《障害者権利条約とは》
障害者の権利に関する条約と
「合理的配慮」について



作成 2010.4.10
更新 2014.2.14/2016.8.20/2017.4.1/2018.9.28/2019.2.11/2020.3.30
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 2006(平成18)年12月13日、国連本会議において「障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)」が採択されました。

 障害者権利条約が採択された背景には、世界的な人権意識の高まりとともに障害者自身や障害者関係団体等の活動が活発化したことと、「国際障害者年(1981)」に続く「障害者に関する世界行動計画」、「国連・障害者の十年(1983~1992)」を契機とする国際的な潮流と、国連で1971年に採択された「知的障害者の権利宣言」、1975年に採択された「障害者の権利宣言」には法的な効力がなく、障害者に対する人権侵害が跡を絶たないことなどがあるようです。


 日本もこの条約に、2007(平成19)年に外務大臣が署名し、2013(平成25)年12月に同条約の批准が正式に国会で承認され、批准書を国連に寄託し、障害者権利条約の締約国となり、2014(平成26)年2月に同条約の効力が生じています。
 障害者権利条約は、締約国に対して、障害者差別をなくすことと、そのために必要な「合理的配慮」の提供ということを求めています。

 障害者権利条約の第1条に定めるその目的と障害についての考え方及び、第2条に定める同条約にある用語の「障害に基づく差別」、「合理的配慮」の定義について考えてみることが、「共生社会」を築くということにおいては重要だと思います。



「障害者の権利に関する条約」について
《障害者権利条約のポイントと日本国憲法》
《障害者権利条約の批准と国内法の整備》

《条約の成立から締結までの日本の取り組み》
障害者権利条約の目的と「障害」についての考え方
障害者権利条約でいう「合理的配慮」とは
国際生活機能分類(ICF)と「合理的配慮」
合理的配慮に関する課題







「障害者の権利に関する条約」について外務省 平成26年1月20日

1 平成18年12月13日に国連総会で採択。平成20年5月3日に発効。
2 締約国は140か国及び欧州連合(1月20日時点)。
3 我が国は、昨年12月4日に締結のための国会承認を得た。
 本条約が我が国について効力を生ずるのは、本条約の規定に従い平成26年1月20日の批准書の寄託から30日目の日の平成26年2月19日となる。

外務省:障害者の権利に関する条約
内閣府:障害者権利条約締結に至る経緯について


《障害者権利条約のポイントと日本国憲法》

 障害者権利条約の主旨として次のようなことが重要です。
①「合理的配慮」により、障害者に実質的な平等を保障する。
②意図的な区別や排除、制限だけでなく、意図的でない場合でも結果的に不平等になることは差別である。
③障害(者)を特定せずに、障害者の社会参加ということについては社会環境との関係で考える広い考え方が大切である。
④障害のない人と同じように建物や交通機関の利用、道路の使用が可能かどうか、情報やコミュニケーションサービスを得ることができるかどうかという「アクセシビリティ accssibility」を重視する。

 国連における公用語は、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、中国語、アラビア語の6言語で、条約は日本政府によって翻訳されています。条約は、国家間の取り決めであり、国際法です。日本もこの条約に2007(平成19)年9月に外務大臣が署名し、批准に向けて国内法令の整備を進めてきましたが、2013(平成25)年12月4日、批准が国会で正式に承認されました。

 条約に署名するということは、条約に賛同し、批准の意思があることを表明する行為です。憲法は条約に優先しますが、条約の批准は国として条約に拘束されることへの正式な同意(国会の承認が必要)です。
 したがって、条約の批准には国内法との整合性を図る必要があるわけです。障害者基本法の改正、障害者総合支援法の施行、障害者虐待防止法の施行、障害者差別解消法の施行、などは障害者権利条約との整合性を図るためでもあったわけです。このことについては、日本国憲法の第98条が関係します。

 つまり障害者権利条約の条文及び規定に国内の法制度が抵触するとされる場合は、速やかに見直しをする必要があり、明確に抵触していない場合であっても条約の趣旨に沿った法制度の整備をしていく必要があるわけです。
 今後、障害者権利条約が日本の教育や福祉、あるいは労働や雇用などに実質的かつ具体的にどのように関係してくるのかその動向を注視していくことが大切です。

〔憲法の最高法規性、条約及び国際法規の遵守〕
第98条 
この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
② 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。


《障害者権利条約の批准と国内法の整備》

  障害者基本法の改正:内閣府

  障害者総合支援法の施行:厚生労働省

  障害者虐待防止法の施行:厚生労働省


  障害者差別解消法の成立:内閣府




《障害者権利条約の成立から締結までの日本の取り組み》


 2006年12月 国連総会で条約が採択される
 2007年 9月 日本が条約に署名     
 2008年 5月 障害者権利条約の発効   

条約締結に先立ち、障害当事者の意見も踏まえつつ、国内法令の整備を推進

2011年 8月 障害者基本法の成立   
  2012年 6月 障害者総合支援法の成立   
  2013年 6月 障害者差別解消法の成立   
           障害者雇用促進法の改正   

 2013年11月の衆議院本会議、12月の参議員本会議にて、全会一致で締結承認


2014年 1月に条約を批准、2月に我が国について効力を生ずる



 内閣府:共生社会政策
 国民一人一人が豊かな人間性を育み生きる力を身に付けていくとともに、国民皆で子供や若者を育成・支援し、年齢や障害の有無等にかかわりなく安全に安心して暮らせる「共生社会」を実現することが必要です。
 このため、内閣府政策統括官(共生社会政策担当)においては、社会や国民生活に関わる様々な課題について、目指すべきビジョン、目標、施策の方向性を、政府の基本方針(大綱や計画など)として定め、これを政府一体の取組として強力に推進しています。







障害者権利条約の目的と「障害」についての考え方

 障害者権利条約の「障害」についての考え方の重要な点は、端的にいえば、「障害」とは、単に個人的な心身の機能や能力の欠損または不全の問題ではなく、様々な障壁となる社会的生活環境条件との相互作用により生ずるものとして捉えるという点にあります。
 この考え方は、WHO (世界保健機関)が2001年に公表した「国際生活機能分類ICF)」の考え方に基づくものといえます。

 障害者権利条約は第1条で、その目的とともに障害についての考え方を示しています。

第1条 目的 
 
この条約は、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。
 障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含む。





障害者権利条約でいう「合理的配慮」とは
 
 障害者権利条約は第2条で、「障害に基づく差別」ということと、差別をなくすために必要な「合理的配慮」ということについて次のように定義しています。

第2条 定義 (抜粋)
 「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。
 「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。




国際生活機能分類(ICF)と「合理的配慮」


 「障害」といえば、これまでは個人の身体的・精神的な欠陥だとする生物学的な不全や欠損という医学レベルの問題として捉えられてきました。それは専門的な治療の対象として治癒や改善がみられなければ、仕方がない個人の問題であるとする見方や考え方であったといってよいでしょう。そうした人々の障害(者)観も変化をしてきたわけで、現在は、障害者も同じ生活者であるという見方がなされるようになりました。そして“生活の質”や“生活のしづらさ”という問題にも目が向けられるようになりました。

 その背景には、人権意識の高まりやノーマライゼーション思想の広がりと障害をもつ人自身による自立生活運動などの影響があります。そうした変化を促す大きな転機となったのは世界保健機関(WHO)が、1980(昭和55)年に障害に関する世界共通の理解と科学的なアプローチを可能にすることを目的に作成した国際障害分類試案(ICIDH)を発表したことと、その翌年1981(昭和56)年の国際障害者年です。

 国際障害分類の考え方は、国際障害者年を契機に世界的な規模で障害(者)観に大きな影響を与えることとなりました。 この国際障害分類試案の考え方をさらに推し進めて作成されたのが、2001(平成13)年5月に世界保健機関(WHO)の第54回総会において採択された国際生活機能分類(ICF)です。
 国際生活機能分類(ICF)の考え方は、 障害をもつ人も障害をもたない人と同じ「生活者」であるという認識を促す意味では画期的であり、障害(者)をどう理解するかの指針となる最新のものといえます。

 ICFの考え方は、従来の障害の概念を一新するものです。その特徴は、障害をもつ人だけのものとして障害を分類するのではなく、すべての人々の生活機能と生活能力に関わるものとして分類するものであり、さらに障害の原因となる個人因子のみならず、環境因子(物理的環境、人々の意識的環境や制度的環境、生活情報や福祉サービ等を含む)の重要性にも着目するところにあるといえます。
 人々の生活機能や生活能力というものを単に個人の問題としてとらえるのではなく、環境との関係にも着目するという点で ICFは障害の本質を理解し、問題の解決に向かう方策を講ずる上で有効性を備えていると考えることができます。

 しかし人の生活機能や生活能力を個人の健康状態だけでなく環境条件等との相互作用として構造化することは障害を客観的にとらえることにはなるかもしれませんが、それは障害当事者の価値観や人生観、満足度などに関わる主観的側面をもとらえるものではないということが問題として提起されています。また障害を構造化すること自体についての疑問も出されているようです。
 こうした問題も提起されてはいますが、ICFは障害についての理解を世界共通のものにしようと意図するもので、障害をもつ人ももたない人も同じ生活者であるという認識を促す意味では画期的です。それはまた障害者権利条約にある「合理的配慮」の問題を考える上でも重要な意味をもつといえます。






 「合理的配慮」についての考え方 


障害者の権利とはいっても、それは特別な権利ではなく、人の権利にほかならないという理解認識が大切です。
   人の権利の問題を考えたとき、そこには必然的に人の義務の問題が発生すると思います。
   人はみな権利の主体であり、義務の主体でもあるわけです。
   それゆえに、障害の有無にかかわらず、人々が「共に暮らす」にはそれなりの配慮が必要だということになります。
   したがって障害者権利条約でいう「合理的配慮」とは、人の権利の問題を人の義務の問題として考えることだと思います。






ノーマライゼーションと教育・福祉

国際障害分類 国際障害者年 国際生活機能分類(ICF)




合理的配慮に関する課題

 
人はみな生まれながらに人として暮らす権利を有するとはいっても、人それぞれがそれなりに暮らしていくための努力をしているはずです。それは人として暮らす権利を確保するには、そのための努力義務があるということであり、人はみな権利の主体であり、義務の主体であることを意味します。

 「合理的」とは、 広辞苑(第六版 岩波書店)を引用すれば、①道理や理屈にかなっているさま。 ②物事の進め方に無駄がなく能率的であるさま。とあります。
 道理や理屈にかなっているかどうか、物事の進め方に無駄があるかないか、能率的であるかないか、その基準(目安)となるのは人々の日々の暮らしの中にあるはずです。
 人の暮らしにおける道理や理屈、物事の進め方に関する問題を考えた場合、それは障害者の権利にかかわることであるというだけではなく、人々すべてにかかわる問題だと思います。

 したがって障害者権利条約でいう合理的配慮とは、障害当事者のことだけを考えた配慮ではなく、障害のある人もない人もその両者を含めた「人の暮らし」を考えた配慮でなければならないわけで、障害者の権利とはいっても、それは特別な権利ではなく、人の権利であることにほかならないという理解認識が大切だと思います。人への配慮を何も要しない人の暮らし方などないはずです。その一方で人はみなそれぞれの可能性を秘めた価値観や人生観を伴う多様な生き方をし、生きがいをもっています。

 そうした価値観や人生観は、ある人にとっては意味のあることであっても、ある人にとっては意味のないことかもしれません。そこに、万人すべてに共通する“合理的”という難しさがあるのではないでしょうか。
 要するに、多様な人々の生き方や生きがいを互いにどのように尊重し、認め合い、どのように共に生きていくかというところに「合理的配慮」に関する課題があると思います。

 それは人々が日々の暮らしの中で、人としての自律性とともに、人を思いやるという気持ちを大切に育み、生活感覚としての満足不満足の度合いとも関連するところの価値観や人生観に連なる「生活の質」や「生活のしづらさ」の問題についてどのように考えるかということであり、すぐれた人間社会だけが獲得できるであろう心ゆたかなさらなる発展にかかわる課題だといってよいかもしれません。

 換言すれば、誰もが暮らしやすい社会環境の構築を目指す専門的なあらゆる分野が連携し、物事をどのように理解し、どのように満足又は納得できるようにするか、あるいはどのように合意や妥協が得られるようにするかを考えることだと思います。
 ただし、そこで留意すべき重要なことは、幼弱、老齢、病気や障害、その他の事情により、自らの意思や力で、自らの権利を主張し、行使し、確保することがむずかしい場合の権利擁護の問題です。

 つまり自主的(自発的・自律的)に思考し、自らの意思を周囲に的確に伝え、あるいは周囲の状況を自ら理解し判断することがむずかしいような場合や、おそらく大多数の人々に共通するであろう価値観、人生観に沿った暮らし方になじめないような場合に対する「合理的配慮」という問題です。






 「合理的配慮」の課題 

人はみな人として生きる権利は同等ですが、人の生き方や生きがいには多様な可能性が秘められています。
人々の生き方や生きがいにかかわる多様な可能性を互いにどのように尊重し、認め合い、
どのように共に生きていくかというところに「合理的配慮」の課題があると思います。
それはすぐれた人間社会だけが獲得できる心ゆたかなさらなる発展にかかわる課題だと思います。







 日本の障害者施策と「障害者権利条約」の批准について

   世界人権宣言と障害者の権利宣言

   障害者福祉と社会福祉と社会保障


   発達障害者支援法と障害者自立支援法を考える


   障害者の就労支援を考える

   福祉の意味


   日本の障害児(者)の教育と福祉


   共生社会とインクルーシブ教育を考える

 国連障害者権利委員会の審査、勧告について≪審査、勧告をどう受け止めるか≫

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日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版  税込価格 3190円 A5判 316頁

第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課題

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ

障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し 
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権

第5章 展望所感

 障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題/障害者支援をめぐる問題




















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