日本の障害者施策と
「障害者権利条約」の批准について


2021.11.23/2022.4.10/2022.10.2/2023.4.16/2024.1.6




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 日本の障害者施策の基盤が整うのは、1970年(昭和45)年に障害者関連の諸施策の基本となる法律「心身障害者対策基本法」が制定されてからのことです。

  この法律は、「国際障害者年(1981)」と「国連・障害者の十年(1983~1992)」を契機とする国際的な流れを踏まえ、1993(平成5)年に「障害者基本法」に改正、改称されました。

 障害者基本法は、その後、2004(平成16)年にも改正があり、さらに2011(平成23)年の改正では、国連で障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)が採択されたことが大きく関係しています。



障害者権利条約の批准と国内法の整備
障害者差別解消法の施行について
「合理的配慮」の義務化の問題と課題
共生社会/インクルーシブ教育と「合理的配慮」






障害者権利条約の批准と国内法の整備

 障害者権利条約が国連で採択されたのは2006(平成18)年で、日本もこの条約に2007(平成19)年に外務大臣が署名し、2013(平成25)年12月に批准が国会で正式に承認され、批准書を国連に寄託し、障害者権利条約の締約国となり、2014(平成26)年2月より本条約の効力が生じています。
 条約に署名するということは、条約に賛同し、批准の意思があることを表明する行為です。条約の批准とは、国としての条約への正式な同意です。したがって批准には国内法令との整合性を図る必要があるわけです。


日本国憲法
〔憲法の最高法規性、条約及び国際法規の遵守〕
第98条
 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は
 一部は、その効力を有しない。
② 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。




《障害者の権利条約の批准と国内法の整備》

 障害者権利条約の批准に向けて、障害者基本法の改正をはじめとし、日本の関連法の整備が進んだ意義は大きいと思います。

  障害者基本法の改正:内閣府

 
 障害者総合支援法の施行:厚生労働省

  
障害者虐待防止法の施行:厚生労働省

  
障害者差別解消法の成立:内閣府

  外務省:障害者の権利に関する条約

  条約の趣旨・条約成立の経緯と締結に向けた国内の取り組み・条約締結の意義と必要性(PDF)





障害者差別解消法の施行について

 障害者権利条約は、障害に基づくあらゆる差別をなくすことと、障害者が他の者と同等に生活するために必要かつ適当な変更及び調整のための、均衡を失した又は過度の負担にならないような「合理的配慮」の提供を締約国に求めています。
 日本の場合は、条約の趣旨を踏まえ、2011(平成23)年の障害者基本法の改正時に、同法の第4条に「差別の禁止」規定を設け、この規定を具体化した法律として障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が2013(平成25)年に成立し、2016(平成28)年から施行されて現在に至っています。

 障害者差別解消法は、障害者団体等からの意見を踏まえたもので法の附則に、「政府は、この法律の施行後3年を経過した場合の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うもの」とする旨の検討規定を設けており、これにより法の施行3年経過後の状況についての検討、見直しが、内閣府の障害者政策委員会において行われ、意見が取りまとめられました。この意見等を踏まえ、障害を理由とする差別の諸要因の解消を図るため必要な啓発活動等を行うとする同法の改正案を2021(令和3)年の通常国会に提出、同年5月に改正法が成立しました。

障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する障害者政策委員会意見 (障害者政策委員会 令和2年6月22日)




内閣府:2023年3月31日
2024年4月1日から障害者差別解消法が変わります!


障害者差別解消法に基づく基本方針の改定      
 ○事業者による合理的配慮の提供が義務化されます。
 ○改訂された基本方針では、障害を理由とする差別の解消を推進するための政府全体の方針を示しています。


 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定)の概要
 ※令和6年4月1日より施行


 障害を理由とする差別の解消の推進
  リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!





《障害者差別解消法の改正ポイント》


①国及び地方公共団体の連携協力の責務の追加
 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策の効率的かつ効果的な実施が促進されるよう、適切な役割分担を行い、相互に連携を図りながら協力しなければならない。
②事業者による社会的障壁の除去の実施に係る必要かつ合理的な配慮の提供の義務化
 事業者による社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような事物、制度、慣行、観念その他の一切のもの)の除去の実施に係る必要かつ合理的配慮の提供について、現行の努力義務から義務へと改める。
③障害を理由とする差別を解消するための支援措置の強化
 障害を理由とする差別を解消するための支援措置の強化策の実施に関する基本的な事項を追加し、国及び地方公共団体が障害を理由とする相談に対応する人材を育成確保する責務を明確化する。地方公共団体は、障害を理由とする差別及びその解消のための取り組みに関する情報(事例等)の収集、整理及び提供に務める。
④改正法の施行期日
 公布日(令和3年6月4日)から3年を超えない範囲内において政令で定める日

 
改正障害者差別解消法の施行期日は、公布後3年以内に政令で定めることになっています。それは3年以内に、過重な負担にならない合理的配慮の提供に関わるものごとについて、できることはやっておくということだと思います。そこで大変重要となるのが、「障害者の権利」や「合理的配慮」についてどのように考えるかということです。

 障害差別解消法の施行とその改正法の成立に至る経緯は以上のようなことですが、この法律のことを知らないという人も多いようです。「障害者差別の解消」「社会的障壁」「合理的配慮」などについての人々の意識は低く、法律は施行されたものの、法の実効性という点での問題や課題は多いと思います。




「合理的配慮」の義務化の問題と課題

 障害者差別解消法は、障害者権利条約の批准に向けた国内法制度の整備の一環として制定された法律ですが、今回の法改正で特に重要視すべき点は、これまで「合理的配慮」の提供が、民間の企業や店舗などでは〝努力義務〟とされてきましたが、それが国や自治体と同じように〝義務〟になったことです。
 そこで大変重要となるのが、「障害者の権利」や「合理的配慮」についてどのように考えるかということです。

 「合理的」とは、道理にかなっているとか、ものごとの進め方に無駄がない、効率的である、というようなことだと思いますが、道理にかなっているか、無駄がないかどうか、効率的であるかどうかの基準(目安)となるものは何かといえば、それは人々の日々の暮らし方そのものの中にあるはずです。しかし障害を有するというのはそもそも一般的な価値観や評価基準、人間関係が通用しにくい問題を抱えているという状態であり、その問題のむずかしさの度合いが障害の内容やその程度や状態にも関係していると考えることができます。

 但し、障害者の権利ということで勘違いをしてはならないことは、それは特別な権利ではなく、人の権利であるということです。したがって合理的配慮とは、障害のある人もない人もその両者を含めた〝人の暮らし〟を考えた配慮でなければならないということになりますが、人にはみなそれぞれの価値観や人生観を伴う多様な生きがいや生き方があり、そうした生き方や生きがいに対する配慮はみな同じであればよいというわけではないはずです。そこに「合理的配慮」という意味があり、合理的であるかどうかの問題や課題があると思います。

 つまり、その障害の内容やその程度や状態の改善や軽減を図ることができるにしても、障害のない人とまったく同じ状態にはならないところをいかに受け入れ、いかにすれば障害のある人もない人も共によく生きられる(生活できる)かを生活環境(社会環境)条件にも着目しながら考える必要があるわけですが、それは障害の特質をすべて承知した上で、どのように共に生きる(生きられる)かを具体的に考えるということだと思います。

 また障害者支援とは、人の生活を支援するということであり、それが本来の障害(者)を理解し、障害を受け止めるということであり、それが「共生社会」の条件であるはずです。障害があってもその人にとって適切な内容や方法を駆使した教育であれば、それが特別支援教育であっても普通教育であってもよいわけで、同等の教育であるはずです。

 また障害者支援制度を利用することで、その人なりの生活目標をもち、充実した気分で、あるいは安定した穏やかな生活を維持できるようになれば、それは生活者としての人の生き方を実現したということであって、それ自体が廃退でも破壊でもない〝生産的〟な存在であり、社会参加であるといってよいはずです。 そうした生活が持続できるような世の中であれば、それが共生社会の〝証し〟だと思います。



《学校教育法でいう「準ずる教育」とは》


 特別支援学校の目的として、学校教育法第72条に、「特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱害者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。」とあります。
 しかし、いわゆる一般的な学校と同じ教育の内容や方法では無理があるがために、教育のための特別な支援を要するという意味で「特別支援教育」、「特別支援学校」というのであれば、その学校での具体的な教育の内容や方法は、いわゆる一般的な学校に「準ずる教育」ではなく、障害の内容や状態等に応じた「適切な教育」を行うということでなければならないと思います。

 「準ずる教育」というのを「適切な教育」というように改めることにより、特別支援学校での具体的な教育的支援の方向性やそのための教育内容や方法が考えやすくなり、工夫もしやすくなるのではないでしょうか。
 特別支援教育が必要だというのであれば、その前提として何よりもまずその対象となる児童生徒の実態の把握とそのためにどのような教育をどのように行うかということを考えなければなりません。そうでなければ特別支援教育と称する教育の内容や方法を具体的に追求していくことにはならないと思いますが、なぜか「準ずる教育」へのこだわりは根強いようです。

 〝準ずる教育〟ということにこだわることでの混乱とそれによる弊害を招かないためにも、また教育的意義や教育的効果の点からも、教育を受ける権利に対する教育を受けさせる義務という点からも、学校教育法でいう「準ずる教育」は「適切な教育」に改めるべきではないかと考えます。
 障害のない児童や生徒を対象にした教育と同じような内容や方法で無理がなければそれでよいわけですが、無理があるとすれば、やはりそれをしっかりと受け止めることが大切です。そういう理解認識が正しくなされないまま、未消化のままの人権論や無差別平等論に翻弄され、ノーマライゼーションやインクルージョンの論理が空転してきた現状があることも確だと思います。




共生社会/インクルーシブ教育と「合理的配慮」

 今、日本も、施設中心の施策から地域生活を支援する施策への方向転換が示されています。その一方で、地域社会は依然として、障害(者)を容易に受け入れるほど成熟しているとはいえない現実があります。こうした現実とこれまでに施設が取り組んできた諸々を振り返ってみたとき、施設が障害者の権利擁護や生活活動の拠点として機能するものであるならば、そうした施設の在り方はむしろ必要であり、社会資源としても重要だと考えます。

 問題にすべきは、施設がどのように地域社会に位置づけられ、そこで何がどのように行われるかということであり、そこに関わる人材の育成確保や施設利用者に対する人々の理解を得るための啓発活動をどうするかということだと思います。そこに日本の現状を直視した日本流の障害児者の教育施策と福祉施策の整備充実を図る意味と重要性があると考えます。
 また、「多様性」を認め、「共生社会」を実現するインクルーシブ教育の構築には、学校教育法でいう特別支援学校の「準ずる教育」という表現は改めたほうがよいと思いますし、「適切な教育」ということでなければならないと考えます。



 内閣府:障害を理由とする差別の解消の推進 



障害者福祉に関する動向

障害者権利条約と「合理的配慮」について

 共生社会とインクルーシブ教育を考える

国連障害者権利委員会の審査・勧告について≪審査、勧告をどう受け止めるか≫












日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円 A5判 316頁


第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保障
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ
障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権
第5章 展望所感
 障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題
/障害者支援をめぐる問題












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