社会福祉法人を取り巻く現状と課題
作成 2014.1.12
更新 2014.6.6/2014.11.7/2015.9.4/2016.5.2/2017.9.29/2018.7.4/2019.8.30
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 日本の社会福祉制度の基盤が整うのは戦後です。それは戦後処理、復興を急がなければならないという事情を背景にしたもので、早急に社会福祉事業に関する基盤を整備するためには、国及び地方公共団体と民間とが一体となって取り組む必要がありました。そのために創設されたのが社会福祉法人制度であり、措置委託制度(措置制度)です。

 それは本来的には行政の責務としての福祉サービス事業を、行政の措置として社会福祉法人に委託し、委託を受けた社会福祉法人が福祉サービスを提供する仕組みです。この仕組みは戦後から約半世紀にわたって続いてきました。しかしそれが形骸化するとともに時代の変化に応じた見直しが求められるようになり、社会福祉基礎構造改革へと至るわけです。

 そして今、社会福祉法人以外の営利法人を含む多様な経営主体の福祉サービス事業への参入が促され、一般市場と同じような競争原理による福祉サービスの質的向上や量的拡充が期待されています。

 はたして日本の障害者福祉に関する事業が多様な福祉ニーズに対応し、充実したものになっていくのかどうかは、今後の動向を注視しなければなりません。



◇社会福祉基礎構造改革の目指す方向と現状
◇措置制度から契約制度への転換と社会福祉法人制度をめぐる問題
◇社会福祉法人の在り方等に関する検討会の報告書と社会保障審議会福祉部会の報告書

◆2016(平成28)年3月31日:改正社会福祉法が成立
◇社会福祉法人制度をめぐる問題をどのように受け止めるか
社会福祉法人制度改革の意義と課題を考えるポイント







◇社会福祉基礎構造改革の目指す方向と現状

 社会福祉基礎構造改革とは、今後増大・多様化するであろう国民の福祉需要に対応するための改革であり、戦後から続いてきた日本の社会福祉の共通基盤制度としての基本的枠組みを見直そうというものです。
 1997(平成9)年11月25日公表の「社会福祉の基礎構造改革について(主要な論点)」と、この論点を受ける形で1998(平成10)年6月17日公表の「社会福祉基礎構造改革(中間まとめ)」と、この中間まとめに対する意見等をとりまとめた1998(平成10)年12月8日公表の「社会福祉基礎構造改革を進めるに当たって(追加意見)」で、改革に向けた考え方が示されています。

 障害者福祉の分野における社会福祉基礎構造改革の具現化が、行政主導の 「措置」 による福祉サービス提供の仕組みから利用者本位の 「契約」 によるサービス提供の仕組みである支援費制度への転換です。

 ところが支援費制度への転換で、公的責務としての財源問題が明らかになりました。 そこで財源問題も含めて障害者の福祉の増進を図るとして新たな法律「障害者自立支援法」が施行されました。 支援費制度から障害者自立支援法による給付制度へと移行したわけですが、それがさらなる問題を噴出し、その問題を抱えたまま障害者自立支援法は障害者総合支援法という法律に改変されて現在に至っています。

 措置制度の転換から現在に至るまでの検証は、今後の福祉制度のあり方を考える上で、おろそかにしてはならない重要なことだと思います。
 なぜなら、「福祉」は国民にとって権利です。その権利に対する福祉行政は国家的責務です。その点を踏まえた社会福祉基礎構造改革であったはずだからです。

 「社会福祉基礎構造改革」を進めるに当たって(追加意見)」では、 いくつかの検討に当たっての留意事項を示すとともに、 関係審議会の意見を十分に聞きながら社会福祉事業法等の改正作業を進めるべきであるとし、この改革が公的責任の後退を招くのではないかとの懸念があることについては、「本改革は、国及び地方公共団体に社会福祉を増進する責務があることを当然の前提としつつ、 利用者の視点から福祉制度の再構築を行おうとするものである」としています。

 そして厚生省(現在の厚生労働省)に対し、 ①この改革の趣旨を関係者に十分周知しながら検討を進めること、②改革を進めるにあたっては、具体的な実施に当たる地方公共団体等の実施体制や財源確保に支障が生じないよう十分に配慮すること、の二点の留意事項も合わせて示しています。しかし現状は、改革の理念との間にギャップが生じています。


厚生省:社会福祉基礎構造改革について https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/h12-kyoku_2/engo/tp0119-1a.html

  ◇社会福祉の基礎構造改革について(主要な論点) 平成9年11月25日 https://www.mhlw.go.jp/www1/shingi/s1125-2.html 
 
  ◇中央社会福祉審議会 社会福祉基礎構造改革分科会:https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1006/h0617-1.html
    社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ) 平成10年6月17日


  ◇中央社会福祉審議会社会福祉基礎構造改革分科会: https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1012/h1208-1_16.html
    社会福祉基礎構造改革を進めるにあたって(追加意見) 平成10年12月8日





◇措置制度から契約制度への転換と社会福祉法人制度をめぐる問題

 社会福祉事業法(現在の社会福祉法)により、本来的には行政の責務として実施すべき福祉事業を、その公共性や継続性、安定性等の確保の点で特に重要な事業を第一種社会福祉事業とし、それ以外を第二種社会福祉事業と規定し、「第一種社会福祉事業は、国及び地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする。」と定めました。

 これにより行政措置として社会福祉法人に事業を委託し、その事業運営に必要な経費を公的資金から「措置費」として投入する仕組みが措置制度です。それは行政責任を果たすための確かな制度であり、措置制度そのものは福祉事業を推進する上で、戦後日本の当時の状況下においては最善の方策であったといってよいと思います。

 社会福祉法人制度は措置制度とともに存在してきたわけです。 したがって「措置」から「契約」への制度転換は、これからの社会福祉法人としての使命をいかに果たしていくかというとことにおいて、その影響は大きいわけです。

 社会福祉法人が行ってきた社会福祉事業は、 一般の市場にはなじまない要素を含んでいます。しかし市場性のない事業ではあっても、 人間らしい暮らしを維持するために人々が必要とし、求める福祉サービスをどのように確保するかということが重要です。

 改革が狙いとする行政主導による措置制度を改め、福祉サービスの質的向上や量的拡充を図るということについては、行政主導のどこが、なぜよくなかったかを検証することにより、行政主導であるからこそできること、あるいは行政主導でなければできないことを明確にし、むしろ措置制度の意義を再確認、再構築することであってもよかったはずです。

 現状は、 明確な福祉理念が確立されないままに、 福祉財源の確保の問題が措置制度の弊害という問題にすり替えられて混迷を深めたといってよいかもしれません。
 「措置」から「契約」への制度転換に伴い、以下のような社会福祉法人制度をめぐる問題が提起されています。

≪社会福祉法人をめぐる問題≫
①社会福祉法人などの福祉団体は補助金漬け、行政の下請け化し、独自の事業展開ができていない。
②制度にある福祉サービスを提供するだけでなく、 生活困窮者の支援なども含め、制度では対応できない地域社会の福祉課題に積極的に対応していくべきではないか。
③社会福祉法人に対する税制上の優遇措置や助成に対する「イコールフッテング(競争条件の同一化)」論。
④福祉ニーズの増大に対応できるように事業の担い手を増やすために、社会的企業が活躍しやすいように新たな法人格(=社会事業法人)を作ってはどうか。
⑤一法人一施設の小規模経営や同族的経営では、将来を展望できない。
⑥社会福祉法人経営において重要な理事会運営などの本部機能としての業務執行にかかわる点が、社会福祉法上の規定では不備であり、専任の職員配置等に無理がある。
⑦過度な内部留保を問題視する意見。
⑧社会福祉法人経営における本部機能としてのガバナンス及びコンプライアンスの問題との関連で次のようなことが求められている。
 非営利性 継続性 効率性 安定性 透明性 倫理性 先駆性 開拓性 組織性 主体性

≪問題の背景≫
①社会福祉に対するニーズの増大
②福祉サービス事業への多様な経営主体の参入促進
③NPO法人(特定非営利活動法人)の増加/2012(平成24)年現在のNPO法人の総数4万6327(内閣府)
④社会福祉法人数の増加/平成23年度現在の総数1万9246(厚生労働省)
⑤第三者評価制度や苦情解決制度などが導入され、質の高いサービスが求められるようになった。
⑥公益法人制度改革による新しい公益法人制度の施行や社会医療法人制度の創設
⑦官から民へということと公的責任論に関する問題
⑧福祉財源の確保に関する問題




◇社会福祉法人の在り方等に関する二つの報告書
「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」のまとめた報告書と社会保障審議会福祉部会の報告書


 平成26年7月4日、厚生労働省は、「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」のまとめた「報告書」を公表しました。
 社会福祉法人の在り方等に関する検討会は、社会福祉法人が福祉事業の重要な担い手として存在し続けるための改革案を検討するとして設けられたわけで、本報告書は、検討結果を踏まえ、社会福祉法人制度の改革に向けた方向性と論点を示しています。
 平成27年2月12日、社会保障審議会福祉部会は報告書「社会福祉法人制度について」を公表しました。本報告書は、社会福祉法人制度の見直し等について、制度的な対応が必要な事項を中心に取りまとめたものです。

厚生労働省:社会福祉法人の在り方等に関する検討会報告書 「社会福祉法人制度の在り方について」平成26年7月4日(PDF) 


 ≪参考≫厚生労働省:社会福祉事業と社会福祉法人制度について
  社会福祉事業と社会福祉を目的とする事業/第一種社会福祉事業と第二種社会福祉事業


厚生労働省 : 社会保障審議会福祉部会報告書 「社会福祉法人制度改革について」 平成27年2月12日(PDF)

 
◆社会福祉法等の一部を改正する法律案 平成27年4月3日提出
 法律案の概要(PDF)   
照会先:厚生労働省 社会・援護局福祉基盤課 内線:2896

◆社会福祉法改正案が参院で可決 15項目の付帯決議を掲載 2016(平成28)年3月28日 週刊福祉新聞
 
http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/12291
 福祉サービスの供給体制の整備と充実を図るため社会福祉士及び介護福祉士法と社会福祉施設職員等退職手当共済法の改正案とセットで提出された改正社会福祉法案が成立。
 介護福祉士の資格取得方法は、2022年度から養成施設卒業生に国家試験を課す。退職手当共済制度の障害者施設・事業への公費助成は経過措置を設けて廃止する。


◆2016(平成28)年3月31日:改正社会福祉法が成立。

  (施行期日は改正事項によって異なる)
※改正社会福祉法によって社会福祉法人に義務付けられた主なこと
 
①無料又は定額な料金による福祉サービス(地域公益活動)の提供が責務
 ②議決機関としての評議員会が必置
 ③一定規模以上の法人には会計監査人による監査を義務付け
 ④定款や役員報酬基準などを広く一般に公表
 ⑤法人の全財産から事業継続に必要な財産を控除して社会福祉充実残額(改革検討当初は、いわゆる内部留保とされた余裕財産のこと)を明確にし、残額のある法人は社会福祉充実計画を策定し所轄庁の承認を得なければならない。

 厚生労働省は、社会福祉法人制度改革に関連して、「地域公益活動の責務化は法人の本旨を明確化したもの」「充実残額の算出を容易にするソフトを開発して配布し、小規模法人を支援する」「充実残額を職員処遇改善に充てる場合は充実計画に位置付けることになる」「大規模法人の会計監査人費用は法人が負担する」などと説明。 (福祉新聞 http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/1229)



 改革はよいとしても、そもそも社会福祉法人制度とは何だったのかということと、福祉サービスの供給体制の整備と充実を図るため、という点においては、確かな見解に基づく改革といえるのかどうか、公的責務の在りようについてなどは矛盾や疑問を伴う改革といえる。
 例えば、厚生労働省は、平成26年5月29日に社会福祉法人は非営利の公益性の高い社会的責任の大きい法人であるということから、「社会福祉法人の認可についての」一部を改正している。これにより現在、社会福祉法人は経営に関する財務諸表等をホームページ等で公表することが義務付けられている。したがって一定規模以上の法人への会計監査人の導入については、一見筋が通っているようであるが、そのための手間や費用等のことを考えるとはなはだ不合理なことではないだろうか。
 社会福祉法人は公費を原資として事業を行っているわけであり、財務諸表等をホームページ等で公表することが義務付けられているわけであるから、これまでのように所轄庁による指導監査を効果的・効率的に強化する方向で考えるのが本来ではないだろうか。今後の動向を注視。

⇒ 福祉に関する動向



◆社会福祉法人をめぐる問題を考えるには、社会福祉法の規定に留意することが重要です。


社会福祉法の規定 (最新改正 令和元年)

(地域福祉の推進)
第4条 
地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者(以下「地域住民等」という。)は、相互に協力し、福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるように、地域福祉の推進に努めなければならない。
 地域住民等は、地域福祉の推進に当たっては、福祉サービスを必要とする地域住民及びその世帯が抱える福祉、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若しくは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう。)、保健医療、住まい、就労及び教育に関する課題、福祉サービスを必要とする地域住民の地域社会からの孤立その他の福祉サービスを必要とする地域住民が日常生活を営み、あらゆる分野の活動に参加する機会が確保される上での各般の課題(以下「地域生活課題」という。)を把握し、地域生活課題の解決に資する支援を行う関係機関(以下「支援関係機関」という。)との連携等によりその解決を図るよう特に留意するものとする。

(福祉サービスの提供の原則)
第5条 
社会福祉を目的とする事業を経営する者は、その提供する多様な福祉サービスについて、利用者の意向を十分に尊重し、地域福祉の推進に係る取組を行う他の地域住民等との連携を図り、かつ、保健医療サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図るよう創意工夫を行いつつ、これを総合的に提供することができるようにその事業の実施に努めなければならない。
(福祉サービスの提供体制の確保等に関する国及び地方公共団体の責務)
第6条 
国及び地方公共団体は、社会福祉を目的とする事業を経営する者と協力して、社会福祉を目的とする事業の広範かつ計画的な実施が図られるよう、福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策、福祉サービスの適切な利用の推進に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない。
 国及び地方公共団体は、地域住民等が地域生活課題を把握し、支援関係機関との連携等によりその解決を図ることを促進する施策その他地域福祉の推進のために必要な各般の措置を講ずるよう努めなければならない。
(定義)
第22条 
この法律において「社会福祉法人」とは、社会福祉事業を行うことを目的として、この法律に定めるところにより設立された法人をいう。
(名称)
第23条 
社会福祉法人以外の者は、その名称中に、「社会福祉法人」又はこれに紛らわしい文字を用いてはならない。
(経営の原則等)
第24条 
社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ適正に行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、その提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならない。
2 
社会福祉法人は、社会福祉事業及び第26第1項に規定する公益事業を行うに当たっては、日常生活又は社会生活上の支援を必要とする者に対して、無料又は低額な料金で、福祉サービスを積極的に提供するよう努めなければならない。
(要件)
第25条 
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うに必要な資産を備えなければならない。
(公益事業及び収益事業)
第26条  
社会福祉法人は、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益を目的とする事業(以下「公益事業」という。)又はその収益を社会福祉事業若しくは公益事業(第2条第4項第4号に掲げる事業その他の政令で定めるものに限る。~略~)の経営に充てることを目的とする事業(以下「収益事業」という。)を行うことができる。
 公益事業又は収益事業に関する会計は、それぞれ当該社会福祉事業に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならない。
(経営主体)
第60条 
社会福祉事業のうち、第一種社会福祉事業は、国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする。
(事業経営の準則)
第61条 
国、地方公共団体、社会福祉法人その他社会福祉事業を経営する者は、次に掲げるところに従い、それぞれの責任を明確にしなければならない。
 
一 国及び地方公共団体は、法律に基づくその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁し、又はこれらの者の財政的援助を求めないこと。
 二 国及び地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと。
 三 社会福祉事業を経営する者は、不当に国及び地方公共団体の財政的、管理的援助を仰がないこと。
2 
前項第1号の規定は、国又は地方公共団体が、その経営する社会福祉事業について、福祉サービスを必要とする者を施設に入所させることその他の措置を他の社会福祉事業を経営する者に委託することを妨げるものではない。




◇社会福祉法人制度をめぐる問題をどのように受け止めるか


 これまで社会福祉法人は、福祉サービスを提供する事業者として中心的な役割を果たしてきました。その役割の部分は大きく、今後も必要とされるものだと思います。そして今、福祉事業への多様な事業主体(経営主体)の参入促進が図られています。

 例えば、法人格を取得しやすいようにということから、NPO法(特定非営利活動促進法)が制定され、平成24年9月30日現在、全国で4万6千以上のNPO法人(特定非営利活動法人)が認証されており(内閣府)、地域福祉への貢献が期待されています。
 また公益法人制度改革により、法人設立の困難さを軽減して公益性の認定を明確化するという新しい公益法人制度が平成20年に施行されました。
 さらに福祉ニーズの増大に対応できるように福祉事業の担い手を増やすために社会的企業が活躍しやすいように新たな法人格(=社会事業法人)を作ってはどうかという趣旨の提言もあります。

 社会福祉法人がこれまで担ってきた役割は大きく、その役割部分は今後も必要であると考えます。しかし仮に、新たに社会事業法人なる法人が創設されるとしたら、それは社会的にはどのように位置づけられるのでしょうか。社会福祉事業についての責任の所在、あるいは日本の社会福祉の様相はどのようになっていくのでしょうか。
 福祉事業の担い手を増やすという発想が、単に制度を複雑化させ、公的責任を後退させるようなことになってはならないと思います。

 社会福祉法人の内部留保の問題や福祉事業についてのイコールフッテング論が浮上していますが、それは社会福祉法人が継続的かつ安定的に質のよい福祉事業を展開することにかかわる重要問題であるという認識に立って考えるべきものだと思います。

 なぜなら社会福祉法人の設立認可の条件には、社会福祉事業を行うに必要な資産を備えなければならない(社会福祉法第25条)と規定されています。そもそも社会福祉法人とは、見返りを求めることなく、資産をなげうって設立する事業組織であり、利益が出たらそれを配分する営利組織とは成り立ちがうからです。
 そして社会福祉法人の行う事業は非営利性と公共・公益性を踏まえた事業であるところに大きな特徴がありますが、それは採算が合わないからやらないとか事業から撤退するというような安易な考え方では成り立たないからです。

 しかもよりよい事業を推進するための人材を確保し、継続的かつ安定的な事業運営が求められています。その点は他の営利目的の事業組織による経営と全く同じというわけにはいきません。そこに本来的には公的責任において実施すべき事業であるところの意味があり、措置制度とはそのためのものだったはずです。

 地方分権化ということで、これまでの国レベルの権限や財源確保の問題が、地方自治体の問題へと移行することで、一般の市場原理にはなじみにくい社会福祉事業に対する地方自治体の取り組みには当然、格差が生じると予想されます。そうした格差是正にはやはり国家的指導力とその力量が問われることになると思います。文化国家であるならば、そうした認識を欠くようなことであってはならないと思います。

 社会福祉法人の行ってきた福祉事業は措置制度とともに存在してきたわけですが、「措置」から「契約」への制度の転換をどのように受け止め、使命としての福祉事業をどのように展開していくかは、社会福祉法人の重要課題です。

 しかしこの課題は、単に社会福祉法人だけが抱える課題ではありません。社会福祉の問題は社会保障の問題と切り離しては考えられません。換言すれば、国家的な使命、課題の中で社会福祉法人の立場ではどう考えるかということだと思います。

 社会福祉基礎構造改革の趣旨には、福祉サービスは弱者の保護を中心に出発したが、国民全体をその対象と考えなければならないとしています。国民全体を対象にするということは、当然そこにはこれまで通りの弱者の保護や支援も含まれていなければならないはずであり、社会的弱者の存在を忘れてはならないはずです。

 そもそも何ゆえの措置制度であったかということが重要な点ですが、社会福祉基礎構造改革はその点を十分に踏まえた改革だったのでしょうか。今後の動向を注視したいと思います。


◆ 2017(平成29)年4月1日 改正社会福祉法の施行
  改正社会福祉法の施行により社会福祉法人制度が大きく変わることになりました。


   厚生労働省:社会福祉法人制度改革について(PDF)






社会福祉法人制度改革の意義と課題を考えるポイント


①なぜ社会福祉法人制度が創設されたかという点が、今後の社会福祉法人の存続にかかわる問題を考える上で重要だと思います。
 
社会福祉法人の事業経営は、社会福祉法人制度の創設以来、措置委託制度(措置制度)とともにあったわけですが、それはなぜかというところに重要な意味がある。
②社会福祉法人が担ってきた事業内容の特徴を一般的な営利事業との比較においてどのように理解するかという点が重要だと思います。
 
社会福祉法人がこれまで担ってきた事業とはどのようなことか、何のために、なぜ行ってきたのかという点が重要。
③社会福祉法人を取り巻く状況はなぜ、どのように変化してきたか、を考えることが重要だと思います。
 
終戦当時の状況から現在に至るまでの社会的変化についての理解が、社会福祉法人を取り巻く現在の諸問題を考える上できわめて重要であり、そのためには社会福祉基礎構改革の考え方を検証することが重要。
④社会福祉法人の事業経営をめぐってどのようなことが、なぜ問題視されたのか、を考えることが重要だと思います。
⑤社会福祉事業とは何か、を改めて考えてみることだと思います。



※社会福祉法人の数は2万872法人(厚生労働省「2018年度福祉行政報告例」)
 
2020(令和2)年1月30日、厚生労働省は「2018年度福祉行政報告例」の結果を公表。
 社会福祉法人の数は2万872法人で、そのうち施設経営法人が1万8417法人と全体の88%を占めた。施設の種類では、老人ホーム数(有料老人ホームを除く)が1万3282施設。



◆改正社会福祉法が成立 (令和3年4月施行)
 地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案(令和2年3月6日提出)
厚生労働省:法律の概要
<改正の趣旨>

 地域共生社会の実現を図るため、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な福祉サービス提供体制を整備する観点 から、市町村の包括的な支援体制の構築の支援、地域の特性に応じた認知症施策や介護サービス提供体制の整備等の推進、医療・介護の データ基盤の整備の推進、介護人材確保及び業務効率化の取組の強化、社会福祉連携推進法人制度の創設等の所要の措置を講ずる。
 ※地域共生社会:子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる社会(ニッポン一億総活躍プラン:平成28年6月2日閣議決定)







 社会福祉法人の社会貢献について

 特定非営利活動促進法とNPO法人

 社会福祉法人の存在意義とその在り方を考える-朝日新聞の社会福祉法人についての特集記事-

 障害者福祉に関する動向










日本の障害児(者)の教育と福祉 (田研出版 2012年3月発行)

A5判250頁 2750円







日本の教育制度と障害児(者)の福祉
日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円 A5判 316頁

第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保障
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ
障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権
第5章 展望所感
 障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題
/障害者支援をめぐる問題











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