優生思想と強制不妊手術の実態
旧優生保護法と強制不妊手術を巡る問題


2022.3.20/2022.10.1/2023.1.27/2023.11.4/2024.3.30






優生保護法:優生学上の見地から不良な子孫の出生を防止し、母体保護を目的に1948(昭和23)年に制定された法律。1996(平成8)年に優生思想に基づく差別的な規定を削除し、「母体保護法」に改正。
 
優生手術:優生学上の見地からいう、不妊手術のこと。

優生学:人類の遺伝的素質の悪化を防ぎ改善をはかることを目的とする学問。1883年イギリスの遺伝学者ゴールトンが提唱。

優生:悪質の遺伝形質を淘汰し、優良なものを保存すること。

 

旧優生保護法と強制不妊手術の実態
障害者らが国に損害賠償請求
強制不妊訴訟の争点と判決
国に賠償を命じた判決と被害者救済の一時金支給法について 







旧優生保護法と強制不妊手術の実態
1948年に制定された旧優生保護法に基づく強制不妊手術の実態が明らかに

朝日新聞をもとに作成
《欧米から広まった優生思想と強制不妊手術》
《強制不妊手術を巡る経緯と被害者への対応》
《朝日新聞の特集》

・強制不妊手術はなぜ実施されたか
・法成立の経緯や実態、救済への道






《欧米から広まった優生思想と強制不妊手術》


朝日新聞 2018(平成30)年4月18日 
 かつての優生保護法のもと、障害者らが不妊手術を強制された問題で、厚生労働省は17日、実態解明のため全都道府県に相談窓口をつくることを決めた。議員立法による法制定から70年を経て、解決へ向け本格的に動き出す。

強制不妊欧米から広まる
 「不良な子孫の出生を防止する」とする差別的な旧優生保護法。背景の「優生学」は1883年にイギリスの学者フランシス・ゴルトンが提唱したものが発祥とされる。人の才能は遺伝し、人為的な選択で優れたものが生まれる、という理論。この思想は各国に広まった。
 アメリカでは断種法が1907年から実施され、先住民や精神障害者らが不妊手術を強いられた。ナチスドイツは「遺伝病子孫予防法」を33年に制定。
 日本でも40年、国民優生法が制定されたが、手術の強制は認めていなかった。 優生保護法が衆参両院で全会一致で可決され、成立したのは新憲法施行後の48年。議員立法だった。
 当時は第1次ベビーブームの渦中にあった。法の成立を主導した医学博士の谷口弥三郎参院議員は52年発行の自著で政治的に人口調整をする必要性を強調。 「全然思慮をめぐらさず、本能のままに出産するとすれば、(中略)優秀者が減少」するとした。
 法の検討時に、強制は「基本的人権」を侵さないか議論されたが、「公益上の目的」で「憲法の精神に背かない」と結論づけられた。

(貞国聖子、国吉美香)

手術増 国が催促
 
強制不妊手術は、当初は遺伝性があるとされた病気や障害のある人のみが対象だった。医師が診断し手術が必要と認めたら、都道府県に審査を申請しなければならない、とされた。 医師らで構成する都道府県の審査会が、手術の適否を判断し、費用は国が負担した。52年に遺伝性ではない精神障害や知的障害にも対象が広がった。
 国は手術を積極的に推進した。厚生省(当時)は49年、やむを得ない場合は体を拘束したり、だましたりして手術を受けさせることも許されるとする局長の通知を都道府県に送った。手術の件数増を催促する文書が送られたのは57年。手術数が「予算上の件数を下廻っている」と指摘。都道府県によって件数が極めて不均衡だ、と一覧表で示し、「啓蒙活動とご努力により成績を向上せしめ得られる」などとした。

 愛知県は朝日新聞の情報公開請求に対し17日、66~71年度に開かれた県優生保護審査会の資料を開示した。男女60人について検討され、55人が手術を認める「適当」とされた。 68年に提出された、知的障害と診断された13歳の少女の申請書には「年頃になって来ましたので母親としてしんぱいでならないからお願い致します」と母親の要望が記されていた。この少女に関する別の文書には、住まいが工場地帯で男性労働者が多いとして「誘惑されたりするので、過失防止のため」との記載もあった。
 70年前後から障害者らが抗議の声を上げ、差別的な法律との批判が高まったが、96年に「母体保護法」に改まるまで、統計に残るだけで1万6千人以上が手術を強いられた。

(田中陽子、保坂知晃)


国策の誤り 救済策は
 
与党ワーキングチームは議員立法による救済策を検討。被害の実態を把握するため、厚生労働省に調査を求めている。朝日新聞の各都道府県への取材では、手術を強制されたとみられる人のうち個人を特定できる資料が残っているのは2割程度にすぎない。救済策は、これまで国の政策の誤りにより被害を受けた人たちの事例をもとに検討されるとみられる。

 ハンセン病患者は1907年から96年までの間、らい予防法などにより隔離され、堕胎の手術を強いられるなどした。小泉純一郎首相(当時)は2001年、一審敗訴を受け、控訴断念を決定。首相官邸で原告団と面会し「心から反省しなければならない」と、国の賠償責任を認めた。その後、元患者らに補償金を支給する超党派による議員立法が成立した。
 薬害C型肝炎訴訟では、患者が国などに損害賠償を求めて提訴。4地裁で原告が勝訴。07年に大阪高裁が和解勧告を出したことを受け、福田康夫首相(当時)が救済を目指す方針を表明。投与が確認され、国と和解した原告に給付金を支払う救済法が翌年成立した。

海外では補償
 海外でも優生思想に基づく強制的な不妊手術に対し国が補償している。ナチスの「遺伝病子孫予防法」により30数万人が手術を受けたとされるドイツでは、1980年に被害者への補償が決まった。
 34年に断種法が制定されたスウェーデンでは被害者は計約6万3千人に上る。政府は被害者に謝罪。議会が99年、救済法を成立させ、1人あたり約200万円を支払うことが決まった。


(浜田知宏)




《強制不妊手術を巡る経緯と被害者への対応》



強制不妊手術を巡る経営

 強制不妊手術を巡る経緯 
1934
 ドイツで障害者らの強制不妊手術をする「遺伝病子孫予防法(断種法)」が施行
   40  日本で「国民優生法」が制定。戦後、海外からの引き上げや出産ブームで人口が急増し食糧不足に
 48  谷口弥三郎(のちに日本医師会長)ら超党派議員の議員立法で「優生保護法」が成立
 49  厚生省(当時)がやむを得ない事情があれば体を拘束したりだましたりしていいと通知
 52  法改正で遺伝性でない精神障害や知的障害のある人へ対象拡大。 その後、手術件数がピークになる
 57  厚生省が都道府県に強制不妊手術の件数増を催促する文書を送付
 72  胎児の障害を理由に中絶を認める優生保護法改正法案が国会に提出される。 優生思想や同法に批判が高まる
 96  優生保護法が「母体保護法」へ改正される。 「不良な子孫の出生防止」に関わる条項を削除
 97  市民団体が「優生手術に対する謝罪を求める会(求める会)」結成
 98 国連の人権委員会が被害者への補償などを日本政府に勧告 
99  求める会が厚生省に対し実態調査を求める。 同省は「合法だった」と調査せず
2004 参議院委員会で強制不妊手術問題への対応を問われた厚生労働相「今後考えていきたい」旨を述べる
 2015  宮城県の70代女性が、日弁連に人権救済申し立て
 16  国連女子差別撤廃委員会が法的救済を日本政府に勧告
17
 日弁連が国に補償を求める意見書
   18 宮城県の60代女性が国賠提訴
19  被害者に一時金を支払う救済法が成立。安倍晋三首相がおわびの談話を発表
20  国会が立法経緯や被害実態の調査を開始

(朝日新聞2018年4月18日・7月2日/2020年6月26日の記事をもとに作成)




◆強制不妊「深い反省とおわびを」
医学会連合の検討会 医学界の責任認める報告  朝日新聞 2020(令和2)年6月26日

 優生保護法(1948~96年)の下で障害のある人らが不妊手術を強いられた問題で、日本医学会連合の検討会(座長・市川家國信州大特任教授)は25日、医学・医療関係者が「問題を放置してきたことは誠に遺憾」として責任を認める報告書をまとめ、被害者へのおわびを求めた。ただ、内容は新事実に乏しく、さらなる実態解明が必要だ。
 日本医学会連合は136の学会が加盟する国内最大の医療系の学術団体。報告書を受け取った門田(もんでん)守人会長は「二度と類似したことが起きないようにするのが我々の責務だ」と述べた。

 同法は「優生思想」に基づき、医学界も制定や運用に深く関わった。戦後の人口急増や食糧難で出産を制限する動きが広がる中、遺伝的に優れた人が出産を控え、結果劣る人が増えるとする「逆淘汰」への懸念が強かったことが背景にある。

医学会連合、対応示さず
 報告書を受け取った同連合は具体的な対応はこの日は示さず、門田会長は「我々は学会の集合体であり、我が事としてそれぞれの学会が考えていく。誰かが白黒言って終わりというものじゃない」と述べるにとどめた。

 優生保護法への関与を検証する動きは、ほかの組織でも進む。優生思想の啓発を担った日本民族衛生学会の後身、日本健康学会は19年8月に公表した中間報告で「根拠のない優劣の判断に基づいて、多くの人が享受できたはずの自由と権利を奪えると考えた点は厳しく批判されるべきもの」と述べた。日本精神神経学会も検証を始めた。
 一方、産科医らでつくる日本産婦人科医会は、検証の予定はないという。前身の日本母性保護医協会の指定医が強制不妊手術の申請や実施に関わった。手術の適否を判断する都道府県の審査会にも産科医が参加していた。


(市野塊、後藤一也、阿部彰芳)







《朝日新聞の特集》
強制不妊手術はなぜ実施されたのか
法成立の経緯や実態、救済への道を全8回で考える



 食糧難解消へ産児制限  朝日新聞 2018(平成30)年5月16日 
 「不良な子孫の出生を防ぐ」ことを目的とした優生保護法。差別的な強制不妊手術も認めたこの法律は、どのような議論を経て成立したのか。1947年、最初に法案を提出したのは産児調節運動家の加藤シヅエ衆院議員ら社会党議員3人。 戦中に定められた国民優生法では実質的に強制されていなかった障害者の不妊手術の強制力を強める法律だった。
 当時は兵隊が戦地から復員し、第1次ベビーブームのさなかだった。年間の出生数は現在の2.5倍にあたる270万人。食料難の時代でもあった。また「優生学」が否定されていなかった。
 最初の案は、女性の権利を守る立場から、中絶を認めるなど家族計画を重視することに主眼を置いたものだった。加藤議員は国会で、当時の国民優生法について「軍国主義的な産めよ殖やせよの精神によってできた法律」と批判。「出産を強要することを目的とし、婦人たちは苦しんでいる」と訴え、「文化国家は人口の問題に対して一定の計画性を持つことは絶対に必要」と主張した。
92年まで手術1万6千人
 法制定後、強制手術数を伸ばそうとする動きが強まる。52年、遺伝性以外にも対象を広げる法改正。70年前後から障害者らが抗議の声をあげ、96年、母体保護法への改正で強制手術に関わる条項は削除された。

(貞国聖子


 どのような制度で実施されたのか? 朝日新聞 2018(平成30)年5月17日
 優生保護法(1948~96年)が定めた不妊手術は、2通りあった。本人の同意が必要なものと、不要なものだ。
 同意が必要な不妊手術は3条で定めた。本人や配偶者が遺伝性とされた病気、ハンセン病などの場合のほか、妊娠出産が健康を損なうおそれがある人も対象にした。
 本人の同意が不要なものは4条と12条で定め、これらが「強制不妊手術」だ。4条は遺伝性とされた病気や障害のある人が対象だった。医師が診断し、遺伝を防ぐために手術が必要と認められたら、都道府県に審査を申請しなければならない。
 法は対象になる病名や障害を一覧で示し、手術費用を国が負担すると定めた。12条は遺伝性以外の精神障害や知的障害が対象で、医師が申請する際に保護者の同意が必要だった。

 強制手術を本人が拒否した場合、強行できるのか――。厚生省(当時)の照会に対し、法務府(同)が49年に回答している。憲法が保障する基本的人権の制限を伴うと認めつつ、「不良な子孫の出生を防ぐ」優生保護法の目的などを理由に、強行できると答えた。
 厚生省は都道府県に対し、やむを得ない限度で身体を拘束したり、だましたりしても許されると通知。57年には手術の件数増を催促する文書を送るなど手術を積極的に進めた。




優生保護法のもとでの不妊手術  厚労省の資料から
 
本人同意は不要(強 制)
 
保護者が同意し審査会が決定
12条
 
 遺伝性以外の精神障害や知的障害  1909人 1万6475人 
審査会が決定
4条
 遺伝性の病気や障害  1万6475人
 


本人が同意   




 
3条 
  ハンセン病   約1500人  約8500人 
 遺伝性の病気や障害など  約7千人
 母体の生命保護に危険を及ぼす恐れなど  約80万人

(田中陽子)


 対象になる人 誰がどう決めたのか?  朝日新聞 2018(平成30)年5月18日
 医師が診断し、必要と判断すれば都道府県の優生保護審査会に申請した。
 手術をするかどうかを決めた審査会の委員は、医師や民生委員、裁判官、検察官、学識経験者などから知事が任命。医師が提出した手術申請書や健康診断書、遺伝調査書をもとに判断した。結果は手術の対象になった本人か保護者、申請した医師に書面で伝えた。手術をする医師を指定し、その医師にも通知した。
 審査会が手術を決めても、異議があれば、本人にや家族は通知を受けた日から2週間以内に国に再審査を申し立てられる仕組みがあった。
申し立てがなければ決定は確定する。
 手術を実施する期限の定めはないが、「できるだけ速やかに実施することが望ましい」とした62年の厚生省(当時)の文書がある。
 厚生労働省によると、再審査に関する資料は国に残っておらず、どのように運用されたかや件数は、わかっていない。

(田中陽子)



 官民あげて推進 医学界も協力   朝日新聞 2018(平成30)年5月19日
 「北海道は全国に先駆けて、『不幸な子どもを産まない運動』を推し進めている」。こんなナレーションで始まる映像が見つかった。1969年に北海道庁が作成した「私たちの道政」というニュース映画だ。 道民を「啓蒙」するためにつくられたとみられ、道内各地の映画館で上映されていた。
 映画は札幌市で開催された「不幸な子どもを産まない婦人大会」の様子を報告。「異常児は本人の不幸であるばかりか、家族にとっても一生の悲劇である」とし、婚約時に指輪に代えて健康診断書の交換を推奨した。さらに「知事も、この悲劇をなくそうと訴えている」と締めくくり、知事自らが旗を振っていたことがわかる。
 強制不妊手術が行政だけではなく、医学界の積極的な協力のもとで進められた証拠も出てきている。

(田之畑仁、伊沢健司)


 形骸化した審査会 件数ノルマも  朝日新聞 2018(平成30)年5月23日
 優生保護法の強制不妊手術は、都道府県の「優生保護審査会」が実施の適否を判断していた。審査会の役割を記した文書には、「都道府県優生保護審査会の審査を要件としたのは(中略)不当に優生手術が行われる恐れがあることも考えられるので、かかるへい害を防止しようという趣旨によるものである」法施行4年後の52年7月、厚生省(現厚生労働省)から都道府県知事に宛てたものだ。人権侵害や乱用を防ぐ「最後のとりで」と位置づけられていた。
 
だが実際には、乱用防止どころか、審査会が「不良な子孫の出生防止」という「国策」遂行の旗を振り、率先して手術件数を増やす「努力」を行っていた。

(田之畑仁、布田一樹)


 新聞はどう報じてきたか?  朝日新聞 2018(平成30)年5月25日
 優生学の潮流は、大正時代には日本でも知られるようになった。東京朝日新聞は「人種改良」という言葉でアメリカの断種法などを紹介。1933年にドイツで断種法が成立してから、日本でも同種の法の制定をめぐる報道が始まった。
 〈『断種法』を制定/悪疾絶滅へ〉(東京朝日33年10月13日付朝刊)
 〈実現するか断種法/民族・血の浄化へ〉(読売38年4月19日付朝刊)
 5回の議員提案を経て、国民優生法は40年、政府提案で成立した。議論の過程では、「精神障害が遺伝するかどうかは定かではない」といった精神科医らの強い反対も報じられたが、報道量は推進論が多数。手術の簡単さや〈費用は一切国家負担〉(朝日)などとする政府の主張を多く紹介した。手術される側の声の報道は、見当たらなかった。
 90年前後には、「生理の介助が大変」などの理由で知的障害者の
子宮が摘出された問題が相次いで報道された。だが、優生保護法で定めた卵管を縛るなどの手術のやり方と違うことが「違法」という批判にとどまり、強制不妊手術そのものを問題視する記事は少なかった。
 96年、優生保護法は母体保護法に改正された。国会での論議はほとんどなく、差別の実態は明かされず、謝罪もなかった。
 障害者らへの強制不妊手術が大きく報道されたのは97年、スウェーデンで強制不妊手術が問題視されてからだ。日本でも、障害者や女性の団体が、厚生労働省に調査や補償を求めた。朝日も〈本人の同意なしの不妊手術/日本でも実態調べて〉(97年9月17日付朝刊)などの記事で伝え、社説で、当事者や家族の苦しみに社会も鈍感だったと書いた。
 だが、国はなかなか動かず、報道も途切れがちに。2015年に、今月提訴した宮城県の女性が日本弁護士連合会に人権救済の申し立てをしてから、法の下に行われた強制不妊手術の非人道性を正面から問う報道が続くようになった。

(河原理子、国吉美香)


 被害者が提訴 救済に高い壁も  朝日新聞 2018(平成30)年5月26日
 「何も知らされないまま人生を奪われた。このまま済ますわけにはいかない」
 不妊手術を強いられた宮城県の70代女性が
、国に補償を求めて提訴し、記者会見でこう訴えた。女性は16歳で手術を受け、子どもを産めないことが元で離婚。1997年ごろから国に謝罪を求めたが、国は「当時は適法」との立場に終始した。女性からの人権救済申し立てを受けた日本弁護士連合会は2017年、国に補償を求める意見書を出した。
 それを知った宮城県の別の被害者が、県に残っていた手術記録を元に、今年1月に全国で初めて提訴。北海道と東京でも70代の男性2人が提訴し、原告は現在4人になった。
 民法は、違法行為から20年の除斥期間が経つと、損害賠償請求権がなくなると定める。4人の原告が手術を受けたのは50年ほど前で、国が除斥期間の適用を主張する可能性がある。これに対し原告側は、04年に国会で坂口力厚生労働相(当時)が被害者への対策を問われ、「今後考えていきたい」と答えたことを重視。調査などに必要な期間を3年とみなし、07年には救済の責任が発生したとして、除斥期間は過ぎていないと訴えている。
 原告が手術を受けたことをどう認定するかも、壁は高い。多くの自治体では手術記録が廃棄され、残っていない。

(山本逸生)


 救済へ動く各党 個人特定に難しさ  朝日新聞 2018(平成30)年5月30日
 2018年1月に60代の女性が国に謝罪と補償を求める訴えを仙台地裁に起こしたのを受け、各党が被害者救済に向け動き出した。3月に超党派議員連盟(議連)が発足。直後に自民・公明の与党ワーキングチーム(WT)も立ち上がった。
 WTは厚生労働省に対し、省内や都道府県、保健所設置市に残された資料の現状確認を指示。調査の回答期限を6月29日に設定した。さらに資料が残っている可能性が高いとして、保健所設置市以外の市町村や医療機関、障害者施設にも資料保全を依頼した。救済策が決まった際に、本人特定のために必要となる可能性があるためだ。
 ただ今回、政治の動きが全容の解明や被害者全員の救済につながるかは不透明だ。個人を特定する資料が残っていないケースが多いためだ。厚労省に残る不妊手術の資料は、都道府県から報告を受けた人数や性別などをまとめたものに過ぎない。

(浜田知宏、貞国聖子)




◆強制不妊914人特定 
   新たな資料発見 なお7割不明   朝日新聞 2018(平成30)年5月28日 

 朝日新聞が今月、2回目の全国調査をした結果、個人を特定できる資料が11都道府県で新たに914人分見つかり、29都道府県で4773人分に増えた。国が把握する手術数1万6475人の約3割に当たるが、7割はなお不明。被害者救済を求め27日、弁護士184人からなる全国弁護団が結成された。








障害者らが国に損害賠償請求
超党派の議員連盟プロジェクトチーム(PT)と与党のワーキングチーム(WT)の救済案


朝日新聞をもとに作成
《旧優生保護法を巡って》
《被害者の救済を巡って》
《被害者救済法案の成立と首相のおわび/課題》

◆強制不妊救済法(一時金支給法) 成立へ





《旧優生保護法を巡って》


朝日新聞 MONDAY解説 2018(平成30)年7月2日
強制不妊手術 相次ぐ提訴  障害者ら被害 どう向き合う生活文化部 田中陽子 
をもとに作成

NEWS
 
旧優生保護法(1948~96年)によって不妊手術を強制された障害者らが、国に損害賠償を、求め、相次いで提訴した。 訴訟で国は争う姿勢を示しているが、超党派の議員連盟や与党のワーキングチームは、来年の通常国会で議員立法による救済法案の提出を目指している。

強制された不妊手術
 1948年に全会一致の議員立法で成立した旧優生保護法では、遺伝性とされた病気や障害、遺伝性以外の精神障害や知的障害のある人について、都道府県の審査会の決定などを条件に、本人の同意なしに、不妊手術をすることを認めた。96年に差別だったとして、同法は母体保護法に改められたが、この間、約2万5千人が病気や障害を理由に不妊手術をされ、うち約1万6千人が強制手術だった。

謝罪・賠償求め 原告7人に

 
「ここまでの道のりを考えると、とても苦しく長かった」。仙台地裁で6月13日に開かれた強制不妊手術の国賠訴訟で、原告の70代女性が訴えた。女性が手術を受けたのは昭和30年代。16歳のときに何も知らないまま不妊手術を受けさせられ、術後、ひどい生理痛に苦しんだ。結婚したが、子どもを産めないことがもとで離婚した。
 1996年に差別だったとして国は法を改正。市民団体「優生手術に対する謝罪を求める会」は翌年、被害を掘り起こすためホットラインを設けた。その初回に相談を寄せたのが、この女性だった。以来20年余り、謝罪を求めてきた。
 「求める会」は、女性団体や障害者団体とともに国際機関にも働きかけた。女性は、県などに強制不妊手術の公文書などの情報開示を求めたが、「記録はない」とされた。「生きているうちに謝罪と補償を」と2015年、日弁連へ人権救済を申し立てた。
 17年、日弁連は国に不妊手術や中絶の被害者への補償を求める意見書を発表。その報道を見て名乗り出た別の被害者は、強制不妊手術を受けたことを示す公文書が見つかり、これをもとに今年1月、全国で初めて提訴した。
 救済を求める世論が高まる中、70代女性も手術を受けたことを宮城県知事が認め、提訴が実現した。全国で立ち上がる被害者が相次ぎ、6月28日までに原告は7人になった。


福祉の名の下に推進
 
戦後、強制不妊手術を認める優生保護法が制定された背景には、人口増による食糧難と、病気などの遺伝を防いで国民の「素質の向上」を図ろうとする優生思想があった。
 厚生省は49年、やむを得ない事情があれば体を拘束したり、だましたりして手術をしてもいいと通知。52年の法改正では、遺伝性以外の精神障害や知的障害も対象に加えた。57年、厚生省は手術の件数増を催促する文書を都道府県に送る。都道府県は件数を競った。福祉の名の下、不妊手術を推進した。民生委員や施設職員、学校の先生が積極的に関わった例もある。
 手術の適否を決める審査会は、「育てられない」「誰の子どもかわからない」といった差別や偏見に基づく理由から、「本人のため」「子供が不幸になる」として手術を認めた。自治体が開示した当時の資料からわかる実態だ。

資料残る人3割のみ
 「当時は合法」との立場に終始していた国は今年3月、ようやく調査を決めた。だがすでに記録の多くが破棄されている。原告のなかにも、記録がなく、手術の証拠を示すため、医師の協力で手術痕の診断書を得て訴訟を起こした人もいる。朝日新聞の調査では、強制不妊手術の被害者のうち個人の特定できる資料が残っているのは約3割だ。
 記録がない人たちをどう救済するか。被害者の掘り起こしは容易ではない。屈辱的な経験を打ち明ける苦痛ははかりしれない。障害が重い人もいる。被害者は、最も声を上げにくい人たちだ。原告側弁護士は「だからこそ補償制度が必要だ。記録がないことを不利益にしてはならない」と話す。



朝日新聞 2018(平成30)年9月7日

◆強制不妊手術3033人特定 
   厚労省、手術2.5万人の一部  (3面)

 厚生労働省は6日、都道府県などが保存していた個人が特定できる資料に関する調査結果を公表した。不妊手術(本人が同意した手術も含む)を受けた約2万5千人のうち、個人名を資料で確認できたのは3033人で、すべて強制手術だった。重複があり得るといい、この数を下回る可能性もある。
 厚労省が国会内で開かれたワーキングチーム(WT)の会合で報告した。調査はWTの意向を受け、厚労省が4~6月、都道府県や保健所設置市など150自治体に依頼し実施した。
 WT座長の田村憲久元厚労相は「把握できている手術件数からすると非常に少なく残念だが、これをもとになるべく多くの人を救済できるように考えていく」と述べ、個人を特定する資料がない人の救済も検討する考えを明らかにした。手術を受けた人のほか個人を特定できたのは、手術を申請した5166人(重複の可能性あり)と、審査で手術を認められた4885人(同)。5月に朝日新聞が都道府県に調査した際、個人が特定できたのは4773人だった。この中には手術を受けた人のほか、手術を申請した人や、手術が認められた人も含まれる。

(浜田知宏、佐藤啓介)


◆旧厚生省「人道的に問題」 
   強制不妊 86年に内部資料  (総合5面)
 
 強制不妊手術を認めていた旧優生保護法に関し、厚生労働省は保管していた関連資料を6日、公表した。1996年の同法見直しより10年前の時点で、旧厚生省が「人道的にも問題があるのでは」として法改正を検討する内部資料を作成していた。その後も省内で同法を問題視する声はあったが、強制不妊手術は92年まで続けられた。
 厚労省がホームページで公開したのは、省内などに残る関連資料約250件。当該の資料には「取り扱い注意」と記され、「昭和61年10月6日、精神保健課 清水 作成」とある。「各方面から問題点が指摘されている」とし、5カ年計画で同法を全面改正する手順や予算が具体的に書かれていた。
 また88年の母子衛生課作成の資料では、「(法の目的の)優生思想は、もはや時代に合わないのでは?」と疑問視し、法律名を母性保護法と変える案などを提示。 同課は同じ年、強制不妊手術に関し「人権侵害も甚だしい」「(精神障害や知的障害は)遺伝率も低く、効果としても疑問」として、廃止を提案する「試論」も作っていた。
 強制手術の対象については70年3月、精神衛生課が「対象者は現行通りでよいか」などと、遺伝しない疾患などを含めていることを疑問視。日本医師会が、「人類遺伝学の見地からみて適当なものとはいえない」と、遺伝しない疾患を手術の対象から外すべきだと指摘した同年8月の資料も、今回公開された。

 北里大の斎藤有紀子准教授(生命倫理)は、86年の段階で同法の改正を具体的に検討していた資料があったことについて、「10年後に改正しているのだから、この時点でやろうと思えばやれたはずだ」と指摘。「優生思想を排除せず、国は人権侵害の問題を先送りにした責任がある。当事者の尊厳に対する認識が著しく不足していたといわざるを得ない」と話している。

(田中陽子、西村圭史、船崎桜)





《被害者の救済を巡って》



◆「おわび」違憲性絡めず
  強制不妊 ハンセン病と同対応    朝日新聞 2018(平成30)年10月21日

 救済策を検討している与党ワーキングチーム(WT)は、被害者におわびをする方針を決めた。各地で国家賠償請求訴訟が続いていることから、おわびは違憲性や違法性に直接絡めない形とする方向で、ハンセン病問題と同様に対応する案が有力だ。
 与党WTと並行して救済策を検討している超党派議員連盟のプロジェクトチーム(PT)は、おわびの言葉を前文に明記といった救済法案の大枠をすでに公表。与党WTと超党派PTは、法案を一本化して来年の通常国会に提出することを目指している。



◆強制不妊「違憲性認めて」
  被害弁護団 与党チームと初面会  朝日新聞 2018(平成30)年10月26日

 与党ワーキングチーム(WT)は25日、被害弁護団と国会内で初めて面会し、意見や要望を聞いた。弁護団は違憲性を認めたうえでの謝罪や、被害認定を行う第三者機関は行政から独立させて設置するよう求めた。
 弁護団は要望書で、「被害者が安心して被害を申告できるようにするためには、名誉を回復するに足る謝罪がなければならない」と指摘。「優生手術等が憲法に違反する著しい人権侵害であり、国の政策が間違いだったことを認め、真摯な謝罪を表明するよう求める」とした。
 さらに、被害認定を行う第三者機関に関し、行政からの独立性を重視。「『当時は合法だった。謝罪も補償も実態調査も行わない』と繰り返した厚労省が認定機関となる制度は被害者の信頼を得られない」と訴えた。救済策の実効性を高めるために、本人に直接通知する必要もあるとした。

 WTはこの日、弁護団の要望に対して回答しなかったが、各地で続く国家賠償請求訴訟への影響を避けるため、おわびは違憲性や違法性に絡めない形とする方向。第三者機関は厚労省内への設置を軸に検討する。

(田中陽子、浜田知宏)


◆強制不妊手術の記録不要 本人には対象と通知せず
  与党チーム 救済法案 大枠を決定   朝日新聞 2018(平成30)年11月1日 (1面)

 与党ワーキングチーム(TW) は31日、救済法案の大枠を正式に決定。手術記録が残っていない場合なども幅広く救済するが、救済対象となりうる人に制度の通知はしない。 WTは同様に救済策を検討中の超党派議員連盟と内容をすり合わせ、来年度の通常国会に法案を出す方針。

《与党チームの救済法案骨子》
 ・法案に反省とおわびの言葉を明記
 ・救済対象は被害者本人
 ・手術記録がない場合や手術に同意していた場合も含めて幅広く救済
 ・被害認定を行う認定審査会(仮称)は厚生労働省内に設置
 ・被害認定を受けた人には一律の一時金を支給
 ・救済制度の本人通知はしない


◆救済案 被害者と隔たりも
  強制不妊 法案、違憲性盛られず   朝日新聞 2018(平成30)年11月1日 (2面)

 与党ワーキングチーム(WT)が31日にまとめた法案の大枠は、超党派議員連盟の法案概要とほぼ同じで、両者は一本化に向かう。
 WT座長の田村憲久元厚生労働相は記者会見で「法律をつくったのには時代背景がある」と語った。被害の認定審査会(仮称)は厚労省内に設置し、審査会の判断に基づいて厚労相が認定する。設置手続きや事務局の体制整備が迅速にできるとのメリットも踏まえた。当事者の厚労省が関わることについて「有識者や専門家で構成するので、厚労省(の考え)に偏らない」と説明。
 厚労省の調査でこの日、医療機関や福祉施設などで個人が特定できる資料が1603人分見つかったことが明らかになった。すでに都道府県のなどの調査でも3033人が特定された。
 被害者の連絡先がわかったとしても、WT案では救済制度について被害者本人には通知しない。配偶者ら周囲に手術を受けていたことが知られる「二次被害」を避けるためだという。
  立命館大大学院の松原洋子教授(生命倫理)は 「本人が同意した手術なども
救済対象と認めたことは評価できる」とする一方で、「法律自体やその運用、政策のどこに過ちがあったのか、 国の責任を明確にしなければ、真のおわびにはならない」と指摘。 「本人が制度を知り、安心して申し出られる環境づくりは欠かせない」として、プライバシー保護に配慮した上で伝える方法を工夫する必要性を説く。
国が積極的に通知を
 
WTが決定した案について、全国で初めて国家賠償請求を仙台地裁に起こした宮城県の60代の原告女性の義姉は「知的障害のある人は手術の意味を理解することが難しいし、家族も知らないケースもある。国が積極的に通知すべきだ」と指摘。
 全国で初めて実名で公表して国を提訴した札幌市の小島久夫さん(77)は、「『おわび』では軽い」「国は悪いことをしたと認めて、謝罪をしてほしい」「子どもを産み育てる権利を奪われ、憲法違反なのは明らかだ」と述べた。救済制度を本人に直接知らせないことについては「周りに知られたくない人の気持ちも分かる。難しい問題だ」と話す。


◆強制不妊救済 大枠固まる
   与党・超党派 足並み一致  朝日新聞 2018(平成30)年11月3日
 WT(与党ワーキングチーム)とPT(超党派議員連盟プロジェクトチーム)は、救済制度の周知は広報用冊子などで行う方向。手術を受けたことが周囲に知られる「二次被害」への懸念から、被害者本人には通知しない。
 一方、被害者弁護団は「障害特性等から自ら被害回復を求めて行動することが困難な人たちが多い」と指摘。本人に通知しないのは「不誠実だ」とし、プライバシー保護も図れる通知を検討するよう求めた。弁護団によると、不妊手術の補償を行ったスウェーデンでは、被害者約2万6千人のうち補償申請したのは約1割にとどまる。「被害者に情報が届いていなかった可能性が否定できない」という。
 被害認定を行う第三者機関を巡る見解では、法案は「認定審査会(仮称)」を厚生労働省内に設置し、その審査結果に基づき厚労相が認定する。一方、弁護団は「構成、権限、事務局も含め、独立性の高い第三者委員会とするべきだ」と主張。被害者側に同省への不信感が根強いからだ。
 支給する一時金について、WTとPTはスウェーデンの補償額(約300万円)も参考に検討中だが、弁護団は「スウェーデンの損害賠償基準自体が日本より低く、参考にされるべき数字ではない」と指摘。国家賠償訴訟では、慰謝料は1人当たり3千万円以上としている。


◆強制不妊手術を受けた障害者 
  
救済制度の周知 手帳の更新時に
   朝日新聞 2018(平成30)年11月8日
 超党派議員連盟は7日の会合で、救済制度の周知は障害者手帳の更新の機会や都道府県への設置を想定する相談窓口を通して進めることを確認した。これまでは広報用ポスター・パンフレットの活用や障害者支援施設などを通じて周知を図るとしていたが、さらなる対応が必要と判断した。ただ、「プライバシーに関わる」として本人通知をしない姿勢は崩していない。超党派議連と並行して救済法案を検討している与党ワーキングチームも同様の考えだ。




強制不妊の苦悩 放置された70年
朝日新聞 2018.11.24


救済策を巡る動き
 今年1月、宮城県の女性が「旧法は子どもを産むかどうかの自己決定権を奪い、違憲だ」などとして国に損害賠償を求めて仙台地裁に提訴。これをきっかけに与党ワーキングチームと超党派議員連盟のプロジェクトチームが救済策作りに動き出し、来年の通常国会に法案を提出する方針だ。
 法案は強制手術だけでなく、同意したとされる手術や法を逸脱した手術を受けた人にも一時金を支払う内容。前文に反省とおわびを明記するが、違憲性には直接結び付けない。国が国賠訴訟で「憲法適合性が主要な争点にはならず、主張する必要性は乏しい」などとして違憲性の認否を避けているためだ。
 被害弁護団は救済に向けた動きを評価しつつ、手術が憲法に違反することや国の政策が間違っていたことを認めた上での謝罪を求めている。

資料・証言からたどる
 旧優生保護法(1948~96年)の下で、障害者ら約2万5千人に不妊手術が行われたことに対し、国会での救済法案作りが大詰めを迎えている。法制定から70年、障害者はどのような立場に置かれてきたのか。
 厚生労働省が9月に初めて公表した約2千ページの資料や、朝日新聞が情報公開請求で自治体から入手した資料、関係者の証言からたどる。 

(田中陽子、佐藤啓介)



目的「不良な子孫出生防止」   制定―戦後
 旧優生保護法は、議員立法でできた。全会一致だった。
 目的は「不良な子孫の出生を防止する」こと。法案提出の中心になった谷口弥三郎参院議員は、戦後に人口が急に増えたため産児制限を訴えた。ただし「子どもの将来を考えるような優秀な人々が制限を行い、低脳者などは行わないために、国民素質の低下すなわち民族の逆淘汰が現れる恐れがある」として、遺伝性の病気を持つ人が生まれないようにすることが必要と主張。
 強制不妊の対象は「社会生活をする上に不適応なもの、生きていくことが悲惨であると認められるもの」とした。このとき、基本的人権を保障する日本国憲法は、すでに施行されていた。

行政「本人保護のため必要」   推進―50~60年代
 国は強制不妊手術を強く推し進めた。
 厚生省(当時)は57年、都道府県に手術の件数を増やすよう催促する文書を送った。手術数が「予算上の件数を下廻っている」と指摘。都道府県ごとの件数に大きなばらつきがある、と表で示し、「啓蒙活動とご努力により成績を向上せしめ得られる」などとした。
 高度成長期の60年も、国は経済成長に役立つ優秀な人材を確保しようと、人口政策に「遺伝素質の向上」を盛り込み、優生政策を続けた。自治体は法律と国の方針に従った。
 北海道は56年の冊子「優生手術(強制)千件突破を顧みて」に、「他府県に比し群を抜き全国第一位の実績」と記した。手術するかどうかを決める都道府県の審査会議録には「暴行を受ける恐れがある。本人保護のため必要」「産んでも育てられない」「聞こえない親だと子どもがかわいそう」「民生委員らに親が(手術に同意するよう)責め立てられた」

「人権侵害」記載 手術は継続  動揺―70~80年代
 旧優生保護法の改正案が、議論を巻き起こした。
 72年。経済的理由による中絶を規制する案に「産むか産まないかを自分で決められなくなる」と女性団体が反対し、胎児の障害を理由に中絶を認める案には「障害者の存在を否定するもの」と障害者団体が抗議。廃案になった。だが、障害者に子を産ませないことの是非に議論が及ぶことはなかった。
 当時、法改正案に反対する女性運動に関わり、自身も障害がある米津知子さん(70)は、「不妊手術をされた障害者は声をあげることさえ難しい。実体験を語る当事者がいないなか、リアリティーを感じられなかった。不妊手術の問題に気づけなかった」と悔やむ。
 80年前後、女性障害者が声を上げ始めた。脳性まひの女性らが、医師や家族の反対を押し切って子を産み育てるようになっていた。DPI女性障害者ネットワークの堤愛子さん(64)は「障害者を『産んではいけない人』と決めつける優生保護法はおかしいとわかった」と話す。法律をなくすよう訴えたが、国は動かなかった。
 ただ、厚生省も旧法の問題点に気付いていた。70年に作った資料では、不妊手術の見直しを論点のひとつに挙げている。80年代には強制不妊手術について「人権侵害も甚だしい」との記載がある。だが見直しには至らず、手術は90年代まで続いた。

「法への批判 外国にも報道」  改正―90年代
 国際社会の批判をきっかけに、事態は動き出した。
 94年、エジプト・カイロであった国連の会議で、障害者が自ら不妊手術の問題を訴えた。「優生保護法への批判が外国の新聞にも報道された」と厚生省の
95年の文書にある。96年、実質的な審議なしに、母体保護法に改められた。
 当時自民党社会部会の部会長だった衛藤晟一参院議員は、朝日新聞の取材に、障害者施策を充実させるために差別規定の廃止が欠かせなかったと語る。中絶を巡ってはその時点でも意見が割れており、「中絶の問題に触れれば出口が見えなくなる。障害者に対する不妊手術や中絶だけをきれいにカミソリで切り離してなくしてしまうことを、私が決めた」と振り返る。
 スウェーデンでの過去の強制不妊手術が97年に報道されると、日本でも国に被害者への補償などを求める動きが起きた。国は「当時は適法だった」との姿勢を現在まで崩していない。

優生保護法をめぐる動き
 
 ※朝日新聞をもとに作成

1940年
 45

 48
  「国民優生法」が制定
 終戦
 「優生保護法」が成立








 49年 厚生省公衆衛生局長あて法制意見第一局長回答

・(強制の方法は)真に必要やむを得ない限度において身体の拘束、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される場合がある
・以上の解釈が基本的人権の制限を伴うものであるということはいうまでもないが、そもそも法自体に「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」という公益上の目的が掲げられている上に、強制手術を行うには、医師により「公益上必要」と認められることを前提とするものであるから決して憲法の精神に背くものであるということはできない


1952年
 55

1966年
 
 法改正で遺伝性以外の障害も強制手術が可能に

 強制・同意合わせた手術件数が1982件とピークに

 兵庫県で「不幸な子どもの生まれない運動」開始
   
 67年 兵庫県の「不幸な子どもの生まれない運動」資料集
・(知的障害や身体障害など)「不幸な子どもだけは、生まれないでほしい」という気持は、お母さん方のみならず、みんなの切なる願いでございます


 71年 滋賀県の審査会関連資料
保護義務者の無知と盲愛のため、関係者の説得にも拘らず、拒絶し続けていましたが、関係者の努力により漸く農繁期が終われば(手術を)受けることの約束を取り付けました

1972年
 73 
 
 中絶をめぐる法改正案が国会に提出されるが廃案に。82~83年にも議論になるが、法案提出は見送り



 
 86年 厚生省精神保健課「優生保護法の改正について《清水案》」
・近年の医学の飛躍的な進歩あるいは社会情勢の変化に伴い、現行の優生保護法については、各方面からその問題点が指摘されている
・(優生手術は)人道的にも問題があるのでは?


1996年
 98
 99
 
 優生保護法が「母体保護法」に改まる。「不良な子孫の出生防止」に関わる条項を削除
 国連人権委員会が被害者への補償などを日本政府に勧告
 市民団体が厚生省に実態調査を求める。同省は「合法だった」と調査せず

 
2015年
 16
 18

 宮城県の70代女性が日本弁護士連合会に人権救済申し立て
 国連女子差別撤廃委員会が法的救済を日本政府に勧告
 宮城県の60代女性が国賠提訴。提訴が相次ぎ、原告は13人に



◆強制不妊救済法案
  救いになるのか 
 朝日新聞 2018(平成30)年12月11日
 旧優生保護法による不妊手術問題で、救済法案の内容がほぼ固まった。与野党は前文に反省とおわびを盛り込んだものの、一貫して旧優生保護法の違憲性に直接触れないことを優先させた。おわびの主体も「我々」と曖昧な表現にとどめた。こうした姿勢に被害者からは憤りの声が上がる。

※朝日新聞をもとに作成
 被害弁護団の主張 救済法案を巡る
論点と考え方
 与党WT・超党派PTによる
救 済 法 案
 違憲性や違法性を認めて謝罪を  お わ び  法律前文に明記。違憲性や違法性には直接絡めない。おわびの主体は「我々」
被害者全員の現況調査を行い、本人への個別通知を行う   救済制度の
被害者本人への通知
 周囲に不妊手術を受けたと知られる可能性があるため、本人への個別通知はしない
 被害者本人に加え配偶者や相続人も対象に 救 済 対 象 被害者本人の被害認定申請に基づき、認定されれば救済。申請後に本人が死亡した場合は遺族や相続人が対象に
真相究明のために設置するべきだ
検証委員会 引き続き検討
救 済 認 定  
 対 象  手術記録がない場合   対 象
 どちらも対象 手術への同意・不同意   どちらも対象
  対象 。中絶も対象に  旧優生保護法で規定
していない方法の手術
   対象。中絶は対象に含まない
 行政から独立した第三者機関  認 定 機 関  厚労省内に設置する第三者機関
(訴訟では「3000万円以上」) 救 済 金  一律の一時金を支給

 与党WTと超党派PTが想定する救済手続き
 周知広報    被害認定の
申請受け付け
   認定審査    一時金支給




《被害者救済法案の成立と首相のおわび/課題》



◆強制不妊救済法(一時金支給法) 成立へ
 一時金320万円「おわび」明記  朝日新聞 2019(平成31)年3月15日
 救済法案を検討してきた与党ワーキングチーム(WT)と超党派議員連盟(議連)は14日、一本化した法案について正式に合意。前文に反省と「おわび」の言葉を明記し、被害者に支払う一時金は1人あたり320万円とした。4月に法案を国会に提出予定で、同月中にも成立する。
被害者側 訴訟継続
 強制的な不妊手術を認める旧優生保護法の成立から72年目で、ようやく救済策が取りまとめられた。だが、おわびや一時金の金額などについて被害者側の納得は得られず、問題の全面解決は難しい状況。
 記者会見で、議連会長の尾辻秀久・元厚労相は「(被害者の)お気持ちに応えていないことは認めるが、まず一歩進みたいと考えた」と述べた。一方、被害者弁護団は「落胆を禁じ得ない。国会議員は被害に十分に向き合ったのか」とし、訴訟を続ける考えを示した。

《救済法案のポイント》
◆前文に反省とおわびを明記
◆不妊手術の記録がない場合なども含めて幅広く救済
◆被害者本人からの請求に基づいて被害を認定し、一律の一時金320万円を支給。請求後に本人が死亡し、被害が認定された場合は遺族や相続人に支給。請求期限は法施行後5年間。
◆被害認定は厚生労働省内に設置する第三者機関「認定審査会」で行う。
◆障害者手帳の更新時などを利用して救済制度の周知を図るが、被害者本人への個別通知はしない。
◆国会で、旧優生保護法の立法経緯や被害実態についての調査を行う。

(浜田知宏)



◆強制不妊 救済一時金380億円 
   支払総額試算 1万1900人想定  朝日新聞 2019(平成31)年3月16日
 衆院法制局は15日、被害者へ支払う一時金の総額は約380億円になるとの試算を示した。約1万1900人への支払いを想定して算出。 旧優生保護法の下で不妊手術(本人が同意した手術も含む)を受けたのは約2万5千人。資料に基づき、現在の存命者を推計した。

◆強制不妊救済 残る課題 
  法案きょう成立へ   
朝日新聞 2019(平成31)年4月24日
 参院厚生労働委員会は23日、被害者に一時金320万円を支給する議員立法の救済法案を全会一致で可決した。24日の参院本会議で成立する見通しだが、「おわび」のあいまいさや一時金の金額、救済制度の周知方法など課題は残ったままだ。



救済法案  与党ワーキングチームと超党派議員連盟の説明 
 法 案  説 明
 旧優生保護法の違憲性
記述なし
 国家賠償請求訴訟の判決が出る前に違憲性の有無に踏み込むことは越権
 おわびの主体
我々
 「我々」とは旧優生保護法を制定した国会や法を執行した政府を念頭に置く
被害者認定機関
厚労省に設置する第三者機関
 被害認定をした上で一時金を支給するという流れを考えると、一時金を支給する主体(厚労省)に認定機関を設置しないと行政的な手続きが難しくなる
 一時金
320万円
 1990年代後半に始まったスェーデンでの補償を参考にした
救済制度の周知方法
広報活動など
手術のことを家族に一切伝えていない方や思い出したくない方もいるかもしれない。一律に(被害者本人に)お知らせすることには慎重であるべきだ

(浜田知宏、田中陽子)


◆強制不妊 首相「おわび」 
 救済法成立(一時金支給法)で談話  
朝日新聞 2019(平成31)年4月25日 (1面)
 被害者に一時金320万円を支給する議員立法の救済法が24日、参院本会議で全会一致で可決され、成立した。
6月にも一時金
 「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に不妊手術を推し進める旧法が成立してから71年で、ようやく国会と政府が救済に動く。救済法は24日に施行され、早ければ6月に一時金の支給が始まる見通し。 ただ、一時金の金額や救済対象の範囲、救済策の周知方法などをめぐり、救済法の内容と被害者側の主張には大きな隔たりがある。
 首相は救済法成立を受け、閣議決定を伴わない「首相談話」を発表。被害者が「心身に多大な苦痛」を受けたことに対し、「政府としても、旧優生保護法を執行していた立場から、真摯に反省し、心から深くおわび申し上げます」とした。また「全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく共生する社会の実現に向けて、最大限の努力を尽くす」と強調した。


 ハンセン病問題をめぐり、小泉純一郎首相(当時)は2001年5月、「らい予防法」に基づく隔離政策の見直しを怠ったとして熊本地裁で国が全面敗訴すると、元患者と官邸で面会し、「みなさんの声を聞かせていただき、心から反省しなければならない」と述べた。その後に反省とおわび、控訴断念を盛り込んだ談話を発表した。

◆強制不妊 不十分な救済 
首相おわび・法の前文 違憲性に触れず 
朝日新聞 2019(平成31)年4月25日 (2面)

 救済法成立から約1時間後、政府は欧州訪問中の安倍首相の談話を書面で発表した。衆院厚生労働委員会での法案の趣旨説明で、冨岡勉委員長は「旧優生保護法を制定した国会や執行した政府を特に念頭に置くもの」と述べた。これを踏まえる形で談話を出したが、(救済法の)前文と同様に旧法の違憲性や救済策を講じなかった国の責任には一切触れていない。各地で続く国家賠償請求訴訟への影響を避けたいとの思惑がのぞく。


 ■安倍晋三首相の談話 (全文)
 本日、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給に関する法律が成立いたしました。
 昭和23(1948)年制定の旧優生保護法の存在を背景として、多くの方々が、特定の疾病や障害を有すること等を理由に、平成8(96)年に旧優生保護法に定められていた優生手術に関する規定が削除されるまでの間において生殖を不能にする手術等を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてこられました。このことに対して、政府としても、旧優生保護法を執行していた立場から、真摯(しんし)に反省し、心から深くおわび申し上げます。
 本日成立した法律では、厚生労働省が一時金の支給の事務を担うこととされています。今回の法律が制定されるに至った経緯や趣旨を十分に踏まえ、政府として法律の趣旨や内容について、広く国民への周知等に努めるとともに、着実に一時金の支給が行われるよう全力を尽くしてまいります。
 また、このような事態を二度と繰り返さないよう、すべての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、政府として最大限の努力を尽くしてまいります。

一時金支給 個別通知せず・本人のみ
 救済法の実効性への懸念は根強い。厚労省によると、旧法の下で不妊手術(本人が同意した手術も含む)を受けたのは約2万5千人。うち名前が特定できたのは3079人で、現住所や生死の確認はできていない。しかも被害者が一時金を請求できるのは今後5年間だけだ。
 被害者側は、家族から何も告げられずに手術を受けさせられて今も自分が被害者だと知らない人や、障害特性から救済法に気付かない人もいると指摘し、名前が判明した被害者への個別通知を求める。だが、救済法は障害者手帳の更新時などを利用する「広報活動」での周知を想定。プライバシー保護の観点から個別通知は想定していない。

  
《課 題》
  広報活動などで救済法を周知 被害者への個別通知はなく、救済制度の情報は十分行き渡るのか
  被害者本人からの請求 配慮者や遺族らは請求できず
一時金320万円の支給額  被害者側は「相当低額」と批判
認定審査会の判断(被害者や家族の説明、医師の診断書などから)  公平で幅広い被害認定は担保されるのか

 こうしたなか、独自の取り組みも始まっている。鳥取県は個別通知を実施する方針だ。被害の可能性がある県内の73人について独自に調査し、存命4人のうち3人の現住所を特定した。
 全日本ろうあ連盟は、独自調査で把握した被害者139人に対し、加盟団体を通じて書面での通知や面会による情報提供を考えている。手話での説明を動画で配信することも検討する。知的障害者と親でつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」は全都道府県などにある支部に相談窓口を設けた。
 被害者側は、被害者本人だけでなく配偶者や遺族も救済対象にすべきだと主張。被害の有無を判断する認定審査会についても「被害者の声に耳を傾けず、補償に消極的な対応に終始した厚労省の下に置かれることに相当な抵抗がある」と反対した。被害弁護団は「多くの被害者の被害回復が図られるか疑問だ」とする。

(太田成美、浜田知宏、田中陽子)


◆救済法成立「まだ一歩」  朝日新聞 2019(平成31)年4月25日 (35面) 
 旧優生保護法成立から71年。被害者が声を上げ、国会を動かした。だが、救済法は十分とはいえず、対象者の特定も一部にとどまる。被害者を支える人たちの闘いは、法廷に場を移し今後も続いていくことになる。
強制不妊 被害者ら会見 
「歓迎だが 問題点残る」 
 
仙台原告の60代女性の義姉は「義妹は知的障害があり、救済法ができても一人では申請できない。同じような人がいるはず。可能性がある人には通知し、名誉を回復してほしい」と訴える。
妻手術 夫も被害者

 原告の中には、今回の救済法では救済されない人もいる。札幌地裁に提訴した夫婦は、妻(76)には知的障害がある。結婚後の1981年に妊娠。親族から中絶するよう説得され、夫(82)は同意書にやむを得ず署名した。妻は中絶と不妊手術を受けさせられたという。夫は手術を受けた当事者ではないが、「家族を形成する権利」を奪われたと訴えて原告に加わった。






強制不妊訴訟の争点と判決
①旧優生保護法の違憲性 ②手術させ続けた違法性 ③補償法未整備の違法性


朝日新聞をもとに作成

《訴訟の主な争点と判決内容》
旧優生保護法訴訟をめぐる主な争点と主張
《強制不訴訟 国に初の賠償命令 大阪高裁判決》
旧優生保護法は「違憲」
《強制不妊訴訟 救済範囲拡大 東京高裁判決 》
東京高裁判決要旨





《訴訟の主な争点と判決内容》
旧優生保護法訴訟をめぐる主な争点と主張



◆強制不妊に違憲判決
  
仙台地裁 国の賠償は認めず  朝日新聞 2019(令和元)年5月29日
 旧優生保護法の下で知的障害を理由に不妊手術を強制されたのは違法だとして、宮城県内の60代と70代の女性が国に賠償を求めた訴訟の判決が28日、仙台地裁であった。
 中島基至裁判長は法律が違憲だったと判断しつつ、手術から20年の「除斥期間」を過ぎて損害賠償を請求する権利が消滅したと判断。国会が、賠償するための法律をつくらなかったことについての責任も認めず、原告の請求を棄却した。
 原告側は控訴する方針。旧優生保護法(旧法)を巡っては全国7地裁に計20人が提訴し、判決が言い渡されたのは初めて。


 判決はまず、子どもを産むかどうかを自ら決定できる「性と生殖に関する権利(リプロダクティブ・ライツ)」が、幸福追求権などを規定した憲法13条によって保障されていると判断。不妊手術を強制された原告らは子どもを望む幸福を一方的に奪われ、「権利侵害の程度はきわめて甚大」と指摘し、強制不妊に関する旧法の規定は違憲、無効だと判断した。

 そのうえで、「不法行為から20年が経過すると、特別の規定が設けられない限り、賠償請求権を行使することができなくなる」ことを前提に賠償責任を検討。旧法が1996年に改正されるまで存続したことや、手術を裏付ける証拠の入手が難しいなどの事情を考慮し、「手術を受けてから20年が経過する前に損害賠償を求めることは現実的に困難で、立法措置が必要不可欠だ」と述べた。

 一方、具体的な立法措置は国会の裁量に委ねられると判示。国内ではリプロダクティブ・ライツをめぐる法的議論の蓄積がなく、司法判断もされてこなかった事情を重視し、「立法措置が必要不可欠ということが国会にとって明白だったとはいえない」として、国の賠償責任を否定した。
 原告側は「除斥期間を形式的に適用することは国家賠償請求権を保障した憲法に反する」とも主張したが、判決はこれも退けた。新里宏二弁護団長は「承服しがたい判決だ。もっと事実を積み上げ、勝訴に向けて努力していく」と話した。

仙台地裁 判決骨子
性と生殖に関する権利(リプロダクティブ・ライツreproductive rights)は憲法によって保障される。不妊手術を強制する旧優生保護法はこれを侵害し、違憲だった
・手術から20年たっており、損害賠償を請求する権利は消滅した
日本ではリプロダクティブ・ライツをめぐる法的議論の蓄積がなく、補償のための立法が明白に必要だったとまではいえない。法律を定めなかった国会に賠償責任はない

(志村英司、山本逸生)



 強制不妊訴訟 仙台地裁判決要旨 (朝日新聞2019.5.29)
 
【旧優生保護法は違憲か】
 幸福を追求する権利の重みは、たとえ心身にいかなる障害があっても何も変わらない。子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ権)は、幸福の源泉となり得るとすると、幸福追求を保障する憲法13条に照らし、人格権を構成する権利として尊重されるべきだ。
 しかし、旧優生保護法は、不良な子孫の出生を防止するなどという理由で不妊手術を強制した。子を産み育てる意思のあった人の幸福の可能性を奪い去り、個人の尊厳を踏みにじるものであって、誠に悲惨というほかない。旧優生保護法に合理性があるというのは困難で、憲法13条に違反し、無効だ。

【手術を受けた人に対する立法措置の必要性】
 優生手術を受けた者は、リプロダクティブ権を侵害されたとして、国または公共団体に賠償を求めることができる。もっとも、優生手術から20年が経過している場合は、民法724条の「除斥期間」の規定で、特別の規定が設けられない限り、請求権は消滅する。
 優生手術は、不良な子孫の出生を防止するといういわゆる優生思想により、旧優生保護法という法の名の下で全国的に広く行われたもので、この法の存在自体が、リプロダクティブ権
侵害に基づく損害賠償請求権を行使する機会を妨げるものだったと言える。

 旧優生保護法は1996年に改正されるまで、長年にわたり存続したため、同法が広く推し進めた優生思想は、我が国において社会に根強く残っていたものと認められる。しかも、いわゆるリプロダクティブ・ライツという概念は、性と生殖に関する権利をいうものとして国際的には広く普及しつつあるものの、我が国においてはリプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく、本件の規定や本件の立法不作為につき憲法違反の問題が生ずるとの司法判断が今までされてこなかった。のみならず、優生手術の情報は個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、本人が客観的証拠を入手することも相当困難だった。
 そうすると、優生手術を受けた者が、手術から20年経過する前にリプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を行使することは、現実的には困難であったと評価するのが相当だ。損害賠償請求権を行使する機会を確保するために、所要の立法措置を執ることが必要不可欠であると認めるのが相当だ。

【国会が立法措置を執らなかった不作為に対する損害賠償請求権の成否】
 権利行使の機会を確保するために立法措置を執る場合において、いかなる要件でいかなる額を賠償するのが適切であるかなどは、憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと、その具体的な賠償制度の構築は、第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねられている。
 そして、我が国においてはリプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく、本件の規定や立法不作為について憲法違反の問題が生ずるとの司法判断が今までされてこなかったことが認められる。そうすると、少なくとも現時点では、立法措置を執ることが必要不可欠であることが、国会にとって明白であったということは困難だ。


【除斥期間の適用の可否について】
 除斥期間の20年の期間は、被害者の認識のいかんを問わず、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものだ。法律関係を速やかに確定することの重要性に鑑みれば、このような立法目的は正当で、当該期間が20年と長期であることを踏まえれば、合理性及び必要性がある。本件において、リプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権に対して除斥期間の規定を適用することが、憲法17条に違反するというものではない。

【その他】
 本件事案に鑑み、憲法13条と憲法14条の普遍的な価値に照らし、平成の時代まで根強く残っていた優生思想が正しく克服され、新たな令和の時代においては、何人も差別なく幸福を追求することができ、国民一人ひとりの生きがいが真に尊重される社会となり得るように、最後に付言する。




◆違憲判決を受け止めよ 朝日新聞 社説(2019.5.29)
 障害がある人たちに不妊手術を強いた旧優生保護法は、個人の尊重や幸福追求権を保障した憲法13条に違反する―。手術を受けた宮城県の女性2人が国に損害賠償を求めた裁判で、仙台地裁はそう判断した。

 国会と政府は違憲判決を重く受け止め、必要な措置を早急に講じなければならない。先月下旬に被害者に一時金を支給する法律が成立し、安倍首相はおわびの談話を出した。だがそれで十分とは到底いえない。判決は、子を産み育てるかどうかを決める権利を「幸福の源泉」と位置づけ、旧法の規定は無効だと結論づけている。
 まず対応が問われるのは、そのような人権侵害の法律を1948年に全会一致で制定した国会だ。不当な立法の責任と被害者への謝罪を、国会決議の形で明確にする必要がある。

 支給法は前文に「反省とおわび」を盛り込んではいる。だが主語は「我々」となっており、誰のことをさしているのか、被害者らはそのあいまいさを批判し、納得していない。 一連の経緯を検証する作業も不可欠だ。被害者の声をくみつつ、有識者による第三者機関を設けて真摯に取り組む。その枠組みづくりも国会の務めだ。
 96年に旧法が改正されるまでに手術を受けた人は2万5千人にのぼる。法の執行に当たる政府が当面急ぐべきは、支給法に基づく補償を着実に進めることだ。障害ゆえに手術を受けたこと自体を認識していない人への周知を含め、課題は多い。

 承服できないのは、地裁が旧法の違憲性を厳しく指摘しながら賠償は認めなかったことだ。「どんな賠償制度をつくるかは国会の裁量に委ねられており、その必要性は明白ではなかった」と述べ、国会と政府をあっさり免罪してしまった。しかし、国連の人権機関は98年以降、再三にわたって必要な法的措置をとるよう日本政府に勧告し、日本弁護士連合会も同様の意見を表明してきた。04年には当時の坂口力厚生労働相が国会で「今後考えていきたい」と答弁していいる。

 それでもなお、「裁量の範囲内」で片づけてしまうことは、政治の怠慢のつけを被害者に押しつけるに等しい。それが正義にかなうのか。立法・行政をチェックする司法の使命を果たしているといえるのか。重大な疑念を残す判決となった。
 原告側は控訴する方針だという。高裁や、同種の訴訟を審理している全国のほかの地裁の判断を注視したい。人を差別し尊厳を傷つける。そんな愚行を繰り返さないために、この問題から社会が学ぶべき教訓は、まだまだある。


◆強制不妊被害 認定審査会
 手術記録ない22人認定  朝日新聞 2019(令和元)年7月23日
 旧優生保護法の下で障害のある人らに不妊手術が行われた問題で、厚生労働省は22日、手術記録がない人の被害を判断する第三者機関「認定審査会」の初会合を開いた。27人を審査して22人の被害を認定。5人は継続審査とした。厚労相は22人に、8月末までに一時金320万円を支給する。

 今年4月施行の一時金支給法では、不妊手術の被害者に、一律320万円を支払うとした。手術記録などがない場合、医療や法律、障害者福祉の有識者8人でつくる厚労省内の認定審査会で、本人や家族の説明、医師の診断などを踏まえて被害の有無を認定する。会長の菊池洋一弁護士(前広島高裁長官)らは記者会見で、審査会は月1回ほどのペースで開き、申告内容が「明らかに不合理でなく、一応確からしい」ことを判断基準にしていくと説明。「迅速な審査と認定に取り組みたい」と話した。
 厚労省は手術記録が残っていた人については、6月末までに26人への一時金支給を決めている。

請求1%周知不十分
 厚労省が把握している被害者数は約2万5千人に上る。だが、一時金支給法が施行された4月24日以降、6月末までの請求は321件で、被害者全体の約1%にとどまる。

 請求が広がっていない理由について、被害弁護団の代表は、「一時金制度の情報が行き届いていない」と指摘する。政府はプライバシー保護を理由に、個人名が確認できた約3千人についても、現住所を調べて被害者に個別に通知することはしていない。広報活動などで周知する姿勢だが、(弁護団の)代表は厚労省のホームページなどの説明は分かりづらいとして、改善やテレビCMなどの必要性を訴える。

 全日本ろうあ連盟や日本盲人会連合は、手話で制度を説明する動画の配信や音声テープでの説明など、障害特性を踏まえたきめの細かい対応を求めている。
 朝日新聞の調べでは、47都道府県のうち、今月18日時点で鳥取県と岐阜県が独自に個別通知を始めた。鳥取は、手術記録が残るなどしていた被害者21人のうち5人の現住所を特定。本人や家族に直接会い、一時金の説明をした。3人は請求し、2人は検討中という。
 一方、全国最多の3224人の被害者がいるとされる北海道は、プライバシー保護のために個別通知はしていない。道には「周囲に知られたくない。道庁の封筒は使わないで」との要望もあり、一時金支給の決定通知などは市販の封筒を使い、差出人を伏せて簡易書留で送っているという。

(西村圭史、浜田知宏)


◆強制不妊一時金 法施行1年
  申請者 想定の27%  
 朝日新聞 2020(令和2)年5月29日 
 旧優生保護法の下で行われた不妊手術の被害者に一律320万円を支給する一時金支給法が施行されて1年が過ぎたが、一時金の申請者数が今月3日までで909人にとどまることが厚生労働省の集計で分かった。想定した人数の3分の1にも届いておらず、制度の周知が大きな課題になっている。


 一時金支給法は、被害者本人の請求に基づいて被害を認定する。請求期限は施行後5年間だ。手術記録がない場合の認定は、第三者機関「認定審査会」で行う。
 1948年から96年まで施行された旧法の下で不妊手術を受けた被害者は約2万5千人にのぼる。厚労省は個人が特定できて手術記録が残る被害者の数などから3400人が申請すると見込み、昨年度予算に109億円を計上していたが、実際の申請者は想定の27%にとどまった。今年4月末で審査が終わり、支給が認められた人は533人だった。

 厚労省が被害者の個人名を確認しているのは約3千人。だが、プライバシー保護を理由に被害者本人への個別の通知はしておらず、ホームページや手話、字幕付きの動画、点字リーフレットなどで相談窓口を周知するなどにとどまっている。
 全国優生保護法被害弁護団の山田いずみ弁護士は、「プライバシーに配慮しつつも、行政から被害者に申請を促さなければこのまま請求期限がきてしまう。被害者に届かないままにならないよう、周知にもっと力を入れてもらいたい」と話す。

(田中瞳子)




◆強制不妊 賠償認めず東京地裁「除斥」適用
 手術の違法性は指摘  
朝日新聞 2020(令和2)年7月1日 (1面)
 旧優生保護法の下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、東京都の男性(77)が国に3千万円の賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は30日、原告の請求を棄却した。伊藤正晴裁判長は「強制的な不妊手術は憲法が保護する私生活上の自由を侵害する」と違憲性を指摘したが、手術から20年が経過して賠償請求権が消えたと判断した。男性は控訴する方針。


◆強制不妊 また除斥期間の壁
 東京地裁 法の違憲性は判断せず 
朝日新聞 2020(令和2)年7月1日 (3面)
 旧優生保護法をめぐる訴訟の30日の東京地裁判決は、不妊手術の違憲性を認めつつも、原告側の請求を退けた。大きな壁となったのは損害があっても20年で賠償の請求権が自動的に消える「除斥期間」だった。被害者への一時金支給の支払が滞るなか、制度改正を求める声もある。

 除斥期間
 権利を行使しないままでいると、法律上その権利が消えるとされる期間。最高裁は1989年、「不法行為に対する損害賠償の請求権は20年で消滅する」との規定が除斥期間を意味すると解釈し、裁判実務で定着している。


東京地裁 判決骨子
・原告の男性は不妊手術により、子どもをもつかを決める余地を奪われ、憲法が保護する自由を侵害された
・手術は1957年で、(20年たち民法の定めにより)損害賠償の請求権は消滅した
・厚生(労働)相や国会議員たちが、手術を受けた人の被害を回復しなかったことが違法とはいえない


 強制不妊訴訟 東京地裁判決要旨 (朝日新聞2020.7.1)

【優生手術の違法性・権利侵害】
 原告は、優生手術によって、身体的な侵襲を受けるとともに、男性としての生殖機能を回復不可能な状態にされたものと認められ、実子をもつかどうかについて意思決定をする余地が強制的に奪われ、それを前提とした生涯を送ることを余儀なくされた。
 憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対して保護されるべきことを想定し、実子をもつかどうかについての意思決定は、当然、保護されるべき私生活上の自由に当たる。これを原告が主張する「リプロダクティブ・ライツ」ないしそれに包括される概念というかどうかはともかく、本件手術は、少なくとも憲法で保護された原告の自由を侵害するものといえる。

【除斥について】
 原告は、本件優生手術について、国賠法に基づき、国に対し、その損害の賠償を求め得る地位を得た。しかし、手術は1957年に実施され、本件訴訟は2018年に提起されたから、民法の除斥の規定によって、損害賠償請求権は、既に消滅している。除斥の期間の起算点は、加害行為が行われた時に損害が発生する場合に加害行為の時となる。
 手術で原告に生じた「人生被害」は、身体的・精神的な損害を含めて、手術時に発生したか、発生が予見可能なもので、別個の新たな損害とはいえない。したがって、原告の損害の性質を理由に、上記期間の起算点を本件手術後に遅らせることはできない。
 原告は、本件で除斥期間を進行させることは、酷である旨主張する。確かに、1948年の優生保護法成立以降の状況の下で、国家賠償請求訴訟を起こすことは、極めて強い心理的抵抗を感じたであろうことは十分に確認される。他方、その後、優生条項への問題意識が与党や厚生省で明確化され、88年には削除の具体的な論点整理が進んでいた。96年に障害者に対する差別と正面から認める形で同法は改正された。
 これを考慮すれば、88年ごろまでには、優生条項の問題点は社会的に理解される状況にあったといえ、その時点での提訴が、除斥の起算または進行を否定すべきほどに極めて困難であったとまでは認められない。
 除斥をめぐる判例法理を形式的に適用した場合、被害者にとって酷といえる事案が生じ得る余地がある。しかし、過去の最高裁判決に照らせば、この判例法理は、常に形式的に適用しなければならないものとはされておらず、救済の範囲が不合理に狭められるとまではいえない。立法的に変更することはあり得るとしても判例変更をすべきものとは認められない。

【救済措置や立法しないことの違法性】
 国による優生保護法の制定や優生手術の推進が、障害者への差別的意識を助長したのは否定できないが、昭和50年代以降、意識の変革が進み、厚生省は優生条項の問題を認識して改正を検討していた。
 優生思想自体は国が作り出したものではなく、その排除は現実問題として必ずしも容易であるとはいえない。1996年に法改正がされたことも考えれば、厚生大臣や厚生労働大臣に、
原告が主張するような賠償や謝罪をしなければならない法的義務があったとは認められない。
 国会議員についても優生条項の削除のほか、さらに補償その他の被害回復措置をとる立法が、国会の広範な裁量を考えてもなお、必要不可欠で明白だったとは認められない。国会議員の不作為が違法だっとする原告の主張は採用できない。
 なお、2019年4月24日、一時金支給法が成立したが、諸外国の例に照らし救済対象や金額の面で必ずしも不十分とはいえない。

【結語】
 原告の請求はいずれも理由がない。なお、国は長年にわたり、法的根拠をもって多数の強制不妊手術が実施されてきた事実と真摯に向き合い、一時金支給法が定める調査や措置を適切に講ずることが期待される。差別的な優生思想の排除が必ずしも容易でないとしても、すべての国民が疾病や障害の有無により分け隔てられることのない社会の実現に向け、国民とともに不断の努力を続けることが期待される。






■旧優生保護法訴訟をめぐる主な争点と主張   
   朝日新聞をもとに作成

 争 点  原 告  東京地裁判決
(6月30日)
 仙台地裁判決
(昨年5月)
旧優生保護法の違憲性 子どもを生み育てるかどうか決める 「リプロダクティブ権」は憲法13条で保障されており、違憲だ 「憲法13条で保護する自由を侵害」と手術の違憲性は指摘したが、法が違憲とは明言せず 不妊手術を強制した法は、幸福追求権を保障する憲法13条に違反し、無効
除斥期間(20年) 損害は今も続いており、請求権は消えていない。正義と公平の観点から適用すべきでない 起算点は手術日。遅くとも96年の法改正時には始まり、20年は過ぎている 除斥期間には合理性と必要性がある
政府 ・ 国会の不作為 政府も国会も被害回復のための施策や立法が必要と認識しながら、怠った 政府に被害回復措置を講じる法的義務はなく、 国会による立法が必要不可欠で明白だったとは認められない 立法措置は不可欠だったが、違憲の司法判断がなかったことなどから国会にとって必要性は明白でなかった

判決かなり後退
小山剛志・慶応大教授(憲法学)の話 
 旧優生保護法を憲法違反とした仙台地裁の判決から、かなり後退した印象だ。判決が「人生被害」という言葉を使っている通り、原告の被害は手術の一時点で捉えるべきではなく、長年差別を受けてきた全体で評価すべきだ。被害者が名乗り出て裁判を起こせる社会情勢だったのかを考慮すれば、手術時点ではなく、一時金支給法が成立し、国が謝罪した昨年を除斥期間の起点とするのが相当だ。


(新屋絵里)

一時金 支給621人 
被害者の2.5% 個別通知4県のみ
 政府は損害賠償を拒む一方で、昨年施行された一時金支給法に基づき、被害者に一律320万円を支給している。だが、被害者の請求に基づいて一時金の支給が認められたのは、6月30日時点で621人。2万5千人とされる被害者のわずか2.5%にとどまる。

 支給が進まない一因は周知不足だ。被害者側は手術の記録が残る人に一時金の仕組みを個別通知するよう求める。だが、政府はプライバシー保護を理由に個別には知らせず、通知するかどうかの判断を都道府県に委ねている。朝日新聞の調べでは、個別通知をしているのは山形、岐阜、兵庫、鳥取の4県にとどまる。
 また、被害者本人や家族が都道府県の窓口に相談しても「思い出したくない」「本人に知らせたくない」として請求しない例があると複数の自治体が認める。

 一時金の請求は施行後5年間と定められている。全日本ろうあ連盟の大竹浩司理事は「制度も知らされず、期限がきて一時金を受け取れなくなるのはひどい」と訴える。
 一時金支給法には、優生手術などの実態調査の実施も盛り込まれた。だが、その動きは鈍く、6月17日になって衆参両院が調査開始を指示したばかりだ。
 被害者側は第三者による客観的な調査を求めていたが、調査を担うのは衆参の事務方の国会調査室だ。第三者による調査だと当時の議員が厳しく追及されかねないとの懸念があった。

 日本障害者協議会の藤井克徳代表は「命の継承を絶った旧優生保護法の違憲性について、判決はまったく正面から答えていない」と憤る。「一時金が2.5%の人にしか行き届いていない現状は、被害者への差別や偏見がなお残っている証しだ。請求期限を延長するとともに、支給金額、対象ともに不十分な一時金支給法の改正を急ぐ必要がある」と語った。

(田中陽子、浜田知宏)


◆原告の男性は  朝日新聞 2020(令和2)年7月1日 (27面)
 国策によって不妊手術を強制された原告の訴えは届かなかった。東京地裁は30日の判決で、旧優生保護法下の強制的な手術について違憲性を指摘したものの、国への賠償請求を退けた。同様の訴訟を起こしている各地の被害者にも落胆や憤りが広がった。

 東京地裁の判決内容を知らされた宮城県内の70代の女性は「がっくり、気が抜けた」と自宅でうなだれた。全国8地域で24人が提訴している強制不妊をめぐる訴訟は、この女性が長年、声を上げ続けたことで動き出した。30日に東京地裁で判決を受けた原告の男性も、女性らの訴訟を知って、自らが受けた手術の意味を知ったという。女性は男性と励まし合ってきた。

 9月には高裁で自分たちの裁判が予定されている。「まだ判決が出ていない人たちもいる。今度こそいい判決をもらうため、諦めないで訴えようと思う」
 熊本訴訟原告の渡辺数美さん(75)は、判決内容を弁護士から電話で聞いた。「とても納得できない。優生保護法自体の違憲・違法について何の言及もなかったことに大きな憤りを感じる」と話したという。

(窪小谷菜月、大木理恵子)


◆「違憲」の重みと失望と 朝日新聞 社説 2020.7.1
 
何とも釈然としない判決だ。旧優生保護法に基づいて行われた強制不妊手術について、東京地裁は、個人の尊重や幸福追求権を定めた憲法に反するとの判断を示した。1948年に全会一致で旧法を制定した国会、長年にわたって運用してきた政府・自治体、そのことに疑いを差し挟まなかった社会の罪深さを、改めて痛感する。
 だが、旧法を憲法違反とした昨年の仙台地裁判決と比べると、きのうの判決は個別手術の違憲性を指摘したにとどまり、損害賠償の求めも退けた。子を産み育てるかどうかを決める権利を、一方的に奪われた被害者に寄り添う姿勢はうかがえず、示された理由は説得力を欠く。

 原告は遅くとも旧法が改正された96年以降は提訴できる状況にあったのにそうせず、請求権は既に消滅したと結論づけた。障害者への理解も進み、旧法が差別意識を助長する程度は低下していたのだから、裁判を起こせない状況ではなかった、という判断だ。
 被害の実態をおよそ理解しているとは思えない暴論だ。一方で判決は、「優生思想の排除は現実問題として容易とは言えない」とも述べ、法改正しただけで、それ以上、賠償や差別の解消に向けた措置を講じなかった国会と政府を免責している。
 少数者の人権を守り、立法や行政の逸脱・怠慢をチェックする司法の責務を放棄したものといわざるを得ない。原告側側弁護団が厳しい言葉で判決を批判したのは当然である。

 強制不妊問題は、一時金320万円を被害者に支払う法律が昨年4月に成立して一区切りついた感があるが、課題は尽きない。被害に見合う金額になっていないとの批判に加え、支給が認められたのは621人にとどまる。自治体や医療機関に個人が特定できる記録が残る被害者は約7千人。うち3400人が生存しているとみられることを考えれば、あまりに少ない。
 説明がないまま手術され、被害を認識していない人が少なくないほか、旧法が「不良な子孫」の出生防止をうたっていたため、今も多くの人が名乗り出られずにいると、支援に取り組む弁護士らは話す。この事実ひとつをとっても、きのうの判決がいかに現実から乖離しているかがわかるというものだ。

 一時金制度の広報・周知に努めるとともに、プライバシーに十分配慮したうえで行政側から被害者本人に連絡をとることなども、真剣に検討するべきだ。
 国会は先日、旧法の立法経緯や被害実態の調査を始めることを決めた。事実に迫り、過ちを検証することで、被害者の無念に応えなければならない。


◆強制不妊訴訟 原告が控訴  朝日新聞 2020(令和2)年7月11日
 
旧優生保護法のもとで国が不妊手術を強制したのは憲法違反だとして東京都の男性(77)が国に3千万円の賠償を求めた訴訟で、男性は10日、請求を棄却した東京地裁判決を不服として東京高裁に控訴した。


◆旧優生保護法 再び違憲
強制不妊 賠償認めぬ判決 
仙台地裁  
朝日新聞 2020(令和2)年12月1日
 憲法違反の旧優生保護法(旧法)によって不妊手術を強いられたとして、近畿に住む知的障害や聴覚障害のある70~80代の3人が国に慰謝料など計5500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、大阪地裁であった。林潤裁判長は「極めて差別的」などとして旧法を違憲と判断した。手術から20年の除斥期間の経過を理由に、原告側の請求は棄却した。
 原告側は控訴を検討中。旧法の違憲性を問う訴訟で全国3例目の判決で、同法の違憲判断は昨年5月の仙台地裁に続き2例目。

 林裁判長は旧法の違憲判断について、憲法13条が保障する子を産み育てる自己決定権を侵害するとともに、「特定の障害や疾患を有する者を一律に不良と断定し、極めて非人道的かつ差別的」と述べ、憲法14条の法の下の平等にも反するとの初判断を示した。
 その上で、原告らの損害は40年以上前の不妊手術の時に生じたとし、損害賠償請求権が20年で消える民法の「除斥期間」を適用して原告の訴えを退けた。
 原告弁護団は、除斥期間が適用された点を「被害者救済の道を絶たれてよいとの結論だ」と批判した。

(米田優人)


◆強制不妊 3度目「違憲」
「家族構成の自由侵害」請求は棄却 札幌地裁判決
  朝日新聞 2021(令和3)年1月17日

 旧優生保護法の下で不妊手術を強制されたのは違法だとして、札幌市の男性(79)が国に1100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が15日、札幌地裁であった。広瀬孝裁判長は「家族構成について意思決定の自由を侵害した」などとして、旧法が憲法24条に反するとの初判断を示した。手術から20年の除斥期間の経過を理由に、原告の請求は棄却した。
 原告は全国で初めて実名を公表して提訴した小島喜久夫さんで、控訴する方針。旧法を巡っては全国の9地裁・支部で計25人が提訴し、判決は4例目で、いずれも原告の請求は棄却された。旧法の違憲判断は19~20年の仙台、大阪両地裁判決に続き3例目。

 判決は、旧法が「子どもを産み育てるか否かについて意思決定をする自由を侵害した」として、幸福追求権を保障した憲法13条に反すると指摘。「暴力的とさえいうべきで、極めて非人道的」とした。精神病患者などを差別的に扱っているとして、法の下の平等を定めた14条違反も認めた。
 さらに、家族に関する制度の立法について定めた24条に対しても、「個人の尊厳に立脚しているといえず、合理的な立法裁量の限界を逸脱している」と指摘し、違憲と判断した。
 除斥期間の起算点は、小島さんが手術を受けた1960年ごろとし、20年が経過しており損害賠償請求権が消滅したとした。一方、19年4月に成立した被害者に一時金を支給する法律について「制定まで何の補償もなく、遅きに失したのではないか」と言及した。厚生労働省は「国の主張が認められた。今後も一時金の支給に取り組む」との談話を出した。

(磯部征紀)


◆強制不妊・中絶 国の賠償認めず
札幌地裁判決 旧優生保護法巡り  
朝日新聞 2021(令和3)年2月5日

 旧優生保護法の下で中絶と不妊の手術を受けさせられたとして、北海道の女性(77)と夫(故人)が国にそれぞれ1100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が4日、札幌地裁であった。高木勝己裁判長は女性が不妊手術を受けたとは認めず、中絶手術も「手術はあったが知的障害が理由とは認められない」と判断し、原告の請求を棄却した。

 同種訴訟の判決は5例目で、不妊手術の実施自体が認定されなかったのは初めて。判決は旧法の違憲性や不法行為から20年で賠償請求権が消える「除斥期間」が適用されるかの判断も示さなかった。原告弁護団は女性の了承を得て控訴する方針。

 訴状によると、原告側は、知的障害を理由に親族から出産を反対され、夫は中絶と不妊手術に同意をさせられ、女性は同年6月に両方の手術を受けたと主張。生前の夫の聞き取り内容が証拠として出されていた。
 判決は不妊手術について、医師の意見書や手術痕の写真など客観的な証拠が提出されていないと指摘。「不妊手術は聞いていない」とする親族の証言も踏まえ、夫の説明は採用できないとした。

 中絶手術を受けたと主張する原告への判決も初めてだった。判決は、旧法が経済的理由による中絶を認めていたことや、妊娠当時に夫婦が毎月金を借りにきていたという親族の証言から、「中絶が経済的理由だった可能性も否定できない」と判断した。
 夫婦は2018年6月、子どもを産み育てるかどうかを自ら決定する権利を侵害されたとして提訴。夫は19年に82歳で死去し、おいが原告を引き継いだ。

(磯部雅紀)



◆強制不妊「違憲」7件目 大阪地裁
提訴期間「超過」原告の訴えは棄却 
朝日新聞 2022(令和4)年9月23日
 旧優生保護法の下で不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、聴覚障害がある大阪府の70代の夫妻が国に計2200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は22日、原告側の請求を棄却した。 横田典子裁判長は旧法を違憲とし、手術から20年で賠償請求権が消える「除斥期間」の適用も一時的に制限されると認めたが、夫妻はその制限期間を過ぎてから提訴したとし、訴えを退けた。
 原告は、生後間もない高熱で耳が聞こえなくなった妻と、生まれつき聴覚障害がある夫。

 同種訴訟は全国9地裁・支部で起こされ、判決は控訴審を含めると9件目で、旧法を違憲としたのは7件目。2~3月の大阪高裁、東京地裁に続き、除斥期間を制限する判断となった。
 国側は「主張が認められた。旧優生保護法に基づく手術を受けた方に対しては、着実な一時金の支給に取り組んでいく」とのコメントを出した。

◆強制不妊で国賠提訴
 
優生保護法「違憲」新たに6人 朝日新聞 2022(令和4)年9月27日
  旧優生保護法の下で不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、 東京都、愛知県、宮城県の6人が26日、国に1人あたり1320万~3800万円の損害賠償を求め、東京、名古屋、仙台の3地裁に新たに提訴した。
  先行する同種訴訟では、控訴審を含めて7件の判決が旧法を違憲と判断。不法行為から20年で賠償請求権が消える「除斥期間」が壁となり、賠償までは認めない例が多いが、2~3月に大阪高裁と東京高裁が国の賠償責任を認める判決を出し、国が上告している。

 提訴した人は全国で31人となったが、5人は提訴後に死亡。弁護団によると同種訴訟の報道で被害の実態や提訴できることを知った人もおり、「さらなる周知が必要」と訴えている。
 国に賠償を求める訴訟は2018年に初めて起こされた。19年に被害者に 一律320万円の一時金を支給する法律ができたが、認定件数は1013件(8月末現在)にとどまっている。

(田中恭太)





《強制不妊 国に初の賠償命令 大阪高裁判決》
旧優生保護法は「違憲」




◆強制不妊 国に初の賠償命令 大阪高裁判決
 
優生保護法は「違憲」  朝日新聞 2022(令和4)年2月23日
 旧優生保護法の下で不妊手術を強いられたとして、近畿地方に住む知的障害や聴覚障害のある3人が、国に計5500万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が22日、大阪高裁であった。
 太田晃詳(てるよし)裁判長は、請求を棄却した一審・大阪地裁判決を変更し、国に計2750万円の賠償を命じた。一連の訴訟で国の賠償責任を認めたのは初めて。▶31面=「20年の壁」越え救済

 太田裁判長は旧法による人権侵害が強度だったことに照らし、20年を過ぎると損害賠償を求める権利が消える除斥期間の適用について「そのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」とし、適用を制限すべきだとする判断を示した。旧法を巡り、全国9地裁・支部に起こされた同種訴訟に影響する可能性がある。高裁判決は、旧法の規定について、特定の障害や疾患がある人を一律に「不良」と断定するもので、子を産み育てる自己決定権を保障した憲法13条や、法の下の平等を定めた憲法14条に反すると判断した。

 さらに原告らが社会的な差別や偏見の下、相談機会や情報へのアクセスが難しく、長期にわたって提訴できなかったと指摘。同種訴訟の提起を知ってから6カ月以内に提訴しており、損害賠償を求める権利は消えていないと結論づけた。
 厚生労働相は記者団に「大変厳しい判決であると受け止めております。今後の対応については判決の内容を精査して関係省庁と協議した上で適切に対応してまいりたいと思います」と述べた。

(米田優人)

 
◆強制不妊に賠償
 司法の提起に応えよ 朝日新聞 社説 2022.2.28

 旧法を違憲とする判断は、これまでも別の被害者が起こした訴訟で何度か示されている。だが、不法行為が20年経つと請求権がなくなる「除斥期間」の考えが立ちはだかり、賠償は認められなかった。今回の原告らも手術を受けたのは半世紀ほど前で、旧法が廃止された1996年から数えても、提訴までに20年以上経過していた。

 この点について高裁は、原告らは旧法に基づいて手術されたことすら知らされず、裁判に訴える道があることも最近になるまで認識していなかったと指摘。「除斥期間をそのまま適用するのは著しく正義・公平の理念に反する」と述べた。
 子を産み育てるか否かを決める自由を奪われたという被害の重大さを思い、厚い壁を何とか乗り越えようという、裁判所の強い意志がうかがえる。
 人権を守るべき国が、逆に人権を傷つける施策を推進し、障害者に対する差別や偏見を助長した。その結果、原告らは訴訟を起こす前提となる情報を得たり、専門家に相談したりする機会を失った――。 原告らの過酷な人生にしっかり向き合った判決理由は、説得力に富む。
 ただし裁判所が手を差し伸べることができるのは、目の前の原告に限られる。不妊手術を施された人は約2万5千人にのぼるとされ、立法・行政による包括的な対応が不可欠だ。

 国会も何もしてこなかったわけではない。19年に被害者に一時金を支払う法律を制定した。しかし責任を明確に認めたものではなく、額も320万円と被害に見合うものとは言い難い。
 法施行からほどなく3年になるのに、請求は1100件余りにとどまる。制度を知らない。根強い差別を恐れて名乗り出られない。そんな被害者が多いとされ、一部の県では手術の記録が残る人に通知を出し、手続きをとるよう促している。国はプライバシー保護を理由に消極的だが、こうした取り組みも参考に運用の改善を急ぐべきだ。
 いまの救済枠組みは救済の名に値するのか。どんな追加策が必要か。高裁判決を踏まえた真摯な議論が求められる。





《強制不妊訴訟 救済範囲拡大 東京高裁判決》
東京高裁判決要旨



◆強制不妊 救済範囲を拡大
 東京高裁「24年まで請求可能」  
朝日新聞 2022(令和4)年3月12日
 旧優生保護法の下で不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、東京都の男性(78)が国に3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決がが11日、東京高裁であった。平田豊裁判長は一審判決を変更し、旧法そのものを明確な違憲としたうえで国に1500万円の賠償を命じた。原告側の逆転勝訴となった。

国に2例目の賠償命令
 同種訴訟で国の賠償責任を認めたのは2月の大阪高裁判決に続いて2例目。
 今回の判決は、原告だけでなく旧法の被害者が2024年まで賠償請求ができるとの解釈を示し、より救済範囲を広げる判断となった。
 東京高裁判決によると、18年に提訴した原告の男性は1957年、不妊手術を受けた。

 判決はまず旧法について、「差別的思想で、目的達成の手段(不妊手術)も極めて非人道的だ」と批判。子を産み育てる自由を保障した憲法13条や、法の下の平等を定めた憲法14条に反すると認めた。
 次に、不法行為から20年が過ぎると賠償を求める権利が消える民法の「除斥期間」については、手術を受けた57年を不法行為の起算点とし、77年に賠償請求の権利が消えると指摘した。だが判決は、除斥期間適用を制限すべき「特段の事情が多くある」とした。

 具体的には①国は旧法の制定時から精神疾患などがある子の出生を防ぐ「優生思想」を正当化する内容を教科書に載せた②旧法を改正した96年次時、権利侵害があったと被害者に知らせなかった③手術は強度な人権侵害で、被害者は二重、三重の精神的・肉体的苦痛を与えられた④国に賠償を求める権利が憲法17条で保障されている――などを挙げた。

 こうした不誠実な国の対応などをふまえ、20年が過ぎたことで賠償を求められないのは「著しく正義・公平の理念に反する」と判断した。そのうえで、原告を含む旧法の被害者が国の不法行為を認識できたのは、「一時金支給法」が施行され首相と厚生労働相が謝罪した「2019年4月24日」と説明。この時点で「ようやく社会全体で不妊手術が違憲だと明確に認識できた」とした。

 同法が一時金の請求期間を5年間(19年~24年)としたことから、「5年間が経過するまでは除斥期間の効果も生じない」と結論づけ、原告以外の被害者が賠償訴訟を今後起こせる余地があることを示した。
 大阪高裁判決は、同種訴訟の提起を知ってから6カ月以内は除斥期間を適用しないと判断していた。
 厚労省は判決後、「主張が認められなかった。適切に対応する」とのコメントを出した。

(村上友里)



東京高裁判決要旨 朝日新聞 2022.3.12


 旧優生保護法は違憲とし、除斥期間の適用を制限して国に賠償を命じた11日の東京高裁判決の要旨は次の通り。

【法律の違憲性】
 優生手術を認めた同法の条項は立法目的が差別的思想に基づくもので正当性を欠き、目的達成の手段も極めて非人道的なものだ。憲法13条(幸福追求権)と14条1項(法の下の平等)に違反することは明らかだ。

【除斥期間の起算点】
 (損害賠償の請求権は20年で消えるという)民法724条後段の「除斥期間」は起算点を明確に「不法行為の時」としている。不法行為とは通常は加害行為時であり、損害の発生時期には左右されない。本件の起算点は加害行為時の手術時と言わざるを得ない。

【除斥期間の適用制限】
 ただ、被害者の権利行使を除斥期間の経過で排斥することが著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある場合は、その効果を制限すべきだ。

【本件の特段の事情】
 本件は違憲である法に基づき、国の施策として被害者に強度の人権侵害を行った。国は学校教育の場でも教科書に優生思想を正当化する記載をし、偏見・差別を社会に浸透させた。手術に際しては身体の拘束、麻酔薬の使用、だます手段も許容し、被害者が優生手術と認識しがたい構造的な仕組みを作った。1996年の同法改正でも違憲性を明確に言及せず、改正後も手術は適法との見解を表明して被害を救済しなかった。
 最高法規である憲法に反する法律に基づく施策で生じた被害の救済を、憲法より下位規範である民法724条後段の無条件な適用で拒むことは慎重になるべきだ。被害者の損害賠償請求権は憲法17条(国の賠償責任)で保障された権利で、民法の適用にあたっては、公務員の違法行為に救済を求める国民の憲法上の権利を実質的に損なわないよう留意しなければならない。
 被害者が不法行為だと認識できないうちに、除斥期間の経過で賠償請求権が当然に消えるというのは極めて酷だ。国は96年の法改正後も被害者が自己の被害についての情報を入手できる制度の整備を怠っており、除斥期間の経過で国が賠償責任を免れるのは著しく正義・公平の理念に反する。
 本件ではこうした特段の事情があり、原告が自らの被害が国の不法行為だと客観的に認識し得た時から相当期間が経過するまでは除斥期間の効果は生じない。

【提訴できる機関】
 一時金支給法は被害者への謝罪の意を表明しており、同法が制定された2019年になり、ようやく社会全体として手術は違憲で国の不法行為だと明確に認識できるようになった。同法は、一時金の請求期間を施行から5年以内と定めている。この請求より難しい提訴については、少なくとも同法の施行日(19年4月24日)から5年の猶予期間を与えるのが相当だ。
 したがって同日から5年間は除斥期間の効果は生じない。原告の提訴は18年5月で効果は生じていない。

【賠償額】

 
原告は、特定の疾病や障害があって「不良」な子孫をもつことを防ぐべき存在として手術の対象にされる差別を受け、意に反する手術を受けて生殖機能が回復不能な状態にさせられた。二重、三重の精神的・肉体的苦痛を与えられ、慰謝料は1500万円が相当だ。








国に賠償を命じた判決と
被害者救済の一時金支給法について


朝日新聞をもとに作成
《一時金 政府が増額検討 訴訟は上告》
《相次ぐ提訴 一時金請求期限まで1年》
《強制不妊と国の報告書》
《強制不妊への一時金請求期限5年延長》
改正法成立



 旧法による強制不妊は違憲だとして損害賠償を求めた訴訟に対して、大阪高裁は、人権侵害が強度だったことに照らし、20年を過ぎると損害賠償を求める権利が消える「除斥期間」の適用については、「そのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」として、適用を制限すべきだとする判断を示し、国に対して初の賠償命令を下した。
 東京高裁も「除斥期間」の適用は、憲法より下位規範である民法の規定によるもので被害者の権利行使を除斥期間の経過で排斥することが著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある場合は、その効果を制限すべきだとして、特段の事情を具体的に示して、国に賠償を命じた。

 大阪高裁と東京高裁の判決は、不法行為の時から20年が経過すれば、賠償請求の権利がなくなるとする民法に定める「除斥期間」の考え方に踏み込んだものであり、強制不妊に関する国のあやまちとともに、それを放置してきた一般社会の無理解にも目を向けさせる説得力あるもので大きな意味がある。
 強制不妊手術の被害者に一時金320万円を支給する一時金支給法が議員立法でようやく成立したのは、不妊手術を推し進めた旧優生保護法の成立から71年である。その一時金支給法は、旧法の違憲性を認めつつも、その責任の所在がまことに不明確なものであり、しかも救済のあり方そのものも改めて疑問を感じさせるものといえる。




《一時金 政府が増額検討 訴訟は上告》



◆強制不妊の一時金
 政府が増額を検討 訴訟は上告 
朝日新聞 2022(令和4)年3月25日
 旧優生保護法下に不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、東京都の男性(78)が国に損害賠償を求めた訴訟で、国は24日、旧法を違憲として国に1500万円の賠償を命じた東京高裁判決を不服として最高裁に上告した。一方、政府は、2019年に施行した救済法による一時金の増額を検討する考えを示した。

 高裁判決は、原告の請求を棄却し、旧法が子を産み育てる自由を保障した憲法13条や法の下の平等を定めた14条に反すると指摘。不法行為から20年が過ぎると賠償を求める権利が消える民法の「除斥期間」の適用を制限し、旧法の被害者が2024年まで賠償を請求できるとした。松野博一官房長官は「除斥期間の解釈について最高裁の判断を仰ぐ」と説明。そのうえで被害者に一律に支給される一時金320万円の増額などについて「国会側と相談して対応を検討する」と述べた。

(村上友里、西村圭史)


◆強制不妊 地裁も賠償命令
 熊本
違憲認定、勝訴3例目 朝日新聞 2023(令和5)年1月24日
 旧優生保護法のもとで、不妊手術を強制したのは憲法違反として、熊本県内の男女が国にそれぞれ3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、熊本地裁であった。中辻雄一朗裁判長は訴えを認め、違憲と判断。国に対し、男性に1500万円、女性に700万円を支払うよう命じた。

 原告団によると、全国10の地裁・支部で同様の訴訟が起こされており、勝訴は高裁を含め3例目。
 判決は、男性は1955年ごろ、女性は71年ごろに不妊手術を受けたと認め、憲法13条の幸福追求権、14条の差別禁止を侵害しており、違憲との判断を示した。
 国は、不法行為があった時から20年が経過すると、損害賠償を求める権利が消滅すると定めた民法の規定「除斥期間」の適用を求めたが、判決は20年は過ぎたと認めたうえで、適用しない判決を示した。

 理由として、被害の大きさ▷手術を積極的に進め、偏見・差別を広めた国の責任の重大さ▷一時金支給法の制定(2019年4月)まで国は誤りを認めず、原告らの賠償請求は困難だったこと――などを挙げた。その上で、除斥期間を理由に原告らの損害賠償請求権を消滅させるのは「著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある」とした。
 厚生労働省は「国の主張が認められなかった。判決内容を精査し、適切に対応したい」とのコメントを出した。

(吉田啓、堀越里菜)


◆「強制不妊」訴訟
 国が高裁に控訴
 熊本地裁 賠償命令 朝日新聞 2023(令和5)年2月4日
 不妊手術を強制したのは憲法違反として、熊本県内の男女が国に賠償を求めた訴訟で、国は3日、原告の訴えを認めた一審の熊本地裁の判決を不服として、福岡高裁に控訴した。
 国側は一審で、原告2人が手術を受けてから20年以上が経過して除斥期間を過ぎており、損害賠償請求権が消滅しているとして、訴えは無効と主張していた。



◆強制不妊 国に賠償命令
 旧優生保護法
静岡の女性 地裁2例目 朝日新聞 2023(令和5)年2月25日
 旧優生保護法の下で不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、聴覚障害がある静岡県の80代の女性が3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、静岡地裁であった。増田吉則裁判長は旧法を違憲とし、国に1650万円の賠償を命じた。
 旧法を巡る同種の裁判は全国10の地裁・支部で起こされている。これまでに出た9件の一審判決では、7件が請求を棄却していたが、1月の熊本地裁判決は原告の訴えを認め、静岡が2例目となった。控訴審では昨年2、3月の大阪、東京両高裁で原告が逆転勝訴。静岡弁護団団長の大橋昭夫弁護士は「司法は正義、公平の観点から、被害者を救済するという姿勢を完全に固めた」と評価した。
 判決などによると、女性は先天性の聴覚障害があり、1970年10月ごろに静岡県内の医療機関で不妊手術を受けた。

 判決では、旧法による優生手術を「子を産むか否かを意思決定する自由を侵害した」として、幸福追求権を規定した憲法13条に反すると指摘。旧法について「特定の障害や疾病を有する者を、差別的な思想に基づいて不合理な取扱いをするもの」として法の下の平等を定めた憲法14条に反するとの判断を示した。
 不法行為から20年で賠償請求が消える民法の規定「除斥期間」についても、「国が全国的かつ組織的な施策によって、原告が優生手術を強いられた事実を知りえない状況をことさらに作り出した」と批判し、適用を制限する判断を示した。

 厚生労働省は「判決内容を精査し、関係省庁と協議したうえで、適切に対応してまいりたい」とのコメントを出した。

(小山裕一)



◆強制不妊訴訟
  国に賠償命令
 仙台地裁 
 朝日新聞 2023(令和5)年3月7日
 障害などを理由に不妊手術を受けさせられたのは違憲だとして、宮城県内の70、80代の男性2人が国を相手取って慰謝料など計6600万円を求めた訴訟の判決が6日、仙台地裁であった。 高橋彩裁判長は「意思に反する手術で生殖不能にさせられ、著しい精神的苦痛を受けた」として、それぞれに1650万円を支払うよう国に命じた。

 原告弁護団によると、同様の訴訟は全国11の地裁・支部で起こされ、賠償を認めたのは今年2月の静岡地裁判決に続き5例目。
 判決によると70代男性は1967年に入所先の知的障害者施設の職員に診療所に連れていかれ「脱腸のため」と手術を受けた。80代男性は52年に手足をつながれ手術を受けた。その上で、旧法について、子どもをもうけるかどうか決める自由などを侵害し、「個人の尊重という憲法の基本理念に照らし不合理」として憲法13条などに反すると判断した。
 国側は、不法行為から20年で賠償請求権が消えるとする民法上の「除斥期間」の適用を求めた。判決は「20年の経過によって損害賠償義務を免れるのは、著しく正義・公正の理念に反する」として除斥期間の適用を制限した。

(平川仁)



◆強制不妊控訴審 国に支払い命令
 札幌高裁 原告、提訴時に実名 
 朝日新聞 2023(令和5)年3月18日
 旧優生保護法の下で不妊手術を強制されたのは違法だとして、札幌市の小島喜久夫さん(81)が国に3300万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が16日、札幌高裁であった。大竹優子裁判長は「国は違法な施策によって障害者への根強い差別や偏見を正当化し、助長してきた」と指摘。請求を棄却した一審判決を取り消し、国に慰謝料など1650万円の支払いを命じた。
 高裁判決は、旧法は違憲と改めて認定したうえで、除斥期間を適用することは、「著しく正義・公平の理念に反する」と判断した。
 全国弁護団共同代表の新里宏二弁護士は「小島さんの提訴後、相次いで被害者が顔や名前を明かして提訴した。名前と顔を出して『この人が訴えている』と明示することは訴求力が高まる」と話した。

(平岡春人、石垣明真)


◆強制不妊 賠償命じる
 名古屋地裁 違憲 一審で9件目
 朝日新聞 2024(令和6)年3月13日
 旧優生保護法の下で不妊手術を強制されたのは違法だとして、聴覚障害のある70代夫婦が国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、名古屋地裁は12日、国に1650万円の賠償を命じた。 斎藤毅裁判長は旧法を違憲と判断し、手術から20年で賠償の請求権が消える除斥期間を適用することは「著しく正義・公平の理念に反する」と述べた。

 全国12地裁・支部で起こされた同種訴訟の11件目の一審判決となり、9件目の違憲判決。4件目の国賠命令となる。
 原告は名古屋市に住む尾上敬子さん(74)と夫の一考さん(77)。これまでは仮名で訴訟に臨んできたが、判決を前に公表。国に2970万円の賠償を求めていた。
 判決などによると、2人は1975年に結婚し、同年に母からの強い指示で敬子さんが不妊手術を受けた。医師からの事前説明や、敬子さんの同意はなかった。
 判決は、旧法について幸福追求権などを定めた憲法13条や、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反すると判断。その上で「国は遺伝性の疾患などのある者は劣った者で増加すべきでないとの認識が広がることを促進した」と述べ、国が原告の賠償請求権の行使を困難にしたと指摘。除斥期間の適用を制限して、国に賠償を命じた。

(高橋俊成)




《相次ぐ提訴 一時金請求期限まで1年》



◆相次ぐ提訴 一時金請求期限まで1年
        
朝日新聞 2023(令和5)年5月8日

 旧優生保護法(1948~96年)下で、障害や特定の疾患がある人たちが不妊手術を強いられた問題で、」政府や国会は新たな対応を迫られている。4年前におわびを盛り込んだ首相談話を発表し、被害者に一時金を支給する法律も施行されたが、提訴はやまず、各地で国に賠償を命じる判決が相次ぐ。一時金請求期限まで残り1年を切った。

 2019年4月に被害者に一律320万円を支払う法律が議員立法で成立。安倍首相(当時)は、反省とおわびを盛り込んだ談話を発表した。ただ国は手術の違憲性の認否を避けている。こうした中、手術は憲法違反として、全国11の地裁・支部で国に損害賠償を求める裁判が起こされた。 当初は旧法を違憲としつつも、不法行為から20年が過ぎると賠償を求める権利が消える「除斥期間」を理由に原告の請求を棄却する判決が出た。

 潮目が変わったのは、昨年2月。大阪高裁は除斥期間を「そのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」とし、適用を制限。初めて国の賠償責任を認めた。
 弁護団によると、以降の八つの判決で除斥期間をそのまま適用すべきでないと判断し、1件を除いて国に賠償を命じた。金額も1人当たり1300万~1500万円の慰謝料を認めるなど、一時金を大幅に上回った。

増額検討 調整は難航
 国は、国会では被害者へのおわびを繰り返しながら、判決を不服として控訴、上告を重ねている。松野博一官房長官は会見で「国の責任の一部が認められた判決は、除斥期間の解釈適用に関して本件事案にとどまらない、法律上の重大な問題を含んでいる」と説明。最高裁の判断を仰ぐ姿勢を崩さない。一方、一時金を大幅に上回る賠償命令が相次いでいることについては「国会での議論の結果を踏まえて検討していく」と述べた。

弁護団「上告断念を」
 被害者に残された時間は限られる。旧法下で約2万5千人が手術を受けたとされるが、一時金を受け取ったのは1千人強。認定者の約3分の2が70歳以上だった。
 全国弁護団共同代表の新里宏二弁護士は「国は控訴、上告せずに政治決着を図ってほしい」と訴える。念頭にあるのは元ハンセン病患者の家族への国の対応だ。


(高橋健次郎)



強制不妊 二審も棄却 再び「20年の壁」
 国の賠償認めず
 仙台高裁 
 朝日新聞 2023(令和5)年6月2日
 不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、宮城県の女性2人が国に計約7千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が1日、仙台高裁であった。石栗正子裁判長は旧法を違憲としつつ、不法行為から20年が過ぎると賠償請求権が消える「除斥期間」を適用。請求を棄却した一審を支持し、控訴を棄却した。

 同種訴訟は全国12地裁・支部に起こされ、高裁判決は5件目。過去の4件は、除斥期間をそのまま適用するのは正義・公平の理念に反するなどとして国に賠償を命じており、判断が分かれた。
 原告は、60代と70代の女性。うち1人が2018年1月に全国で初めて提訴したのを機に、各地で提訴が相次いだ。

 仙台高裁は判決は、優生手術を定めた旧法の条項について、法の下の平等を保障した憲法14条に反すると判断した。ただ,2人は60~70年代に手術を受けたことを家族の会話などから認識し得たとし、手術から20年たつ前に提訴することは「困難だったが、不可能とまではいえない」と指摘。19年5月の一審・仙台地裁判決に続いて除斥期間を適用し、提訴時点で賠償請求権は消えていたと判断した。

原告側「戦い続ける」
 全国で初めて提訴した60代の原告女性の義姉は、判決後に会見し「まだまだ戦い続けます。障害者差別がなくなるように、声を上げられない人が、声を上げやすくなるように」と強調。もう1人の原告女性とともに上告する考えを示した。


(根津弥、平川仁、小山歩)




《強制不妊と国の報告書》



強制不妊の過ち くり返さぬために 
国の報告書 松原洋子・立命館大教授に聞く
  朝日新聞2023(令和5)年8月29日

 旧優生保護法下で、障害や特定の疾患がある人たちが不妊手術を強いられた問題で、国の報告書が6月に公表されました。
 運用実態把握へ 都道府県名公開を 
  強力な優生政策 正当化された手術
   強制不妊と国の報告書  

 旧優生保護法は1948年、議員立法により全会一致で成立。「不良な子孫の出生を防止する」目的で不妊手術を認めていた。本人の同意を得ない場合、医師の申請や審査会の決定などがあれば手術を実施できた。不妊手術は約2万5千件行われ、うち同意のない手術は1万6475件だった。
 同法は96年、「優性思想」に基づく不妊手術などの規定を削除し「母体保護法」に改められた。2019年4月に成立した、被災者への一時金支給法は国が優生手術に関する調査をすると明記。翌年に衆参の厚生労働委員長が両院の調査室に報告書の作成を命じ、今年6月にまとめられた。
■報告書の骨子
・旧厚生省は、身体拘束したり、だましたりすることが許されると通知
・手術の適否を決める都道府県優性保護審査会が、定足数を欠いた状態や、書類の持ち回りで開催された
・法定外の放射線照射や子宮摘出が横行
・9歳の男女が不妊手術を受けたケースも




《強制不妊への一時金請求期限5年延長》
改正法成立



強制不妊への一時金
 請求期限5年延長 
改正法成立  朝日新聞2024(令和6)年3月30日

 旧優生保護法下で、不妊手術を強いられた問題をめぐり、被害者が一時金を請求する期限を5年間延長する改正法が29日、参院本会議で成立した。新たな期限は2029年4月23日となる。
 被害者に一律320万円の一時金を支給する法律は19年4月に議員立法で成立。旧優生保護法下で約2万5千人が手術を受けたとされるなか、一時金の支給認定を受けた人は2月末時点で1100人に満たず、期限の延長が求められていた。旧優生保護法をめぐっては国に1千万円超の慰謝料を命じる判決も相次いでいる。超党派の議員連盟は最高裁の判決後、さらなる対応を検討する。
「国責任認めて」
 一時金支給法の期限延長を受け、全国弁護団は29日、「1人の被害者も取り残さないことが必要で、期間延長は歓迎する」との声明を出した。
 会見した東京訴訟の関哉直人弁護団長は「埋もれている被害者救済のため、延長には意味がある」と話した。一方、法律は国の責任を明確に認めておらず、支給額も低額なことから、「法律の内容は非常に不十分。国に賠償を命じたこれまでの判決を踏まえて改正をすべきだ」と指摘した。

(高橋健次郎、金子和史)









強制不妊 大法廷審理へ
除斥期間「20年の壁」争点に





強制不妊 大法廷審理へ 
 除斥期間「20年の壁」争点に 
朝日新聞 2023(令和5)年11月2日
 旧優生保護法(1948~96年、旧法)の下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、障害者らが国に損害賠償を求めた一連の訴訟で、最高裁第一小法廷は1日、5件の訴訟の上告を受理した上で、裁判官15人全員で審理する大法廷(裁判長=戸倉三郎長官)で判断することを決めた。
 訴訟では、手術の違憲性に加え、20年を過ぎると賠償の請求権が消える「除斥期間」を適用するかが大きな争点になっている。最高裁の見解が分かれるなか、大法廷が統一判断を示すとみられる。

 一連の訴訟は2018年に始まり、38人が全国12地裁・支部に提訴している。既に7件の高裁判決が出ているが、最高裁は、今年6月1日までに言い渡された5件の上告を受理し、大法廷に回付した。
 大阪、東京、札幌、仙台の計5件の高裁判決は、旧法の規定は幸福追求権を定めた憲法13条や、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとしたが、除斥期間についての判断は割れている。
 4件は、国が推進した施策によって差別や偏見が固定化し、原告らが権利侵害を認識して提訴するのは著しく困難だったと指摘。「除斥期間の適用は著しく正義・公平に反する」として、国に賠償を命じた。一方で今年6月の仙台高裁は除斥期間を適用し、「賠償請求権は消滅した」として国の賠償責任を否定した。

 最高裁が過去に除斥期間の適用を認めなかったのは、例外的な2件にとどまる。旧法をめぐる集団訴訟が今後も続く中、「20年の壁」を厳格に扱ってきた最高裁の判断が注目される。

(遠藤隆史)



強制不妊訴訟 国が上告 朝日新聞 2024(令和6)年2月9日
 旧優生保護法の下で不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、聴覚障害がある大阪府の70代の夫妻が国に計2200万円の損害賠償を求めた訴訟で、国は8日、計1320万円の賠償を命じた二審・大阪高裁判決を不服として、最高裁に上告した。





《参考》
 ハンセン病と元患者家族の集団訴訟











  














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