大学の入試改革をめぐって


2019.4.17/2019.12.29/2020.12.10/2021.8.20/2022.10.10





 2014 年10月24日、大学改革を議論している中央教育審議会(文部科学省の諮問機関)は、大学入試の選抜方法の改革を促す答申案をまとめました。

 答申案は、知識量を問う「従来型の学力」を測るテストから、知識を活用し自ら課題を解決できる能力をみる入試に改めるというもので、国や大学に大きな転換を迫るものです。


 改革の方向はよいとしても、その前提として何よりもまず重要なことは、大学自体が何を目指すのかというものがなければなりません。大学に確たる目指すものあがり、そのためにはどのような学生を入学させたいと考えるのかということがなければならないと思います。



《改革の方向と問題点》
《英語の民間試験活用をめぐって》
《国語・数学の記述式問題をめぐって》
《改革の行方》
《改革とコロナ禍の大学入試》
改革初年度 大学入試開始
大学入学共通テスト 紆余曲折経て
センター試験 残した宿題は
《大学入試センター 揺らぐ経営》
《参 考》
《共通テスト 25年から21科目》
《大学入試センター 山本広基理事長に聞く》




1978年度 共通1次試験がスタート
・国公立大学の志願者が対象
・各大学が個別に入試を行っていたが、難問や奇問が多く、一定の学力を測るための2次試験の前に統一試験を導入

1989年度 大学入試センター試験がスタート
・私立大学の利用可能に
・2006年から英語科でリスニング試験が始まった

2020年度 大学入試センター試験に代わる大学入学共通テスト(仮称)の実施
・英語は、英検などの民間試験を活用し、「読む、聞く、話す、書く」能力を評価し、国語と数学は記述式の問題を導入することを目玉とする大学入学共通テストが実施されることになっていた。
 2019年11月 1日 英語民間試験の導入実施は見送られる
 2019年12月17日 国語と数学の記述式問題の導入を撤回


英語民間試験 導入断念へ
 大学共通テス
ト、記述式も  朝日新聞2021(令和3)年6月23日

 2025年度の大学入学共通テストをめぐり、文部科学省が、国語・数学での記述式問題導入と英語民間試験の活用を断念する見通しとなった。入試改革の二大看板は、導入見送りがほぼ確実となった。

 大学入試のあり方を議論する文科省の有識者会議が22日に開かれ、記述式と英語民間試験などの扱いについて同省に提言する内容の案が示された。
 仮に記述式を導入すれば、大量の答案を短期間に公正に採点する必要が生じる。採点者の確保やミスのない採点、受験生による自己採点が難しいと指摘。英語民間試験については、生徒の経済状況や居住地の違いで受験回数に差がつく懸念がある、などとした。そのうえで「課題克服は容易ではない。(記述式導入も英語民間試験活用も)実現は困難といわざるを得ない」とした。大きな異論は出ず、有識者会議は提言案のまとめに入る。









《改革の方向と問題点》




大学入試 学力以外も重視
 志望理由書・プレゼン・部活動・・・  朝日新聞 2014(平成26)年10月25日
 大学改革を議論している中央教育審議会(文部科学省の諮問機関)は24日、大学入試の選抜方法の改革を促す答申案をまとめた。知識量を問う「従来型の学力」を測るテストから、知識を活用し自ら課題を解決できる能力をみる入試に改める。個別試験では、早ければ2016年度入試から導入される。現行の大学入試センター試験も、方法が変わる。

入試答申案
「覚える」から「考える」へ転換 
評価の基準づくり課題  記述式、思考・表現力問う 「点数ない」と戸惑う高校生

 
大学入試の答申案は、国や大学に大きな転換を迫るものとなった。答申案は、現行の大学入試のあり方に、厳しい指摘を投げかけた。

 「一般入試では、知識を1点刻みのペーパーテストで問う評価から転換しきれていない」「画一化された条件で、数値で結果を出せる問題の点数のみに依拠した選抜が『公平』という観念が社会に根付いている」「AOや推薦入試の多くが、単なる入学者数確保の手段になっている」
 各大学には、多数の受験生に対応しなければならない事情がある。だが答申案では、「効率性を重視するあまり、面接や集団討論、その他による多元的な評価を重視しない傾向がある」と批判された。

「覚える」から「考える」へ
 答申が示したプランでは、国は今年度中に、生徒のどのような力をどう評価するかを明確にした大学のアドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)の先進的事例をまとめた事例集を作成。16年度中には、学力評価テストでの問題イメージを公表できるよう検討するとした。
 大学は、面接や論術問題による選抜をどうやって実現するのか。一般入試だけで5万人が受ける私立校もあり、記述のみの試験を採点したり、全員に面接したりするのは事実上不可能だ。統一した採点基準をどうつくるかも課題になる。

受験生にはどんな影響が出るのか

 駿台予備校の石原賢一・進学情報センター長は、新しいタイプの試験問題に対応できる高校とそうでない高校が生まれ、「これまで以上に学校間の『格差』が生じかねない」と懸念した。高校生の間では「点数という客観的な基準がないと、結果に納得できない」といった戸惑いの声が上がる。
 答申案では、ペーパーテストの点数による客観性が「過度に重視されている」として、従来の「公平」さからの意識改革をうたう。ただ、そのための具体策は示されていない。文部科学省の担当者は「難しいが、答申の考え方を広める必要がある」と話した。 


(河原田慎一・高浜行人)



大学入試改革尻すぼみ
 「複数回」「合教科」先送り  朝日新聞 2016(平成28)年4月8日 
 2020年度から大学入試センター試験が変わる。新しいテストがどんな形でスタートするのか。その骨格が3月末に公表された。文部科学省がめざした記述式問題の導入は決まった。だが、試験の複数回実施や、複数の科目を合わせた「合教科」を受験科目とする改革の柱は先送りされた。

記述式「実現きびしい」58% センター試験後継 大学側回答
 「必要性ある」59% 導入へ不安解消を  
朝日新聞 2016(平成28)年10月26日(1面)
 大学入試センターに代り、2020年度に始まる新共通テストへの記述式問題の導入について、全国の大学の約6割が実現は厳しいと考えていることが、朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく日本の大学」で明らかになった。記述式は思考力や表現力を評価するための新テストの目玉だが、採点の体制が取れるかや事務の負担増などへの懸念が浮き彫りになった。

記述式 大学から懸念続出 新共通テスト
 「予測以外の解答 混乱する」「基準均一化なら意味ない」
 (37面) 
 受験者が50万人規模にのぼる大学入試の新共通テストに「記述式」は導入できるのか―。朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく日本の大学」への各大学の回答をみると、新テストの目玉である記述式をどのように採点して評価するかや、採点にかかる教員の負担の問題も絡み、大学の懸念が色濃くにじむ。

変わる入試 不安な高校   朝日新聞 2017(平成29)年5月17日 
 「大学入学共通テスト」(仮称)の概要が16日、発表された。英語は「読む・聞く・話す・書く」の4技能をはかり、国語と算数は記述式の問題を導入。大学入試にとっては約30年ぶりの大改革だが、受験生を送り出す高校からは不安が漏れる。
 英語 民間試験で4技能測る指導法・公平性に懸念   
 国・数 正確な自己採点、困難


センター試験後継 大学に波紋  朝日新聞 2017(平成29)年6月17日
 大学入試センター試験の後継となる「大学入学共通テスト」(仮称)が、大学に波紋を広げている。
 国立大学協会(会長=山極寿一・京都大総長)では、英語で民間試験を活用する文部科学省の実施方針案に賛否が割れ、日本私立大学連盟(会長=鎌田薫・早稲田大総長)も記述式問題について懸念を表明している。(編集委員・氏岡真弓)
 英語 民間試験を活用移行時期意見割れる
 国語・数学 記述式の導入 成績提供遅れを懸念


大学共通テスト「利用したい」7割  朝日新聞 2018(平成30)年10月4日 (1面)
 大学入試センター試験に代わって2020年度から始まる大学入学共通テストについて、「利用したい」としている大学が全体の約7割にとどまることが、朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」でわかった。共通テストの試行調査について「難しい」という答えや、英語の民間試験導入について「問題がある」とする回答が多く、慎重な姿勢が浮かんだ。
 調査は今年6~7月、755大を対象に実施し、92%にあたる691大(昨年比27大増)が回答。、
共通テスト尽きぬ懸念  (2面)
 朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」に寄せられた入試担当者の声をみると、テストの具体的な動きが出てくるにつれ、使いづらさや、看過できない問題点が見えてきたようだ。
 記述式問題 53%「採点公平性に疑問」
 英語民間試験 140大学 一転「問題がある」



東大 民間英語試験を必須とせず 「異なる試験、公平な比較困難」 
 WG座長 石井洋二郎理事・副学長に聞く 
  朝日新聞 2018(平成30)年10月24日

 2020年度から始まる大学入学共通テストをめぐり、東京大学の入試監理委員会が9月、基本方針をまとめた。新たに導入される英語の民間試験について、成績提出を必要としない内容だ。民間試験をめぐる同大のワーキンググループ(WG)座長を務め、同委員会の一員として議論に加わった石井洋二郎理事・副学長(教育担当)に、経緯や意図を聞いた。     (編集委員・氏岡真弓)


 ■民間試験の活用をめぐる東京大のWGの答申(2018年7月)
<提案1>
 出願にあたって認定試験の成績提出を求めない。
<提案2>
 認定試験をめぐる諸課題への対応について文部科学省ほか関係機関からの具体的かつ詳細な説明を受け、十分に納得のいく回答が得られたらその時点で認定試験の活用可能性について検討する。
<提案3>
 認定試験の(CEFRで)A2レベル以上の結果を出願資格とするが、一定の条件のもとに例外を認める余地を残し、可及的速やかに具体的な要件を定める。
  ■東京大入試監理委員会が決めた基本方針(2018年9月)
  2020年度に実施される一般入試では、①~③のいずれかの書類の提出を求める。
①大学入試センターによって要件を満たすと確認された民間の英語試験の成績(ただし、CEFRの対照表でA2レベル以上に相当するもの)。
②CEFRのA2レベル以上に相当する英語力があると認められることが明記されている調査書等、高等学校による証明書類。
③何らかの理由で上記①、②のいずれも提出できない者は、その事情を明記した理由書。







変わる大学入試
≪朝日新聞≫



〔1〕 高校・大学と一体で改革 2018(平成30)年11月14日

 大学入試改革は、共通テストの導入にとどまらない。増え続けるAO・推薦入試の一部が「学力不問」になっているという批判を受け、文部科学省はこうした入試でも共通テスト、小論文、学力試験などのいずれかを課すよう大学に求めている。

 過去の入試改革と異なり、高校教育、大学教育とあわせて高大接続の「三位一体」で改革が進められている点もポイントだ。「思考力・判断力・表現力」は、学習指導要領で以前から重視されてきたが、文科省は大学入試が「知識偏重の1点刻み」から変わっていないため、高校の教育も変化しないとみている。そこで、入試改革によって一気に変えることを目指す。
 高校の学習指導要領も同時期に改訂し、教科や科目を再編して「主体的・対話的で深い学び」を進める。大学入学後も、培った力をさらに伸ばすため、入試で問う能力や育てる人物像を明確にし、厳密に卒業認定を行うことを求める。


背景に「学力不問」への危機感
 今回の改革の大きなきっかけは、政府の「教育再生実行会議」が13年に出した提言だ。大学入試が「知識偏重の1点刻み」や「学力不問」になっていると批判し、「高校教育、大学教育、大学入学者選抜について一体的な改革が必要」とした。背景には、大学教育への危機感があった。規制改革の流れや4年制大学を志望する高校生の増加を受け、大学は1990年代から急増。

 だが18歳人口は減り続け、えり好みしなければ誰でも大学に入れる「全入時代」を迎えつつある。大学が学力試験を課さずに入学を認める例が目立ち、高校生も受験勉強の必要性が薄れている。一方、一部の大学は従来通りの「暗記型」の入試を続けている。

 同会議は当初、高校生の学力をみる「達成度テスト」の導入を提言した。高校で学ぶべき能力が身についているかを調べる「基礎レベル」と、大学が選抜にも使う「発展レベル」に分かれ、年間の複数回実施やレベル別判定をすべきだとした。提言では「55万人が同時に受験するセンター試験は限界に達している」とも指摘した。

 だが、中央教育審議会などの議論を経て、「基礎レベル」の試験は大学入試と原則結びつかない「高校生のための学びの基礎診断」となった。一方、「発展レベル」は、記述式問題の導入を目玉とする共通テストとなり、センター試験の枠組みは引き継がれることになった。

(増谷文生)





   高大接続の「三位一体改革」

高校教育改革
学習指導要領を改定

○教科・科目の見直し。
2022年度入学生から、「歴史総合」「公共」などに変更
○「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)の視点からの授業改善の推進


大学入試改革
大学入学共通テスト

○国語・数学に記述式問題を導入
○英語に4技能を測る民間試験を活用

個別入試

○現在のAO・推薦入試への共通テスト、小論文、学力を測るテストなどの活用を必須化
 

大学教育改革

○入学者受け入れ方針、教育課程の編成・実施の方針、卒業認定・学位授与の方針を一体的に作り、公表する制度を導入

 ※朝日新聞をもとに作成



〔2〕 記述式の難易度 続く手探り 2018(平成30)年11月15日

 大学入学共通テストの目玉の一つが、国語と数学への記述式問題導入だ。「思考力・判断力・表現力」を評価しようと、長文や複数の資料を読み解き、文章や数式を記述させるのが狙い。大学入試センター試験にあまり見られない出題形式のため、2回の試行調査で特に注目が集まった。

 1回目の試行調査では、いくつかの課題が浮かんだ。国語の記述式問題3問のうち、80~120字と最も長い解答を求めた問題の完全正答率は0.7%にとどまり、各問とも正答率が1割未満で、半数前後の受験生が無解答だった。
 難易度が高すぎると得点に差がつかず、入試の役割を果たさない。今年6、7月に朝日新聞と河合塾が全国の大学を対象に実施した共同調査「ひらく 日本の大学」では、回答した691大学の入試担当者の53%が、1回目の試行調査の問題について「難しい」「ややむずかしい」と回答し、試行調査の内容を各大学が利用することを「適切」と答えたのは27%にとどまった。

 2回目の試行調査では、センターも正答率が上がるよう、工夫した。国語の80~120字の記述式問題は3~4割の正答率をめざし、記述させる要素を整理。正答例も三つ示すことで、自己採点がより正確になると期待。数学では、解答方法をシンプルにし、答案用紙には数式、または短い文章だけを書く内容となった。

 記述式問題の初回試行調査の課題と2回目の改善点
  課 題  改善点 

  80~120字で解答させる問題の完全正答率が0.7%   記述させる要素を整理し、解答の条件も細かく設定
  自己採点とセンターの採点で約3割が不一致  正答例を一つだけでなく、三つ例示

  全3問の正答率が1割未満、半数前後が無解答   数式のみ、または短い文章で記述させる


(増谷文生)

平成30年度試行調査/大学入試センター


〔3〕 記述式 成績出るまで時間かかるの? 2018(平成30)年11月16日


 大学入学共通テストで導入される記述式問題は、機械が高速処理するマークシート式問題と比べて採点に時間がかかる。このため、大学に成績が提供されるまでの時間も、現行の大学入試センター試験の約2週間より1週間ほど遅れそうだ。タイトな入試日程を組む大学の間では不安も広がっている。

 大学入試センターによると、記述式問題の採点は民間業者に委託し、2人1組で作業してもらう。数字や書くべき内容などの条件に沿って点をつけ、一致しない場合は経験豊富な採点者らが判断する。一部の答案を抜き出し、採点結果を検討する作業もある。
 朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」で今夏、全国691大学の入試担当者に「大学への成績提供が遅くなる」かを聞いたところ、82%が「とてもそう思う」と回答した。ある国立大は「現在でもスケジュールがぎりぎり。成績提供の遅れがもたらす悪影響は深刻だ」と嘆く。
 私立大からは「大学の入試事務のみならず、受験生の不安の増大が懸念される」といった声も寄せられた。


 大学入学共通テストの
記述式問題の採点と、大学への成績提供の流れ

 
共通テスト実施




委託業者が2人1組で採点開始 

 一部を抜き出し専門家や退職校長らが点検

 採点結果確定

 大学への成績提供
 センター試験より1週間程度遅れる

(増谷文生)



〔4〕 英語の4技能測る民間試験の活用 なぜ必要? 2018(平成30)年11月17日

 2020年度から始まる大学共通テストで、現行の大学入試センター試験から最も大きく変わるのは英語だ。「読む・聞く・話す・書く」の4技能を評価するため、民間試験の成績を活用するようになる。

 なぜ、大学入試に4技能が必要なのか。文部科学省は「英語によるコミュニケーションは様々な場面で必要とされ、能力向上が課題となっている」としており、高校の学習指導要領でも4技能をバランスよく育てるよう求めている。だが、日本の高校生は「話す」と「書く」が苦手だ。
 
その一因として、高校の授業が、「読む・聞く」を重視する現行の大学入試に引きずられているという指摘がある。そこで文部科学省は、4技能を入試で測ることで、高校の教育も変えようと考えている。その一方、約50万人が一斉に受験する試験で、「話す」のテストを行うことは難しいため、今回は民間試験を活用することになった。

 初年度は8種類の民間試験が申請し、大学入試センターによって認められた。試験の目的はそれぞれ違い、例えば「TOEIC」はビジネス場面などで使う英語力を、「TOEFLiBT」は英語圏への留学生らの力を測る。 「GTEC」はベネッセが中高生向けに開発した試験だ。
 異なる試験の成績を比較するために用いられるのが「欧州言語共通参照枠(CEFR=セファール)という指標だ。「熟練レベル」のC2から「基礎段階」のA 1まで6段階あり、センターは各試験の点数がどの段階にあたるか、対照表で示す。

 受験生は、高校3年の4~12月に受けた2回の試験の成績を大学に出し、評価を受ける。23年度までは入試センターが「読む・聞く」の2技能を測るためのテストも実施する。
 活用方法は大学に委ねられている。国立大学協会は、民間試験とセンターの試験の双方を、「一般選抜」の全受験生に課す方針を示し、民間試験の成績は①出願資格とする②センター試験に加点する③双方を組み合わせる――という選択肢を公表。加点する場合は、英語の得点全体の「2割以上」を目安とした。
 大学からは疑問の声も上がっている。東京大は公表した基本方針で、CEFRでA2レベル以上を出願資格とする一方、民間試験の成績を提出しなくても、高校の調査書などで英語力を証明できれば十分だとした。具体的な活用方法を決められていない国立大も多い。


(土屋新平)

各資格・検定試験とCEFRとの対照表(PDF:265KB) ;文部科学省



〔5〕 民間試験 高校はどう対応? 2018(平成30)年11月21日

 
英語の4技能を測るため、民間試験を活用する。改革の大きな目玉は高校にどんな影響を与えるのか。
 北海道高校長協会英語部会長の榎本敏生・札幌国際情報高校長(59)は「民間試験場の会場数がどのくらいあり、どこになるのか。切実に重要な問題」と言う。

 共通テストの受験生は原則、高3の4~12月に2回まで民間試験を受け、大学入試センターを通じて成績を大学に出す。しかし、センターが認めた8種の民間試験は実施回数や試験会場数、受験料などのばらつきが大きい。このため、住む地域や家庭の経済的な状況によって、「受けられる試験」が異なることが懸念されている。

 大学入試センターは受験生や高校に配慮し、23年度までは民間試験とは別に「読む・聞く」の2技能を測る試験を実施する。ただ、24年度以降は民間試験に一本化される可能性がある。

 大学入学共通テストで使える英語の民間試験
 テストの名称  受験料(円)  受験会場数
  ケンブリッジ英語検定  9720~25380   最大10地区47
  英検(新型)  5800~16500   約400
  GTEC  6700~ 9720   約700
  IELTS  25380   未定(10地区以上)
  TEAP  15000   約90 
  TEAP CBT  15000  未定(11都道府県以上) 
  TOEFL iBT  235米ドル   未定
  TOEIC  15985   L&R最多大214、S&W最大43

(山下知子)



〔6〕 調査書はこう変わる  2018(平成30)年11月22日

 高校が受験生について作成する調査書の運用も大きく見直される。受験生は調査書を大学に提出していたが、大学関係者は「一般入試ではほとんど使われていなかった」と話す。短期間で多数の受験生の合否判定をするため、細かい記述を読む時間がないためだ。

 だが、文部科学省は2020年度に実施する入試から、一般入試でも調査書の活用を進めようとしている。「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」をみるためで、同省の担当者は「入試当日の瞬間的な学力だけでなく、高校時代に積み上げた成果を評価してほしい」と語る。
 このため、調査書の記載欄も充実させる。表裏1枚だった枚数を無制限にし、各教科・科目の学習での特徴▷部活動、ボランティア活動、留学・海外経験▷資格・検定など、項目ごとに欄を設定。資格・検定ならスコアや取得時期を具体的に書くよう求めた。

 《書式の見直し》
 ●両面1枚の制限を撤廃
 ●学習の特徴や資格などを書く欄を充実
 ●高校に、より具体的な記述を求める
《活用の見直し》
 ●一般選抜での積極的な活用を促す
 ●電子化によって作業効率的に行うことを検討

 都立高校の教諭は「主体性をみるといわれても、どんな活動を記せばよいのかわからない」と話す。愛知県の高校教諭は「枚数が無制限になると、教員によって記載内容や情報量にぶれが出かねない。どう公平に書くのか」と悩む。京都府立高校の教諭は「大学ごとに求める情報が違うと、高3の秋の作業量は膨大になる」と懸念する。「浪人を重ねた受験生や社会人、記述の少ない不登校生らが蚊帳の外に置かれないか」というのは福島県の高校教諭だ。

 大学も、多数の志願者のデータをどう処理すればいいのか、悩んでいる。想定される調査書の活用方法は①出願要件にする②点数化して筆記試験の得点に加える③ボーダーラインの受験生の判断材料にする――などだ。しかし、どんな活動をどのように評価するかを決めるのは難しい。
 処理をしやすくするための一案が、調
査書の電子化だ。文科省は、来年度予算の概算要求では電子化のシステムなどを開発するために、1億5千万円を盛り込んだ。
 だが文科省はその一方で、個人情報などを保護するため、調査書をつくる「公務系システム」を外部のネットワークから分離する原則を示している。高校が調査書を大学に送信しようとする場合、内容を外部から読み取られないよう、暗号化するなどの対応が求められる。データを分析するためには、各校がバラバラに記録してきた資格試験やスポーツ大会の名称をそろえる必要もある。調査書を入試で活用する方法だけでなく、高校が作成し、大学に提出するための環境整備も課題だ。

(編集委員・氏岡真弓)


〔7〕 大学入学テストは、「2段ロケット」   2018(平成30)年11月23日

 大学入学テストは、「2段ロケット」と言われる。スタートする2020年度が1段目で、再び試験が変わる24年度が2段目に位置付けられている。
 24年度にテストが変わる大きな理由は、高校の新しい学習指導要領が22年度から実施されることだ。現在の小学6年生にあたる学年から、高校ではこの指導要領で学び、それを踏まえて大学受験にのぞむ。

 新指導要領では、すべての教科で「主体的・対話的で深い学び」を採り入れ、共通テストでも重視する「思考力・判断力・表現力」の育成に力を入れる。文部科学省が目指す、大学入試、高校教育、大学教育を同時に変える「三位一体」の改革は、形の上ではこれによって完成する。
 新指導要領では科目が再編され、日本と世界の近現代史を学ぶ「歴史総合」や、政治や労働を通じて社会との関わりを考える「公共」が必修となる。共通テストはこれらの科目に対応するほか、20年度から国語と数学で始まる記述問題を地理歴史・公民や理科にも広げることを検討する。
 さらに注目されるのは英語の扱いだ。共通テストでは「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測るために民間試験を活用するが、大きな変化に配慮し、23年度まではセンターが「読む・聞く」の2技能を測る試験を行う。24年度以降について文科省は「民間試験の実績や活用状況などをみて決める」としている。

 プログラミングなどを教えるため、新指導要領で必修となる「情報 Ⅰ」の出題も焦点だ。
 政府は6月に出した「未来投資戦略2018」で、24年度から共通テストでの出題に向けて検討を始めると表明。
 文科省が24年度以降の共通テストの概要を公表するのは21年度になる見通しだ。同省の大学入試室長は「まずは20年度からテストが円滑に実施されるよう、最大限の努力をしていく。そのうえで、関係者の意見も聞きながら、24年度の大きな改革に向けて必要な準備をしていきたい」と語る。

(増谷文生)








《英語の民間試験活用をめぐって》





英語民間試験「未定」多く
 文科省サイト開設 会場・日程 不安の声  朝日新聞 2019(令和元)年8月28日
 文部科学省は27日、2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される英語の民間試験についての情報をまとめた「ポータルサイト」を開設した。
 「情報が不足している」と不安が広がるなか、試験の概要や大学の活用状況をわかりやすくすることが狙いだが、高校側からは「むしろ決まっていないことが多いことが明らかになった」との声が上がった。

 民間試験は「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測るために活用される。現在は7種類の試験が利用される予定で、受験生は原則として高校3年の4~12月に2回まで受け、成績が大学入試センターを通じて大学側に提供される。
 しかし住む地域などによる受験機会の格差が指摘され、会場や日程の決定も遅れている。7月には全国高校長協会が「試験の周知に計画性がなく、詳細が明確になっていない」として文科省に不安解消を申し入れていた。

 27日に開設されたポータルサイトは、試験の概要や日程、大学ごとの活用方法などを載せている。柴山昌彦文科相は同日の会見で「不安が生じることがないように必要な情報を整理した」と説明した。
 ただ、サイト開設に向けた調査では国公立大・短大計1070校のうち296校がセンターから成績提供を受けるかどうか、全く決めていないことが明らかになった。文科省側も「7月中に民間試験の実施団体と協定を結ぶ予定」としていたのに対し、半数の3団体としか締結しておらず、柴山氏は「細部の詰め作業が遅れている」と認めた。

 全国高校長協会の萩原聡会長(東京都立西高校長)は「日程や会場が『未定』のところが多い。不安が解消されたというより、決まっていないことが多いことが明らかになった」と語った。受験生に大きな影響が及ぶ試験制度の変更がある際は、2年前に予告すると定めている文科省の規定とも矛盾していると指摘し、「このままでは民間試験導入の見送りを求めざるを得なくなる」と述べた。


(宮崎亮)


英語民間試験の導入延期を要望
 高校長協会  朝日新聞 2019(令和元)年9月11日
 大学入学共通テストで導入される英語民間試験について、全国高校長協会は10日、導入の延期と制度の見直しを求める要望書を文部科学省に提出した。柴山昌彦文科相は会見で、「かえって受験生の地域格差、経済格差が拡大して、大きな混乱を招く」として予定通りの実施を目指す考えを述べた。

(宮崎亮、山下知子)

ひらく日本の大学
 朝日新聞・河合塾共同調査
  朝日新聞 2019(令和元)年9月16日
 朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」では、民間試験を実施する際に想定される課題や影響など大学は10項目、高校は11項目について、それぞれ「とてもそう思う」から「全くそう思わない」までの4段階で聞いた。

 大学の回答のうち、「とてもそう思う」「そう思う」の合計が最も多かったのは「家庭の経済力が影響する」で83%。「大学での活用方法がさまざまでわかりにくい」(77%)、「各試験の成績について公平性が担保できない」(76%)「受験希望の生徒が全員受験できない」(同)「地域格差がある」(同)と続いた。
 英語民間試験の活用について、回答した高校の89%が「問題がある」と答えた。より多くの生徒が民間試験を受ける進学校ほど問題視する傾向が強く、国公立大への進学者20%以上の高校では95%に達した。
 民間試験を実施する際の課題や影響については、「家庭の経済力」(93%)、「大学での活用方法」(92%)、「各試験の公平性」(89%)、「地域格差」(85%)など大学と同様の項目に指摘が集まった。ただ割合はいずれも大学を上回り、高校の方がより深刻に受け止めている実態が浮かんだ。特に大学の回答を大きく上回ったのは、「高校(大学)の授業を変える必要がある」(高校69%、大学26%)だった。

文部科学省「格差心配 重要な指摘」 文部科学省大学入試室の錦泰司室長の話
 多くの高校や大学が、家計や地域による受験機会の格差などを心配していることがわかった。重要な指摘と受け止める。
 今も独自に民間試験を入試に使う大学はあるが、このまま活用が進めば格差が広がるため、受験生が成績を提出できる回数を制限するなど新しいルールを作った。だが、民間試験の実施方法を国が徹底的に規制することは難しい。このため関係者はルールが中途半端だと感じ、批判の対象になっている。複雑な仕組みが十分に関係者に伝わっていないことも実感している。今後も高校などへの丁寧な説明に努めつつ、実施団体や大学に要請を続け、受験生の不安を少しでも減らしていきたい。

英語民間試験 大学36%使わず
 文科省発表  朝日新聞 2019(令和元)年10月5日
 大学入試センター試験に代わり、2020年度から始まる大学入試共通テストで活用される英語民間試験について、文部科学省は4日、全国の大学・短大計1068校のうち、初年度に国の成績提供システムを利用するのは561校(53%)、大学だけでは483校(64%)になると発表した。多くの課題が指摘されており、大学の約3分の1が活用を見送ることになった。

 文科省によると、システムを利用する大学は64%だった。内訳は国立大が94%公立大が78%、私立大57%、短大は308校のうち78校(25%)だった。
 文科省が「利用予定」とした大学でも、活用の仕方は様々だ。「実施体制などが不明確なままで、問題が解決に向かうまでの間、一般選抜での利用を控える」。一般選抜を含め大半の入試で利用する大学もあれば、学校推薦型など一部の入試や学部だけ利用する場合も。


(宮下麻子、山下知子、増谷文生)

国立大学協会前でデモ
 4日夕、東京都千代田区の国立大学協会前では、英語の民間試験を全受験生に課すことなどを示した同協会のガイドラインなどの撤回を求める抗議行動があった。大学や予備校の教員、現役の高校生ら約50人が集まった。



英語民間試験 文科相の「身の丈に合わせてがんばって」
「格差を容認」 批判噴出  朝日新聞 2019(令和元)年10月29日▶教育面=延期望む声
 2020年度から始まる大学入学共通テストだ活用される英語の民間試験について、萩生田光一文部科学相が「身の丈に合わせてがんばって」と発言し、28日、謝罪に追い込まれた。

謝罪、発言は撤回せず
 問題の発言は、24日夜のBSフジの報道番組で、大学入試改革の目玉として活用が始まる英語民間試験に言及した際に飛び出した。7種類の民間試験を使って、英語の「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測る。国のシステムで各人の成績を集約し、出願先の大学に提供する。練習のために何度受けてもいいが、大学に提供されるのは高3で受けた2回までの試験の成績だ。

 住む場所や家庭の経済状況によって不公平が生じないか――。こんな質問に、「『あいつは予備校通っててずるい』というのと同じ」などと反論。生徒の境遇により本番までの受験回数に差が出るのを認めた上で、「(裕福な家庭の子が回数受けてウォーミングアップできるみたいなことがもしかしたらあるかもしれないけど)そこは身の丈に合わせて、2回きちんと選んで勝負してがんばってもらえば」と述べた。
 28日の取材では不公平を容認しているとの指摘に対して、「どんなに裕福でも2回しか結果は提出できないので、条件は平等」と強調。発言は撤回せず、「民間試験なので、全ての人が(本番の)2回しか受けてはいけないというルールにはできない」などと釈明。

 地域格差や経済格差の問題は、導入が決まった当初から指摘されてきた。文科省は、合否判定に使える成績を「高3の2回まで」に限定。低所得世帯の受験料減免を業者に求めたり、離島の受験生に交通費や宿泊費の一部を補助する支援策を来年度予算の概算要求に盛り込んだ。
 一方で、萩生田氏は10月の会見で、新制度について「初年度は精密さを高めるための期間」などと発言。「生徒を実験台にするのか」などと批判を浴びた。今回の発言で、さらに批判が強まりそうだ。文科省幹部は「『なぜあんな発言を』と考える職員はいるだろう。高校などに説明する際に悪影響が出るのが心配だが、立ち止まる余裕はない」と語った。

(宮崎亮、矢島大輔、増谷文生)


「大臣としてあり得ない」
 発言はSNSなどを通じて広がり、「地方の貧乏人は身の程を知れという姿勢?」などと反発が相次いだ。
 野党国対幹部は「憲法で保障された教育の機会均等なのに大臣自らが不平等を容認している。国会でも取り上げざるを得ない」。

(山下知子、井上昇)

視/点
制度自体に問題 浮き彫り
(抜粋)
 「身の丈にあわせてがんばってもらえば」と発言した萩生田光一文科相が「説明不足だった」と謝罪した。だが問題は「説明不足」だったことではない。
 地域・経済格差が教育格差につながるのを防ぐのが大臣の責務だ。課題を受験生に押しつけ、開き直ったとも受け取れる。こんな姿勢では、教育政策を預かる資格はない。
 さらに深刻なのは、制度自体が「身の丈入試」であることを拭えない点だ。民間試験を使う以上、都会の裕福な家の子が何回も受験の練習をするのを妨げられない。萩生田氏の発言は、この問題を改めてあぶりだした。
 11月1日から受験用の「共通ID」の申し込みが始まる。これ以上、受験の不安を広げることは許されない。

(編集員・氏岡真弓)


英語民間試験導入 高校校長ら、延期望む声 朝日新聞 2019(令和元)年10月29日
 5200校が参加する全国高校校長協会(全高長)は21日、東京緊急シンポを開催。文部科学省や大学入試センター、国の成績提供システムに参加する6種類の試験を実施する団体の担当者が参加した。GTECを実施するベネッセコーポレーションだけが不参加。文科省や各団体の担当者が、指摘されている様々な課題への対応状況などを語った。

「欠陥抱えたままタイムリミット」
 大学受験や予備校講師らの呼びかけで、13日に東京大学で開かれた共通テストに反対するシンポには約300人が集まった。
 東大の中村高康教授は「制度的欠陥を抱えたままタイムリミットがきた。とにかく共通テストはいったん止めるべきだ」と訴えた。

国立大学協会も格差解消を求める
 英語民間試験を国立大の全受験生に課す方針を示している国立大学協会の永田恭介会長(筑波大学長)は、18日にあった報道各社との懇談会で、大学入試での民間試験の活用について、4技能を身につける重要性を強調。入試改革をテコに意識改革を促したいとの考えを示した。
 高校に対しては、「文科省がやるからと嫌々やってもしょうがない。協力的になってほしい」と注文する一方、文科省に「地域格差、経済格差を克服していない。格差が極力ないようにしてほしい」と要望していることを明らかにした。受験生が住む地域や家庭の経済力などを考慮して、受験料を免除する私案も語った。

(増谷文生、宮崎亮、矢島大輔)






身の丈発言が示すもの  朝日新聞社説  2019・10・30
(抜粋)
 入試には貧富や地域による有利不利が付きまとう。その解消に努めるのが国の責務であり、ましてや不平等を助長することはあってはならない。それなのに教育行政トップが「身の丈」を持ち出して不備を正当化したのだ。格差を容認する暴言と批判されるのは当然だ。大臣として急ぎ取り組むべきは、改めて浮き彫りになった新制度の欠陥の是正ではないか。少なくとも受験料負担と試験会場をめぐる不公平の解消を図らねば、受験生や保護者の納得は得られまい。

 民間試験に関しては、異なるテストを受けた者の成績を公平に比較できるかなど、ほかにも課題は多いが、萩生田氏は今月初め、「初年度は精度向上の期間」と述べて物議をかもした。
 改革の方向性は正しいのだから、多少問題があってもやるしかない。萩生田氏に限らず今回の入試改革の関係者には、そんな開き直った態度が見え隠れする。
 改革の目玉である民間試験への懐疑は、共通テスト制度そのものの信頼を揺るがす。矛盾を放置したまま実施を強行し、本番で問題が噴出したらどうなるか。文科省にとどまらない。そのリスクを政府全体で共有し、対策を講じるべきだ。



英語民間試験 混迷
 与党内から延期論も浮上  朝日新聞 2019(令和元)年10月31日
 英語民間試験をめぐり、混乱が広がっている。萩生田光一文部科学相は30日の衆院文部科学委員会で「基本的には円滑な実施に向けて全力で取り組む」と述べたが、与党内からは延期論も出始めている。
「20年導入」繰り返す萩生田氏
「混乱進めば」含み残す

 萩生田氏は政府がこだわってきた20年度導入を進める考えを繰り返したが委員会最終盤では、「仮に今の状況が前に進むような事態が確認できれば考えなければいけない」と含みを残した。
 延期論は与党内からも出ている。自民党幹部は30日午後、「政策的に欠陥があり、延期したほうがいい。受験生がかわいそうだ。このまま無理に実行すると政権への打撃にもなる」と明言。ただ、与党内では予定通りの実施論も根強い。自民党の文科相経験者は「延期はほとんど不可能に近い。教育業界を止めるなんてできない」と語った。

(矢島大輔、宮崎亮、永田大)

「共通ID」明日申し込み開始
文科省危機感 歓迎の声も

 「延期になれば文科省の信頼は地に落ち、入試改革が困難になる」。文科省幹部は、国会で浮上した延期論に危機感を募らせた。
 文科省は、民間試験の活用を大学入試改革の目玉の一つとして位置づけ、20年度の実施を前提に成績提供システムの導入を進めてきた。 
 ある試験実施団体の担当者は、「きちんとした事情説明がないまま、いくら何でも今さら延期はあり得ないだろう。現時点では粛々と動く以外は考えられない」と話す。
 すでに「話す」試験に使うタブレット端末の確保や会場予約などに、多額の資金を投じている業者もある。仮に延期になれば、政府にとっては損害賠償を請求されるリスクを抱えることにもなりかねない。

(増谷文生、宮坂麻子、山下知子)



英語民間試験 見送り

 「身の丈」発言で急転  朝日新聞 2019(令和元)年11月2日 (1面)

 英語の民間試験について、萩生田光一文部科学相は1日、「抜本的な見直しを図っていきたい」と述べ、20年度からの導入を見送ると発表した。自らの「身の丈」発言で、受験生の住む地域や経済状況で格差が避けられない新制度の問題が浮き彫りになり、本番5ヵ月前に異例の方針転換に追い込まれた。
2024年度へ「抜本見直し」
 萩生田氏は、「これ以上、決断を遅らせることは混乱を一層大きくしかねない」と述べ、24年度の実施を目指し、今後1年をかけて新制度のあり方を検討する方針を明らかにした。
 「今日まで熱心に勉強に取り組んでいる高校生が多い。約束を果たせなくなり大変申し訳なく思っております」と陳謝した。
 民間に任せるのは英語だけではない。国語と数学の記述式の採点もだ。せっかく立ち止まるのだから記述式も含めて検討すべきだ。

(編集委員・氏岡真弓)



英語民間試験 土壇場の見送り
 課題 以前から現場が指摘  朝日新聞 2019(令和元)年11月2日 (2面)




  英語民間試験をめぐる主な動き  (朝日新聞をもとに作成)
2012年 6月  民主党政権の「グローバル人材育成戦略」が、4技能を問う入試の開発や普及を進める方針を示す
 2013年10月  政府の「教育再生実行会議」がセンター試験に代わる「達成度テスト」の導入と、民間試験活用の検討を提言
2016年 3月  高大接続システム会議の最終報告。「『話すこと』は20年度当初からの実施可能性について十分検討する必要」
       8月  文科省が新テストの検討状況を公表。4技能評価には、日程や体制等の観点から、民間の資格・検定試験を積極的に活用する必要」
2018年 3月  20年度の共通テストで使われる8種類の民間試験を大学入試センターが認定
 2019年 7月  認定されていたTOEICが参加取り下げを発表
       9月  9月10日 高校の団体が民間試験導入の延期を文科省に要望
 9月18日 新型英検「S-CBT」の「予約申込」が始まる
     10月 10月24日 萩生田光一文科相がテレビ番組で「身の丈に合わせてがんばって」と発言
10月30日 萩生田光一文科相が「身の丈」発言を謝罪
   11月1日  萩生田文科相が民間試験導入の見送りを表明
 受験に必要な「共通ID」の申し込み開始
2010年 4月  民間試験のシステムがスタート
 2021年 1月  第1回の共通テスト


(増谷文生、宮坂麻子)



指摘されていた英語民間試験の主な課題
 〇受験会場が遠い地方の受験生に不利
 〇受験料を払えば何度でも受験できるのは不公平
 ○種類が異なる試験の成績を同列に比較できるか
 ○希望した日時と場所で受験できない恐れ
 ○仕組みが複雑で大学ごとに成績の利用法が異なる
 ○採点の質や公平性を確保できるのか



 大学入学共通テストで活用されるはずだった主な民間試験  (朝日新聞をもとに作成)
 民間試験  会  場  受験料(税込み)
 ケンブリッジ英語検定  15都道府県  9900~2万5850円
 英検(S-CBT)  全都道府県の約260会場  5800~9800円
 GTEC(大学入学共通テスト版)  全都道府県の161会場  6820円
 IELTS(2団体が実施)  16都道府県/23都道府県  2万5380円
 TEAP  26都道府県  1万5000円
 TEAP CBT  16都道府県  1万5000円
 TOEFL iBT  全国10地区  235米㌦



英語試験 業者任せのツケ  朝日新聞 2019(令和元)年11月3日
 英語民間試験の活用が本番5ヵ月前に見送られた。大きな要因となったのが文部科学省が一連の対応を民間任せにしてきたことだ。地方在住者も受けやすい会場の確保や家計が苦しい生徒の受験料の軽減が進まず、最後まで受験機会の格差を解消できなかった。24年の導入を目指す新制度は、民間試験を活用するかも含め「白紙」となった。

英語試験見送り 国会質疑
 現場に戸惑い・反発  朝日新聞 2019(令和元)年11月6日

 活用が見送られた英語民間試験をめぐり、国会で5日、高校や大学、実施団体の代表らが参考人として出席し、異例の方針転換や新試験のあり方についてそれぞれの立場から国に訴えた。民間試験の活用を推進してきた文部科学相経験者らが萩生田文科相に異例の申し入れをするなど与党内でも混乱が広がっている。
 柴山昌彦・前文科相、馳浩・元文科相らが5日、萩生田氏に対し、「失望感を与えることになった」などとする自民党文科部会の決議文を手渡した。20年度に6割の大学(短大を含む)が民間試験を活用予定だったことから、国が関与した上で民間試験の活用を進めるため、大学への助成金の拡充などを求めた。柴山氏は「予定通りのスケジュールで行うためにあと一押し、国が支援することで可能だったのではないか」と悔しさをにじませた。公明党も延期の経緯や検証などを求める提言書を萩生田氏に手渡した。

英語民間試験62校とりやめ
 東大・京大など 国立大の大半  朝日新聞 2019(令和元)年11月30日 (1面)

 文部科学省が英語民間試験の活用を見送ったことを受けて、2020年度に実施する一般選抜で独自に民間試験を活用する国立大は、一部の学部での活用を含めて15校にとどまることが29日、わかった。見送り前は全国82校のうち78校がほぼ全学部で活用する方針だっが、東京大や京都大など62校が取りやめた。東京学芸大は未定としている。大量の成績を評価する態勢を整えられないと判断した大学が多かった。
転換対応は限界  (2面)
 一方、独自に活用するとした大学は、すでに一般選抜で民間試験を活用し、評価のノウハウがあるケースが大半だ。全学部で独自に民間試験を活用する国立大は、広島大や鹿児島大、東京海洋大など5校にとどまった。

(増谷文生)

学芸大も民間試験を活用せず  朝日新聞 2019(令和元)年12月4日
 一般選抜で、全国の国立大の中で唯一対応を「未定」としていた東京学芸大が3日までに、「活用しない」と発表した。これで学部入試がある国立大82校のうち、英語民間試験を一般選抜で活用しない大学は、もともと活用しない方針を示していた東北大など4校と合わせて66校となった。







《国語・数学の記述式問題をめぐって》




国・数の記述式 延期で調整
 大学共通テスト 政府、年内結論  朝日新聞 2019(令和元)年12月6日(1面)
 2020年度から始まる大学入学共通テストで導入される国語と数学の記述式問題について、政府・与党は5日、実施を延期する方向で調整に入った。採点者の質の確保や自己採点の不一致率の高さなどが課題となっており、現状のままでは実施できないと判断。

「見直し論」官邸で急拡大 (3面)
 大学入学共通テスト英語民間試験に続き、国語と数学の記述式問題も延期に向けた調整が本格化することになった。政府内で調整が続いていたが、5日に公明党が声を上げたことで動きが表面化。強行することによる政権への悪影響を心配した首相官邸の意向も背中を押す。

「理解十分 言い難い」
 5日午後。公明党の斉藤鉄夫幹事長は萩生田光一文科相に対し、「来年度の導入について、見直し・延期を検討すること」と記した記述式問題の提言書を読み上げた。
 提言書では、受験生による自己採点とセンターの採点との不一致率が国語で約3割に達したと指摘。「受験生や保護者、高校関係者、国民の理解が十分に得られているとは言い難い」と批判した。斉藤氏は、公明党として高校生や有権者へのヒアリングを独自に重ねたことで「強い確信が得られたので、(公明党の)単独の申し入れとなった」と説明。

公平性に課題残る
 記述式の導入は、英語の民間試験の活用と並ぶ大学入試改革の目玉だった。キーワードは「思考力・表現力」と「脱1点刻み」だ。「センター試験は1点刻みを助長しているとも指摘される」。安倍政権の教育再生実行会議は2013年10月、センター試験の後継テスト導入を求める提言で、こう述べた。
 16年3月、文科省の有識者会議の最終報告は、「生徒の能動的な学習をより重視した授業への改善が進む」「より主体的な思考力・判断力の発揮が期待できる」などと、期待をこめていた。
 ただ、(一度に数十万人の答案を処理するため)採点者の確保や、自己採点の難しさなど公平性の課題は残ったままだった。細かな条件を課して採点しやすくするほど、思考力や表現力から遠い問題になるという矛盾もあった。


  
大学入試改革をめぐる主な動き
 2012年 9月  民主党政権下の中央教育審議会で大学入試改革などの議論が始まる 
 2013年10月  安倍政権の教育再生実行会議がセンター試験に代わる新テスト導入を提言。「知識偏重の1点刻みからの脱却」を掲げる
 2014年12月  中教審が新テストの2020年度からの実施を示す答申。記述式導入と、英語技能の評価を盛り込む 
 2016年 3月  文部科学省の高大接続システム改革会議の最終報告。まず「国語」「数学」での記述式導入を示す 
5月  新テストの具体化に向け、有識者による「検討・準備グループ」の議論が開始  
 2017年 7月  文科省が大学入学共通テストの実施方針を公表。英語民間試験の活用とともに記述式導入を示す
 2018年 3月  2020年度の共通テストで使う8種類の英語民間試験を大学入試センターが認定 
2019年 7月  認定されていたTOEICが参加取り下げを発表 
9月  高校の団体が民間試験導入の延期を文科省に要望 
10月  萩生田光一文科相がテレビ番組で「身の丈に合わせてがんばって」と発言し、後に撤回
11月
  1日、萩生田氏が英語民間試験の導入見送りを公表
  6日、高校生らが共通テスト中止を求める4万2千人分の署名を文科省に提出
 29日、民間試験見送りを受け、各国立大学が20年度の選抜について対応方針を発表 

(根岸拓郎)

記述式 矛盾解けず (35面)
 文部科学省は意義を説明してきたが、採点などをめぐり数々の問題点が浮上。

 
 記述式問題で指摘されている主な問題点
自己採点が難しい
 
試行調査では自己採点と大学入試センターによる採点とのズレが大きく、受験生が出願先を決めにくい。国語では不一致率が3割前後
採点ミスの懸念
 1万人近い採点者の中にはアルバイトも想定され、採点ミスが懸念される。試行調査の国語で0.3%の採点を補正した(抽出調査)
正答例がたくさんあり、採点が難しい
 試行調査の数学では、正答例が最大で50通り以上あった問題も
解答の自由度に制限がある
 様々な解答条件が付いており、表現力や思考力を問う問題になっているのか疑問がある
採点の中立性、信頼性への懸念
 
民間企業が採点業務を行うため 

「国に振り回されず」
 英語民間試験の活用見送りを求めた全国高校長協会は、記述式については態度を鮮明にしてこなかった。導入延期の検討について、萩原聡会長は「共通テストの中身や試験時間がどうなるか、記述式の成績を活用する方針だった大学がどのように対応するか、決定後の対応を見守りたい」と述べた。
 大学側はどう見るのか。記述式の成績の活用を予定する国立大の副学長は冷静だ。個別試験で記述問題を出題しており、「共通テストで課さなくても力は測れる」。別の国立大の入試担当者も「出題の方向性や主体性を問う部分を除けば、元に戻るだけ」と話す。

 一方、駿台教育研究所の石原賢一・進学情報事業部長は受験生に対して、こう警鐘を鳴らす。「個別試験でも私立の入試でも、読解力、記述力がより一層問われる流れは変わらない。国に振り回されず、努力を続けてほしい」。
 中教審委員、高大接続システム改革会議委員として改革の議論を進めてきた荒瀬克己・大谷大教授(国語教育)は「文章の内容をきちんと受け取るという読解力を測るには、自分の言葉で表現してもらうのが有効だとして、検討を重ねてきた。入試だけでなく教育を変えようとした出発点に立ち返って検討してほしい」と話す。

(宮坂麻子、氏岡真弓)


共通テスト 記述式を撤回
 大学入試 文科相 欠陥認める 
朝日新聞 2019(令和元)年12月18日(1面)
 2020年度から始まる大学共通テストで導入予定だった国語と数学の記述式問題について、萩生田光一文部科学相は17日、「採点ミスを完全になくすには限界がある」と述べ、導入を見送ると発表した。指摘されてきた採点の質の確保などの課題が解消できず、「まっさらな状態から対応したい」と事実上の白紙撤回であることを認めた。

入試改革 二枚看板失う
 文科省は11月1日、記述式と並ぶ共通テストの柱だった英語民間試験の活用も見送りを決めており、大学入試改革は二枚看板を失った。共通テスト自体は、主に現在の高校2年生が受験する2021年1月から、現行の大学入試センター試験に代わり始まる。マークシート式で実施される。
 見送られた二つの問題については、年内に設置する検討会議で約1年かけて新たな枠組みについて結論を出す。英語試験は現在の中学1年生から対象となる24年度実施を目指すが、記述試験は見直しがより困難であることを理由に期限を示さなかった。

 記述式の問題をめぐっては、「思考力・判断力・表現力」を測る切り札として、共通テストへの導入が決まっていた。約50万人分の答案の採点には、委託されたベネッセの関連会社が集めた1万人近い採点者が短期間に作業にあたることになっていたが、採点者の質の確保や受験生の自己採点の難しさなどが問題視されてきた。
 萩生田氏は会見で、制度の欠陥を認め、「安心して受験できる体制を整えることは困難」と語った。ただ、「記述式問題が果たす役割は大きい」とも述べ、各大学の個別入試で積極的な活用を呼びかける考えを示した。
 受験生を混乱させた責任について問われると、「決断したのは私だから私に責任がある」とした一方、「誰か特定の人の責任でこういう事態が生じたのではない。私の責任で立て直したい」と引責辞任の考えはないとした。

(矢島大輔、合田禄)

視/点 受験生を翻弄 国の責任重い
 2020年度の新テストで、英語民間試験と記述式という二枚看板の導入が見送られた。受験生を翻弄した国の責任は重い。発端は入試で高校教育を変えようと、文部科学省が数十万人の受ける共通テストに何もかも盛り込もうとしたことだ。英語の「話す」「書く」力を問おうとすれば同じ基準で一斉に評価せざるをえず、記述式も大量の答案を短期間に採点しなければならない。

 文科省はそうした理念と現実の矛盾を民間の力を借りて乗り越えようとした。英語は民間試験を活用し、記述式は教育産業に採点を委託した。だが英語は経済・地域格差への手当てが不十分で、記述式は1万人もの採点者の質が問われた。国は結局、入試が求める公平性や公正性の確保という責任を果たせなかった。

 もう一つの問題は、改革の起点として現行試験の検証を怠ったことだ。当初は一発勝負や一点刻みの入試の打破を狙い、複数回実施、段階別評価を目指していたが、「思考力・判断力・表現力」を見る方向へ転換。何を目指し、何を改革するかがふらつくことになった。
 これから始まる検討で、なおざりな結論を出すことは許されない。出発点に戻り、改革の目的や制度の基本設計から議論すべきだ。


(編集委員・氏岡真弓)







《改革の行方》




混迷2か月 消えた二枚看板  朝日新聞 2019(令和元)年12月18日(2面) 
 
6年かけた入試改革の目玉 記述式   大学側「影響ない」「期待あった」   


記述式見送り 怒りと戸惑い  朝日新聞 2019(令和元)年12月18日(30面) 
 
「実験台やめて」「早く詳細を」   マーク式問題 改革 


 
 〈大学入学共通テストで大学入試センター試験から変更されるポイント〉
 全科目
◆社会や日常生活の出来事を題材にした問題が増加
◆多数の資料を読み解いて解答する問題が増加
 英 語
◆「筆記」200点・「リスニング」50点の配点が「リーデング」「リスニング」ともに100点に
◆発音やアクセントを単独で問う問題は出さない
◆リスニングの問題文の読み上げに一部1回読みも導入 
 見送り
◆英語民間試験の活用
◆国語・数学への記述式問題の導入




共通テスト 独善の行き着いた果て 朝日新聞社説 2019・12・18
 実施まで1年という時点で、大学入学共通テストから二枚看板が消えた。英語の民間試験に続き、国語と数学への記述式問題の導入も見送りが決まった。安倍首相の肝いりでできた教育再生実行会議が、入試制度の変更を提言したのは13年だ。以来6年余を経て、改革論議はほぼ振出しに戻った。壮大な無駄と言うほかない。
 なぜこんな大失態を招いたのか。どう責任を取るのか。下村博文氏から萩生田光一氏に至る歴代文部科学大臣、省幹部、先導した有識者ら国民にしっかり説明する責務がある。

 記述式に関しては、かねて▷50万人もの受験生の答案を公平に採点できない▷自己採点との隔たりが大きい▷きめられた言葉や数式が盛り込まれているかを確認するだけになり、思考力や表現力を測る試験になり得ない――などの指摘があった。
 加えて国会審議では、受験産業の関連会社に採点を委託することが問題として浮上した。商売に悪用される懸念などを払拭できず、与党の提言を受ける形で見送りが決まった。

 軌道修正の機会は幾度かあった。遅くとも2度の試行調査の分析結果が出た今年4月の段階で、自己採点をめぐる乖離は深刻な課題に浮上していた。朝日新聞の社説は試行を増やすなどして改善を試みるよう主張したが、当時の柴山昌彦大臣以下、文科省は立ち止まろうとしなかった。構想の総崩れは、何ら合理的理由のない「20年度実施」にこだわった帰結だ。

 本来、入試改革は各大学の個別入試や、高校や大学の授業改革と一体で進めるはずだった。それなのに共通テストという器ひとつにあれこれ詰め込もうとした。もろもろのひずみは、そこから生じたといえる。
 「高校や大学の現場に任せていては何も変わらないから、自分たちが導いてやる」といったおごりはなかったか。「改革した」という実績づくりのため、無理をして新機軸を打ち出そうとはしなかったか――。
 そうした背景にまで踏み込んだ検証と反省、そして引責なしに「次の改革」に向けた議論を始めることは許されない。同様の混乱を繰り返すだけだ。

 一連の経緯の中に救いを見いだすとすれば、当事者である高校生たちが文科省前に集まり、マイクを握って理路整然と制度の欠陥を訴え、あるいはSNSを使って数多くの署名を集め、世論を動かしたことだ。
 入試改革の理念は思考力や主体性を育むことにあった。高校生は十分にその力を備えているし、伸びしろもある。図らずも政府を向こうに回した抗議行動によって、それが証明された。




大学共通テスト 検討会議を設置
 英語や記述式など議論へ  
朝日新聞 2019(令和元)年12月28日
 2020年度に始まる大学入学共通テストで、英語民間試験の活用と国語・数学の記述式問題導入を見送ったこ
とを受け、萩生田光一文部科学相は27日、導入の経緯と今後の新テストのあり方を議論する検討会議を設置したと発表した。来年1月15日に初会合を開き、1年をめどに新制度について提言のとりまとめを目指す。
 会議は「大学入試のあり方に関する検討会議」。座長の三島良直・東京工業大学前学長をはじめ委員18人が選ばれた。ほかに文科省職員や山本広基・大学入試センター理事長も加わる。


 萩生田氏は、教育関連団体の代表、共通テストに批判的な立場だった人、過去の検討過程に参画した人、入試改革の議論に加わっていない人を「バランスよく選んだ」と説明。民間試験業者の代表は選ばなかったが、「大学関係者や高校生、必要があれば民間事業者の声も聞いてみたい」と話し、分科会などを設ける可能性もあるとした。会議は原則として公開する。

(宮崎亮)



記述式 検討当初から懸念
 共通テスト 16年の文科省有識者会議
  
朝日新聞 2019(令和元)年12月29日
 導入が見送られた国語と数学の記述式問題について、文部科学省が、非公開の有識者会議で検討を始めた2016年当初から、短期間に厳正な採点ができるか懸念していたことが、公表された議事録概要などから明らかになった。


検討・準備グループ
 英語民間試験の活用や国語・数学の記述式問題の具体化を議論した文部科学省の有識者会議。大学の学長や教育研究者、高校長、教育長らが委員を務めた。
 2016年5月から17年3月まで9回分の議事録が非公開とされていたが、批判を受け文科省が24日に概要を公開した。


(増谷文生)


入試議論 多難の再出発 刻刻 
 英語民間試験・記述式…「白紙」か意見割れる  朝日新聞 2020(令和2)年1月16日
検討会議 開始

 新年度から始まる大学入学共通テストでの英語民間試験や記述式問題の活用見送りを受け、文部科学省は15日、新たな入試制度を考える有識者らの会議を始めた。失敗した経緯の検証も行いながら、1年をめどに結論を出す。ただ、18人の委員の考えに隔たりがあるうえ、期間の短さから十分な議論ができるかは不透明だ。

 15日の会議は共通テストに加え、各大学の個別の試験も含め検討した。①議論は「白紙」の状態から始めるのか➁入試改革によって高校教育を変える手法の是非③格差をどう小さくするか④大学入試のどこまでを共通試験に担わせるか――といった点がテーマとなった。
 

 大学入試のあり方に関する検討会議委員
 有識者委員   ◎が座長、◯が座長代理、( )は専門分野など
  荒瀬克己  大谷大教授(高校教員)
 ◯川嶋太津夫 大阪大高等教育・入試研究開発センター長
  斎木尚子  前外務省研修所長
  宍戸和成  国立特別支援教育総合研究所理事長
  島田康行  筑波大教授(国語教育)
  清水美憲  筑波大大学院教授(数学教育)
  末富 芳   日本大教授(子どもの貧困)
 ◯益戸正樹   UiPath特別顧問(経済界)
 
三島良直  東京工業大前学長
  両角亜希子 東京大大学院准教授(高等教育政策)
  渡部良典  上智大教授(英語教育)
 教育団体委員
  岡 正明  国立大学協会入試委員長(山口大学長)
  小林弘祐  日本私立大学協会常務理事(北里研究所理事長)
  芝井敬司  日本私立大学連盟常務理事(関西大学長)
  柴田洋三郎 公立大学協会指名理事(福岡県立大理事長・学長)
  萩原 聡  全国高校長協会長(東京都立西校長)
  吉田 晋  日本私立中学高校連合会長(富士見岡中学高校長)
  牧田和樹  全国高校PTA連合会長
 オブザーバー
  山本広基  大学入試センター理事長


 会議の冒頭、萩生田氏は「大学入試で英語4技能を適切に評価することの重要性に変わりはない」「思考力・表現力を問う記述式問題が果たす役割は重要」と発言。導入を見送ったはずの二枚看板を個別試験も含めた入試に盛り込むことを前提に議論を進ませたい考えをにじませた。
 これに対し、末富芳(かおり)・日本大教授(教育行政学)は「この会議の前提条件は白紙で、原点から議論すると聞いている」と指摘した。座長の三島良直・東京工業大前学長は「けっこうです」と答えたが、吉田晋・日本私立中学高校連合会長が反発した。「(入試改革に対応するために)何年間も費やしてきた。政府が決めたことをゼロにするのか」と訴えた。

 吉田氏は、入試改革を高校教育の改善につなげる戦略について、「世界の国に遅れてきた日本の教育を取り返す目的だ」と主張。これに対し、両角亜希子・東京大大学院准教授は「手段と目的を取り違えたことがそもそも問題。入試で教育を変えるという発想自体がおかしい」と述べた。
 受験生の「格差」の問題も俎上に上がった。内閣府の「子供の貧困対策に関する有識者会議」のメンバーでもある末富氏は「拙速な大学入試改革が、結果として格差拡大政策として機能してしまう」と指摘。一方、川嶋太津夫・大阪大高等教育・入試開発センター長は、現行の大学入試センター試験でも受験生の住む地域の違いなどから「(完全に)受験機会の平等性を担保するのは難しい。大学側が受験生の背景を考慮した上で公正な評価をすべきだ」と述べた。

 記述式を共通テストで採点する難しさに触れ、「各大学の個別入試の守備範囲をもう1回(広い視野で)みて見る」必要性を指摘したのは数学教育の研究者である筑波大大学院の清水美憲教授。共通テストを実施する大学入試センターの山本広基理事長も「共通試験に何でも盛り込んでしまうのはどうか」と述べた。 

(宮崎亮、増谷文生)


1年で結論 座長「強引にならぬよう」
 文科省は今後、会議を月1~2回のペースで開き、年内に提言をまとめる方針だ。会議は原則公開する。同省は昨年11月に英語民間試験の活用見送りを発表した際、高校の新学習指導要領が導入されるのに合わせて新たな入試制度を24年度から実施すると発表した。

 検討会議の提言を受け、文科省が詳細な制度設計をしたうえで、21年夏には概要を各大学に通知する。大学側は、それを受けた対応方針を22年夏ごろまでに受験生に周知して理解を図る。試験制度を変える場合は、少なくとも2年前に変更点を告知するルールに基づく措置だ。逆算すると、検討会議の結論を年内には出さざるをえないという。
 ある委員は「このスケジュールでは抜本的な見直しは難しい」と本音を漏らす。別の委員は「(英語も記述式も)各大学に個別にちゃんとやってもらうのが現実的だ。共通テストの枠組みに入れてやろうとすると同じ失敗をする」。

 一方、4技能を測る英語試験や記述式問題の採点を民間任せにして失敗した反省から、国の関与を強めることを求める声もある。自民党の文科省・政務三役経験者は、英語民間試験の活用を再考すべきだと主張する。「文科省が主導して全国各地の大学や高校を会場として確保すれば、受験生の地理的な格差は解消できるはず。後は、経済的な格差をどう埋めるかだ」と話す。

(矢島大輔)





センター試験 積み残した大きな課題  朝日新聞社説 2020.1.22
 大学入試センター試験が31年の歴史に幕を下ろした。高校や大学から「改良を重ね、思考力を問う良問が増えた」と、一定の評価を受けた試験だった。
 思考力のさらなる重視を掲げて「共通テスト」に切り替わるが、英語民間試験と記述式問題の導入をめぐる迷走から、なお行方が定まっていない。まずここをはっきりさせ、受験生の不安を解消する必要がある。あわせて中長期的な視点から、あるべき入試制度について検討を深めるべきではないか。
 文部科学省の審議会などの議論をふり返ると、当初指摘された二つの問題が積み残されていることに気づく。

 一つは試験の肥大化だ。センター試験は私大に門戸を広げ、各大学が科目を自由に選べる方式を採った。参加数は6倍近い858校に膨らみ、多様な要望に応えるため、科目数も18から30に増えた。06年からは英語のリスニングも加わった。
 その結果、科目選択が複雑になりすぎ、試験監督が問題冊子を配り間違える事故も起きた。今回の記述式導入などの頓挫は、共通入試に何もかも詰め込もうという考えの限界を露呈させた。制度が難解になるほど、塾で助言・指導を受けられる生徒が有利になるのも、見過ごすことのできない欠点だ。

 センター試験の後継の姿を議論する過程では、教科や科目の垣根にとらわれない横断型試験とするアイデアも出ていた。そうした案も含め、主要教科の土台の力を測る簡明な試験の形を、改めて模索してはどうか。
 肥大化の背景には、個別入試の運営が各大学の重荷になっている事情もある。共通テストの出直しの論議では「記述式などは個別入試で」との意見が出ている。それには国による各大学の入試体制充実への支援や、大学間の連携を真剣に検討する必要があろう。

 積み残されたもう一つは、基礎学力のない学生の増加だ。定員だけみれば大学全入の時代を迎え、「学力不問」の学校推薦や自己推薦の入試も問題になってきた。学び直しの時間を設けるなど大学側の負担は大きく、本来の教育に支障が出ている。
 文科省は来年から、推薦入試の際、小論文や口頭試験などによる学力確認の実施を義務づける。高校にも、英数国の民間試験なども使って基礎の定着を図るよう求めている。一方、推薦入試にも使える基礎学力テストの構想は、高校の序列化を招くといった懸念から、見送られた経緯がある。
 大学の学びに必要な力を測る公平な入試制度をいかに作るか。成果の検証と結果を踏まえた不断の見直しが求められる。









《改革とコロナ禍の大学入試》





◆「1カ月後ろ倒し」 大学入試で要望へ 
  高校長協会  朝日新聞 2020(令和2)年6月14日
 今年度行う大学入試の日程について、全国高等学校長協会は13日、全体を1カ月遅らせるよう文部科学省や大学の各団体に要望することを決めた。コロナ禍の休校期間や学校再開の状況に地域差があることを踏まえ、受験の公平性を保つために日程を遅らせて、生徒の学習や進路決定の機会を保障すべきだと求める。

 協会が文科省の依頼で行った会員校へのアンケートでは、約7割が共通テストを予定通り実施すべきだと回答した。しかし、13日の会議では、学校再開が最も遅れた地域に配慮すべきだという意見が相次いだ。萩原聡会長は「受験生が安心して公平な受験に臨めるよう求めたい。全体を1カ月遅らせれば年度内に入試を終えることは難しい。文科省にリーダーシップをとってもらいたい」と話した。


(伊藤和行)


◆入試の出題範囲
  コロナ対応 文科省、全大学に  朝日新聞 2020(令和2)年6月20日(1面)

 今年度行う大学入試について、文部科学省は19日、日程や内容を示した実施要項を全国の大学や教育委員会などに通知した。コロナ禍で学習に遅れが出た生徒等への配慮として、個別試験を行う大学に対し出題範囲を例年より絞るよう要請。 来年1月の大学入学共通テストは二つの日程に加え、新たに特例追試を設け、「3段構え」をとることにした。

追試・振り替え受験設定も
 文科省が19日公表した「大学入学者選抜実施要綱」によると、各大学が行う個別試験は、予定通り来年2月1日からとする日程を設定。ただし、受験生が新型コロナウイルスに感染した場合に備え、全大学に追試の設定か、別日程の受験への振り替えのいずれかを実施するよう求めた。

 コロナ禍で長期休校し学習が遅れた受験生のため、個別試験の出題範囲を配慮することも要請。具体的には、高校3年で学ぶことが多い数学Ⅲや物理、化学、生物、地学、世界史B、日本史B、地理B、,倫理、政治・経済などの各科目で選択問題を設けることや、「発展的な学習内容」は出題しないことなどを求めた。さらに大学が指定する共通テストの科目のうち、2科目指定が可能な地歴・公民、理科をそれぞれ1科目に減らすことや、指定科目以外の科目に変更できる措置を検討するよう求める。

 入試全体の日程も、学習が遅れた生徒に配慮した。共通テストは予定通りの来年1月16、17日に行う第1日程以外に、同30、31日に行う第2日程を設定。第2日程は、学習が遅れた生徒が選ぶことができ、第1日程を病気などで受けられなかった受験生の追試にもなる。試験会場は47都道府県に設ける。2週間後に特例追試を行う。第2日程は浪人生は選べない。対象となる生徒の見極め方や出願の方法などは今後詰めるという。第1、第2日程の成績の大学への提供は、当初予定の2月上旬より1週間程度遅れる見込みだ。
 出願開始日は、総合型選抜(旧AO入試)を9月1日から同15日に延期し、学校推薦型選抜(旧推薦入試)は予定通り11月1日となる。




 
 (朝日新聞をもとに作成)
 実施要項が大学に求める配慮
<入試日程>
 追試か振り替え受験日のいずれかを必ず設定
<科目指定> 
 大学入学共通テストの科目指定について、地理・公民、理科の2科目指定を1科目に減らすことや、指定科目以外の科目への変更
<出題範囲>
 選択問題の設定
  「発展的な学習の内容」から出題しない

(伊藤和行)




 刻刻

入試日程 複雑化に懸念 朝日新聞 2020(令和2)年6月20日(2面)
 今年度実施される大学入試の日程が、ようやく決まった。コロナ禍に見舞われた受験生への配慮のため、文部科学省は大学入学共通テストを大幅に「改造」し、各大学にも個別試験で工夫を求めた。歓迎する受験生や高校が多い一方で、共通テストと個別試験の時期が近づき、仕組みも複雑になることを懸念する声もあがる。

 (朝日新聞をもとに作成)
2020年度に実施される大学入試の日程 
 2020年 9月 15日
 (当初は 9月1日)

 総合型選抜出願開始 (旧AO入試)  合格発表11月以降
    11月  1日  学校推薦型選抜出願開始 (旧推薦入試)
 合格発表12月以降
2021年1月16、17日 大学入学共通テスト【第1日程】
 30、31日 大学入学共通テスト【第2日程】  第1日程の追試も兼ねる
例年の追試は本試験の1週間後

  第1・第2日程の大学への成績提供は私立が2月9日以降、国公立は同11日以降
当初は私立が 2月2日、国公立は同4日
 2月  上中旬 主な私立大の一般入試
 13、14日 大学入学共通テスト  【第2日程の特例追試】
当初は予定なし
 25日以降 国公立大2次試験(個別試験)前期日程
 3月 8日以降 国公立大2次試験の中期日程
 12日以降 国公立大2次試験の後期日程

大幅改造 高校側「妥当な案」「消耗心配」
 都立高の校長は「地方の生徒、進学しない生徒も混乱させず、学習の遅れのある生徒にも配慮した結果で良かった」と評価する。ただ、自分の学校では第2日程を受ける生徒は、ほぼいないとみる。例年、センター試験後に個別面談をし、2月下旬の国公立大2次試験(前期日程)までの1カ月間で記述式問題の対策をして仕上げる。「第2日程を受けてその期間が短くなると厳しい」という。

 首都圏の公立高校長も「日程の変更を望まない多数の高校と、学習の遅れの両方に配慮した点で妥当な案」と評価する。一方、「試験問題は大学が求める生徒像を示すもっとも基本的なメッセージだ」として、文科省が各大学の個別試験の科目数や出題範囲に注文をつけることに疑問を呈する。
 「試験日が複数になることで、受験生や高校、大学も消耗しそう」と心配するのは、栃木県の進学校の進路指導担当教諭だ。「科目削減に応じない大学もありそうで、受験生が志望校を選ぶ際に判断を迫られるのではないか」と指摘する。

(矢島大輔、宮坂麻子)

合否判定・出題・・・大学苦慮
 大学が最も懸念するのは、第2日程の設定に伴い、共通テストの成績提供が予定より1週間程度遅れることだ。2月2日だった私大への成績提供は9日以降になる。慶応義塾大の担当者は「入試日程とそれに関係する業務は非常に逼迫している。対応には苦慮するだろう」。一部の学部で共通テストを合否判定に使う早稲田大は「最も早い学部は2月6日なので、変更する必要がある」という。

 また、国公立大では、共通テストの成績で2次試験の受験者を絞り込む「2段階選抜」に影響が出る可能性がある。今春の国公立大入試の前期日程では、23大学39学部で行われた。2段階選抜を行う国立大の担当者は「成績提供が1週間以上遅れると困る。かといって、実施をやめれば受験生が多くなりすぎて混乱する。とにかく成績提供を早くして欲しい」と求める。
 また、要項が求める個別試験の出題範囲の「配慮」は、大学にとっては難題のようだ。

テストの難易度そろえられるか
代々木ゼミナール教育事業推進部の佐藤雄太郎本部長の話
 共通テストの第1日程と第2日程の難易度をどこまでそろえられるかが課題だ。両日程間の得点調整がないため、共通テストの成績を重視して合否を決める地方国立大などは、平均点に差が付かないか神経質になるだろう。
受験生も不安を感じると思うので、各大学がいずれかの日程の成績だけを活用すると決まられるようにすることも一案ではないか。

(土屋亮、編集委員・増谷文生)

「一刻も早く」急いだ文科省 
 全国校長協会「十分な検討なく残念」

 入試日程を巡っては、文部科学省と、高校団体との間で綱引きがあった。
 「一刻も早く時期や内容を示すことが最重要と考えた」。萩生田光一文科相は19日の会見で強調した。例年は6月上旬に発表してきたが、今年は「9月入学」を検討していたために遅れた。文科省は高校、大学関係者との協議を11、17日に開き、17日夜、「了承を得られた」と記者発表した。

 一方、全国高校長協会が今月行ったアンケートでは、共通テストについて約7割が予定通りを要望。だが、内部の臨時会議では「繰り下げを求める3割に配慮すべきだ」との声が相次ぎ、全体の日程を1カ月程度後ろにずらすよう要望書をまとめた。ただ文科省は「一部の私学の意見が入っておらず高校の総意ではない」として受け取らなかったという。萩原聡会長は要綱について「十分な検討がないまま短期間にまとめられ、極めて残念」とし、追試や出題範囲の限定などを大学側に求めていくと話す。

(伊藤和行、編集員・氏岡真弓)

大学共通テスト「第2日程」
校長認めた現役生のみ 要項公表 朝日新聞 2020(令和2)年7月1日

 来年1月に行われる大学入学共通テストの実施要項を、大学入試センターが30日公表した。コロナ禍による学習遅れに対応するために設けた「第2日程」(1月30、31日)は、高3生が希望し校長が認めた場合に選択できる。「第1日程」(同16、17日)の受験生も含めた大学への成績提供は、予定より約1週間遅い2月8日以降になる。

 共通テストは、昨年度までの大学入試センター試験に代わって今年度初めて行われ、第2日程も47都道府県に会場が設置される。要項によると、出願期間は今年9月28日~10月8日。浪人生は第1日程しか原則受けられない。
 両日程の試験間で得点調整はしない。第1日程の終了後、試験問題や配点は公表されるため、第2日程を受ける生徒は出題の傾向などを把握できる可能性がある。公平性について文部科学省の前田幸宜大学入試室長は「第2日程は学習が遅れた生徒が受けるのであり、既卒者も受ける第1日程とは受験者層が異なっている」と説明した。

 第2日程を病気などで受けられなかった受験生のため、来年2月13日、14日に「特例追試」を行う。ただ、試験問題はセンター試験時代に作られたもので、試験時間や出題方式も一部異なる。センターの担当者は「共通テストと違う試験という前提で、大学に活用してほしい」とした。文科省は7月以降、試験会場や問題用紙を準備するため、第2日程を希望する生徒数などについて全国の高校に調査を行う。

(伊藤和行)


出題範囲 各大学に一任
国立大入試 3月22日以降に追試 朝日新聞 2020(令和2)年7月14日

 コロナ禍で学習に遅れが出た高校生がいるため、文部科学省が各大学に今年度に行う入学試験で配慮を求めたことを受け、国立大学協会は13日、一般選抜(2次試験)の出題範囲について、「必要な措置を最大限講じ」ることを求めながらも、具体的な対応は各大学の判断に任せることを決め、発表した。

 一方、高3で学ぶことが多い地理歴史・公民や理科などについては、来年1月の大学入学共通テストの成績の2科目活用は変えないと表明。ただし、新型コロナウイルスに感染するなどして、2月25日以降に行う一般選抜の前期日程や3月12日以降の後期日程を受けられなかった受験生のために、3月22日以降に追試を行う方針を示した。各国立大学は今後、今回の方針にのっとって試験の概要を決め、今月中に発表する。

 国大協内の議論では、「統一方針を決めるべきだ」「配慮は不要だ」などといった意見も出たという。だが、最終的に文科省の要請への配慮を求めながらも、共通テストの2科目活用は変えず、「発展的な学習内容」からの出題の判断は各大学に任せることにした。
 また、共通テストに、学習に遅れが出たと校長に認められた高3生が受けられる「第2日程」(1月30、31日)が設けられたことを受け、当初1月25日から2月3日としていた一般選抜の出願期間を同5日まで延ばす。

 国大協の永田恭介会長(筑波大学長)は13日、萩生田光一文科相にこうした内容を説明した後に取材に応じ、「各大学には、不公平がなく、どんな受験生にも対応できるよう配慮を要請する」と述べた。


 今年度実施の国立大の主な入試日程  (太字は当初からの変更点)    朝日新聞をもとに作成
 2020年  9月15日以降  総合型選抜(旧AO 入試)の出願
 9月28日~10月8日  大学入学共通テストの出願
 11月1日以降  学校推薦型選抜(旧推薦入試)の出願
 2021年  1月16、17日  大学入学共通テスト(第1日程)
 1月30、31日  共通テスト(第2日程)
 1月25日~2月5日  一般選抜の出願
2月13、14日  共通テストの特例追試
  2月25日以降  一般選抜 前期日程
 3月12日以降  一般選抜 後期日程
 3月22日以降  一般選抜 (前期、後期とも)の追試


(編集委員・増谷文生・伊藤和行)



改革初年度 大学入試開始
 まず総合型選抜出願 コロナ禍で変更も 朝日新聞 2020(令和2)年9月16日
 改革初年度の大学入試が15日、総合型選抜(旧AO入試)の出願開始を皮切りに始まった。入試改革を巡る混乱やコロナ禍による日程変更で、受験生は振り回された。各大学もオンライン面接など初の試みに不安を抱えながらの幕開けとなる。

 大学入試改革は、安倍晋三首相が設けた教育再生実行会議が2013年、「知識偏重の1点刻みからの脱却」を提言して議論が始まった。大学入試センター試験は大学共通テストに名称を変え、英語の民間試験の活用や、国語や数学に記述式問題を出題する方針などが決まった。
 しかし、住む地域による受験機会の格差や採点の難しさを指摘する声が上がり、昨年末にいずれも導入が見送られた。春以降はコロナ禍で学校が長期休校となり、文部科学省は9月1日開始だった総合型の出願を2週間遅らせた。各大学には、オンライン面接などで通信機器に不具合が生じた場合などに、受験生に不利益とならないよう配慮することも求めている。

 共通テストは、第1日程(来年1月16、17日)と」第2日程(同30、31日)の2回行うことが決まった。各大学が個別で行う一般選抜は原則2月1日から始まる。
 文科省は、受験生が感染した場合の受験機会の配慮を各大学に求めており、9月2日現在で、国公私立の767大学のうち、660大学(86%)が追試験などを設け、397大学(51.8%)が選択問題の設定などの対応をしているという。

(伊藤和行)



大学入学共通テスト 紆余曲折経て
     朝日新聞 2020(令和2)年9月29日 
 英語民間試験や記述式問題の活用見送り、そしてコロナ禍を受けた日程変更――。紆余曲折があった大学入学共通テストの出願が28日、予定通り始まった。

民間試験・記述式 見送り
 共通1次試験の後を受けて1990年に始まったセンター試験は、高校からも大学からも「良質の問題」と好評だった。だが、安倍晋三・前首相肝いりの教育再生実行会議は、「1点刻みの合否判定を助長している」などと指摘し、2013年、「新テスト導入と外部検定試験の活用検討を」と提言した。
 これを受け、文部科学相の諮問機関・中央教育審議会などが制度設計の議論を続け、文科省は17年7月、入試改革の方針を発表。センター試験を共通テストに衣替えし、英語民間試験を活用したり、国語と数学に記述式問題を導入したりすることが決まった。
 準備は着々と進められ、17年11月からは共通テストの試行調査がスタート。18年3月には、共通テストで活用する8種類の民間試験が認定された。

 しかし、有力な民間試験の一つ「TOEIC」が19年7月、システムの問題を理由に離脱を発表。このころから民間試験の活用をめぐり、受験生の家庭環境や住んでいる地域によって受験機会に不公平が生じるといった指摘が、高校や高校生などから強まった。
 こうした声を受けて全国高校長協会が同年9月、文科省に民間試験活用の延期を要請。さらに10月には、萩生田光一文科相がテレビ番組で「身の丈に合わせて勝負して」と発言し批判を浴びた。折しも大臣2人の辞任が続いた時期で、政権の支持率低下を恐れた首相官邸が主導し、11月に活用見送りが決まった。
 記述式問題についても、質の高い採点者の確保や、受験生の自己採点の難しさなどが指摘された。国会でも追及され、萩生田文科相は翌12月、「採点ミスを完全になくすには限界がある」などとして、導入見送りを発表した。

(編集委員・増谷文生)


コロナ禍も影響 追加日程新設
 実施1年前の相次ぐ変更で受験生に不安が広がるなか、さらにコロナ禍が追い打ちをかけた。安倍前首相は今年2月、全国の高校などに一斉休校を要請。地域によっては休校が3カ月に及び、学習に遅れが出た。

 このため全高長は文科省に対し、来春入学者向けの入試を1カ月後ろ倒しにするよう要望。文科省は、大学などの共通テストに当初の第1日程(来年1月16、17日)に加え、準備も考慮し、第2日程(同30、31日)を設けた。第2は、第1を病気などやむを得ない事情で受験できなかった場合の追試にもなる。第2の追試として、2月13、14日に特例追試も設けた。

 第2を希望できるのは現役生だけで、校長が認めた場合に選択できる。どちらの日程を選択するかは、学校が現役生の志願票をまとめて大学入試センターに送る際、第1か第2かを区分けするという。文科省が7月に行った意向調査では、第1の希望者は約43万1千人、第2の希望者は約3万2千人だった。
 一方、志願票に受験生が第1か第2かを書く欄がないため、教育学者らは「ミスが起こる危険性があり、学校現場や生徒から不安の声が上がっている」と指摘する。センターは選択日程について「出願時に申し出た内容は変更できない」としながらも、10月27日までに受験生に届く「確認はがき」の記載に誤りがあった場合は、センターに電話すれば修正も可能としている。

(伊藤和行)


センター試験とどう違うか?
要読解力 難易度UPか

 共通テストは、センター試験とどう違うのか。
 国語と数学の記述式問題がなくなったため、共通テストも解答方法は全問がマークシート式で変わらない。だが、全科目で学校の授業などの日常生活を題材にしたり、多数の資料から必要な情報を探して解答したりする問題が増える。

 特に英語は、「筆記」が読む力の測定に特化した「リーディング」に変わり、アクセントの位置などを選ぶ問題はほぼなくなる。2回ずつ読み上げていた「リスニング」の問題文は、6問ある大問のうち4問が1回読みになる。実際の会話に近づけるとともに問題の量を増やし、センター試験では「筆記」200点、「リスニング」50点だった配点は、どちらも100点になる。
 記述式がなくなった国語と数学も読解力が必要な問題が増え、全体的にセンター試験よりも難易度は上がるとみられている。



センター試験 残した宿題は
シンポで課題と成果検証  朝日新聞 2020(令和2)年11月30日

 今年1月、31回で幕を閉じた大学入試センター試験。その成果と課題を振り返るシンポジュウムを、試験を実施する大学入試センターが23日、開いた。入試改革のなかで、このテストについて十分議論がされなかったため、自ら総括し、来年からの大学入学共通テストのあり方を考えるのが狙いだ。

得点の統計処理せず難易度変動
思考力・表現力測る出題 評価も

 「改革の中で、センター試験がどんな試験だったかという議論がほとんどなかった。いま記録に残す必要がある」。シンポジュウムの冒頭、センターの山本廣基理事長がこう趣旨を説明した。

 続いて、センター試験の実施統括の経験を持つ荒井克弘客員教授が発表。今回の改革は「高大接続改革」として高校教育、入試、大学教育を一体で変えようとしたが、そこで取り上げられなかった高大接続の問題を3点挙げた。

 一つは、英語民間試験の活用で地域格差や家庭の経済格差が問題になったが、センター試験を出願に使う生徒は高校新卒の3割のみのため、センター試験以外の選抜で「教育の機会均等」はどうなっているのかという点。 
 二つ目は、国立教育教育政策研究所の調査で「授業がわかる」と答えた高校生は5割だった一方、全体の8割が大学などに進学しており、 学力不問の試験が広がって高校と大学の境界が溶けているのではないか、という点。
 三つめは、大学入学共通テストは高校の学習指導要領と密接な関係があるが、大学の学問領域とどうつなぐのか、という点だ。

 それを受けて、やはり試験の統括を務めたことがある大塚雄作客員教授と義本博司理事が、センター試験の実態を報告した。
 大塚客員教授は「センター試験は知識問題に偏っていると批判を受けたが、新テストが狙う思考力・判断力・表現力に関わる力を問うていた」と指摘。義本理事は、センター試験の舞台裏について、約700の試験会場を用意し、約2万個の専用コンテナで試験問題などを輸送し、のべ18万人が試験監督や警備などを担当する、と説明。試験の肥大化で関係者の負担が重くなり、大学がセンターと協力して実施しているという意識が薄くなっていることも指摘した。

 試験のデータを分析したのは、センターの鈴木規夫・前准教授と前川眞一特任教授だ。
 鈴木前准教授は、試験を受けながら大学へ出願しない「未出願者」が、全体の志願者58万人中13万にいる(2018年度)▷5教科を受けて国公立大に出願する「中核層」と、一部の教科を受け私大だけに出願する者と未出願者を合わせた「新参入層」の分化が進んでいる、といった志願者の動向を解析した。
 前川特任教授はセンター試験の問題点として、作問者の配点で出した素点で順位付けはするが、毎年の得点を比較できるよう統計処理しなかったことをあげた。点数を再分析したところ、浪人と現役、高校やその所在地域で差が開いていることや、理科の選択科目で難易度が毎年大きく変動したことを指摘。「点数を統計処理していれば、ここまで差が開く前に、わかったはずだ」と振り返った。

共通試験 強化かスリム化か
 指定討論者からも、厳しい意見が出た。
 南風原朝和・東京大学名誉教授は「どこに問題があったか議論されないまま、センター試験の廃止だけが早々に決まった」。センター試験は大学がセンターと協力して実施するものだが、「主体としての大学の影が薄い」「センターが大学に文部科学省の言っていることを言って聞かせる関係は改善が必要」と語った。
 駒形一路・静岡県立浜松北高校教諭は、大学入学共通テストはセンター試験と比べて「ゆるみばかりが見え、不安」。英語4技能試験や記述式の採点の民間参入がゆるみを招いた、と指摘。

 一方、九州大の木村拓也准教授は、今後の入試共通試験の枠組みを外して各大学に任せるのか、共通の枠組みを強めて改革の効果をもたらすのかという選択肢を示した。「作問の先生を確保するのが難しい大学や入試問題を外注する大学もある。共通の枠組みを強化し、入試制度の改革をできる範囲を持っておく方向がいいのでは」
 これに対して、義本理事は「共通の枠組みの強化はコストもかかる。よりスリムな形で実施していくのが当面の課題」と話した。荒井客員教授は「いまの共通の枠組みに縛られず、高校の指導要領に沿った大学入学共通テストと並んで、大学教育に直接につながる試験を大学自身がつくることがあってもよいのではないか」と提案した。

《センター試験の主な経緯》
1977年 大学入試センター設置
 79年 共通1次試験が始まる
 85年 臨時教育審議会が1次答申で「国公私立大が自由に利用できる共通テストの創設」を提言
 90年 共通1次試験に代わり、私立大も参加する大学入試センター試験が始まる
2012年 センター試験で試験問題配布ミス
 13年 教育再生実行会議、入試改革を提言
 14年 中央教育審議会、センター試験の廃止を提言
 21年 大学入学共通テスト開始


(編集委員・氏岡真弓)



共通テスト 志願者4%減 朝日新聞 2020(令和2)年12月9日
 大学入試センターは8日、来年1月実施の大学入学共通テストの確定志願者を53万5245人と発表した。前年度の大学入試センター試験よりも2万2454人(4.0%)減った。53万4527人が第1日程(1月16、17日)を選び、コロナ禍で学びが遅れた受験生に配慮して設定された第2日程(同30、31日)に出願したのは718人(全体の0.13%)だった。既卒者は8万1007人(15.1%)で1万9369人減少。来春卒業する高校生に占める共通テスト志願者の割合は1.0ポイント高いあ44.3%だった。


大学個別入試 見送る動きも
 共通テストで合否判断  
朝日新聞 2021(令和3)年1月5日

 今年の大学入試は、首都圏で緊急事態宣言が出された状況下での実施となりそうだ。 大学入学共通テストは予定通り行われる見通しだが、その後の個別試験は予断を許さない。約53万5千人が志願している共通テストは30年続いた大学入試センター試験の後継として初めて行われ、文部科学省幹部は「試験当日まで残り2週間弱。ここで中止したら逆に大パニックになる」と説明する。

 共通テストの成績を合否判定や志願者の絞り込みに使う国公私立大などは866校に上る。共通テストが実施されれば、その後に予定される各大学の個別試験ができなくなっても、筆記試験なしに合否を判定する事態は避けれる。萩生田光一文科相は記者会見で、緊急事態宣言が出た場合でも共通テストは実施する考えを示してきた。
 個別試験の中止は先例がある。全国に先駆けて感染が広がった北海道では昨年3月、北海道大をはじめ各国立大が後期日程を中止。センター試験の成績で合否を判定する形に切り替えた。
 共通テストの会場となる各大学も、実施を前提に準備を進める。

 一方で、大学ごとの個別試験は予断を許さない。各県に試験会場が置かれる共通テストと違って、全国から各大学のキャンパスへ受験生が移動するため、感染リスクは高まる。
 横浜国立大は受験生の感染リスクを考慮し、原則として共通テストの成績で合否判定する方針を昨年7月に決めた。他の国立大にも、感染拡大に備え、個別試験を中止し、共通テストだけで合否判定するシミュレーションを始める動きがある。

(土屋亮、伊藤和行)



あすから大学共通テスト  朝日新聞 2021(令和3)年1月15日
 16日から大学共通テストが始まり、受験シーズンが本格的に到来。大半の国立大学は、共通テストの後に個別試験を実施し、両テストの得点を足し合わせて入学者を選抜する。
 だが、コロナ禍の急速な悪化を受け、個別試験の中止や試験内容を変更する動きが広がりつつある。
個別試験 中止・変更じわり
 共通テストには約53万人が志願し、全都道府県に計約700カ所の試験会場が用意される。多くの受験生は自宅近くで受けられる。
 一方、大学の個別試験は、受験生が全国から各キャンパスなどに集まって受ける。 飛行機や新幹線による長距離移動を伴い、宿泊するケースも少なくないため、感染リスクは高まる。
大多数は予定通り「情報収集を」
 大多数の国公立大は今のところ、個別試験を予定通り行う方針。「共通テストのみで、本学に入るのにふさわしい人材を選抜するのは難しい」(東京大)など、独自に試験をする意義を強調する。
 難関とされる大学の場合、志願者の多くはマークシート式の共通テストで高得点をとるため、差がつきにくい事情がある。こうした難関校は合否判定で個別試験の点数配分を大きくしている。しかし、感染の急拡大が収まらなければ、個別試験を見直す大学が増える可能性があると、河合塾の富沢弘和教育情報部長はみる。「個別試験の直前まで志望校のホームページをよくみて、情報収集に努めてほしい」

(鎌田悠、土屋亮)



大学個別試験 中止の動き
 宇都宮大など 共通テストで合否  朝日新聞 2021(令和3)年1月23日

 新型コロナウイルスの感染者数の高止まりの続くなか、25日の出願開始を前に、個別試験を急に中止する国公立大学が相次ぐ。本来は大学共通テストの後、個別試験を経て選抜するが、原則、マークシート式の共通テストの成績のみでの判定に切り替え、各校での独自の試験は行わないことになる。
 文部科学省は22日、選抜方法の大きな変更は受験生に多大な不利益を与えるおそれがあるとして、慎重な検討を求める文書を各大学に送った。個別試験を中止して共通テストの成績のみで合否判定するといった変更は、原則として出願開始前の公表を求めた。

(土屋亮)



個別試験 コロナ下の実施
 国公立 感染警戒 中止の大学も  朝日新聞 2021(令和3)年2月26日

 国公立大学の個別試験(2次試験)が25日、始まった。新型コロナウイルスの感染拡大は収束せず、首都圏などは緊急事態宣言下にあるが、大半の大学は予定通り実施した。一方で感染リスクを理由に急きょ中止を決める大学もあり、直前まで混乱した。
 文部科学省によると、25日からの前期日程では169大学582学部に23万5403人が志願した。倍率は2.9倍で、昨年より0.1ポイント低くなった。
 横浜国立大は昨年7月に個別試験の中止を決定。緊急事態宣言の対象区域に入っていた宇都宮大が1月21日に急きょ中止を発表し、信州大も人文学部と経法学部で中止を決めた。
 駿台教育研究所の石原賢一進学情報事業部長は、今後、コロナ禍が長引いたとしても、共通テストだけでの選抜は広がらないとみる。難関大や医学部を受験する志願者の多くは共通テストで高得点をとり、差がつきにくいためだ。「感染症が広がりやすい冬場の一斉試験だけでなく、推薦入試の拡大など幅広い選抜に本腰を入れていくべきではないか」と話す。

(土屋亮)

 








《大学入試センター 揺らぐ経営》




入試センター赤字試算
来年度以降、年5億円 大学受験生減   朝日新聞 2020(令和2)年11月28日 (1面)
 来年1月から始まる大学入学共通テストの実務を担う独立行政法人大学入試センターが来年度以降、年間約5億円の赤字を試算していることが関係者への取材でわかった。18歳人口の減少による受験者減が理由。50万人以上が受験し、約9割の大学が利用する共通試験の運営基盤が揺らぐ事態になれば、将来的な検定料値上げにつながりかねない。▶39面=揺らぐ経営

 センターの収入(国の補助金を除く)は、志願者の検定料が全体の約9割、利用大学が払う成績提供手数料が1割近くを占める。国からの運営費交付金は、民主党政権時代の「事業仕分け」により11年度から廃止され自己収入が大半だ。昨年度の経常収益は、大学入試改革のための国の補助金を含めると約130億円で、作問や印刷などの経常費用を引いた総利益は約4億5千万円だった。

 収支悪化の背景には少子化による18歳人口の減少がある。センターによると、90年代に急減したが、09~17年ごろまでは120万人前後で推移してきた。だが18年から再び減少局面に入り、検定料が大半の収入も同様に減り続けるという。
 一方、支出構造は変わらない。センターによると、センター試験時代の6教科30科目は共通テストでも維持された。大学教員ら約460人が2年かける作問や、問題冊子の印刷、約700の試験会場への輸送や会場運営費など必要経費が多く削減は難しいという。
 受験生の負担増となる検定料の値上げには文部科学省の省令改正が必要で、英語リスニングが導入された06年に2千円値上げされて以降は据え置かれている。センター幹部は「運営費交付金の復活か大学のさらなる負担増、最終的には検定料の値上げが必要になるかもしれない」と話す。


(伊藤和行)

受験生にしわ寄せ?
 大学入試センター 揺らぐ経営  
朝日新聞 2020(令和2)年11月28日 (39面)

 大学入学共通テストを運営する大学入試センターの経営基盤が揺らいでいる。前々身の共通1次試験が始まってから40年。受験生が減り、独立採算が厳しくなりそうだ。赤字運営が何年も続く事態が現実になれば、しわ寄せは大学や受験生に及ぶ可能性がある。

 後継のセンター試験は、私大の参加とともに肥大化していく。導入時の90年に約43万人だった志願者数は2002年に60万人を超え、その後も55万人前後を維持した。少子化の中でも増えたのは、全国で大学が増え、進学率が上昇したためだ。文部科学省幹部は「自前の試験ではなく、センター試験の成績だけで合否を決める大学が増えていった」と振り返る。

交付金復活 文科省「難しい」
 だが、横ばいだった18歳人口が18年に減少期に入り、恒常的な赤字運営が現実味を増した。危機感を募らせたセンターは今年、大学側と協議を重ね、来年1月の共通テストは大学への成績提供手数料を1件あたり180円値上げし、750円にすることを決めた。ある地方大の学長は「多様化のあまり出題科目数が増え、作問や印刷などのコストがかかり過ぎていることが問題。大学の負担を増やす前に科目を絞るべきだ」と指摘する。

 共通1次時代は5教科17科目だったが、現行は6教科30科目。センターは現在、22年度からの高校の新しい学習指導要領に基づく25年1月以降の共通テストの出題を検討しており、素案では7教科21科目に再編するとした。英語以外の受験生の少ない外国語科目の再編も検討したが「外交問題になりかねない」などの理由で縮小は難しいという。
 
 センター幹部は「『大学と共同』で行うはずの試験。質と公正性を保ち続けるには経費削減は限界があり、このままの状態が続けば、国の運営費交付金の復活か大学側の負担増が必要となる」と話す。文部科学省は、閣議決定で廃止した運営費交付金を復活させるのは「難しい」とみる。検定料値上げという手段も残るが、「受験生が納得できる理由がないとできない」と頭を抱える。

(伊藤和行


共通テスト 大学負担倍に
センター赤字回避 受験生転嫁に懸念   朝日新聞 2021(令和3)年4月11日 (1面)
 大学入学共通テストの実務を担う大学入試センターが、大学から徴収する「成績提供手数料」を2年かけて値上げし、2年後の第3回共通テスト以降は現行の2倍にすることが10日、入試関係者への取材で分かった。

 成績提供手数料は、大学が受験生の共通テストの成績をセンターに提供してもらう際に納める。1月の第1回共通テストでは1件あたり750円で、利用した866大学にのべ約155万件の成績が提供された。
 センターは3月29日、国公立大に値上げを通知した。関係者によると、まず来年1月の第2回共通テストで1200円に引き上げ、第3回以降は1500円にする。「大幅赤字が予想され、共通テストを安定的・継続的に実施するため」と各大学に説明した。

 センターの収入は、共通テスト志願者が支払う検定料(3教科以上は1万8千円、2教科以下は1万2千円)が約9割、利用大学の成績提供手数料が1割近くを占める。ただ18歳人口の減少により、センター試験時代の18年実施をピークに志願者数は減り続け、第1回共通テストの志願者数は約53万5千人、24年1月の第4回は約50万人になると推計されている。

 センターが示した経営見通しでは、志願者減に伴い、今年度は約4億の赤字、来年度以降は毎年度10億円以上の赤字を見込んでいた。今回の手数料値上げにより、今年度は約7億円、来年度以降は約11億円の増収となり、赤字を免れる見込みだ。
 一方、値上げにより、共通テストを利用する大学の中には、最大で約2千万円支出が増える大学もあるという。今後、受験生が大学に支払う受験料に、値上げ分を上乗せする大学が出てくる可能性もある。

(伊藤和行)

共通テスト負担倍増
「なぜ大学だけに」  朝日新聞 2021(令和3)年4月11日 (30面)
 約9割の大学が利用する共通試験の負担増に対し、コロナ禍で苦しい経営状況が続く大学側は反発している。国費による負担を求める声も出ている。一方で、そもそも成績提供手数料が安すぎるという指摘もある。

 文部科学省は、大学側が受験生に負担を転嫁することを警戒する。萩生田光一文科相は成績提供手数料の引き上げについて問われ、「値上げしたら受験生に跳ね返ってくるなら意味がない」と述べた。また、私立大の一部が、自前で試験問題を作らずに、センター試験や共通テストの成績で合否を判定していることにふれ、「共通テストを上手に使うことも結構だが、(受験生から受験料を)1万5千円や2万円取り、(センターに)750円だけ払って新入生を確保するのはあまりにも暴利」とも発言した。

 文科省幹部によると、国からセンターへの運営費交付金は、民主党政権時代の11年度に事業仕分けで廃止された。現状では復活するのは難しいという。センター幹部は「国は『受験生や大学による受益者負担が原則』というが、共通テストは将来を担う子どもの大学進学に資するもので、受益者は社会全体。国も責任をもってもらいたい」と指摘する。

(伊藤和行)


文科相「学生に転嫁やめて」    朝日新聞 2021(令和3)年4月14日 
 大学入学共通テストの実務を担う大学入試センターが、大学から徴収する成績提供手数料を、現行の750円から2年かけて倍増することについて、萩生田光一文部科学相は13日の閣議後会見で、大学に対し「間違っても(値上げ分を)学生に転嫁するのはやめてもらいたい」と述べた。「安定的な実施のための成績提供手数料などの見直しが必要」と説明した。


《参 考》


AO入試 大学に専門教職員  朝日新聞 2019(令和元)年10月27日
 AO(アドミッション・オフィス)入試を担当する専門職に注目が集まっている。一般入試で合格した学生よりも退学率が高いことを重く受け止めた大学では、教職員らが受験生を「育成」する試みを始めた。大学の枠を超えて研修会を開くなど連携も進みつつある。

講義・面談・試験 適正探る 
 九州産業大(福岡市)は昨年度、専門職「アドミッション・オフィサー」によるAO入試改革に乗り出した。「育成型入試」と銘打った新たな入試は、年2回実施される。秋からのⅡ期では、受験生が9月中旬~10月末、ウェブか通常の講義を受けてリポートを提出。その後、アドミッション・オフィサーと大学で約30分間面談する。
 オフィサーは「学びたいことは?」「どこが自分に合うと思った?」と質問し、志望学部・学科がふさわしいかのマッチングを図る。結果は高校ヘフィードバック。受験生と担任らに進路の検討材料にしてもらう。
 その上で11月下旬~12月上旬に出願を受け付ける。12月中旬に行われる試験では、基礎テストと面接、プレンゼンテーションなどを経て合否判定を出す。
 九産大が改革にかじを切った背景には、AO入試による入学者の退学率の高さがある。2017年度は全学平均2.8%に対し、AO入試入学者は6.4%だった。

 「入ってから学部・学科が合わなかったという事態を避けるためにも、本人の特性や目標を引き出し、いかにマッチングさせるかが重要。我々の責任は大きいです」とアドミッション・オフィサーの一ノ瀬大一学生係長は言う。育成型入試を始めた昨年度の退学率は2.7%に下がった。
 もう一つの改革の柱は、教員だけだった入試の選考過程に一般職員も加わったことだ。九産大には一ノ瀬さんを含め14人のアドミッション・オフィサーがいる。このうち教員は1人。いずれも育成型の導入と同時に認定された。
 それぞれ学外の専門家の講習を受け、コーチングスキルなどを身につけた上で選ばれた。2年ごとの更新で、専門的なトレーニングを続ける。こうした九産大方式は学外からも注目され、ヒアリングや視察が相次いでいるという。 


 ■ アドミッション・オフィサー
 入試に関する業務を担当する専門的職種。面接や書類選考、合否基準の設定などに関わる。また、高校に関する知識を深め、高校教員とのネットワークを構築したり、進路指導の状況を把握したりする。他大学の入試の動向調査や、総合的な広報戦略も担う。九州大や名古屋大なども育成を進めている。

注)AO入試とは、アメリカの大学の入試担当部門 admission office の略。学力試験ではなく、出願者の高校時代の活動や面接・小論文・推薦状などにより合否を決める入学試験の方法。
 経費節約と効率性を目的にアメリカで制定され、日本では1990年に慶應義塾大学が導入し、各大学に拡がっている。ただし日本の場合は、入学管理局によって試験選抜を行うアメリカの場合とは異なる日本独自の方法となっている。

ミスマッチ防止 人材育成へ連携
 日本でのAO入試は1990年度、慶応大の二つの学部で始まった。
 文部科学省も「脱・知識偏重」を推し進め、2018年度入試では75.4%の大学が実施するまでになった。一方で、ミスマッチによる退学者が相次いだり、AO入試入学者の学力が十分でなかったりすることなどが問題化。
 文科省の「高大接続システム改革会議」は、16年の最終報告で「アドミッション・オフィサーなど多面的・総合的評価による入学者選抜を支える専門人材の職務の確立・育成・配置等に取り組むことが必要」と言及した。

 こうしたなか、大学の枠を超えて人材を育成する動きもある。全学部で推薦・AO入試を導入する大阪大は15年度、文科省の補助金を受けてオックスフォード大や香港大など26大学の入試を調査した。さらに入試査定官を20人以上擁するソウル大と独自のネットワークを構築。入試に関する知識や広報、評価手法など学ぶべき内容をカリキュラム化した「Handai Admission Officer(HAO)プログラム」を開発し、他大学の教職員も含めた育成に乗り出した。17年に初めて開いた研修会は40人の定員が埋まり、キャンセル待ちに。

 「AO入試を通じて多様な学生集団を構成するためには、点数以外で判断できる人材を大学側で確保するべきだ。人が人を評価する難しさがあるからこそ、専門的な職種として必要性は高まるはず」と、阪大高等教育・入試研究開発センター長の川島太津夫特任教授(高等教育)は言う。

 国内外の大学入試改革に詳しい千葉大国際未来教育基幹の大西好宣教授(高等教育)は、面接する側の意識改革を強調する。「限られた時間で人物を評価するのはとても難しい。面接での評価と、入学後の評価の食い違いも指摘されている。推薦書や部活動の報告書など書類を読み込むスキルも上げる必要がある」と指摘した。

(谷辺晃子)


「読解力」続落 日本15位
15歳対象 国際調査   朝日新聞 2019(令和元)年12月4日(1面)
 世界の15歳を対象に3年ごとに3分野の力を調べる学習到達度調査(PISA ピザ)で、日本は2018年の「読解力」の平均点が落ち、順位も前回の8位から15位に下がった。
 コンピューターを使いネット上の多様な文書を読み解く力や、根拠を示して考えをまとめる自由記述形式が弱い。思考力や表現力が伸び悩んでいることを示す結果だ。経済協力開発機構(OECD)が3日、公表した。

 調査は、79の国・地域で約60万人が参加。
 日本からは統計手法に基づいて抽出した183校から高校1年生約6100人が参加。文章や資料などから情報を理解・評価し、考える力を問う「読解力」は前回より12点低い504点(OECD平均487点)で、8位から15位に転落。OECDは、誤差の範囲ではなく、理由のある低下だと分析している。

 PISA(ピザ)
 OECDが2000年から3年ごとに15歳(日本は高1生)を対象に実施。参加国は00年の32カ国から18年に79カ国・地域に増加した。15年以降はコンピューターを使ったテストとなっている。
 日本は03年の調査で読解力の順位が急落。「PISAショック」と呼ばれ、文科省が全国学力調査など「脱ゆとり」政策を進めるきっかけとなった。


デジタル設問 情報精査に課題
 設問は、多様な形式のデジタルテキスト(ウェブサイト、投稿文、電子メールなど)を活用。複数のネット上の情報を読み比べたり、事実か意見かを見定めたりする能力などを問うもので、コンピューター上で選択肢をクリックしたり、文章を打ち込んだりして解答する。

 例えば、 電子レンジの安全性を確かめる問題では、必要な情報が載っているウェブサイトを推測し、 探し出す問いの正答率が 56.1% (OECD平均59.2%)。製造企業の宣伝サイトとネット上の雑誌記事を比べて情報の質や信憑性を評価する問いでは、自分ならどうするか根拠を示して説明する自由記述形式の正答率が8.9%(同27.0%)と低迷した。日本の読解力は09年、12年の調査で順位が上がったが、前回の15年に再び低下に転じた。

 文部科学省は「複合的な要因」とした上で、日本の生徒がコンピューターを使った解答に不慣れな点や、SNSなどの普及で長文に触れる機会が減っている点などを挙げ、「言語環境が急速に変わってきている」としている。日本は授業(国語、数学、理科)でデジタル機器を利用する時間がOECD加盟国中で最も短く、宿題にコンピューターを使う割合も3.0%(同22.2%)で最下位だった。
 一方、3分野のうち「科学的リテラシー」は527点(同489点)で、同5位から6位となった。いずれも順位は下がったが、トップレベルは維持した。


(矢島大輔)

視/
教育のICT対応遅れ

 読解力で順位が続落したのは2000年→03年→06年の調査以来だ。今回の原因について、文部科学省は「様々な要因が重なり決め手がない」と言う。だが調査方法が前回、紙からコンピューターを使う形になり、測る力が今回、ブログや電子メールなどを対象とした本格的な「デジタル読解力」へと変わった影響は大きい。

 日本の15歳はチャットやゲームで遊んでも、学習に利用する時間は少ない。授業でデジタル機器を使う時間も、OECD加盟国の中で最下位だ。小中高校のパソコンは児童生徒5.4人人に1台、教室の無線LAN整備率も4割しかない。
 さらに重なるのが活用力の弱さだ。選択肢から正解を選べても、大量の情報から必要なものを選び出したり、情報を疑ってみたり、自分の考えを表現したりする力が足りない。その結果、自由記述式の正答率は前回より12ポイント下がっている。
 直視すべきは格差だ。家庭の経済状況を4段階に分けると、最も厳しい層では、読解力の最下位水準の子が4人に1人以上いた。ICT(情報通信技術)への対応の遅れ、活用力の弱さ、そして格差。重要なのは順位ではなく、指摘され続けてきた問題をどう解決するかだ。


(編集委員・氏岡真弓)








《共通テスト 25年から21科目》




科目再編 思考、さらに重点
地理総合 防災問う 情報 身近なデータ分析   朝日新聞 2021(令和3)年3月25日
 2025年からの大学入学共通テストの出題教科・科目を大学入試センターが24日、発表した。22年度から高校で必修化される「情報」「歴史総合」「地理総合」「公共」が新設され、現行の6教科30科目から7教科21科目に再編する。大学入試改革がめざす思考力を問う傾向がより鮮明になった。

図表多数 正答複数の問題も
 共通テストは、大学入試センター試験に代わり今年1月に初めて行われた。25年の共通テストを受ける高3生(今の中2生)は、22年度から導入される新学習指導要領をもとに学ぶため、出題教科・科目の見直しを検討してきた。科目を新設する一方で、質の高い出題を維持し、作問者の負担や印刷経費を減らすため、現在30ある科目数を「スリム化」した。今後、文部科学省が高校や大学と協議して正式に決定する。

 出題教科は、現行の国語、地理歴史、公民、数学、理科、外国語に、情報が追加された。コンピューターの仕組みやプログラミングなどの問題が出る。地理歴史は、日本と世界の近現代史を扱う歴史総合や、国際協力や防災がテーマの地理総合をベースに、日本史探求や世界史探求、地理探求などと組み合わせる。
 初出題となる情報、歴史総合、地理総合、公共は、センターのホームぺ―ジにサンプル問題が公表された。入試改革の目玉だった記述式問題や英語の「書く」「話す」力を試す問題は盛り込まれなかった。

教育現場
 
「授業以外の学び 必要」 長文や資料多く「大変」
 駿台教育研究所の石原賢一進学情報事業部長は「『大学全入時代』の幅広いレベルの受験生に対応するには、共通テストは主に社会でもいきる力、個別試験は大学側が求める教養を問う、というすみ分けが進むのではないか」と話す。


(編集員・氏岡真弓、宮坂麻子)






大学入試改革 失敗の反省を受け継げ  朝日新聞社説 2021.7.1
 大学入試のあり方について議論してきた文部科学省の有識者会議が提言をまとめた。
 会議は、共通テストで記述式問題や英語の民間試験を活用する構想が頓挫したのを受けて、19年末に設けられた。新学習指導要領で学ぶ最初の学年が受験する25年1月の入試をどうするかが大きな論点だったが、提言は、民間試験、記述式いずれについても「実現は困難であると言わざるを得ない」とした。

 予想された結論だ。現実を見ずに突き進み、受験生を混乱に陥れ、労力と費用を無駄に費やした政治・行政の罪は重い。関わった者すべてが改めて責任の重さをかみしめ、「暴走」を反省しなければならない。
 安倍前首相肝いりの教育再生会議が「1点刻みの合否判定を助長している」などと当時の大学入試センター試験を批判し、新たなテスト方式への切り替えや外部検定試験の利用を唱えたのが、一連の「改革」のきっかけだった。中央教育審議会などがこれを引き継ぎ、今年1月の入試を目指して文科省が案を固めていった。

 ところが内容が明らかになるにつれ、高校や大学から、地域や家庭環境による受験機会の格差が広がる、公正な採点が期待できないといった疑問の声が次々とあがった。それらを解消できないまま、萩生田光一文科相の「身の丈」発言が飛び出し、断念に追いこまれた。
 今回の提言は、文章を書く力や英語の「話す」技能をはかる意義そのものは認めている。各大学の個別試験で適切に取り入れられるよう、国もサポートしてもらいたい。

 もうひとつ提言で注目すべきは、今後の入試改革に関する議論の進め方を示したことだ。
 政治家が主導して理念先行でひた走り、現場からの数々の疑問を無視して事態を深刻化させた経緯を踏まえ、「実務的な実現可能性を常に確認し、課題の解消が難しい場合は、工程の見直し、他の方策の検討、理念までさかのぼっての再検討など柔軟な姿勢で臨む」「慎重な立場の者の意見や当事者の懸念も考慮する」などとした。どれも当然の指摘だ。

 よくあるお手盛りの審議会と違って、はっきりものを言える委員を選び、当局による誘導を控えた結果といえる。議論は時に紛糾し、論点は拡散したが、全国の大学にアンケートをとり、高校生を含む様々な立場の人から話を聞いたうえで、結論をまとめた手法は評価できる。
 失った信頼の回復には、こうした失敗の真摯な総括と予定調和を排した議論が欠かせない。他の会議にも同様の姿勢を広げることが良い成果につながる。








大学入試センター山本広基理事長に聞く》

朝日新聞 2022(令和4)年5月28日


 31年続いた大学入試センター試験が昨年、大学入学共通テストへと大きく変わった。今春、大学入試センター理事長を退いた山本広基(71)の歴代最長となる9年の在任期間は、この入試改革の歩みと重なる。記述式問題の導入と英語民間試験活用の決定から頓挫、コロナ下で昨年実施された第1回共通テスト、今年の共通テストでの問題流出事件に至るまで、山本氏は何をみつめ、考えたのか。取材に語った。

 やまもと・ひろき 1947年、大阪府生まれ。74年、島根大大学院農学研究科修士課程修了。農学博士。同大生物資源科学部長などを経て、2009年4月~12年3月に同大学長。13年4月から22年3月まで、大学入試センター理事長を務めた。
  
英語民間試験・記述式見送り
専門家軽んじ 実現性検証せず  朝日新聞 2022(令和4)年5月28日
 2013年6月6日の朝です。新聞を見るなり、何だ、これはと思いました。横見出しでバーンと「センター試験廃止へ」。職員に聞いても、全然知らないと言うんです。
 日本経済新聞が同日、安倍政権の「教育再生実行会議」の検討内容を報じた。その4カ月後の同会議の提言を受け、文部科学相の諮問機関・中央教育審議会が14年末に答申を出し、センター試験の後継テストに記述式問題を導入し、英語民間試験を活用することを盛り込んだ。
 こんなの、どうやってやるのかと思っていました。中教審の答申を具体化するために文科省の有識者会議が始まったのが翌15年。私も委員に入りました。議論のなかで試験の目玉として前面に出てきたのが、英語民間試験と記述式でした。

 マークシートだから1週間くらいで採点できるが、記述式だと短期間ではできない。採点のぶれをどれだけ減らせるか。自己採点ができない問題はどうするか。そんな議論をしているときに、どちらも中止する話が出てきた。
 19年10月、萩生田光一文科相(当時)が報道番組で、民間試験に絡んで「身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負してがんばってもらえば」と述べ。民間試験をめぐっては当時、地域や家庭環境によって受験機会に格差があると指摘されており、発言を機に批判が高まって入試改革の「目玉」が大きく揺らいだ。

 萩生田大臣と国会内で会い、民間試験活用について、ちゃんとできるか聞かれました。「地方の試験場について、うちからはなるべく増やしてほしいと言っていますが、各試験団体がやることです」などと伝えました。民間試験をやめると私が聞いたのは文科省からで、発表の前日か前々日のことでした。記述式も、見送り発表の前に、自己採点の結果がセンターによる採点とぶれるなどの問題点を伝えていました。
 民間試験と記述式を見送ったのは英断だったと思います。理想は描いても実現できるかという検証ができていなかった。制度設計の専門家や方針に批判的な研究者の声を軽んじていた。

問題流出 電波遮断なら1万室■入試のための教育、ではない
 混乱を経て行われた初の共通テストは、コロナ禍のもとで実施されることに。2回目の今年は、社会に衝撃を与えた問題流出が起きた。女子学生が上着の袖に隠したスマホで「世界史B」の問題を撮り、事前に依頼していた東大生らに転送し、解かせていた。
 初の共通テストは1月中旬と下旬、2月中旬の3回にわたって実施する対応をとることになりました。文科省とのやり取りで困ったのは試験問題。「問題を用意できない」と話をした。

 センターは本試験と追試分しか問題を作っていません。どうするか。「緊急対応問題というのが、ないこともないけれども」と伝えました。緊急対応問題というのは、通常の試験問題が事前に漏洩したり、輸送中の事故で問題冊子が散逸したりしたときに使うもので、普段は厳重に保管し、外に出たことはなかった。前回の学習指導要領改訂に伴って作った緊急対応問題を残しており、ついにこれを出すことになりました。

 今年の問題流出は、いくら監督を増やしても見抜けない、それくらい凝った仕掛けでした。対策として、スマホの電波を遮断する機器もあります。個人的に試算したところ、導入すれば1室あたりの費用は100万円。全国の会場は約1万室あるので100億円かかる。そこまでかけることに社会的な合意が得られるかは疑問です。

 25年の共通テストからは新科目「情報Ⅰ」が追加される。今後の共通テストはどうなるのか。
 情報教育の狙いは何か、という本質をとらまえた出題をやっていく必要があると思います。
 国立大学協会が1月、全国立大が一般選抜で、情報Ⅰを原則として課す方針を決めました。それを受けて東大が早速、全受験生に課すと発表しました。ただ情報Ⅰに限らないことですが、入試に出るから教育に力を入れる、勉強するという考えは大きな間違いです。また、「入試が変われば日本の教育が変わる」という考えも根強い。ですが、大学入試のために高校までの教育があるのではない、ということは強調しておきたいと思います。

(聞き手=氏岡真弓、桑原紀彦)






ひらく
日本の大学

朝日新聞・河合塾共同調査




「ひらく 日本の大学」
 
朝日新聞と河合塾が共同で、2011年から全国の大学(大学院大学、通信制のみの大学は除く)を対象に実施。今年の調査は6~8月に777大学を対象に行い、651大学(84%)から回答を得た。

 
多様な学生求め 早まる入試 
 総合型・学校推薦型選抜「増やす」3割
  受験生早期確保の狙いも  
朝日新聞 2022(令和4)年10月10日

 年明けの試験に向けて、お正月もクリスマスも返上して勉強――。大学入試のそんなイメージがますます崩れそうだ。今後10年の間に、高校3年の12月までに行われる総合型選抜(旧A O入試)や学校推薦型選抜(旧推薦入試)の募集人員を「増やす方向」の大学が3割にのぼることが、朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」でわかった。学生の多様化をはかるとともに、少子化が進むなか、早めに学生を確保したい大学の現状がある。   (編集委員・増谷文生) 







 高校の教科書が変わる 「探究学習」を重視











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