社会福祉法人制度と障害者福祉の施策



 作成2011.2.20/更新2014.1.10/2015.12.23/2017.7.14



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 日本の本格的な社会福祉制度の基盤が整うのは戦後になってからです。それは戦後処理・復興を図るためにも急を要するところから始まりました。
 戦前の社会福祉事業の多くを担っていたのは民間の篤志家や慈善事業家といわれた個人的な事業者でした。そのため戦前からの社会福祉事業の担い手として大きな役割を果たしてきた民間事業の振興と活用を図ることが戦後処理・復興のためには必要でした。

 そこで本来的には行政の責務として実施すべき福祉事業を民間の非営利の特別法人に委託し、その事業の運営に必要な経費を公的に助成する制度を創設しました。それが昭和26年に制定された「社会福祉事業法(現:社会福祉法)」によるところの社会福祉法人制度であり、措置委託制度(措置制度)です。

 社会福祉事業法によって、社会福祉事業の内容及び目的が規定されるとともに、法に規定された社会福祉事業を担う公の代行機関として、社会福祉法人は明確に位置づけられて現在に至っています。

 社会福祉法人制度と措置制度の仕組みが戦後日本の社会福祉行政の部門で果たしてきた役割とその意義は大きいと思います。






社会福祉法人と措置委託制度(措置制度)
社会福祉法人と社会福祉事業団
行政主導の福祉サービスをめぐる変化と社会福祉基礎構造改革
「措置」 から 「契約」 への理念と現実
≪福祉サービスの意味を理解する根拠≫






社会福祉法人と措置委託制度(措置制度)

 戦前の社会福祉事業の多くを担っていたのは民間の篤志家や慈善事業家といわれた個人的な事業者でした。そのため戦前からの社会福祉事業の担い手として大きな役割を果たしてきた民間事業の振興と活用を図ることが戦後処理・復興のためには必要でした。

  そのためには民間事業ではあっても、公共性・公益性、非営利性という点で民法に根拠をおく公益法人(公益法人制度改革以前のいわゆる社団法人・財団法人)による事業よりもさらに社会的信用の得られるような事業の組織化を図る必要がありました。
 また憲法第89条には、「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、公金を支出し、又はその利用に供してはならない」という定めがあり、民間の事業に対して公費を投入するわけにはいかないという事情がありました。

 そこで特別に公費で民間事業を助成する方策として厚生省(現在の厚生労働省)は、公の支配に属し社会福祉事業を行うことを目的とする特別法人の制度を新たに設けることを考えました。
 そして1951(昭和26)年に、社会福祉事業に関する共通的な基盤整備を図り、国及び地方公共団体と民間が一体となって社会福祉事業に取り組むための法律として社会福祉事業法(現在の社会福祉法)を制定しました。

 この社会福祉事業法(現:社会福祉法)の制定により、社会福祉事業を行うことを目的に、民法による従来の公益を目的とする公益法人よりも公益性の強い公の支配に属する民間の特別法人として創設されたのが「社会福祉法人」の制度です。

 さらに社会福祉事業としての純粋性を保ち、公益性を高めるために事業の内容を、継続性や安定性の確保等の必要性の特に高いものを第一種社会福祉事業と規定し、それ以外を第二種社会福祉事業とし、「社会福祉事業のうち、第一種社会福祉事業は、国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする。」 ということを明確に規定しました。

 こうして本来的には国家的責務として実施すべき福祉事業を法律に基づく行政措置として社会福祉法人に委託し、その事業運営に必要な経費を公的資金から「措置費」として投入する仕組みが「措置委託制度(措置制度)」です。
 したがって社会福祉法人とは、社会福祉事業を行うことを目的とする民間の非営利の特別法人で、その行う事業の特徴は、所轄庁の監督の下に公の代行機関として行うという点で、行政との連携が大きな部分を占めるところにあります。

 社会福祉法人は、法的に公の代行機関として位置づけられた法人ではあっても民間の組織であり、そこに所属する職員は公務員ではない。その点で、社会福祉事業の担い手としての公務員を簡単に増員できない地方公共団体にとって、必要な社会福祉施設を設置経営していく上で行政措置として業務を社会福祉法人に委託する方式は都合がよかったといえます。




社会福祉法人と社会福祉事業団

 昭和40年代に入って社会福祉法人による福祉施設が急増します。特に知的障害を対象とする施設の設置が急増するなかで、1971(昭和46)年に、厚生省社会・児童家庭局長連名通知 「社会福祉事業団等の設立及び運営基準について」が出されました。これを通称「46通知」といいます。
 この通知による社会福祉事業団とは、地方公共団体が設置した福祉施設を運営するために地方公共団体が設立した社会福祉法人のことです。「46通知」とはその設立及び運営の基準を示したものです。

 社会福祉法人は、社会福祉事業法の規定に基づく認可を受けて設立される民設の法人であるというのが本来ですが、社会福祉事業団の場合は、都道府県や市によって作られたいわば公設の社会福祉法人ということになります。
 どちらも社会福祉法人ですが、社会福祉事業団の設立根拠は社会福祉事業法ではなく、いわゆる「46通知」によるものということになります。

 都道府県や市が設置した施設は、都道府県や市が直接経営すればよさそうなものですが、都道府県や市が設置して社会福祉事業団が経営する福祉施設の形態が増えた理由としては、社会福祉事業法の定めに、「社会福祉事業のうち、第一種社会福祉事業は国、地方公共団体又は社会福祉法人が行うことを原則とする」とあることと、社会福祉法人と措置委託制度(措置制度)の仕組みが定着していたということがあったからだと思います。

 さらに社会福祉法人の設立要件が厳しいこともあり、民間の社会福祉法人の設立が期待通りに進まなかったこともあったようです。そうしたなかで、昭和40年代に入って施設の設置がより一層強く求められるようになり、都道府県や市は自前の社会福祉法人を社会福祉事業団という形で設立して施設の設置経営に当たったと考えられます。

 こうした社会福祉事業団を含めた社会福祉法人による施設経営が増えるにつれ本来の社会福祉法人の制度が形骸化し、いわゆる措置制度の問題点とともに、社会福祉事業団は単なる天下り先などという見方もされるようになりました。

 措置制度による福祉サービスの提供は、行政主導の措置という形で対象を特定した弱者の救済、保護を主とするものでした。 それは言わば上から下への恩恵的なサービスの提供であり、それが一定の基準に沿ったものではあるにしても、 その基準は遵守すべき最低の基準であって、最高基準ではないわけです。
 またサービスを利用する人がその内容を選択したり決定できるわけでなく、その内容の良し悪しには関係なくそれに甘んじるよりほかなく、さらに安易な施設中心のサービスに偏る弊害や社会福祉法人の行う福祉サービスは公の代行事業であるために柔軟性に欠けるなどの制約もありました。

 しかし社会福祉法人制度と措置委託制度の仕組みそのものは社会福祉事業を進展させ、特に障害児・者施設の整備を図る上では重要な役割を担い、戦後からの約半世紀にわたって障害児・者の親や家族等の切実な願いを受け止め、その期待に応えるための施設運営を維持してきたことは確かです。

 社会福祉事業団等の設立及び運営の基準:各都道府県知事宛 厚生省社会・児童家庭局長連盟通知 

 平成28年11月11日「社会福祉事業団の設立及び運営の基準について」の一部改正について
   各都道府県知事宛 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知(PDF)





行政主導の福祉サービスをめぐる変化と社会福祉基礎構造改革

 社会福祉に関わる施策は、時代の流れや文化の影響を受けるわけですが、現在に至る日本の社会福祉施策を概観すれば、その基盤制度が整うのは戦後になってからです。それは1945(昭和20)年に戦争が終結し、その戦後処理という特別な事情を反映したものでした。
 戦争による傷病者や戦災孤児があふれ、国民の生活が困窮していた状況下で、国の責任として国民を救済することは急務でした。したがって行政による「措置」という上から下への恩恵的な弱者の救済・保護が施策の中心となったわけです。

 こうした措置制度を基盤とする日本の福祉制度は戦後から約半世紀に亘って続くことになりますが、戦後から時が経つにつれ、人権意識の高まりやノーマライゼーション理念の広がり、障害をもつ人自身による自立生活運動の影響や社会・経済状況の変化とともに障害(者)観も変化し、国民の福祉ニーズも多様化し、単に弱者の救済や保護のみでなく、広く国民一般を対象とする福祉制度が求められるようになりました。

 そこで厚生省(現:厚生労働省)は、有識者からなる「社会福祉事業の在り方に関する検討会」を1997(平成9)年8月から開催し、同年11月に検討会によって報告書「社会福祉の基礎構造改革について(主要な論点)」がまとめられました。これを受けて、これまでの福祉基盤制度を見直し、措置制度の弊害を改めるというのが社会福祉基礎構造改革の考え方です。

 改革の狙いには、戦後続いてきた行政主導の措置による福祉サービス提供の仕組みを改め、サービス利用者本位の契約によるサービス提供の仕組みへの転換があるわけですが、それとともに社会福祉法人の行う事業についても行政措置に沿った事業の「運営」という考え方から脱却し、サービスの利用者との契約による事業の自主的な「経営」という考え方への転換が求められることとなったわけです。

 そして今、営利企業を含む多様な経営主体の福祉サービス事業への参入が促され、一般市場と同じような競争原理によってサービスの質の向上や量の拡大が期待されています。
 しかし福祉サービスは、一般の市場原理にはなじまない要素が多い。特に障害者福祉に関わるサービスは障害をもつ人の生活に関わるものであり、採算が合わないからやらなくてよいというものではない。

 社会福祉事業については、事業の継続性や安定性の確保等の必要性の特に高いものを第一種社会福祉事業とし、それ以外を第二種社会福祉事業として規定し、「社会福祉事業のうち、 第一種社会福祉事業は、国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする。」ということを法律で明確に規定したのはそのためであったはずです。

 福祉サービスの事業は、一般の営利目的のサービス業と同じようなわけにはいかないところがあり、本来的には行政の責務として実施すべき事業であるわけです。そこに社会福祉法人制度の意味があり、措置委託制度(措置制度)が創設されたことの意味があったはずです。このことは福祉を考える上で忘れてはならない重要なことだと思います。

厚生省:社会福祉基礎構造改革について https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1104/h0415-2_16.html




「措置」 から 「契約」 へ/支援費制度の理念と現実

 従来の福祉基盤制度を見直し、措置制度の弊害を改めるという社会福祉基礎構造改革の趣旨を踏まえ、社会福祉事業法が「社会福祉法」に改正され、利用者本位の契約による福祉サービスの提供の仕組みとして 2003(平成15)年に制定されたのが「支援費制度」 という新しい制度です。

 福祉サービスを利用したい人が、サービスを提供する事業者との契約によってサービスの利用に必要となる費用を公費で支援するというのが支援費制度です。
 ところが支援費制度のスタートから1年も経たないうちにサービスの量も質も不十分なまま制度維持のための肝心の支援費の財源確保がむずかしいということから、その改革案として厚生労働省は「今後の障害保健施策(改革のグランドデザイ案)」 を発表しました。これをもとに制定されたのが 「障害者自立支援法」 です。
 ⇒「今後の障害保健施策(改革のグランドデザイ案)」

 しかしこの障害者自立支援法は、成立から施行までが性急過ぎて、政省令の告示等も遅れ、さらに実際のサービスの内容やサービス提供の仕組みが障害者の実態に即していないことなどが問題となり、障害当事者や関係団体等による大規模な抗議集会や活動へと発展しました。
 
 改革という流れの中で法制度の改変があり、新たな法律が施行されてきましたが、日本の障害者福祉にかかわる施策の現状は、国家財政の問題とも関連し、改革の理念や趣旨と実際との間にギャップが生じ、混迷が続いています。
 障害者自立支援法は、廃止されることになったのですが、「障害者総合支援法」 という法律名に改称されて現在に至っています。このことに関しては今後の動向を注視していかなければなりません。

 ⇒ 障害者自立支援法をめぐる問題
 ⇒ 障害者福祉に関する動向

 「措置」から「契約」へというのはこのまま進展していくと思います。それは障害者の生活にかかわることであるだけでなく、 社会福祉法人の経営にかかわることでもあるわけです。
 福祉サービスの利用と提供に関する問題、課題を考えるとすれば、その前提としてまず考えてみなければならない大切なことは、「福祉サービスとは何か」ということだと思います。




≪福祉サービスの意味を理解する根拠≫

憲法第11条 国民の基本的人権の永久不可侵性
 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられないということ。
 人間は人間以外の何ものでもないわけで、人間として生まれたからこそ有する人間としての権利は誰もが有するということです。

憲法第12条 自由及び権利の保持責任、濫用の禁止、利用責任
 国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって保持し、濫用してはならないし、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うということ。
 自由や権利を保持するには、自分だけの都合ではなく、自分以外に対する配慮を要し、責任を自覚しなければならないということで、「公共の福祉」とは、社会一般に共通の幸福を意味します。

憲法第13条 個人の尊重、幸福追求の権利
 すべて国民は、個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する権利は、公共の福祉に反しない限り、 最大の尊重を必要とするということ。

憲法第14条 法の下の平等
 すべて国民は法の下に平等であり、人種、信条、性別、社会的身分や門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されないということ。

憲法第25条 国民の生存権、国の保障義務
 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有し、国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上と増進に努めなければならないということ。




   障害者福祉と福祉サービスの意味

   社会福祉法人を取り巻く現状と課題 

   福祉の意味

   障害者福祉と社会福祉と社会保障

   発達障害者支援法と障害者自立支援法を考える
  
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浅井 浩 著 : 日本の障害児(者)の教育と福祉 (田研出版 2012年3月発行)

A5判250頁 2750円







日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円  A5判 316頁


第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保障
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課題

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ

障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し 
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権

第5章 展望所感

 障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題/障害者支援をめぐる問題
























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