「発達障害」について
発達障害をどのように理解するか




作成 2012.9.30
更新 2014.1.10/2016.1.29/2017.4.1/2018.9.2
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 発達障害というのは、「発達期」に起こる「発達」の「障害」です。

 文字通り「発達」の「障害」です。
 知能、運動、言語、学習、社会性などの面の発達に問題を抱えるところに特徴があり、精神遅滞(知的障害)、自閉症、アスペルガー症候群、 学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、その他これらに類する脳機能が関連する障害の総称です。

 「発達期」とは、人の一生を便宜的に胎内で育つ期間も含め、胎児期、新生児期、乳・幼児期、思春期、青年期、成人期、老年(高齢)期に区分した場合の青年期又は成人期に至るまでの期間あるいは年齢でいえば、おおむね18歳~20歳に至るくらいまでの成長期の期間をいいます。
 どの程度からどの範囲までを発達障害ととらえるかについては専門的な見解があるようですが、おおよその出現率は児童人口の5%ないしそれ以上で、決して少なくありません。


注)
 
文部科学省では、今後の教育に関する施策の在り方の基礎資料とするため、「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」を実施し、その調査結果を平成24年12月5日に公表した。
 
 この調査で、全国の公立小中学校の通常学級に在籍する知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた発達障害の可能性のある子どもが6.5%いることが分かった。35人学級なら2人程度いることになる。しかしそのうち約4割は、特別な支援を受けていないという。

 「学習面で著しい困難を示す」とは、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」などのうちの一つあるいは複数で著しい困難を示す場合を指す。
 「行動面で著しい困難を示す」とは、「不注意」「多動性―衝動性」あるいは「対人関係やこだわり等」について一つか複数で問題を著しく示す場合を指す。


文部科学省:平成24年12月5日
 通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について


 人の成長発達にはいろいろな可能性が秘められています。しかし、その可能性や程度や状態には個人差があるという理解・認識が大切だと思います。
 体格や体力的なこと、あるいは器用や不器用、得意や不得意などは個別的な特徴として誰にもありますが、それが日常生活において特別な支障をきたすというようなことがなければ問題視することはないと思います。

 単に不器用や不得意などというだけでは発達障害とは言いません。したがって発達障害といっても断定的、固定的な判断はすべきではない。その点で発達障害の内容や範囲は、理解しにくいものであり、誤解や偏見を招きやすい。
 発達障害をどのように理解するかということは、障害者の支援をめぐる問題としてきわめて重要なことだと考えます。



「発達障害」という
用語誕生について


発達障害者支援法でいう
「発達障害」の定義について

《文部科学省》
「発達障害」の用語の使用について


発達障害者支援法が
成立した背景







「発達障害」という
用語誕生について

 「発達障害」という用語は、精神遅滞(知的障害)、脳性マヒ、てんかんを包括する概念を示すアメリカの法律用語として生まれました。その後、発達障害の内容は広範囲に拡張され、自閉症や学習障害等を加え、さらに重症心身障害や慢性疾患等も含むものとなりました。それは、重複した障害や疾患等を有するために日常生活に支障をきたしている場合で、同じような対応を必要としているのであれば、それらを疾患概念で規定するよりも、発達障害として包括的に規定したほうが実態に即しているという考え方によるものです。
 その考え方のポイントとなるのは次のようなことです。


「発達障害」の用語誕生のポイン
①従来の疾患概念に基づいた医学モデルとしての精神遅滞及びそれに関連する領域の診断、治療、予防ということが共通的に必要とする支援サービスに適切に結びつかない実態があり、そうした実態を踏まえて適切に対処するには、共通の問題を抱える関連領域のグループを包括する必要性があった。

②実態を踏まえて適切に対処するための可能性を追求するには、医療の対象であるとする狭義の立場を超えて、機能訓練などを含めた保育や教育などの他の専門分野との連携、協力を要したことと、そのためには医療の分野だけでなく各分野に通用する概念を示す言葉の必要性があった。

③脳機能が介在する生活行動上の問題を含む学業や社会適応の困難などを伴う障害に対する理解や認識が得られやすいような用語の必要性があった。



 日本で、発達障害ということばが使用されるようになったのは、アメリカの影響を受け、1970年代に入ってからのことです。そして行政用語として使用されるようになったのは2002(平成14)年からですが、法律用語として初めて使用されたのは2004(平成16)年12月に成立、2005(平成17)年4月1日施行の発達障害者支援法からです。




発達障害者支援法でいう
「発達障害」の定義について
 

 発達障害者支援法は、発達障害について次のように定義しています。

発達障害者支援法施行当初の定義
法の施行:2005(平成17)年4月1日

(定義)
第2条 この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。
2 この法律において「発達障害」とは、発達障害を有するために日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち18歳未満のものをいう。
3 この法律において「発達支援」とは、発達障害者に対し、その心身機能の適正な発達を支援し、及び円滑な社会生活を促進するため行う発達障害の特性に対応した医療的、福祉的及び教育的援助をいう


注)
平成28年5月25日:
 改正発達障害者支援法が成立
 
 議員立法で平成17年に施行された発達障害者支援法の改正法が平成28年5月25日の参院本会議で可決、成立。


改正発達障害者支援法の定
最新改正:平成28年

(定義)※下線部が改正内容。
第2条 この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。
2 この法律において「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいい「発達障害児」とは、発達障害者のうち18歳未満のものをいう。
3 この法律において「社会的障壁」とは、発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
4 この法律において、「発達支援」とは、発達障害者に対し、その心理機能の適正な発達を支援し、及び円滑な社会生活を促進するため行う個々の発達障害者の特性に対応した医療的、福祉的及び教育的援助をいう。


 発達障害者支援法は、発達障害の領域に含まれるべきはずの精神遅滞(知的障害)、脳性マヒ、てんかんなどは掲げていません。それは、知的障害とその周辺領域の障害及び脳性まひ(肢体不自由)については児童福祉法や知的障害者福祉法、身体障害者福祉法の対象としてすでに対応を行ってきたからです。発達障害としての対応を要するてんかんなどの障害も、法制度上は障害者基本法が定める障害の範囲内に含めた対応が図られてきました。

 また自閉症については、その7割から8割が知的障害を伴うことからやはり既存の知的障害関連の福祉施策の中に含めてきました。したがって発達障害者支援法でいう自閉症やアスペルガー症候群とは、いわゆる高機能自閉症のことで、知的障害を伴わない自閉症等を意味します。
 つまり知的障害ではないが、生活行動面において特有のこだわりがあるなどのために人間関係や社会適応や就労などにおいて困難があり、家族だけでは支えきれないなどの問題を抱える障害です。こうした障害は、これまでの障害者支援施策の対象からは外されてきました。

 広汎性発達障害というのは、自閉症及び自閉症に類似のアスペルガー症候群などの行動の障害を特徴とする広義の自閉的な発達障害群を意味する用語で、必ずしも知的障害を有するものでない自閉性障害を含めたコミュニケーションや対人関係などで問題を抱えるという障害グループの総称です。その障害の内容や状態は多様であり、広汎(広範)に及ぶことから広汎性発達障害といいます。


《文部科学省》
「発達障害」の用語の使用について

 文部科学省は、「学術的な発達障害と行政政策上の発達障害とは一致しない。また、調査の対象など正確さが求められる場合には、必要に応じて障害種を列記することなどを妨げるものではない。」としています。
(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 平成19年3月15日)

 

発達障害者支援法が
成立した背景

 発達障害者支援法の成立した背景には、自閉症やアスペルガー症候群その他の広汎性発達障害といわれる障害は人口に占める割合が決して少なくないにもかかわらず、その発見や適切な対応にかかわる専門家も少なく、一般の人々の理解や認識も不十分で、教育的施策や福祉的施策の対象として適切な対応がなされてこなかったという事情がありました。
 人間関係や社会生活への参加や就労などの面での困難を抱えていたとしても、知的障害を有していない場合は、知的障害でもなく、身体障害でもなく、精神障害の範ちゅうでもなく放置され、「軽度発達障害」などとも称されてきました 。
 軽度というような場合はそもそも、これまでの身体障害・知的障害・精神障害の三障害を基本とする法律や制度に基づいた障害者施策の対象としては認定しにくく、その位置付けは不明確であったことから、それらを「発達障害」として法的に明確にするために制定されたのが発達障害者支援法だということになります。

 発達障害の場合、生活上のものごとに対する認識力や判断力、人間関係や自己をコントロールする能力などの精神的な面の成長という点に問題を抱えるところに特徴があります。

 したがってそうした点に配慮した適切な対応がなされない場合には、社会人として生活する上で身につけなければならないものごとに対する理解や認識の仕方が正しく身につかないまま成長することになり、それが人間関係や社会生活においてトラブルを引き起こすことになるわけです。
 判断力や自己をコントロールする力を欠くような場合は犯罪の被害者になりやすいだけでなく、犯罪者になってしまうこともありうるわけです。そうした事件が多発し、社会問題にもなりました。

 発達障害者支援法は、こうした障害に対する社会的な認識を促し、早期発見による効果的、継続的な支援を図るところにそのねらいがあります。したがって、この法律は、発達障害というレッテルをはり、発達支援と称した施策の枠に発達障害を有する児童を強制的に振り分けることではないという点に配慮する趣旨から、条文の中で、国及び地方公共団体の責務として、「発達障害者の支援等の施策が講じられるに当たっては、発達障害者及び発達障害児の保護者の意思ができる限り尊重されなければならないものとする」としています。

 この発達障害者支援法は、発達障害を法的に位置づけ、社会的に公認することで人々の理解や認識を促そうというところに最大のねらいがあるわけで、理念法・啓発法ともいうべき法律です。
 したがって今後の障害の定義や障害者福祉にかかわるサービス体系の大幅な見直しが行われる段階では、障害者基本法を基盤とする法体系の中に吸収され、再定義される必要があるような過渡的な意味をもつとされています。


<参考・引用文献>
 浅井 浩:発達障害と「自立」「支援」(田研出版 2007)
 発達障害者支援法ガイドブック編集委員会編 :
発達障害者支援法ガイドブック (河出書房新社 2005)


「障害」は「個性」か

発達障害の内容と範囲について

発達障害と発達支援/自立支援








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