障害者自立支援法をめぐる問題
 
2010.3.19/2016.4.10/2018.9.14/2020.3.25






 障害者自立支援法の施行により、障害種別(身体障害・知的障害・精神障害)にかかわらず、必要なサービスを利用しやすくするために、身近な市町村が責任をもって一元的にサービスを提供する仕組みにするとして従来の障害福祉サービスの内容が再編されました。

 そしてサービスの必要性を明確にするために障害の程度を6段階に区分し、認定するための「障害程度区分」の審査・判定を行う「審査会」が各市町村に設置されました。 しかし、……





<障害者福祉に関する施策の一元化について>
 
 障害種別(身体障害・知的障害・精神障害)にかかわらず、必要な障害福祉サービスを利用しやすくするための“施策の一元化”というのはよいのですが、障害のそれぞれの内容は同質・一様ではありません。
 したがってその点を踏まえなければ適切なサービスの提供にはなりえません。にもかかわらず、施策の一元化を図ることと障害種別を一元化することを混同しているところの問題があると思います。
 障害者自立支援法により、サービスの利用は従来よりも煩雑でわかりにくく、利用しにくいものになってしまいました。


<障害程度区分の認定について>

 サービスの必要度を客観的に認定し支援するとして各市町村の「審査会」が障害の程度を6段階に区分する「障害程度区分」の審査・判定に用いる調査項目は、介護保険制度の要介護認定に用いる調査項目をベースにしたものであるために障害者の実情にそぐわないという問題が生じています。
 また同じ障害程度区分だから同じサービスの内容を必要とするとは限らないし、障害程度区分の認定によって利用するサービスの内容や利用期間などが制限されるのは利用者本位のサービスではない。
 自由に選べるサービスがあり、支援の継続があってこそ、障害者のニーズに即した生活権が確保されるということの認識を欠いたところに問題あると思います。
 効率的・効果的なサービス利用の促進のため、サービスの提供期間をある程度定めてサービスを見直すことは必要だとしても、利用者本位の障害福祉サービスという観点からすれば、支援する側の判断で障害程度を区分し、そこに当てはめてサービスの利用を制限するのは障害当事者のニーズに反し、障害者の生活を支援するといいながらその生活権を奪うことだと思います。


<財源の問題と障害者福祉理念の問題>

 障害者自立支援法策定のそもそもの発端は、障害者支援に要する財源確保の問題が生じたことのようです。
 財源確保のために障害者の支援を介護保険制度の方式に統合しようと図ったようですが、財政の問題と障害者福祉の理念の整合性を図ろうとすればするほど障害者のニーズとは遊離したわかりにくい煩雑・複雑怪奇な法制度になったのだと思います。
 障害者福祉・社会福祉・社会保障についての明確な理念と責任を持つのは文化国家の条件であるという認識を欠いてはならないと思います。


<自立支援についての考え方の問題>

 障害者自立支援法でいう障害者の「自立支援」や「就労支援」は“生活の質”の問題との関連で考えることが重要です。
 障害者を支援するのであれば何よりもまず、「障害」をどのように理解するかが重要な前提となります。
 自立や就労を支援するには、「自立」「就労」についての考え方が明確なものでなければなりません。
 それらがあいまいなまま「支援」が強調されているところの問題があります。




新たな法律策定に向けてのポイント


 障害者自立支援法は当初から問題視され、抜本的な見直しに向けた抗議のための大規模な集会や署名活動、そして障害者自立支援法違憲訴訟へと発展し、このたびの政権交代でこの法律は廃止されることになって現在に至っています。

厚生労働省:障害者自立支援法違憲訴訟に係る基本合意について

 新たな法律策定に向けて、次のようなことが重要だと思います。

1)障害の内容は一律・同質ではありません。その内容や程度状態は多様であることを理解することです。
 障害者のニーズに即した支援を目的とするならば、障害者支援に関する施策の一元化ということと障害種別の一元化を混同してはならないと思います。このことは発達障害者支援法との関係性を考えるのであれば特に重要な点であり、まして高齢者の介護とは重なる部分はあるかもしれないが、それは質的には異なるものであることの理解が大切です。

 障害者自立支援法でいう障害程度区分は、質の違うものを同じ尺度で測るところに無理があるわけで、現行の障害者の障害内容等を示す手帳制度との整合性を図り、発達障害等も含めた新しい手帳制度を検討してはどうか。

2)「障害」「共に生きる」「自立生活」「地域生活」「就労」などの意味について単なる一般論や建て前論ではなく、改めて考えてみることです。
  なぜならもともと一般論や建て前論にはなじまない生活(行動)の困難さや生活のしづらさ、社会適応の問題を抱えた状態が障害を有するということであるはずだからです。その点を改めて考えることこそが大切だと思います。

3)必要な財源確保の問題は社会保障の問題であるという認識が重要です。
 必要な財源について、みんなで支える仕組みを作るというのであれば、無駄遣いのないよう歳出削減の改革とともに消費税率の見直しも必要だと思います。

4)障害者自立支援法でいう自立や就労支援は障害者の “生活の質” との関連で重要です。
 したがって法律上において「自立」や「就労」についての概念規定を明確にできないのであれば、自立などということばは省いて、法律名を「障害者支援法」又は「障害者福祉法」とでもしたほうがよいと思います。

5)障害者や高齢者の福祉サービスの利用ニーズは高く、それに対応できる専門職の育成が求められています。
 その一方で、やる気と誇りをもって、その職に就いて続けられるような条件を整えにくい現状があります。
 人材の育成や確保にはそれに伴う処遇条件を整えなければなりません。障害者自立支援法はそれを難しくしました。

障害者福祉の問題を考えるということは、社会福祉・社会保障の問題を考えることだと思います。

 障害者福祉と社会福祉とち社会保障

 障害者福祉に関する動向




障害者自立支援法から障害者総合支援法へ

 平成22年1月7日に、障害者自立支援法違憲訴訟の原告団・弁護団と厚生労働省が基本合意文書を取り交わし、「障害者自立支援法を廃止して新しい法律を制定する」と厚生労働省は明言しました。
 ところが新しい法律案として示された内容は法の一部を見直し、法律名を「障害者総合支援法」に変更し、抜本的見直しは先送りにするもので、それは新しい法律というよりも法律の改正案でしかないということから批判を招きました。
 しかし法案「地域社会における共生の実現に向けて 新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」は、平成24年6月20日成立、同年6月27日公布、一部を除き平成25年4月に施行されました。

  法の概要


障害者総合支援法「附則」の検討規定について

 障害者総合支援法の附則に、「障害者施策を段階的に講じるため、3年を目途に検討する」として次のこと規定しています。
① 常時介護を要する障害者等に対する支援、障害者等の移動の支援、障害者の就労の支援その他の障害福祉サービスの在り方
② 障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方
③ 障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方
④ 手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する 支援の在り方
⑤ 精神障害者及び高齢の障害者に対する支援の在り方
※上記の検討に当たっては、障害者やその家族その他の関係者の意見を反映させる措置を講ずる。
 
 検討するというこれらの内容は、障害者の支援において配慮すべき当然のことであるわけですが、今ようやく法的に検討段階に入ったということになります。
①の障害者の就労支援は、特別支援学校の卒業生の働く場の確保ということでは実情に即した再考は必須です。なお工賃の倍増計画などということがいわれていましたが、それには無理があります。多いに越したことはありませんが、単に倍増すればよいという問題でもないと思います。
②の障害者支援区分の認定についてはこれまでの障害程度区分の考え方そのものに無理があったわけで、事前の段階で意見のいえる専門家は誰もいなかったのでしょうか。
③の成年後見制度利用促進の在り方については、措置制度から契約制度への移行時からの問題として現在に至っています。
 ⇒成年後見制度利用促進を図る議員立法が平成28年4月8日成立。課題は多いと思います。
④の意思疎通を図るための支援とは、発達障害や難病等も含めた障害に対応できるものでなければなりません。
⑤の高齢の障害者に対する支援のあり方は、いわゆる「親亡き後」の問題とも関連するわけで古くからの問題です。
 以上の検討には障害者や家族の意見を反映させるというのは当たり前のことだと思います。


今後の施策への期待

 検討するとした規定内容も含め、障害者総合支援法に基づく施策がどのように展開していくか、期待をしその動向を注視したいと思います。
 障害の有無にかかわらず、人それぞれの人生があり、それがかけがいのないものとして尊重されなければ共生社会の実現などありえません。 また人の生活実態に即した使い勝手のよい障害福祉サービスの提供と、それが利用しやすい仕組みでなければなりません。

 障害者の日常生活を総合的に支援するというのであれば、人の一生をどのように考えるかということが大切です。 戦後日本の教育施策は、障害児の学校教育も義務制にし、それなりに充実発展してきました。
 しかし学校卒業後の就労や日々の生活、さらにその老後に至る「親亡き後」の暮らしを概観すれば、その道筋は依然として整備されているとはいえません。そこに教育と福祉の連携の意味と課題があるわけです。

 障害をどのように受容し、学齢期以降の生活をどのように見据え、そのための教育をどのように考えるかということでは、暮らしの道筋が見えなければ、具体的な教育目標や教育内容や方法は考えにくいわけです。
 地域移行、自立支援、就労支援等の施策が強調されていますが、実態が伴っていないように感じます。それは障害児(者)の教育や福祉の大前提であるところの障害をどのように受容するかということと、その生活や一生をどのようにとらえ、見据えるかという視
点にズレがあるからではないかと思います。




 発達支援法と自立支援法を考える

 社会福祉法人制度と障害者福祉の施策

 厚生労働省:障害者自立支援法違憲訴訟に係る基本合意について

 障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と国(厚生労働省)との基本合意文書(平成22年1月7日)







日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版  2900円+税  A5判 316頁








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