」は37%にとどまった。
 将来の消費税率はどうするのがよいかを5択で聞くと、「10%のまま」が47%で最多。「8%に下げる」14%、「10%より上げる」は12%と続いた。安倍内閣の指示率は45%(前回9月調査48%)、不支持率は32%(同31%)だった。














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