教育を受ける権利の保障と教育の無償化について
2017.12.17/2018.9.21/2019.5.12






教育無償化 割れる自民  朝日新聞 2017(平成29)年5月13日 
 教育を無償にする議論が政権内で本格化してきた。
 安倍晋三首相が改憲項目として検討する考えを示したこともあり、自民党の文教族を中心に実現をめざす動きが強まってきた。だが、無償化の対象や財源をめぐって意見が割れており、実現の道筋は見えない。
 大学や専門学校などの高等教育から小学校入学前の幼児教育までの無償化や大幅な負担軽減を検討しているが、最大のハードルは財源だ。


<教育の無償化を検討するよりも優先的に考えるべきこと、やるべきことがあるはず>
 憲法第26条と教育基本法第4条、これで十分なように思います。
 現憲法の第26条には、「教育を受ける権利、受けさせる義務」として次のようにあります。
 
憲法第26条 
  すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
② すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

 教育基本法の第4条には、「教育の機会均等」として次のようにあります。

教育基本法第4条
 すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
2 国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。

 この憲法と教育基本法に定める通りの現状であるかどうかということが問題ではないでしょうか。その通りの現状ではないという問題があるのであれば、その問題を放置したまま教育の無償化などというのは、単なるばらまきではないでしょうか。
 無駄を重ねるようなばらまき政策がこれまでも少なからず繰り返されてきたという事実があります。もう少し思慮深くあってほしいと思います。
 わざわざ改憲項目として教育の無償化を検討するよりも優先的に考えるべきこと、やるべきことがあるはずです。
 教育の無償化を新たな憲法に掲げることで、今よりももっと国民の教育を受ける権利を保障し、教育の義務化の徹底を図り、教育レベルの向上とその充実を図ることになると考えるとしたらそれは愚策です。

 
財源問題のますますの混乱を招くだけのようです。
 現在の少子化対策はこれでよいのでしょうか。
 学齢前の保育・教育・待機児童問題。
 貧困家庭の問題。
 こども・子育て支援新制度はうまく機能しているのでしょうか。
 教育や福祉にかかわる人材の育成確保はうまくいっているのでしょうか。

 学校の先生の長時間労働の問題。
 特別支援学校の児童生徒の増加傾向とその卒業後の問題。
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幼児教育無償化 人材難も 「格差拡大につながる恐れ」 
 負担減 大学進学後では遅い? 
朝日新聞2017(平成29)年10月14日 
 自民党の安倍晋三首相は、以前から目指していた3~5歳の無償化の財源として、消費増税分をあてる方針を表明。連立を組む公明党のほか、希望の党や日本維新の会なども無償化に賛成だ。
 安倍首相が幼児教育の無償化とともに掲げるのが、大学や専門学校などの高等教育の負担軽減だ。


2兆円パッケージ決定  朝日新聞 2017(平成29)年12月9日

 安倍内閣は8日の臨時閣議で、2兆円規模の「新しい経済政策パッケージ」を正式決定した。2019年10月の消費税率10%への引き上げによる増収分と企業からの拠出金を財源に、幼児教育・保育や高等教育の無償化を20年度から本格実施。制度設計の一部は先送りした。

2兆円政策パッケージの概要 《財源=1兆7000億円+事業主拠出金 約3000億円》
 
幼児教育・保育の無償化
   約8000億円⇒ 20年度実施(一部は19年度)
 ・3~5歳の保育園
  認可……… 全員無料
  認可外…… 対象範囲や支給上限を来夏までに検討
 ・0~2歳の保育園
  対象は住民税の非課税世帯
 ・3~5歳の幼稚園
  公定価格(上限月2万5700円)を支給
 
大学、高等専門学校、専門学校の無償化
   8000億円⇒ 20年度実施
 ・住民税非課税世帯の学生
  一定の成績要件などを満たせば国立大学の授業料(年約54万円)を免除し、生活費も支給
  私立の授業料(年平均約86万円)は国立の授業料に上乗せして一定額まで免除
 ・非課税世帯に準ずる低所得世帯
  支援を拡充 ※成績要件や対象学校の基準は今後検討
 保育の受け皿づくり
   約3400億円⇒ 20年度末までに32万人分整備
 介護人材の処遇改善
   約1000億円⇒ 19年10月実施
  介護施設などで10年以上働く介護福祉士は月平均8万円相当の賃上げ
 保育士の処遇改善
   数百億円⇒ 19年度実施
  1%(月3000円相当)の賃上げ
 私立高校の実質無償化
   約640億円⇒ 20年度実施(財源は2兆円と別枠で今後確保)
  年収590万円未満の世帯は授業料を平均授業料(年約39万円)まで免除

 
無償化以外にやるべきことがあるはずだ。
 パッケージの中身として、保育士の処遇改善はこれでよいのだろうか?



無駄を重ねるようなばらまき政策が少なからず繰り返されてきたという事実があるにもかかわらず、そうしたことに対する認識が薄い。
教育の無償化で、教育の質は確保できるのか??? 

幼保無償化 待機の解消を優先せよ<朝日新聞社説 2017.12.10> 

 家計に余裕のある人まで負担をなくすことより、真に支援が必要な人を支え、認可施設に入りたくても入れない状況をなくす方が先ではないか。
 安倍政権が子育て世代への支援拡充案をまとめた。幼稚園や保育所の利用が多い3~5歳では、高所得世帯を含めて「無償化を一気に加速する」と改めて示した。

 すべての世帯を対象とする無償化は、10月の衆院選の直前、首相が唐突に打ち出した。議論はいまだに生煮えだ。認可外の施設をどこまで含めるかや助成額の上限など積み残した課題は多く、有識者会議を設けて来年夏まで議論を続けるという。
 子育て中の親などでつくる市民グループからは「無償化より待機児童の解消にお金を使ってほしい」とする署名や要望が政府・与党に寄せられている。
 有識者会議の設置にあたり、政権は「現場及び関係者の声に丁寧に耳を傾ける」とした。その言を守り、無償化に年数千億円という巨額の財源を投じることの是非から検討してほしい。

 無償化の全面実施は消費増税後の20年4月。それまでに待機児童解消に向けた32万人分の保育の受け皿整備を前倒しで進める。政府はそう説明する。しかしこの計画を決めたのは今年6月で、無償化の方針を打ち出す前のことだ。
 無償化は、認可施設では全員を費用ゼロとする一方、認可外の施設や利用料が高額な幼稚園では助成に限度を設け、一定の負担を残す方向だ。そうなれば、認可施設の希望者は今の想定以上に増える可能性がある。

 そもそも、32万人増の計画では待機児童を解消できないとする民間の試算もある。無償化を進める場合の影響を含め、計画の再点検が不可欠だ。
 保育士不足の手立ても考えねばならない。政府は今回、月3千円相当の賃金引き上げの方針を盛り込んだが、無償化に多額の財源を投じるのと比べて大きく見劣りする。

 政府は5年前に決めた税・社会保障一体改革で、保育士の配置を手厚くして「保育の質」を高めると約束したが、置き去りのままだ。それどころか、手厚い保育を実施している自治体に基準の引き下げを迫り、目先の待機児童減らしに走ろうとしている。本末転倒である。

 子を持つ親が望むのは、安心して子どもを託せる施設を増やすことだ。預けられれば何でもよいわけではない。
 無償化以外にもやるべきことがある。優先順位を考え、財源を有効に使わねばならない。

 

高等教育の無償化「必要」は6割  2017(平成29)年12月22日 朝日新聞 (PDF)


社説 余滴  各務 滋(かがみしげる) 無償化要件は没個性に通ず  2018(平成30) 年8月17日  朝日新聞  

 所得の低い家庭に限って大学などの学費を軽減することが、今年の「骨太の方針」に盛り込まれた。いわゆる「無償化」である。支援の対象を「年収380万円未満の世帯まで」と、広めにとらえたのはいいことだ。しかし、対象とする大学にまで要件をつけたのには首をかしげる。「実務経験のある教員が1割以上の科目を担当している」などの条件を満たす大学に行かないと、学生は支援を受けられない。

 「どういう教員を雇えというのは自治への介入だ」という大学の反発を受け、企業人らのリレー講義やインターンシップも含めてよい」などと要件は緩んだ。これなら多くの大学がクリアでき、実害は少ないのかもれない。けれども、こういうやり方をしていると、どこも似たような大学になっていく。
 支援対象になるのを断れば学生に負担をかけることになってしまい、受験者も減る。だから抵抗しにくい。結局、どの大学も実務家の講義が1割―という規格化が進む。実務家を起用する意義自体は認める教育学者も、その点には強い懸念を口にする。

 文部科学省は1990年代から規制緩和を進め、大学の個性化・多様化を目指してきた。今回の「骨太」も一方では「各大学の特色・強みの明確化」をうたう。「実務家1割」のような一律の制約を課すのは矛盾していないか。

 桜美林大学の山本真一教授(高等教育システム論)によると、いま進んでいるのは「大学の学校化」だ。大学は小中高のように学習指導要領では縛れないが、そのかわり補助金によって各大学が国の描いた通りに改革を進めるよう仕向けてきた、とみる。

 「成績評価の客観基準の導入」「アクティブラーニング(能動的な学び)による授業の実施」などのメニューを、補助金の要件や査定ポイントにする。中身そのものは悪くなくても、結果的にどの大学の「改革」も似たり寄ったりになってしまいかねない。
 無償化に要件をつけるのも「学校化」の一環に見える。巨額の予算を使う以上は、大学の質を上げないと納税者の納得を得られない。そんな考え方もわからなくはない。それに多様さより、均質な底上げを重視したほうが効率もいいのかもしれない。

 だが、大学の個性を薄めることで独創的な研究や人材が生まれなくなっては元も子もない。心配はそこにある。

(教育社説担当)



文部科学省:幼児教育専攻科育・高等教育無償化制度の具体化に向けた方針(平成30年12月28日 関係閣僚合意)


◆「高等教育無償化」成立へ  
   
中間所得層への支援継続は不透明  朝日新聞 2019(令和元年)5月10日
 10月に予定されている消費増税を財源に、低所得世帯の子どもを対象に高等教育の負担を軽減する関連法案が9日、文教科学委員会で与党と一部野党の賛成多数で可決された。10日の参院本会議で可決、成立する見通しだ。ただ、法案の審議では、制度の対象とならず、支援を受けられなくなる学生の扱いなど、課題も浮かんだ。

 対象となるのは「両親と大学生、中学生」のモデル世帯で年収380万円未満の場合。収入ごとに減免額は3段階に分かれ、270万円未満の住民税非課税世帯は、国公立大が年間54万円で一部の大学を除き全額免除、私立大は最大70万円が減額される。奨学金は、非課税世帯なら国公立大の自宅生で約35万円、私大の下宿生ならば約91万円支給される。
 文部科学省は、新制度で低所得世帯の大学などへの進学率が、現在の4割程度から全世帯平均の約8割まで上昇し、支援対象者が最大75万人になると推定。必要な予算は約7600億円と試算している。

 支援策は、低所得層の支援が手厚くなる一方、一定の収入を超えると全く受けられない。現在も多くの大学が収入や家族構成などに応じて授業料を減免しているが、国立大の場合は各大学で基準が異なり、個別の状況に応じて支援する学生を決めている。私大には減免額の半分を国が補填する仕組みがあり、給与所得者なら年収841万円以下の世帯まで対象にできる。こうした学生が今後どうなるか、まだはっきりしない。文科省の担当者は「在学生を救いたいが、財務省との厳しい予算の折衝になる」と話す。
 文科政策を担当する財務省の主計官は「新制度は支援を低所得層に重点化するもの。中間所得層の在学生の支援は、大学が自らの経営判断で続ければいい」と語る。

県外に進学 加速か 
 新制度によって、思わぬ影響が発生する可能性もある。大和総研は4月、文科省の試算を元に「約17万人が新たに大学や専門学校に進学し、対象者は約81万にのぼる」との予測を公表した。この結果、島根、佐賀、秋田など9県では毎年、高校卒業者の4~5%が県外に進学し、首都圏では流入の方が多くなると予想。学生の大都市への集中が加速するとみる。
 さらに生活費などの心配が少なくなることで、学生アルバイトが数十万人規模で減ると予想もしている。「学生アルバイトに依存する業界は、人手を確保する対策が必要になるだろう」と指摘する。

◆「高等教育無償化」成立  朝日新聞2019(令和元年)5月11日
 消費税の増税分を財源に、低所得世帯の高等教育の負担を軽減する関連法が10日、参院本会議で自民党と公明党、国民民主党、日本維新の会などの賛成多数により可決、成立した。2020年4月から、入学金と授業料が減免され、給付型奨学金が拡充される。




 



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