障害者福祉と福祉サービスの意味


2011.10.31/更新 2014.5.2/2016.7.30/2017.7.2/2021.2.5/2022.3.6


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福祉サービスも一般の市場原理に基づく競争により、サービスの質や量の向上が期待されています。

しかし福祉サービスの事業は営利目的のサービス業とまったく同じようなわけにはいかないと思います。




障害福祉サービスの理念と「対等な人間関係」とは
福祉サービスの意味と特質
行政主導の福祉サービスの提供から契約による福祉サービスの利用へ
福祉サービスという用語について
福祉サービスを考える根拠









障害福祉サービスの理念と「対等な人間関係」とは

 障害者を支援する福祉サービスの理念として、障害をもつ人は哀れみや保護の対象ではなく、対等な人間としてその自立を支援するものでなければならないという意味のことがいわれています。

 確かに、哀れみや保護、恵み・与え・施すことは対等な人間関係においては不適切なことのようにも思われます。 しかし哀れむとは「いとおしむ」ことであり、保護することは「かばい守る」ことであり、恵み・与え・施すとは、「分かち合う(分け合う)」ことであり、それは歴史的にみれば福祉事業の一形態であるところのいわゆる慈善事業の原型です。

 同じ人間、仲間と思うからこそ、哀れみ、かばい、分かち合うのも人の気持ちとして自然なことではないかと思います。そこには人を見下すこととはちがう「思いやり」という心ゆたかな高度に優れた人間関係が存在するはずです。

 対等な人間関係において保護する・恵む・与える・施す、を戒めることに一理あるにしても、それ一辺倒で決めつけるような社会であるならば、そこには対等な関係どころか、対等な関係を口実にした弱者に対する負担の強要、いじめ、虐待、無視、遺棄、搾取がまかり通る危険性が増大すると思います。




福祉サービスの意味と特質

 障害をもつ人も生活者ですから、障害者福祉にかかわるサービスはその生活ニーズに即したものでなければなりません。
 人の生活ニーズは基本的にはみな同じでも、具体的なニーズとなると個別の事情や障害の内容・特性及びその程度や状態により様々だと思います。

 障害者福祉に関わるサービスのあり方として、サービスを提供する側とサービスを利用する側の対等な関係が強調されています。さらに福祉サービスも一般の市場原理に則った競争によりその質や量の向上が期待されています。

 しかし福祉サービスの特質は、 一般の市場原理にはなじまない要素が多い。 特に障害者福祉に関わるサービスの内容は、営利を目的とする一般的なサービス業の経営と同じようなわけにはいかない問題が多い。

 なぜなら障害の内容やその程度や状態によっては自ら必要とするサービスを自ら選択し、そのサービスを利用するための契約をし、費用を工面してサービスを受けるということ自体に無理があります。その場合、その本人自らはどうすることもできないわけで、それを家族が支えるにしても限界があります。

 障害者を支援するという意味で福祉サービスを考えた場合、それは人の生活にかかわることであり、採算が合わないからやらなくてよいというものではない。そこに営利目的では成り立ちにくい状況があります。




行政主導の福祉サービスの提供から契約による福祉サービスの利用へ

 戦後続いてきた行政主導の 「措置」 による福祉サービス提供の仕組みを改めて、サービス利用者本位の 「契約」 によるサービス提供の仕組みへの転換を図るというのが社会福祉基礎構造改革の考え方です。

 それに伴い社会福祉法人の行う事業についても行政措置に沿った事業の「運営」という考え方から脱却し、サービスの利用者との契約による事業の「経営」という考え方への転換が求められています。

 そして今、営利企業を含む多様な事業主体の福祉サービス事業への参入が促され、一般市場と同じような競争原理によってサービスの質の向上や量の拡大が期待されているわけですが、そうした考え方と現実との間にギャップが生じています。
 
社会福祉法人制度と障害者福祉の施策




福祉サービスという用語について

 日本で、福祉サービスということばが使われるようになったのは1970年代に入ってからのようですが、それが法文上に使用されるようになったのは1990(平成2)年の社会福祉事業法(現:社会福祉法)の改正時からとされています。 それまでは、特定の貧困や弱者を対象にした慈善や救貧あるいは恩恵的な意味合いで、「慈善事業」「救貧事業」「社会事業」「厚生事業」などのことばが使われてきました。

 「福祉サービス」 が一般的な用語となっている今、改めて福祉サービスとは何かを考えてみるべきではないかと思います。

 社会福祉法(最新改正:平成28年)の第3条には、福祉サービスの基本理念として、「福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。」 とあります。

 福祉サービスとは、「日常生活を営むことができるよう支援するもの」だとすれば、日常生活を営むこととはそもそもどういうことなのかということが重要です。それは端的にいえば、何よりもまず人として生きる(生存する)という行為(活動)だ思います。

 「福祉」 は 「幸福」 と同じで、しあわせ(幸せ)を意味します。人の幸福(幸せ)についての考え方やとらえ方はいろいろだとしても、幸福の最も基本となる条件は、まず人として生きる(生存する)ことができるということでなければなりません。それは幸福を追求する人々に共通することだと思います。

 人としてよく生きよう、よりよく生きたいというところから、多様な「福祉ニーズ」(要求)になるわけで、それに対応するのが福祉サービスであるということになると思います。

 福祉サービスも一般の市場原理に基づく競争により、サービスの質的向上や量的拡充が期待されているわけですが、よりよい福祉サービスの提供を目指して事業者が競い合うのは大変良いことだと思います。

 市場における需要と供給の関係でいえば、福祉ニーズは需要です。その需要に対応する具体的な行為(事業)が福祉サービスであり、福祉サービスの提供は、いわば需要に対する供給です。

 市場原理に基づけば、営利を目的とする事業者が、消費者のニーズをつかみ、それに応えることで利益を追求するわけですから、利益になるかならないかで、その事業(商売)をやるかやらないか、撤退するかは自由なはずです。福祉サービを提供する事業者もそれと全く同じでよいのでしょうか。

 福祉ニーズに対する福祉サービスの関係を、一般の市場における需要と供給の関係とまったく同じように考えてよいのかどうかとなると、それはやはりちがうように思います。そうしたことを考える根拠として重要なのが、日本国憲法と社会福祉法です。





福祉サービスを考える根拠

≪日本国憲法≫

(国民の基本的人権の永久不可侵性)
第11条
 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

(個人の尊重、幸福追求の権利)
第13条 
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由、及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(国民の生存権、国の保障義務)
第25条 
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。


≪社会福祉法≫ 最新改正:令和元年法律71

(目的)
第1条
 この法律は、社会福祉を目的とする事業の全分野における共通的基本事項を定め、社会福祉を目的とする他の法律と相まって、福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉(以下「地域福祉」という。)の推進を図るとともに、社会福祉事業の公明かつ適正な実施の確保及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達を図り、もって社会福祉の増進に資することを目的とする。

(定義)
第2条
 この法律において「社会福祉事業」とは、第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業をいう。
2 次に掲げる事業を第一種社会福祉事業とする。 ―以下省略―
3 次に掲げる事業を第二種社会福祉事業とする。 ―以下省略―
4 この法律における「社会福祉事業には、次に掲げる事業は、含まれないものとする。 ―以下省略―

(福祉サービスの基本理念)
第3条
 福祉サービスは、個人の尊厳を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない。

(福祉サービスの提供の原則)
第5条 
社会福祉を目的とする事業を経営する者は、その提供する多様な福祉サービスについて、利用者の意向を十分に尊重し、地域福祉の推進に係る取組を行う他の地域住民等と連携を図り、かつ、保健医療サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図るよう創意工夫を行いつつ、これを総合的に提供することができるようにその事業の実施に努めなければならない。

(福祉サービスの提供体制の確保等に関する国及び地方公共団体の責務)
第6条
 国及び地方公共団体は、社会福祉を目的とする事業を経営する者と協力して、社会福祉を目的とする事業の広範かつ計画的な実施が図られるよう、福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策、福祉サービスの適切な利用の推進に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、地域住民等が地域生活課題を把握し、支援関係機関との連携等によりその解決を図ることを促進する施策その他地域福祉の推進のために必要な各般の措置を講ずるよう努めなければならない。

(経営主体)
第60条
 社会福祉事業のうち、第一種社会福祉事業は、国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする。

(事業経営の準則)
第61条
 国、地方公共団体、社会福祉法人その他の社会福祉事業を経営する者は、次に掲げるところに従い、それぞれの責任を明確にしなければならない。
 国及び地方公共団体は、法律に基づくその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁し、又はこれらの者の財政的援助を求めないこと。
 国及び地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと。
 社会福祉事業を経営する者は、不当に国及び地方公共団体の財政的、管理的援助を仰がないこと。
 前項第一号の規定は、国又は地方公共団体が、その経営する社会福祉事業について、福祉サービスを必要とする者を施設に入所させることその他の措置を他の社会福祉事業を経営する者に委託することを妨げるものではない。



≪参考≫

厚生労働省 : 社会福祉事業と社会福祉法人制度
社会福祉事業と社会福祉を目的とする事業/第一種社会福祉事業と第二種社会福祉事業





◆ 高齢者・障害者・子、同じ施設に  朝日新聞2016(平成28)年7月16日
 全国一律で縦割りとなっている高齢者や障害者、子ども向けの福祉サービスを地域全体で一体に支える「地域共生社会」の実現を目指し、厚生労働省は15日に検討を始めた。住民やサービス利用者も参加して互いに助け合い、貧困対策なども含め地域事情に合わせて柔軟に支援する体制づくりが狙い。人材を確保できるかどうかがカギを握る。





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  「福祉」の意味


  社会福祉法人制度と障害者福祉の施策


 
 障害者福祉と社会福祉と社会保障





日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円 A5判316頁

第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保障
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課題

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ

障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し 
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権

第5章 展望所感
 
障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題
/障害者支援をめぐる問題









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