社会福祉法人の
存在意義と在り方を考える

作成 2014.9



更新 2015.2.28/2015.11.24/2017.6.22/2018.1.10/2020.3.30/2020.8.22




 社会福祉法人は現在、約2万法人あり、社会福祉事業を担う法人として社会福祉法により位置づけられており、特別養護老人ホームや障害者支援施設、保育園など約16万カ所の福祉施設の半数近くを運営している。
 
 社会福祉法人の行う事業の特徴は、公共・公益性の高い非営利性にあり、営利を目的としない点にある。その代りに補助金や非課税などの優遇を受けて事業を行っているとして、朝日新聞は、かなりの紙面を割いて社会福祉法人についての特集記事を連載した。

  しかし新聞報道の意義を考えたとき、その取り上げ方が重要となります。朝日新聞が取り上げたようなことが、社会福祉法人のすべてを物語るものではありません。その点で、社会福祉法人がいかにも問題のある法人であるかのように強調するだけの内容のまま、いつのまにか終わってしまったような、……たぶん終わったのだと思います。中途半端のようで残念です。

 社会福祉事業の重要な担い手である社会福祉法人については、もっと広く一般の人々に知ってもらう必要があるわけです。したがって社会福祉法人についての問題提起として、今後の社会福祉法人の存在意義にかかわることとして、関係者は真摯に受け止めて考えるべきものとして、また広く一般の人々に社会福祉法人について関心をもってもらう上で、注目に値するものと思ったのですが、期待はずれでした。

 社会福祉法人が存在する意義を考えたとき、それは文化国家としての日本が、「社会福祉をどう考えるか」「社会保障をどう考えるか」など、いま改めて考えなければならない重要課題ともリンクするはずであり、そうした視点が弱かったように思います。

注)厚生労働省の公表では、2018年度時点で社会福祉法人数は2万872法人で、そのうち施設経営法人が1万8417法人と全体の88%を占め、そのうちの1万3282施設は老人ホーム(有料老人ホームは除く)。






―朝日新聞の社会福祉法人についての特集記事から―

 
 <記事の見出しと掲載日>

社福権利 飛び交う金 社会福祉法人売買が横行 2014.5.19 

・園長の座購入「息子継げる」 行政が支援 収入安定 一部で税金を食い物 理事長ポスト数億円
ワンマン理事長〝暴走〟 2014.5.26 

・報酬8倍に 親族から備品購入 社福法人の私物化 理事の半数身内で固める 働きにくいチェック
社福、親族企業に利益  社福の公私混同 横行 2014.6.2 

・一部で入札せず取引 行政、監視不十分 身内企業から「月給220万円」 架空取引で代金1150万円 書類を信頼■検査、事前予告
選挙買収 理事長が暗躍 2014.6.16  

・事業拡大狙い現金ばらまく 社福と地方政治 競争なしで特養建設
票とカネ 支える福祉 2014.6.23  
・歴代議長 鳥取に「王国」築く 行政との二人三脚背景に  身内企業の不振 介護報酬で穴埋め 15億円を流用
社会福祉法人のこれから 今後の道筋 識者に聞く 2014.6.30  

・「もうけ」が目的ではだめ 質や料金比較のしくみを 地域貢献の実績公表せよ
認可保育園 社福が独占 2014.8.3  
・競争恐れ 増設ブレーキ 市OBを受け入れ 企業参入 親不安も
福祉の権限 大きい首長 2014.8.4  

・「政治判断」審査決定覆す 特養の社福認可  妻が理事長 第三者委が選考  請負い 規制する自治体も
酷使される保育士 保育園の現実 反響編 2014.8.25  

・社福でも足りぬ人手 行事に忙殺 優しくできぬ  年収300万円 待遇改善拒む企業 園児増えても
理事長候補 市が提示 2014.9.8  
・「意向を反映」市長ら選考 自治体の社福関与 明確なルールなし 「過大に補助金」返還求める 「市の指示通り」
社福法人に天下り239人 昨年度都道府県・指定都市幹部ら (1面)  2014.9.15 
人・カネ 行政頼り (4面)  2014.9.15  

・名古屋市 教員OB厚遇 江東区 財源9割依存 社協の課題 「民間」なのか
・高島・小浜市 天下りゼロ、独自財源で「住民目線」 交流や祭りも
薄給耐えられない 職員「昇給はほとんどなかった」 介護現場の待遇 2014.10.13  
・元理事長は高額 月給は看護師32万・栄養士23万…介護21万円  社福の収支巡り議論


<連載記事に関連して>

◆ 社福のためすぎた内部留保
 地域活動で還元 義務化 厚労省方針  2014(平成26).10.21朝日新聞
 
 介護施設や保育所などを運営する社会福祉法人(社福)が収益を巨額の「内部留保」としてため込んでいると批判が出ている問題で、厚生労働省は、必要分を除く財産をすべて地域の公益活動や職員の待遇改善などに使うよう義務づける方針を決めた。来年の通常国会で法改正し、2016年度からの実施を目指す。 

◆ 2015年4月17日 朝日新聞  

 2014年5月26日付の朝日新聞朝刊に掲載の連載「報われぬ国」の記事で名誉を傷つけられたとして、川崎市の社会福祉法人「ひまわりの会」と理事長が、朝日新聞社に損害賠償と謝罪広告の掲載を求めていた訴訟で、4月16日東京地裁で朝日新聞社が見出しと記事に誤解を与える表現があったことを認め、訂正・おわび記事を載せることなどで合意。和解した。


◆ 2015年11月16日 朝日新聞  
社福のカネ 遅れる法整備  「あそか会」元役員の親族企業に8億円 

 介護施設や病院などを運営する東京都の社会福祉法人(社福)「あそか会」で、法人元役員の親族が経営するファミリー企業に約8億円の資金が流れるなど、不適切な会計処理の実態が第三者委員会の調査で分かった。非営利が前提の社福を「私物化」する事例は相次ぐが、社福の運営を透明化する法整備はたなざらしになっている。
第三者委が調査報告書 あそか会は、東京都江東区で病院や特別養護老人ホームなどを運営している。社福の収入の多くは、税金や保険料、利用者負担を原資とする介護報酬や診療報酬など公的なお金だ。
 その特養が、あそか会元常務理事(昨年5月末に退任)のファミリー企業と建物管理で独占的な契約を結んでいたことが昨年6月、朝日新聞の報道で明らかになった。関係者によると、元常務理事はあそか会の経営を立て直し、事務局長として約30年にわたり運営を取り仕切ってきたという。
透明化法案、継続審議に 社福をめぐる不透明なお金の流れが問題化したケースはほかにもある。社福の「私物化」が相次ぐ背景には、高齢化で社福は確実な収入が見込める半面、会計監査が義務化されていないなど、社福の運営に対する国や自治体の監視体制が甘いことがある。
 政府は、企業の利益率にあたる社福の「収支差」が民間企業に比べて過大だとして、今年度の介護報酬(介護サービスの公定価格)を9年ぶりにマイナス改定とした。
 また、運営の透明性を高めるため、政府は、社会福祉法改正案を今年の通常国会に提出した。役員報酬の基準を設けるように義務づけたり、一定規模以上の法人に会計監査を義務化したり、理事らに特別背任罪や贈収賄罪の適用を可能にしたりするものだ。
 しかし、安保関連の審議で与野党の対立が激化した影響もあり、法案は継続審議になった。政府・与党は今秋の臨時国会の開会自体を見送るため、社福の運営を透明化する法案の成立は来年以降にずれ込む。






社会福祉法人制度の在り方等に関する検討会/社会保障審議会福祉部会
の報告書が提示されました
《二つの報告書が示す論点も踏まえ、社会福祉法人の存在意義とその在り方について考えてみたいと思います》


 厚生労働省:社会福祉法人の在り方等に関する検討会報告書
    「社会福祉法人制度の在り方について」 平成26年7月4日 (PDF)
 
 平成26年7月4日、厚生労働省は、「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」のまとめた「報告書」を公表しました。
 「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」は、社会福祉法人が福祉事業の重要な担い手として存在し続けるための改革案を検討するとして設けられたわけで、この検討会による報告書は、社会福祉法人制度の改革に向けた方向性と論点を示しています。

 厚生労働省 : 社会保障審議会福祉部会報告書
   「社会福祉法人制度改革について」 平成27年2月12日 (PDF)


◆社会福祉法等の一部を改正する法律案 平成27年4月3日提出 法の概要(PDF)  
 本報告書は、社会福祉法人の今日的な意義は、社会福祉事業に係る福祉サービスの供給確保の中心的な役割を果たすとともに、他の事業主体では対応できない様々な福祉ニーズを充足することにより、地域社会に貢献していくことにある。こうした役割を果たしていくために社会福祉法人はこれまで以上に公益性の高い事業運営が求められているのであり、法人の在り方そのものを見直す必要がある。としています。






《社会福祉法人制度をめぐる問題を考えるポイント》


①なぜ社会福祉法人制度が創設されたかという点が、今後の社会福祉法人の存続にかかわる問題を考える上で重要だと思います。
②社会福祉法人が担ってきた事業内容の特徴を一般的な営利事業との比較においてどのように理解するかという点が重要だと思います。
③社会福祉法人を取り巻く状況はなぜ、どのように変化してきたか、を考えることが重要だと思います。
④社会福祉法人の事業経営をめぐってどのようなことが、なぜ問題視されたか、を考えることが重要だと思います。
⑤社会福祉事業とは何か、を改めて考えてみることだと思います。


《社会福祉法人制度創設の経緯》
 どのようなことから社会福祉法人は創設されたのでしょうか、また社会福祉法人の事業経営は、その創設以来、措置委託制度(措置制度)とともにあったわけです。それはなぜか、というところに大切な意味があると思います。

《社会福祉法人の行う事業とは》
 社会福祉法人がこれまで担ってきた事業とはどのようなことか、何のために、なぜ行ってきたのかという点が大切です。
 ≪参考≫ 厚生労働省:社会福祉事業と社会福祉法人制度について
  社会福祉事業と社会福祉を目的とする事業/第一種社会福祉事業と第二種社会福祉事業


《社会福祉法人制度と社会福祉基礎構造改革について》
 日本の社会福祉制度の基盤が整うのは戦後になってからです。終戦当時の状況から現在に至るまでの社会的変化についての理解が、社会福祉法人を取り巻く現在の諸問題を考える上できわめて重要であり、そのためには社会福祉基礎構造改革の考え方を検証することが重要だと思います。


厚生省:社会福祉基礎構造改革について https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/h12-kyoku_2/engo/tp0119-1a.html

  ◇社会福祉事業法等改正法案大綱骨子:http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1104/h0415-2_16.htm
  ◇中央社会福祉審議会 社会福祉基礎構造改革分科会:http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1006/h0617-1.html
    社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ) 平成10年6月17日

  ◇中央社会福祉審議会 社会福祉基礎構造改革分科会:http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1012/h1208-1_16.html
    社会福祉基礎構造改革を進めるにあたって(追加意見) 平成10年12月8日



《社会福祉法人制度見直しにおける論点と課題について》
 社会福祉法人制度改革案の主旨は理解できるとしても、 論点の経営組織のガバナンスの強化ということでの評議員会の必置に関する評議員の選任要件などは、現状においては無理があるように思います。
 また一定規模以上の法人への会計監査人の導入については、一見筋が通っているようですが、そのための費用等のことなどを考えると不合理に思います。社会福祉法人は公費を原資として事業を行っているわけですから、これまでの所轄庁による指導監査を効果的・効率的に強化する方向で考えるべきではないかと思います。
 さらに地域における公益的取り組みを責務として課すという、 いわゆる社会貢献の義務化というのは、 そもそも何ゆえの社会福祉法人制度だったのか、福祉サービスとは何か、の原点をないがしろにした考え方ではないでしょうか。
 
 社会福祉法人も社会福祉事業も、「社会福祉法」の規定に基づくものですが、社会福祉法人制度を見直すとすれば、その前提として、おろそかにしてはならない最も基本的で重要な問題は、社会福祉事業とは何かということを、いま改めて考えてみることだと思います。

 「福祉サービス」ということばが普通に使われるようになった今日、「福祉」とは何か、「社会福祉」と「社会保障」の関係性についての考え方が基本的なこととして大切であり、文化国家としての明確な理念の確立が課題だと思います。








 「福祉」の意味

 障害者福祉と社会福祉と社会保障


 社会福祉法人制度と障害者福祉の施策








日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円 A5判 316頁


第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保障
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ
障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権
第5章 展望所感
 障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題
/障害者支援をめぐる問題







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