障害(者)観の変遷と
古くて新しい課題


2014.4.20/更新 2014.12.23/2015.10.27/2016.6.22
/2020.7.12





 人権意識の高まりとともに、ノーマライゼーションの理念や障害当事者による自立生活運動などの影響もあって、障害のある人もない人も地域で共に暮らすという考え方が理念としては定着してきています。

 そして従来のような「障害」を単に個人の身体的・精神的欠陥の問題だとするとらえ方ではなく、生活環境条件や “生活のしづらさ” “生活の質” にも目を向けたとらえ方がなされるようになりました。しかし……



障害(者)観の変遷と 
国際生活機能分類(ICF)

障害児教育の
義務制実施と障害者福祉



戦後日本の障害児者の
教育と福祉に関する制度の変遷






障害(者)観の変遷と
国際生活機能分類(ICF)

 「障害」といえば、これまでは個人の身体的・精神的な欠陥の問題だとする生物学的な不全や欠損という医学レベルの問題として捉えられてきました。それは専門的な治療の対象として治癒や改善がみられなければ、それは個人の問題であり、仕方がないとする見方や考え方であったといってよいでしょう。

 そうした人々の障害(者)観は大きく変化をし、現在は、障害者も同じ生活者であるということから、人としての“生活の質”や“生活のしづらさ”にも目を向けた見方や考え方がなされるようになりました。

 その背景には人権意識の高まりやノーマライゼーション思想の広がりにより、また障害をもつ人自身による自立生活運動の影響もあるわけですが、大きな転機となったのは世界保健機関(WHO)が、1980(昭和55)年に障害に関する世界共通の理解と科学的なアプローチを可能にすることを目的に作成した国際障害分類試案(ICIDH)を発表したことと、その翌年1981(昭和56)年の国際障害者年です。

 国際障害分類の考え方は国際障害者年を契機に、世界的な規模で障害(者)観に大きな影響を与えることとなりました。
 そしてこの国際障害分類試案の考え方をさらに推し進めて作成されたのが、2001(平成13)年5月に世界保健機関(WHO)の第54回総会において採択された国際生活機能分類(ICF)です。この国際生活機能分類(ICF)の考え方は、障害をもつ人も障害をもたない人と同じ「生活者」であるという認識を促す意味では画期的であり、障害(者)をどう理解するかの指針となる最新のものといえます。

 国際障害者年と障害(者)観の変化
 国際障害分類/国際障害者年/国際生活機能分類


 ノーマライゼーションと教育・福祉



障害児教育の
義務制実施と障害者福祉

 戦後日本の教育施策はそれなりに充実発展し、障害児の学校教育も義務制となりました。しかし障害の理解と受容をめぐる問題から学校を卒業した後の就労や生活、さらにその老後に至るいわゆる「親亡き後」の暮らしを概観すれば、その道筋は依然として整備されているとはいえません。

 人の一生をどのように考え、学校卒業後の生活をどのように見据え、そのための教育をどのように考えるかが大切なわけで、どのように暮らすか(暮らせる)かの道筋が見えてこそ、具体的な教育の目標や教育の内容や方法が考えられることだと思います。そこに教育施策と福祉施策の連携の重要性とそのための問題・課題があると思います。

 戦後間もないころの時代とは比べようもないほど日本の社会状況は大きく変化し、物質的には豊かになり人々の意識や暮らしぶりも変わりました。

 教育制度に関していえば、特殊教育と呼ばれてきた教育制度から、「特別支援教育」の制度に改変されました。
 福祉制度に関していえば、行政主導の措置制度による障害福祉サービス提供の仕組みは、サービスの利用者主体の 「契約」 による利用制度に改変へされました。

 しかし障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題・課題はあまり変わってはいないのではないかと思います。それは 「古くて新しい課題」 とでもいうのがよいかもしれません。


 

戦後日本の障害児者の
教育と福祉に関する制度の変遷

 《教育》
・特殊教育諸学校(盲学校・聾学校・養護学校)による特殊教育 ⇒ 盲・聾・養護学校の障害種別を超えた学校制度へ
(特殊教育諸学校は特別支援学校に 特殊教育は特別支援教育に)

 《福祉》

・社会福祉事業法(現:社会福祉法)による社会福祉法人制度と措置委託制度(措置制度)の仕組み⇒ 措置制度から契約制度へ

(支援費制度~障害者自立支援法~障害者総合支援法)

義務教育の制度と学齢期前後の諸問題
《障害の受容と学齢期以降をどのように考えるか》

 養護学校(現:特別支援学校)の義務制の実施以来、教育と福祉の問題・課題は基本的には変わってはいない。それはなぜか、という点が重要です。


 人の一生をどのように考えるかという教育と福祉の視点が弱い。人の一生を考えた教育と福祉の連携が重要⇒ そのための施策の整備が必要

《古くて新しい課題》 
・障害の理解と受容をめぐる問題
 ・就学相談に関すること
 ・教育内容や教育方法論をめぐる問題
 ・就労支援に関すること
 ・自立支援、地域生活支援に関す問題
・自立 や地域生活をどのように捉えるか(考え方) 
・家族支援に関すること
 ・老後及び親亡き後のこと

 



特殊教育から特別支援教育へ
障害児教育の義務制の意義と課題








浅井 浩 著:日本の障害児(者)の教育と福祉
日本の障害児者の教育と福祉をめぐる
古くて新しい課題を考える。
(田研出版 2012年3月発行)

A5判250頁 本体2750円
 第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/教育を受ける権利の保障
/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
福祉基盤の整備と措置委託制度/施設中心の施策から脱施設化政策へ
/障害者自立支援法の制定と廃止/障害者自立支援法の問題点
第3章 教育の意義と福祉の意義
 
人間的成長発達の特質と教育・福祉/権利としての教育と福祉
/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係
第4章 「福祉」の意味と人権
 「福祉」の意味について/基本的人権の享有について
/障害者の権利に関する条約について/人の自立と働く権利について






日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる
問題、課題を考察し、今後を展望

田研出版 3190円 A5判 316頁



















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