障害者福祉と社会福祉と社会保障
 《社会福祉と社会保障の関係》

作成 2011.4.23

更新 2013.5.17/2014.7.20/2016.10.10/2017.7.21/2018.9.4/2019.9.15/2020.3.30/2023.7.16
/2024.2。28





スマホ版



  人には、人とし生きる権利があり、人には、人として生きる努力義務があり、
  人はただ一人では人として生きてはいけないと思います。人はみな権利の主体であり、義務の主体です。
  支える一方で支えられる人々で構成されているのが「社会」です。そこには「共に生きる」ことの意味がたくさん詰まっていると思います。


障害者福祉の問題は「人権」の問題です! 人権の問題は「社会福祉」の問題です! 社会福祉の問題は「社会保障」の問題です!


≪社会保障に関する問題は、人の権利の問題を人の義務として考えることだと思います≫


人権としての障害者福祉
国民の生存権と国の保障義務
社会福祉と社会保障の関係
社会保障と税制について
消費税の導入と増税を考える
憲法第25条の規定と生活保護法について





人権としての障害者福祉

 人はみな人として暮らす権利を生まれながらに有しています。人として暮らす権利を保持することに困難を抱えたときに、人は障害をもつということだと思います。障害者福祉の問題は人権の問題であり、人権の問題は社会福祉の問題です。社会福祉の問題はすなわち社会保障の問題です。

 支えられる権利と支える義務を有する人々で構成されているのが「社会」です。そこに「共に生きる」ということの意味があると思います。「支える」ことは「支えられる」ことであり、それは互助、人権の尊重を意味します。その互助、人権の尊重が社会保障制度の仕組みの基礎であると思います。

 障害をもつ人を排斥するような社会は脆弱な社会であると考えるところにこそ、高度に進化した優れた人間の社会的文化があるはずです。



国民の生存権と国の保障義務

 日本国憲法の第25条には、国民の生存権、国の保障義務として「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあります。
 文化的な最低限度の生活とはいったいどのような生活をいうのでしょうか。もっと明確であるべきだと思いますが、同条の第2項には、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とあります。
 つまり国民の文化的な最低限度の生活とは、国が社会福祉、社会保障、公衆衛生を国の責務としてどのように、どの範囲まで、どの程度果たすことができるかどうかにかかっているということであり、それはまた国家としての文化レベルの問題であり、生活部面に対する国家的な努力とその力量によって明確になることだと解釈すればよいと思います。

 公衆衛生とは、国民の疾病予防や健康の維持や増進等に必要なことを地域的、組織的に実施する基盤となる法制度の整備充実を図り、その向上や増進を目指すことだと思います。
 社会福祉とは、社会を構成する人々すべての幸福の最も基本となるところの人として“生活(生存)する権利”の追求、確保を意味するるわけで、社会福祉事業とは、そうした権利の追及、確保のための社会的・組織的な取り組みだと思います。
 社会保障とは、「社会」と「保障」の合成語です。日本でこの用語が一般化したのは憲法第25条で使用されてからのようですが、「保障」とは、侵されないようにする、ささえ防ぐという意味ですから、憲法第25条でいう社会保障とは、「国の責務として、国民の生活を営む権利が侵されたり損なわれたりしないようにする」ことだということになります。



社会福祉と社会保障の関係

 社会福祉と社会保障の違いは何かといえば、それは「福祉」という意味と「保障」という意味の違いにあります。社会福祉の「福祉」は社会の人々にとっては権利ですが、社会保障の「保障」とは人々によって構成された社会として果たすべき組織的な責務(義務)を意味します。

 社会保障論の立場でいえば、社会福祉は社会保障の一分野であり、社会保障概念の下位に位置づけられることになるのでしょうが、社会福祉と社会保障の関係において勘違いをしてはならないきわめて大切なことは、「社会保障による社会福祉」ではなく、「社会福祉のための社会保障」と考えるべきものだということです。

 なぜなら社会を構成する人々のすべてが人として幸福に暮らす権利を生まれながらに有しているわけですから、「福祉」は権利です。その権利を保持するために人々が協力し合って手段を講じるのが「保障」であるはすだからです。

 要するに、「社会福祉」と「社会保障」は権利と義務の関係にあり表裏一体のものといえますが、考え方の筋道としては、社会保障による社会福祉ではなく、あくまでも社会福祉のための社会保障と考えるべきものと思います。
 日本の社会福祉と社会保障に関する現状と課題を理解するには、まず社会福祉と社会保障の関係をよく理解しておくことが大切です。理解する根拠として特に重要なのが憲法の第11条と第13条と第25条です。




 日本国憲法

(国民の基本的人権の永久不可侵性)
憲法第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。 

(個人の尊重、幸福追求の権利)
憲法第13条
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(国民の生存権、国の保障義務)
憲法第25条
  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。





社会保障と税制について

 社会保障の問題は、人の権利の問題を人の義務として考えることだといってよいと思います。
 
 今、日本では社会保障と税制に関する課題を抱えています。この課題に対する取り組みの基本は、人の権利の問題を人の義務としてどのように考えるかというところにあります。

 この課題にどう取り組むかということは文化社会、文化国家においてはおろそかにできない重要事項であり、欠いてはならない必須の条件です。それはいうまでもなく国家としてのガバナンス(国家統治)の問題ということになりますが、そのためには国家としての社会福祉の理念と社会保障に対する明確な姿勢が確立されていなければならないということになります。

 社会福祉と社会保障についての明確な考えもないままに、「中負担・中福祉」などという政策がまかり通るようでは、真に豊かな福祉国家の実現はできないと思います。




《厚生労働省:社会保障・税一体改革について》

 これまで、社会保障改革の全体像や必要な財源を確保するための消費税を含む税制抜本改革の基本方針が示されるとともに、その具体化のための検討が進められてきました。
 平成24年8月22日に議員立法により成立した社会保障改革推進法にもとづき、有識者による社会保障制度改革国民会議が行われてきましたが、平成25年8月6日には報告書が取りまとめられました。その審議の結果等を踏まえて、平成25年第185回国会に、持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案を提出し、12月5日に成立致しました。
厚生労働省:社会保障・税一体改革


なぜ今、改革が必要なのか 

 国民皆保険・皆年金の達成から半世紀が過ぎ、少子高齢化が進展し、雇用環境の変化、貧困・格差の問題など、社会が大きく変化。こうした中、「安心の支え合い」である社会保障制度を守り、進化させ、受け継いでいくため、時代の要請に合ったものに変えることが必要。


何のための負担なのか
 今回の社会保障改革では、高齢化への対応はもちろん、子どもや孫の世代、現役世代へのサポートを充実させ、全世代対応型の社会保障に転換を図るため。


具体的には何を改革するのか
 <子ども・子育て>
・すべての子どもの成長を見守り、支えることのできる社会へ
・子ども・子育て支援は、持続可能な社会保障、経済成長を確かなものとし、日本社会の未来につながる。未来への投資。社会保障制度改革の基本。
・女性の活躍は成長戦略の中核。新制度とワーク・ライフ・バランスを車の両輪に。
 <医 療・介 護>
・「病院完結型」から地域全体で治し、支える「地域完結型」へ
・受け皿となる地域の病床や在宅医療・介護を充実。川上から川下までのネットワーク化
・地域ごとに、医療、介護、予防に加え、本人の意向と生活実態に合わせて切れ目なく継続的に生活支援サービスや住まいも提供されるネットワーク(地域包括化システム)の構築
・国民の健康増進、疾病の予防及び早期発見等を積極的に促進する必要
 <公的年金制度>
・2004年改革により対GDP比での年金給付は一定水準。現行の制度は破たんしていない
・社会経済状況の変化に応じた形のセーフティネット機能を強化
・長期的な持続可能性をより強固なものに

 

《厚生労働省:社会保障制度を取り巻く環境と現在の制度》
 現在の社会保障制度の土台ができた1960年代以降、少子高齢化の進行や雇用基盤の変化、家族形態の変化など社会情勢の大きな変化が続いています。


 ⇒日本の社会保障制度の特徴

 ⇒社会保障制度の変遷


 ⇒各制度の概要




  消費税の導入と増税を考える


 
憲法第25条の規定と生活保護法について


 働いても生活保護基準以下の賃金しか得られない「ワーキングプア(働く貧困層)」が問題となる一方において、生活保護の不正受給の問題があります。
 働いている人が、生活保護の基準以下の賃金しか得られないというのは確かにおかしなことだと思います。生活保護の不正受給への対応も必要であり、生活保護のための支給基準を見直して生活保護法改正法が平成26年に施行されました。
 ⇒厚生労働 : 生活保護法改正法の概要
 
 雇用情勢の悪化した現状において、生活保護受給者が増加し、その数は過去最多とも言われています。 そうした生活保護受給者のための生活保護受給者等就労支援事業が福祉事務所とハローワークの協同で平成17年度から展開されています。さらに平成25年12月には生活困窮者自立支援法が成立し、平成27年4月から全面施行されました。
 ⇒厚生労働省 : 生活保護受給者等就労支援事業 
 ⇒厚生労働省:生活困窮者自立支援制度      
※生活困窮者自立支援法について

 働く権利の確保も生存権の確保もどちらも人の権利の確保ということでは欠いてはならないわけで、そこに就労支援の大切な意味があると思います。 したがって就労支援の目的や考え方として留意すべきは、働くことが生きることで、生きることが働くことというように 「働く」 と 「生きる」 をセットにしてまったく同質の権利保障の問題と考えてよいのかどうかという点です。端的にいえば、いわゆる「働かざる者食うべからず」ということでよいのかどうかということです。

 確かに働くことで生活の糧を得るということではあるわけですが、働きたくとも働けない場合もあり得るわけです。その理由はいろいろだとしてもそれを踏まえた就労支援でなければならないと思います。
 さらに文化的に高度に進化した人の生活においては、働くということが単に食べて生きるためだけのものなのかどうかという意味では、いわゆる“ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)” “ディセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)” ということを踏まえた就労支援のあり方を改めて考えてみる必要があるように思います。

 働く権利には、「生活の質」の問題と同じように、「働く質」の問題が含まれます。働く質の問題を考える最も基本となるポイントは、働くということを通してその人が、やりがいや生きがいを感じ、納得できるものでありうるかどうかということとその働き方の持続性、発展性はどうかということです。




生活保護費の減額「自民公約に忖度」
 17人への処分取り消す 津地裁判決
  2024(令和6)年2月23日朝日新聞 
 国が生活保護費の基準額を2013~15年に最大1割引き下げたのは違法だとして、三重県内の受給者が自治体の減額処分の取り消しを求めた訴訟の判決が22日、津地裁であった。
 竹内浩史裁判長は減額の背景に「自民党の選挙公約への忖度があったと推認できる」と指摘。厚生労働相の裁量権の乱用を認めた上で、減額は違法だと判断して原告17人への処分を取り消した。

 判決は、憲法が保障する「最低限度の生活」を具体的に設定するためには、高度な専門的な考察に基づく政策判断が必要で、専門的な知見を無視した政治的判断をすることは許されないと指摘。その上で、引き下げ決定を巡って厚労相は「考慮すべきではないことを考慮した」と批判した。
 具体的には、2012年の衆院選で自民党は生活保護費の1割減を選挙公約に掲げていたと説明。こうした状況を背景に、厚労相が専門的知見を度外視して拙速に引き下げをしたとした上で、その理由は「政治的方針を実現しようとしたものとみるほかない」と指摘した。
 こうした判断の過程や手続きには「全体として過誤または欠落があった」とし、これに基づく各自治体の処分も違法だと結論づけた。

 同様の訴訟は全国29地裁で起こされ、原告勝訴が相次いでいる。昨年11月には名古屋高裁の控訴審判決で地裁も含めて国に初めて賠償が命じられた。

(山本知弘)




厚生労働省:ディセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)について

障害者の就労支援について

一億総活躍社会と働き方改革とは







<参 考> 「福祉は公共事業より雇用を生む」(2008.7.27 朝日新聞より)


 厚生労働省が8月月初めにも公表する予定の08年版厚生労働白書の内容が明らかになった。
 社会保障のための税や保険料の負担が「経済成長にはマイナス」との指摘に対し、消費や雇用面で経済発展を支えている点を強調した内容だ。社会保障費の伸びを毎年2200億円抑制する政府方針への反発をにじませている。

 白書では、①社会保障の税・保険料負担の高まりで可処分所得が減少し、労働意欲の減退を招く ②公的サービスは民間に比べ非効率で、経済全体の生産性が低下する― などの指摘があることを紹介した上で、「年金は高齢者、雇用保険は失業者の生活を支え、消費活動を下支えしている」などと反論。
 「社会保障分野は国民負担によって支えられていることに留意する必要はあるが有効需要創出に寄与している」とした。

 特に、所得が伸び悩む中で、所得に占める年金総額の割合が96年度の6.3%から05年度の10.1%へと増え、高齢者の生活を支えていることを強調した。さらに、介護や医療など社会保障分野の利用が増えた場合の関連産業に対する経済的な波及効果は住宅建築業などと同程度で、雇用創出の効果も公共事業などより高い、とも説明している。

 (高橋福子)




   障害者の権利に関する条約と「合理的配慮」について
  
   社会福祉法人制度と障害者福祉の施策 
  
   福祉の意味
  
   障害者の就労支援について

   トップページへ



の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円  A5判 316頁
第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課題

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ

障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し 
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権

第5章 展望所感

 障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題/障害者支援をめぐる問題













copyright ⓒ2012 日本の「教育と福祉」を考える all rights reserved.