障害(者)観の変化と障害者基本法
「心身障害者対策基本法」から
「障害者基本法」へ
2024.1.27
1970(昭和45)年に障害者に関する施策の基本となる法律として 心身障害者対策基本法 が制定されました。この法律はその後、「国際障害者年(1981年)」、「国連・障害者の十年(1983~1992年)」などを契機とする国際的な障害(者)観の変化の流れを受けて1993(平成5)年に、障害者基本法に改正、改称されました。
障害者基本法は、2004(平成16)年にも改正され、さらに2011(平成23)年の改正では、2006(平成18)年に、国連で「障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)」が採択されたことが大きく関係しています。
日本も、障害者の権利条約の批准に向けて障害者基本法の改正をはじめとする国内法制度の整備が進んだ意義は大きいと思います。
今後、障害者権利条約の締約国となった日本の教育や福祉、障害者の就労や雇用などに関する諸施策がどのように進展していくのか、その動向を注視することがとても大切だと思います。
心身障害者対策基本法の
制定について
心身障害者対策基本法から
障害者基本法へ
改正のポイント
障害者権利条約の批准と
国内法の整備
心身障害者対策基本法の
制定について
日本の障害者に関する総合的な施策の基盤が整うのは、1970(昭和45)年に「心身障害者対策基本法」が制定されてからのことです。
それまでは、1949(昭和24)年に身体障害者福祉法が制定され、1960(昭和35)年に精神薄弱者福祉法(現在の知的障害者福祉法)が制定されるなど、障害者に関する諸施策が講じられるようにはなったが、施策に一貫性や総合性がなく、そうした各省庁が所管する諸施策の連携調整がなされていなかったことから、障害の予防や医療、訓練、保護、教育、雇用の促進、年金の支給等の諸施策の基本となる事項を定め、その総合的な対応を図ることが必要となって制定されたのが心身障害者対策基本法です。
心身障害者対策基本法が制定された1970(昭和45)年は、大阪で国際万国博覧会が開催され、「福祉なくして成長なし」という政治スローガンが掲げられ、高度経済成長下で公害問題が悪化していた時期でした。この法律が制定された意義として、国及び地方公共団体の責務を明確にしたこと、「心身障害者」の定義づけをしたこと、調整機関として国(総理府=現在の内閣府)に中央心身障害者対策協議会、都道府県・指定都市に地方心身障害者対策協議会を設置したこと、などが重要です。
心身障害者対策基本法は、障害者関係の諸施策の法制度上の基本となる法律として位置づけられるものですが、制定当初の障害についての規定は、心身の機能や形態面に着目した障害の捉え方であり、精神薄弱(知的障害のこと)は法の対象に含めていましたが、精神障害は法の対象に含めていませんでした。
また、法律名にあるように障害者を「対策」の対象にしていることや、条文にある「(尊厳にふさわしい)処遇」など、対策や処遇という表現や、本人や家族に「自立に努めなければならない」と努力義務を課したことなどが人権問題との関連で問題視されました。
心身障害者対策基本法
典拠:衆議院HP法律第八十四号(昭四五・五・二一)(shugiin.go.jp)
目次
第一章 総則(第一条―第八条)
第二章 心身障害の発生の予防に関する基本的施策(第九条)
第三章 心身障害者の福祉に関する基本的施策(第十条―第二十六条)
第四章 心身障害者対策協議会(第二十七条―第三十条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、心身障害者対策に関する国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、心身障者の発生の予防に関する施策及び医療、訓練、保護、教育、雇用の促進、年金の支給等の心身障害者の福祉に関する施策の基本となる事項を定め、もつて心身障害者対策の総合的推進を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「心身障害者」とは、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害、音声機能障害若しくは言語機能障害、心臓機能障害、呼吸器機能障害等の固定的臓器機能障害又は精神薄弱等の精神的欠陥(以下「心身障害」と総称する。)があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。
(個人の尊厳)
第三条 すべて心身障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものとする。
(国及び地方公共団体の責務)
第四条 国及び地方公共団体は、心身障害の発生を予防し、及び心身障害者の福祉を増進する責務を有する。
(国民の責務)
第五条 国民は、社会連帯の理念に基づき、心身障害者の福祉の増進に協力するよう努めなければならない。
(自立への努力)
第六条 心身障害者は、その有する能力を活用することにより、進んで社会経済活動に参与するように努めなければならない。
2 心身障害者の家庭にあつては、心身障害者の自立の促進に努めなければならない。
(施策の基本方針)
第七条 心身障害者の福祉に関する施策は、心身障害者の年齢並びに心身障害の種別及び程度に応じて、かつ、有機的連けいの下に総合的に、策定され、及び実施されなければならない。
(法制上の措置等)
第八条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない。
第二章 心身障害の発生の予防に関する
基本的施策
第九条 国及び地方公共団体は、心身障害の発生の原因及びその予防に関する調査研究を促進しなければならない。
2 国及び地方公共団体は、心身障害の発生の予防のため、必要な知識の普及、母子保健対策の強化、心身障害の原因となる傷病の早期発見及び早期治療の推進その他必要な施策を講じなければならない。
第三章 心身障害者の福祉に関する
基本的施策
(医療、保護等)
第十条 国及び地方公共団体は、心身障害者が生活機能を回復し、又は取得するために必要な医療の給付を行ない、及び心身障害者の障害を補うために必要な補装具その他の用具の給付を行なうよう必要な施策を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、心身障害者の年齢並びに心身障害の種別及び程度に応じ、施設に収容し、又は通わせて、適切な保護、医療、生活指導その他の指導、機能回復訓練その他の訓練又は授産を行なうよう必要な施策を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、前二項に規定する医療、指導、訓練及び補装具その他の用具の研究及び開発を促進しなければならない。
(重度心身障害者の保護等)
第十一条 国及び地方公共団体は、重度の心身障害があり、自立することの著しく困難な心身障害者について、終生にわたり必要な保護等を行なうよう努めなければならない。
(教育)
第十二条 国及び地方公共団体は、心身障害者がその年齢、能力並びに心身障害の種別及び程度に応じ、充分な教育が受けられるようにするため、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、心身障害者の教育に関する調査研究を促進しなければならない。
(訪問指導等)
第十三条 国及び地方公共団体は、心身障害者の家庭を訪問する等の方法により必要な指導、訓練又は日常生活上の世話が行なわれるよう必要な施策を講じなければならない。
(職業指導等)
第十四条 国及び地方公共団体は、心身障害者がその能力に応じて適当な職業に従事することができるようにするため、職業指導、職業訓練及び職業紹介の実施その他必要な施策を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、心身障害者に適した職種及び職域に関する調査研究を促進しなければならない。
(雇用の促進)
第十五条 国及び地方公共団体は、心身障害者の雇用を促進するため、心身障害者に適した職種又は職域について心身障害者の優先雇用の施策を講じ、及び心身障害者が雇用されるのに伴い必要となる施設又は設備の整備等の助成その他必要な施策を講じなければならない。
(判定及び相談)
第十六条 国及び地方公共団体は、心身障害者に関する各種の判定及び相談業務が総合的に行なわれ、かつ、その制度が広く利用されるよう必要な施策を講じなければならない。
(措置後の指導助言等)
第十七条 国及び地方公共団体は、心身障害者が心身障害者の福祉に関する施策に基づく各種の措置を受けた後日常生活又は社会生活を円滑に営むことができるよう指導助言をする等必要な施策を講じなければならない。
(施設の整備)
第十八条 国及び地方公共団体は、第十条第二項及び第三項、第十二条並びに第十四条の規定による施策を実施するために必要な施設を整備するよう必要な措置を講じなければならない。
2 前項の施設の整備に当たつては、同項の各規定による施策が有機的かつ総合的に行なわれるよう必要な配慮がなされなければならない。
(専門的技術職員等の確保)
第十九条 前条第一項の施設には、必要な員数の専門的技術職員、教職員その他の専門的知識又は技能を有する職員が配置されなければならない。
2 国及び地方公共団体は、前項に規定する者その他心身障害者の福祉に関する業務に従事する者及び第十条第一項に規定する用具に関する専門的技術者の養成及び訓練に努めなければならない。
(年金等)
第二十条 国及び地方公共団体は、心身障害者の生活の安定に資するため、年金、手当等の制度に関し必要な施策を講じなければならない。
(資金の貸付け等)
第二十一条 国及び地方公共団体は、心身障害者に対し、事業の開始、就職、これらのために必要な知識技能の修得等を援助するため、必要な資金の貸付け、手当の支給その他必要な施策を講じなければならない。
(住宅の確保等)
第二十二条 国及び地方公共団体は、心身障害者の生活の安定を図るため、心身障害者のための住宅を確保し、及び心身障害者の日常生活に適するような住宅の整備を促進するよう必要な施策を講じなければならない。
2 国及び地方公共団体は、心身障害者による交通施設その他の公共的施設の利用の便宜を図るため、施設の構造、設備の整備等について適切な配慮がなされるよう必要な施策を講じなければならない。
(経済的負担の軽減)
第二十三条 国及び地方公共団体は、心身障害者及びこれを扶養する者の経済的負担の軽減を図り、又は心身障害者の自立の促進を図るため、税制上の措置、公共的施設の利用料等の減免その他必要な施策を講じなければならない。
2 日本国有鉄道は、心身障害者及びこれを扶養する者の経済的負担の軽減を図り、又は心身障害者の自立の促進を図るため、特に必要があると認めるときは、心身障害者及びその介護者の運賃等の軽減について配慮するよう努めなければならない。
(施策に対する配慮)
第二十四条 心身障害者の福祉に関する施策の策定及び実施に当たつては、心身障害者の父母その他心身障害者の養護に当たる者がその死後における心身障害者の生活について懸念することのないよう特に配慮がなされなければならない。
(文化的諸条件の整備等)
第二十五条 国及び地方公共団体は、心身障害者の文化的意欲を満たし、若しくは心身障害者に文化的意欲を起こさせ、又は心身障害者が自主的かつ積極的にレクリエーションの活動をし、若しくはスポーツを行なうことができるようにするため、施設、設備その他の諸条件の整備、文化、スポーツ等に関する活動の助成その他必要な施策を講じなければならない。
(国民の理解)
第二十六条 国及び地方公共団体は、国民が心身障害者について正しい理解を深めるよう必要な施策を講じなければならない。
第四章 心身障害者対策協議会
(中央心身障害者対策協議会)
第二十七条 総理府に、附属機関として、中央心身障害者対策協議会(以下「中央協議会」という。)を置く。
2 中央協議会は、次の各号に掲げる事務をつかさどる。
一 心身障害者に関する基本的かつ総合的な施策の樹立について必要な事項を調査審議すること。
二 心身障害者に関する施策の推進について必要な関係行政機関相互の連絡調整を要するものに関する基本的事項を調査審議すること。
3 中央協議会は、前項に規定する事項に関し、内閣総理大臣又は関係各大臣に意見を述べることができる。
第二十八条 中央協議会は、委員二十人以内で組織する。
2 中央協議会の委員は、関係行政機関の職員及び学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
3 中央協議会に、専門の事項を調査審議させるため、専門委員を置くことができる。
4 中央協議会の専門委員は、学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
5 中央協議会の専門委員は、当該専門の事項に関する調査審議が終了したときは、解任されるものとする。
6 中央協議会の委員及び専門委員は、非常勤とする。
第二十九条 前二条に定めるもののほか、中央協議会に関し必要な事項は、政令で定める。
(地方心身障害者対策協議会)
第三十条 都道府県(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)を含む。以下同じ。)に、当該都道府県における心身障害者に関する施策の推進について必要な関係行政機関相互の連絡調整を図るため、地方心身障害者対策協議会を置く。
2 都道府県に置かれる地方心身障害者対策協議会及びその委員に関し必要な事項は、条例で定める。
3 市町村(指定都市を除く。)に、当該市町村における心身障害者に関する施策の推進について必要な関係行政機関相互の連絡調整を図るため、条例の定めるところにより、地方心身障害者対策協議会を置くことができる。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
(総理府設置法の一部改正)
2 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。
第十五条第一項の表中社会保障制度審議会の項の次に次のように加える。
中央心身障害者対策協議会 |
心身障害者対策基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の規定によりその権限に属せしめられた事項を行なうこと。 |
心身障害者対策基本法から
障害者基本法へ
心身障害者対策基本法は、「国際障害者年(1981年)」、「国連・障害者の十年(1983~1992年)」などを契機とする国際的な障害(者)観の変化の流れを受けて1993(平成5)年に、「障害者基本法」に改正、改称されますが、2004(平成16)年にも改正され、さらに2011(平成23)年の改正では、2006(平成18)年に国連で「障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)」が採択されたことが大きく関係する改正があり、現在に至っています。
改正のポイント
1993(平成5)年の改正
・「心身障害者対策基本法」から「障害者基本法」に法律名を改称
・精神障害者を障害者として位置づける
・12月9日を「障害者の日」と定める
・「障害者基本計画」の策定を国に義務づけ、都道府県、市町村に「障害者基本計画」の策定を努力義務として規定
2004(平成16)年の改正
・障害者の自立と社会参加の支援等の推進を明記
・障害者差別の禁止を明記
・障害者の日を「障害者週間(12月3日~9日)に改正
・都道府県と市町村に「障害者基本計画」の策定を義務化
2011(平成23)年の改正
・障害者の定義に「発達障害」「その他の心身の機能の障害」「社会的障壁」を追加
・「共生社会」の実現に関する事項の追加
・「差別の禁止」を第4条に集約し、「合理的配慮」の考え方を導入
障害者権利条約の批准と
国内法の整備
2006(平成18)年に、障害者権利条約が国連で採択されました。日本もこの条約に2007(平成19)年に外務大臣が署名し、2013(平成25)年12月に批准が国会で正式に承認され、批准書を国連に寄託し、締約国となり、本条約が日本で発効したのは2014(平成26)年2月からです。
条約に署名するということは、条約に賛同し、批准の意思があることを表明する行為です。
条約の批准とは、正式に国として条約に同意することです。
したがって批准には国内法令との整合性を図る必要があるわけです。
日本国憲法
〔憲法の最高法規性、条約及び国際法規の遵守〕
第98条 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は
一部は、その効力を有しない。
② 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
日本の障害者施策と「障害者権利条約」の
批准について
障害(者)観の変遷と障害(者)についての
日本の法定義
ⓒ2012 日本の教育と福祉を考える