社会福祉法人の社会貢献について

 
 
2014.4.12/更新 2014.7.20/2020.3.30/2021.2.6/2023.12.22 




 社会福祉法人の行う事業は社会福祉法に則ったものです。

 社会福祉法ではその事業内容を第一種社会福祉事業と第二種社会福祉事業に分けて規定しています。

 第一種社会福祉事業については、利用者の生活の大部分に影響が及ぶため人権擁護や生活の保護という点できわめて重要な事業であり、国及び地方公共団体と社会福祉法人が経営することを原則としています。

 第二種社会福祉事業については、利用者への影響が比較的小さいということから、公的規制も第一種社会福祉事業ほど厳しくはなく、経営主体の制限もなく、届け出をすることにより事業経営への参入が可能です。

 いずれにしても社会福祉法人の行う事業は社会福祉法に則ったものであり、社会に貢献するものであるはずです。





社会福祉法人に対する 「社会貢献」の義務化とは

社会貢献とは何か

文化国家と社会福祉と社会保障







社会福祉法人に対する 「社会貢献」の義務化とは

 社会福祉法人に社会貢献を義務付けるということが議論されているようです。しかしもともと社会福祉法人の行う事業は社会福祉法に則った社会に貢献する事業であるはずです。それを前提に認可を受けて事業を行ってきているわけで、それをなぜ社会貢献を義務付けるなどというのでしょうか。

 その背景には、福祉事業への多様な経営主体の参入促進を図るねらいと国家的な財政問題があるようです。補助金や税制面の優遇措置を受けている社会福祉法人と一般企業のイコールフッテング(競争条件の同一化)論や社会福祉法人の内部留保を問題視するのもそれと関連していると思います。

 社会福祉法人に社会貢献を義務付けるなどという言い方は、社会福祉と社会保障についての不明確な考え方が、国家的な財政基盤整備の問題と錯綜して出てきたのだと思います。端的にいえば、それは国家的責務であるはずの事業責任を社会福祉法人に転嫁しようとする言い方のように思います。





  2014(平成26)年3月31日発行の週刊・福祉新聞に次のような記事が載っていました。
 厚生労働省は25日(平成26年3月25日)、社会福祉法人に対して社会貢献を義務付ける考えを政府の規制改革会議(議長=岡素之・住友商事相談役)で表明した。関係法の改正に臨む方針。 同会議の委員の間では、優遇税制に見合う貢献をしない法人にはペナルティーを科するよう求める声が強まっている。同日、介護・保育における社会福祉法人と営利企業のイコールフッテング(競争条件の同一化)をテーマとして公開討論が開かれ、厚労省は、文書で回答した。どの程度の額を社会貢献に充てるか、社会貢献をしない法人にどう対応するかなどは今後検討する。

注) 「規制改革推進会議」について  内閣府: https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/

 「規制改革推進会議」は、内閣府設置法第37条第2項に基づき設置された審議会です。内閣総理大臣の諮問を受け、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制改革を進めるための調査審議を行い、内閣総理大臣へ意見を述べること等を主要な任務として、平成25年1月23日に設置されました。






介護・保育における社会福祉法人と営利企業のイコールフッテング(競争条件の同一化)をテーマとして
公開討論で表明した厚生労働省の考え方の文書  


(資料1-5) https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/discussion/140325/gidai1/gidai1-5.pdf

(資料1-5)


社会福祉法人のガバナンスと社会貢献活動の義務化に対する考え方

  平成26年3月25日
厚 生 労 働 省

(1) 事業者のガバナンス
 ①社会福祉法人の経営の透明性向上
  財務諸表・補助金等の情報開示、調達の公平性、第三者評価・外部監査の受審、内部留保の明確化
(考え方)
1 社会福祉法人の財務諸表については、規制改革会議や厚生労働省に設置した 「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」 (以下 「検討会」 という。)等での議論を踏まえ、平成25年度以降の財務諸表について、全ての社会福祉法人に対し、インターネット上での公表を義務化することを決定したところである。
2 補助金、関連当事者との取引、内部留保等についても明確になるよう、財務諸表の公表に当たっての標準的な様式を策定し、現在、パブリックコメントを行っているところであり、法人経営の透明性の向上に努めてまいりたい。
3 また、第三者評価については、「規制改革実施計画」を踏まえ、評価者及び評価機関の質の向上を図るための方策について、必要な見直しを検討している。
4 外部監査については、現在、通知において、一定規模以上の法人は特に積極的な外部監査の活用を求めているところであるが、検討会等での議論を踏まえつつ、義務化などを含めた適正な会計処理を行うための方策について、検討することとしている。
 ② その他
  従業員の待遇改善等
(考え方)
1 高齢化の進展に伴う介護のニーズに対応していく上で、介護職員の待遇を改善することで介護人材を確保していくことは、重要な課題と考えている。
2 このため、
 ・福祉人材センターやハローワークによるきめ細かいマッチングの強化、介護のイメージアップ等による若年層へのアピールなどの「参入促進」
 ・キャリアパスの確立や事業主のキャリアアップ支援による「資質の向上」
 ・介護職員の処遇改善や労働条件などの「環境改善」等を一体的に行っていくことが重要と考えており、必要な施策を講じてきたところである。
3 特に、介護職員の処遇改善については、
 ・介護従事者の処遇改善に重点をおいた平成21 年度介護報酬改定
 ・平成21 年10 月からの介護職員処遇改善交付金の実施
 ・時限措置の処遇改善交付金から、安定的な効果を継続させるための介護職員処遇改善加算を新設した平成24 年度介護報酬改定といった施策を講じてきた。
4 今後とも、介護は「価値ある仕事」であるという意識を国民の間に醸成しつつ、社会保障・税一体改革で必要な財源を確保し、事業主や自治体と十分に連携しながら、施策を総動員して介護人材の確保に取り組んでまいりたい。

(2)社会福祉法人に対する社会貢献活動の義務化
① 社会貢献活動の定義
  具体的な活動事例(社会福祉事業や公益事業等との違い)
② 義務化の是非
  実施規模(収益の一定割合)、実施しない場合の対応
(考え方)
1 御指摘の「社会貢献活動」については、
 ・介護保険、障害福祉サービス等における低所得者の利用者負担減免
 ・地域の単身高齢者等を対象とした見守り・配食サービス等の実施
 ・地域の単身高齢者等を対象とした各種相談事業の実施
 ・災害時における各種支援活動の実施
 ・生活困難者に準ずる者に対する資金の給付・貸付
 ・貧困・生活困窮者等を対象とした住宅の斡旋、食事提供等の生活支援の実施
 ・他法人との連携による人材育成事業
など、さまざまな取組があると考えている。
2 社会福祉法人は、公益性を有する社会福祉事業を主たる事業とする非営利法人として、低所得者や生活困窮者の対応など、地域の福祉ニーズに対応することが求められており、厚生労働省としては、社会福祉法人がこの役割をより積極的かつ主体的に果たしていけるよう、地域に不足しているサービス、低所得者や重度介護者への重点的な対応、地域福祉への貢献等を義務付けるなど、必要な制度見直しが必要と考えている。
3 御指摘の「実施規模」や「実施しない場合の対応」については、規制改革会議での議論を踏まえながら、社会福祉法人の地域に対する活動が国民に分かりやすい方法を工夫するなど、今後、実態を踏まえつつ、厚生労働省において検討してまいりたい。





社会貢献とは何か


 社会福祉法人の行っている社会福祉を目的とする事業は、社会貢献には値しないのでしょうか。
 社会貢献とは何か、何をもって社会貢献というのでしょうか。厚生労働省の考え方を参考に、社会貢献とは何かを考えてみたいと思います。



厚生労働省が表明した「社会貢献活動」についての考え方  


 ・介護保険、障害福祉サービス等における低所得者の利用者負担減免
 ・地域の単身高齢者等を対象とした見守り・配食サービス等の実施
 ・地域の単身高齢者等を対象とした各種相談事業の実施
 ・災害時における各種支援活動の実施
 ・生活困難者に準ずる者に対する資金の給付・貸付
 ・貧困・生活困窮者等を対象とした住宅の斡旋、食事提供等の生活支援の実施
 ・他法人との連携による人材育成事業
 など、さまざまな取組があると考えている。



 社会福祉法では、社会福祉事業を第一種社会福祉事業と第二種社会福祉事業に分けて定義しています。そして社会福祉を目的とする事業を行う者について次のように規定しています。

社会福祉法 (最新改正 令和元年)

 (福祉サービス提供の原則)
第5条
 社会福祉を目的とする事業を経営する者は、その提供する多様な福祉サービスについて、利用者の意向を十分に尊重し、地域福祉の推進に係る取組を行う他の地域住民等との連携を図り、かつ、保健医療サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図るよう創意工夫を行いつつ、これを総合的に提供することができるようにその事業の実施に努めなければならない。

(福祉サービスの提供体制の確保等に関する国及び地方公共団体の責務)
第6条 国及び地方公共団体は、社会福祉を目的とする事業を経営する者と協力して、社会福祉を目的とする事業の広範かつ計画的な実施が図られるよう、福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策、福祉サービスの適切な利用の推進に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない。
 国及び地方公共団体は、地域住民等が地域生活課題を把握し、支援関係機関との連携等によりその解決を図ることを促進する施策その他地域福祉の推進のために必要な各般の措置を講ずるよう努めなければならない。

(経営主体)
第60条 社会福祉事業のうち、第一種社会福祉事業は、国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする。

(事業経営の準則)
第61条 国、地方公共団体、社会福祉法人その他社会福祉事業を経営する者は、次に掲げるところに従い、それぞれの責任を明確にしなければならない。
 一 国及び地方公共団体は、法律に基づくその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁し、又はこれらの者の財政的援助を求めないこと。
 二 国及び地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと。
 三 社会福祉事業を経営する者は、不当に国及び地方公共団体の財政的、管理的援助を仰がないこと。
2 前項第一号の規定は、国又は地方公共団体が、その経営する社会福祉事業について、福祉サービスを必要とする者を施設に入所させることその他の措置を他の社会福祉事業を経営する者に委託することを妨げるものではない。

≪参考≫ 厚生労働省 : 社会福祉事業と社会福祉法人制度
社会福祉事業と社会福祉を目的とする事業/第一種社会福祉事業と第二種社会福祉事業





文化国家と社会福祉と社会保障

 社会福祉と社会保障に関する明確な考えや施策の確立は文化国家であるための必須の条件だと思います。

 文化国家は豊かでなければなりません。しかしそれは必ずしも物質的にあるいは経済的に恵まれていればよいということではないはずです。考え方が支離滅裂でいつまでも経済成長とか成長戦略などという言葉が飛び交い、社会福祉と社会保障についての明確な考えもないままに、「中負担・中福祉」などという政策がまかり通るようでは、真に豊かな福祉国家の実現はできないと思いますし、本物の文化国家とはいえないと思います。

 要するに、社会福祉に関する問題と社会保障に関する問題は切り離せない国家社会の在りようにかかわる重大な問題であるという認識がしっかりとないようでは文化国家にはなれないと思います。

 社会福祉法に基づく社会福祉法人の制度は、戦後日本の社会福祉事業を推進する上で、国家的責務と民間との協同を意図した優れたものと考えます。
 社会福祉の一翼を担っていると自負しつつ事業を行っている社会福祉法人に対して社会貢献を義務付けて、貢献しない法人にはペナルティーを科すなどと言うのはなんとも腑に落ちないことであり、戸惑う社会福祉法人は多いと思います。

 福祉事業を営む現場では、めまぐるしいほどの法制度の改変があり、その都度それなりの理念は掲げられてはいますが、ただ単に煩雑になっただけのような現状があり、いかにももっともらしく矛盾するような不可解な論理がまかり通っているようにも思います。







 社会福祉法人制度と障害者福祉の施策

 社会福祉法人の存在意義とその在り方を考える-朝日新聞の社会福祉法人についての特集記事-

 障害者福祉と社会福祉と社会保障

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日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
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第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保障
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ
障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権
第5章 展望所感
 障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題
/障害者支援をめぐる問題




















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