教育を受ける権利と学歴偏重  
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文化国家としてのこれからの日本の教育を見直すとすれば、
重要なことは、教育とは何か、誰のための、何のための教育か、ということを
改めて考えてみることだと思います。





教育を受ける権利と受けさせる義務の意味


 教育を受ける権利に対して、教育を受けさせる義務があります。その権利と義務の間には、人としての生き方や生きがいの実現、生活や文化の継承とその維持発展などに関係する大切な意味があるわけです。それが義務教育の考え方の基本になっていると思います。

 人間は、単に習性的にその一生を終える動物とは違います。いわゆる人の生き方とか生きがいというようなものは生まれながらにして自然に身についているものというよりも、それは生まれてからの、その後の生きる過程で培われるものだといえます。そこに教育的な意味があり、教育を受ける権利と教育を受けさせる義務があるわけです。

 人が人としてよく生きるためという意味の教育であるとすれば、それは特定の人だけを対象にするものではなく、すべての人が対象でなければなりませんし、人としてよく生きるための教育であると考えれば、障害をもつ子どもの教育も障害のない子どもの教育も、そのための教育目標は一つだと思います。

 しかし具体的に教育の効果的な内容や方法、教育の場としての教育環境を整えるということでは、重症の障害児の場合など、学校がその子どもを受け入れるのにふさわしい環境条件を整えることができるのであればよいのですが、 学校以外の施設や病院的なところを教育の場とするほうが適切ならば、それも教育の場として位置づけ、教育内容及び方法の充実を図るということが大切なわけです。

 子どもの親には、親の立場で、子どもの教育を受ける権利と子どもに教育を受けさせる義務の両方の面からどのような教育を選択するかの優先的権利があります。しかし、それが子どものためといいながら、結果的には親の一方的な考え方に基づく選択になりうるところに十分な注意を要すると思います。



義務教育と高等教育について

 障害のあるなしにかかわらず、誰にも教育を受ける権利があるわけですが、教育を受ける権利で大事なことは、どのような教育内容をどのような方法で、どのような教育環境のもとで受けることができるかどうかということだと思います。
 障害のある場合は、当然その障害の内容及びその程度や状態に対する配慮を要すると思います。

 1979(昭和54)年から養護学校(現:特別支援学校)の義務制が実施されました。そして障害のある子どもは養護学校へという指導が始まりました。養護学校から「特別支援学校」の制度へと移行し現在に至っていますが、教育を受ける権利と教育を受けさせる義務(義務教育)に関する問題を次のような事例に沿って考えてみたいと思います。

 養護学校の義務制が実施されて間もない1981(昭和56)年の国際障害者年においていわゆるノーマライゼーションの理念が強調され、そうした理念が日本においても広まることになります。それが契機となって、養護学校を拒否し、あえて普通学級への在籍を希望して入学するというケースが出てきました。 そしてそのまま義務教育を終えることになり、さらにその後の進路を考える時期に入って、普通高校に進学したいという希望へと発展しました。

 そして、字が読めない、しゃべれない、体が不自由でも、試験が零点でも「障害をもつ子どもを普通高校へ」という運動となって広がりをみせました。

 「学歴のために高校へ行かせたいのではない。みんなと同じ生活をさせてやりたい」「障害のある子のことを知ってほしい」というのが、その運動の主張だったようです。しかしこの運動はノーマライゼーション本来の理念にかなうものとも、教育を受ける権利を主張するものとも言い難い。
 なぜなら普通高校へ進学するということがその子にとって有意のものであるならばよいが、進学したいというのは当の本人の自らの希望というよりも親や周囲による学歴偏重の一般的な価値観や考え方が優先されたものだといえるからです。

 みんなと同じ生活をさせてやりたい、障害のある子のことを知ってほしいということであるならば、普通高校へ行くことにこだわらなくともよいはずです。 なぜ普通高校へ行くことにこだわらなければならないのかというところに重要な考慮すべき点があると思います。

 障害があっても普通高校で学ぶ力があり、みんなと同じ高校生活を送ることが可能であるというのであれば普通高校への進学も当然に選択されてよいわけです。しかし試験も受けずに、あるいは零点でも普通高校へ行くということが本当に本人のためになるのかどうかということになると、それは高等学校の位置づけ及びその高等学校の存在する意味をどのように考えるかということとも関連する重要な問題だと思います。

 こうした問題は、教育の内容や教育方法論をめぐる問題としてそのまま今現在に引き継がれているようです。こうしたことについてもノーマライゼーションの理念やインクルーシブ教育の理念の広がりの中で、改めて考えてみるべきことだと思います。

 障害のない子どもに障害のある子どものことを知ってほしい、みんなと同じ生活をさせてやりたい、ということと障害をもつ子どもの教育を受ける権利を保障するということは別の問題であるという理解認識が大切です。その上で障害をもつ子どもの教育をどう考えるかということが初歩的なきわめて大切なことではないかと思います。

 世界人権宣言の第26条は、以上のようなことを考える上で参考にすべきものとして重要です。


世界人権宣言(1948年12月10日 第3回国連総会採択)

第26条 すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるものでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない。
2 教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人種的若しくは宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならない。
3 親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。


〈参考〉 浅井 浩『知的障害と「人権」「福祉」』(田研出版 2003.2)




学ぶ権利と学ぶ力と高等教育の意味

 特別支援教育のための「特別支援学校」の制度が導入されたことは大変よいと思います。しかしその卒業後の就労支援や進学に関する問題が、今日的課題となっています。
 また進学に関しては、2005(平成17)年施行の発達障害者支援法により、大学や高専に「障害の状態に応じ、 適切な教育上の配慮をする」ということが規定されました。適切な配慮による学びの結果が、その人の生活(人生)に有意なものとなればよいと思います。

 しかし「適切な教育上の配慮をする」という、その前提として、教育を受ける権利に対する義務教育の意味と、学ぶ権利と学ぶ力に対する高等教育の意味、そして教育の機会均等とはどういうことかを改めて考えてみるということが、きわめて大切なことではないでしょうか。
 にもかかわらず、そのへんの意味を明確に認識しないままの「教育を受ける権利の乱用」がまかり通り、無意味な学歴偏重を招いてきたように思います。

 学ぶ権利と学ぶ力が相まってこそ高等教育の意味があるはずです。それが教育の機会均等ということであればよいのですが、そうでなければ高等教育の存在する意味も価値も失ってしまう危険性が大きいように思います。



教育を受ける権利の乱用 が、無意味な学歴偏重を招くようであってはならないと思います。
 学ぶ権利と学ぶ力が相まってこそ高等教育の意味があるはずです。そこに教育の機会均等の意味もあるはずです。





◆発達障害 大学で支援
    全大学の半数超に在籍   
朝日新聞 2012(平成24)年7月4日

 発達障害の学生が学ぶ機会を確保するため、大学が支援に取り組み始めている。日本学生支援機構の2011年の調査では、発達障害の学生が在籍する大学が、初めて全大学の半数を超えた。 2人に1人が大学に進む時代になり、学生が多様化してきたことが背景にある。

 支援機構の調査では、大学院を含む全学生約302万人のうち、発達障害の診断書があるのは1179人。診断書はないものも含め何らかの教育上の配慮を受けている学生は2918人にのぼった。発達障害の学生がいる大学は455校で全体の58.6%で、5割を超えた。
 何らかの支援をしている大学は371校で47.8%。 支援の内容は、多い順に①休憩室の確保②学生に合わせて実技や実習に配慮③授業などの注意事項を文書できめ細かに伝達④教室の座席位置などへの配慮⑤講義内容の録音を許可する⑥期末試験時間などの延長、別室受験――だった。

 発達障害の支援教育に詳しい信州大の高橋知音教授は「高校までと違い、大学は授業の選択から始まる。ここでつまずき、初めて問題が顕在化するケースが少なくない。他学生と同じ条件で学ぶ機会、権利を保障するのが大事」と話している。
 2005年施行の発達障害者支援法では、大学や高専に「障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をする」ことが規定されている。


知的障害の若者「大学」で青春 
 福祉事業組み合わせ 4年生の学び広がる 
朝日新聞 2017(平成29)年7月22日(PDF)
 関心ごとを論文に 意欲増し生き生きと  「進学の機会の平等 議論を」
 知的障害のある若者の学びを支える疑似的な「大学」の開設が相次いでいる。発達に寄り添い、時間をかけて学んでもらい、社会に送り出す。障害の有無にかかわらず青春を楽しみ、人生を考える時間を持ってほしいという、親や支援者の思いも後押しする。

いま子どもたちは №1510 18歳からの学びの場
  ゆっくり成長 私の「大学」   
 朝日新聞 2018(平成30)年11月25日 (PDF)
 東京都新宿区にある「カレッジ早稲田」。障害のある若者たちが学ぶ「大学だ」。障害者総合支援法の自立訓練事業(2年間)と就労移行支援事業(同)を組み合わせ、4年間を通じた独自のカリキュラムを組む。2014年に開校した。普通科と生活技能科からなり、現在、特別支援学校高等部などを卒業した104人が学ぶ。運営するのは、社会福祉法人鞍手ゆたか福祉会(福岡県)から分社した株式会社ゆたかカレッジ。全国5カ所にカレッジがある。
 自主ゼミは普通科の目玉授業の一つ。自分の好きなことを追求し、情報活用能力や主体性などを育む狙いだ。内容はアニメから数学まで、と幅広い。

知的障害の若者 乏しい学びの場
 特別支援学校高等部の卒業者の進学先としては、特別支援学校に設置された専攻科(2年)という選択肢がある。だが、「全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会」によると、知的障害が対象の専攻科があるのは全国で9校だけだ。
 こうした背景などから、10年ほど前から、高等部を卒業した知的障害のある若者の学びの場が各地にでき始めた。2014年に日本が批准した障害者権利条約には「締約国は、障害者が、差別なしに(中略)一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受できることを確保する」とある。

 文部科学省は今年2月、「学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議」(座長・宮崎英憲・東洋大名誉教授)を設置。学校を卒業した後の障害者の学びの現状と課題を分析し、推進策を検討し始めた。NPO法人「障がい児・者の学びを保障する会」(東京)の大森梓・代表理事は「ゆっくり発達するからこそ、より長い学びの場が必要だ。自分の人生をどう生きるかを決定するのは、障害の有無にかかわらず、その人自身。その力を育むためにも生涯を通じた学びの場が全ての人に開かれていてほしい」と言う。




大学の設置認可についての問題提起

 文部科学大臣は「大学の乱立に歯止めをかけて、教育の質を向上させたい」として大学の設置認可について問題を提起した。大学とは何か、何のための大学か、大学に何を期待するか。

 文科省の大学設置・学校法人審議会は1日(2012.11.1)、秋田公立美術大、札幌保健医療大、岡崎女子大(愛知県)の3大学の設置を認める答申を出したが、田中文科相は翌日、これを覆し不認可にしたと発表。理由については、大学の数が多いとの認識を示し、「運営に問題のあるところもある」 「大学教育の質がかなり低下してきている」などと述べていた。3大学の評価には触れていなかった。
 3大学の関係者は連携して不認可の撤回を求め、7日に同省を訪れる予定。

2012(平成24年)11月6日付 朝日新聞より


 来春の開学を予定していた3大学の新設認可をめぐり、田中真紀子文部科学相は7日、「認可する」と表明。正式決定の時期は明言しなかったが、文科省の幹部は「一両日中」との見方を示した。突然の「認可しない」発言から5日。3大学が求める「今週中の認可」が実現する見通しになった。

2012(平成24年)11月8日付 朝日新聞より


 文部科学省は8日、3大学の来春の開学を認可した。田中真紀子文科相がこの日午前に決裁し、同省は各大学側に電話で伝えた。
 文科省は、大学新設の審査基準などの見直しを検討してもらう場を来週中にも設ける。人選について田中文科相は7日の衆院文科委員会でジャーナリストや企業関係者、公認会計士らを考えていると述べた。再来年の春に開学を目指す大学の申請期間が来年3月中になるため、同省は結論を2月までに得たい考え。
 3大学については、同省の大学設置・学校法人審議会が1日付で設置を認める答申をした。しかし田中文科相は2日、3大学を認可しないと表明。6日には設置認可のあり方を見直した上で判断する方針に転換した。7日には現行制度で認可する方針に転じていた。

 3大学の新設が不認可とされた問題は、二転三転の末、田中真紀子文部科学相が方針を撤回。8日に認可が決まり、ひとまず収束。
 一方、大学の「乱立」を指摘し、新設に歯止めをかけようという田中文科相の訴えには賛同する声もある。少子化の中、なぜ大学の新設は続くのか。問題提起を受けた審査体制の見直しは、これから本格化する。

 2012(平成24年)11月月9日付 朝日新聞より


≪文部科学大臣の発言に思うこと≫
「大学が多すぎるから新たな大学の設置は認可しない」(田中真紀子文部科学大臣)
 大学とは何か、単に多いから、少ないからという理由で設置の認可・不認可の決定を下すものなのか。決してそうではない思いがあったにせよ、二転三転するような発言は軽いとしか言いようがない。

「学力低下に対応するため土曜日の授業を復活させたい」(下村博文文部科学大臣)
 ゆとり教育と称して学校週5日制を導入したはずが…、問題の本質は、授業時間を単に減らしたり、増やしたりすればよいということではないはずです。
 学力低下の問題は、単に授業時間数を増やして詰め込む知識の量を増やせばよいというものではない。どうやって学ぶ意欲を引き出し、考える力や応用力を身につけさせてやるかというところが問題のはずです。




大規模11私大 定員増  学生、寄らば大規模私大 朝日新聞 2016(平成28)年5月29日
 来年度入学分申請3倍3866人 抑制策前、駆け込み   「大きさ=人気」の傾向  

国立大学はこれから (上)  朝日新聞 2016(平成28)年7月26日
 社会に貢献できる大学へ  地域と向き合い新たな価値創る  近年の大学改革(PDF)
国立大学はこれから (下)  朝日新聞 2016(平成28)年7月27日
 「地方大」の強み生かす道は 「地元枠」など柔軟な仕組みを 多様な学生の確保に期待 価値ある研究で資金集め(PDF)

大学3割「学力より数確保」
 少子化影響 文科省が規制強化  
朝日新聞 2016(平成28)年11月7日
ひらく日本の大学 朝日新聞・河合塾共同調査 
 入学者の学力よりも、学生数の確保を重視する大学が3割に上ることが、全国の大学を対象にした朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく日本の大学」でわかった。少子化が進み、学生を奪い合う競争が激化する中、特に小規模校で「学生数の確保」を挙げる大学が多い。
 「学生数の確保より入学者の学力の保証を重視する」 「入学者の学力の保証より学生数の確保を重視する」のどちらに近いかを選んでもらった結果、「学生確保重視」と答えた大学は32%。「学力重視」は61%、未回答が1%だった。
 大学の規模別にみると、「学生確保重視」は入学定員3千人以上の大規模校で4%にととまるが、1千〜2999人の大学で20%、300〜999人で33%、300人未満だと40%と、規模が小さくなるにつれて上がっていく。また、国立大の16%、公立大の13%に比べ、学生数が経営に直轄する私立大は37%と高くなっており、競争激化の切実さと大学の本音がうかがえる。
 文部科学省は地方に学生を分散させようと、首都圏や関西圏に多い大規模校に対し、入学定員の一定割合を超えて学生を受け入れると、翌年以降に定員を増やせなくなる規制の強化に乗りだした。今年の申請分から段階的に始めている。
 調査は6〜8月に行い、国公私立大746校のうち88%の654校が回答した。    (片山健志)

地方の国立大 教員雇用に寒風  朝日新聞2016(平成28)年11月24日
 北海道大 人件費55億円 削減案  高知大 採用・昇任2年間凍結 国なお改革要求■「任期つき」耐える現場(PDF)


◆大学設置基準見直し  
  中教審了承 教員定数や校地面積  
朝日新聞 2018.(平成30)年9月27日 
 文部科学省は、大学にとって最低限必要な教員定数や施設などの水準を定める、大学設置基準の抜本的な見直しに乗り出す。
 2040年の高等教育の在り方について議論している中央教育審議会の将来構想部会が26日、文科省に設置基準などを求める答申案を了承した。
 現行の基準は1956年に設けられてから修正が続けられてきたが、大学の多様化が進み、根幹部分も見直す必要があると文科省も判断した。
 設置基準は細部を中心に修正が繰り返され、「つぎはぎだらけ」などと指摘されてきた。一方、大学や学生の多様化は進んでおり、文科省は大学の質の担保のためには抜本的な見直し規定が必要だと判断した。具体的には、学生が議論しながら学ぶアクティブラーニングやオンライン学習が一般化することを想定しながら、学部・学科の教員定数や、学生1人当たり10平方メートルと定められている校地面積などの基準を見直すため議論を始める。
 設置基準を改善すると、大学を定期的にチェックする認証評価の基準も変わるため、既存の大学にも影響する。文科省は、来年2月にメンバーが入れ替わる新しい中教審で設置基準について議論を進め、認証評価結果で法令違反などが見つかった場合、国が行政指導する仕組みについても検討してもらう予定だ。
 文科省は制度改正に先立ち、質保証のために大学が意識すべき点などをまとめた「教学マネジメントについての指針」も示す方針だ。答申案はは今後パブリックコメントなどを経て林芳正文科相に答申する予定だ。   (増谷文生)





入学定員進む二極化
<大規模私大は増 小規模大は減 の傾向 朝日新聞 2018(平成30)年10月4日(担当:上野創 増谷文生)をもとに作成  

 少子化が進むなか、大学の規模はどうあるべきか。朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」では、東京の大規模私大の多くがこれまでと同様、中期的に入学定員増を目指す傾向が表れた。一方、地方の小規模私大のなかには定員を減らす動きがあり、対照的な結果となった。

減る18歳 学生集め厳しく 
 日本の18歳人口は、205万人を記録した1992年以降、減少傾向が止まらない。一方で規制緩和の影響もあり、大学数や収容定員は増え続けてきた。文科省は、えり好みしなければ、ほとんどの受験生が大学に入れる「大学全入時代」が2007年にも訪れると予測した。だが、実際は旧帝大など有力な国立大や大都市圏の大規模私大には人気が集まり、競争倍率は高いままだ。一方、地方の小規模大を中心に私大の4割前後が定員割れし、二極化が進んだ。 

 10年ほど横ばいだった18歳人口は18年から再び減少期に入った。文科省が人口動態統計などをもとに今年2月に推計したところ、現在の約118万人は34年度には100万人を切り、40年度には現在よりも約25%少ない、約88万2千人になる。
 文科省は一方で、女子を中心に大学進学率は今後も少しずつ上昇を続け、40年度には女子が現在の49.1%から56.3%に、全体も52.6%から57.4%に上ると予測している。それでも18歳人口の急減を補うには至らず、40年度の大学進学者は現在の約62万1千人より19%少ない、約51万人になると算出している。

 現在の全国の大学の総入学定員は約60万人。文科省の試算通りに進学者数が推移し、定員も変わらなければ、現在は104%の定員充足率が40年度に約84%まで落ち込む。都道府県別にみると岩手や新潟、徳島では60%台まで落ち込み、京都、大阪、兵庫、愛知などの大都市圏でも80%前後、東京は92%となる。このため地方の大学だけでなく、大都市圏の大規模大も学生集めが厳しくなる恐れがある。


学部新設「社会ニーズに合う教育」 
 私立の大規模校は学部の新設などに伴って定員を増やしてきた。定員増や学部新設が進むかはわからない。地方の小規模大を中心に定員割れが深刻になるなか、国は大規模私大に対し、入学者が一定割合を超えると助成金を出さないという形で定員管理の厳格化を求めている。 また、東京への一極集中を止め、地方を振興させる目的で東京23区内の大学定員の抑制も進められている。 大規模大は学部・学科の再編に加え、留学生と社会人学生の募集増などで対応するとみられるが、不確定要素が増えている。
 少子化がさらに進むなか、長期的には大規模私大も拡大路線からの転換を迫られるとの見方もある。

※大規模私大の定員管理厳格化
 大都市圏に学生が集中する状況を改め、地方公共団体を活性化しようと文科省は収容定員8千人以上の私立大に、入学定員の管理の厳格化を求めている。入学者が定員より一定の基準以上になると、私学助成金の交付がゼロになる仕組みで、16年度は定員の1.17倍、17年度は1.14倍、18年度は1.10倍が基準だった。19年度からは定員を上回る入学生が1人でもいたら、人数に応じて助成金を減らす予定だったが、これまでの措置で効果が上がっているとして見送り、3年間は18年度の水準を保つことを決めた。
 一方、入学者を定員の0.90倍~1倍に収めた大学の助成金を増やす仕組みは19年度から始める。
※23区内の大学定員増の抑制
 大学が学部の新設・改組・移転などによって東京23区内のキャンパスの定員を増やすことを、原則として2028年3月末まで認めない法律が今年5月、国会で可決、成立した。地方の若者が進学などの際に東京に集中する現状を変えるとともに、新設する交付金で地方の大学や産業の振興を図るとしている。大学全体の定員が増えない改組や、社会人と留学生向けの定員増は例外として認める。


地方の経営危機 減員で対応も
 大規模私大とは対照的に、地方の小規模私大の間では既に、「定員減」の動きが出ている。18歳人口の減少ペースが再び加速を始める「2018年問題」に直面し、定員割れの大学の経営改善や再編を促す動きも強まるなか、定員を減らすことで危機を乗り切ろうと模索している。

※定員割れの私大に対する対応策
 中央教育審議会大学分科会の将来構想部会の議論を受けて、文科省は大学同士の連携・統合をしやすくする方針。将来構想部会の答申案ではこのための三つのパターンが示されており、定員割れが深刻な地方の私立大の対応を想定した内容もある。
 文科省はこのほか、今年7月には経営難の私大を運営する学校法人が改善に取りかかる目安として、「運用資産より外部負債が多い」「経常収支差額が3年連続マイナス」という二つの財務指標の導入を決めた。大学側の危機意識を高める狙いもある。


収入のための増員 疑問   日比谷潤子・国際基督教大学長
 大学は経営を安定させ、教育環境を向上させるため、常に収入を増やしたいと考えている。 しかし収入源は、学生納付金、私学助成金、競争的資金、寄付、事業、運用益程度に限られる。定員増を目指す大学は、収入増を学生納付金に頼る考えなのだろうが、18歳人口の減少が加速する時期に拡大路線をとる姿勢は、理解に苦しむ。
 大学の教育力を測る一つの指標としては、ST比(教員1人当たりの学生数)が定着しつつある。大規模大はこれまで、ST比の数字が良くなくても、就職実績をあげられたかもしれない。だが、一人ひとりの学生の力が注目されるようになった時に、対応できるのだろうか。
 学生数が多い大学に、より多くの資金が配られる国の私学助成金の仕組みも疑問だ。教育力がある大学を増やすためには、例えば配分額の算定基準にST比を加えてはどうか。
 大学の設置認可の仕組みも、改善すべき時を迎えている。今の設置基準は大学の進学率が低く、一方通行の講義ばかりだった時代に作られており、特に部や経済学部といった社会科学系の学部は、1人の教員が大人数を教えることを認めている。多様な学生が学び、少人数教育ベースになりつつある、今の大学教育に合わなくなっている。




朝日新聞 MONDAY解説 2018(平成30)年8月6日(月)
 2040年の大学のあり方を議論している中央教育審議会の部会が6月末、中間まとめを公表した。
◆中教審が描く2040年の大学像  AI時代「最高学府」の岐路  社会部 増谷文生  

脱偏差値 増える実務家教員
 受験生が志望大学を選ぶ際、参考にするのは「偏差値」だけではない。学生の「満足度」や卒業後の進路をネット上で検索、各大学を比べる。留年率や中退率も決断の重要要素。志望対象も縦割りの「学部」や「学科」ではなくなっている。「学位プログラム」を導入。学生は取りたい学位を決め、大学が示したプログラム例を参考に文系・理系を問わず、多数の学部に散らばる講義を選んで学ぶようになっている。
 キャンパスに集う学生は、中高年も目立つ。 「リカレント教育(学び直し)」を受けた人が会社で昇進、転職が標準的な働き方になり、社会人学生が増える。大学側も業界や企業と連携して実践的なプログラムを作り、休職したり、休日をつぶしたりしなくても大学で学べるようになる。
 日本社会の国際化も進むため、日本企業で外国人が働くことは今以上に一般的になっている。 就職を目指す留学生が日本の大学で学び、海外にいたままオンラインで受講する学生も多い。
 教員のタイプや働き方も大きく変わる。最先端の知識を教えるため、社会での経験を積んだ「実務家教員」が増え、若手や女性、外国籍の人の登用も進む。教員経験がない人でも、研修プログラムなどを通して、カリキュラムの作り方などを身につけて教壇に立つ。複数の大学で専任教員として教える「クロスアポイントメント制度」も浸透。
 企業が学生を採用する方法も変わり、大学で身につけた「学修成果」を重視する。大学は教育の質が落ちないよう、改革を続けることが迫られる。創造力や実行力などを測るテストや成長実感などを尋ねるアンケートなどを通して、学修成果を把握。教育力をアピールするため、その結果を公表するようになる。

政財界から危機感
 大学改革をめぐっては中教審だけでなく、首相官邸が主導する有識者会議や経済団体などから様々な提言が出されている。共通するのは、AIやビッグデータなどの活用が一層進んだ社会になりつつあるなか、今の大学では時代の要請に応える人材を育てられない、という危機感だ。
 少子化が進むなか、改革に着手している大学も多く、大学の学長や教授が多くを占める中教審の部会も、学生本位ではなく、教員の研究テーマに過度に限定された授業科目や教育課程」が残る現状を認め、改革の必要性を指摘する。
 実務家教員の登用や、産業界や企業と協力してのカリキュラム作成に期待が集まるのもそのためだ。大学教育学会長を務める同志社大の山田礼子教授(高等教育論)は、「企業の研究所などから来た人は、コスト意識や成果に対する見方が厳しく、元からいる教員に刺激を与える」と述べ、大学全体の改革にもつながると指摘する。
 ただ、大学が「職業訓練校」になることは避けなければならない。中間まとめは「社会が変化しても陳腐化しない、普遍的な能力を身につけさせる教育」が必要だと記した。

建学の精神 立ち返る必要も
 20年ほどで、大改革は難しい。企業との協力関係は特に重要だ。国の財政難が続くなか、大学に向けられる予算の拡充を期待することは難しく、民間資金の獲得がかぎのひとつとなる。社会人学生が増加するためにも、大学で学んだことが企業で、昇進や配置換えにつながる仕組みを、企業側が整える必要がある。
 しかし経済界が大学に不信を抱いている現状では、こうした協力はあまり期待できない。文部科学省は、経営が悪化した大学への補助金を減らすなどの方法で改革を迫る一方、外部理事や実務家教員の増加を通じて、大学人の意識改革が進んで信頼回復につながることに期待をかけている。 オンライン化も大切だ。2040年の日本の18歳人口は、現在の120万人から88万人に減ると推定される。大学を現在の規模で維持するために不可欠な社会人学生や留学生を増やすには、時間的・経済的負担が小さいオンライン授業が威力を発揮するが、海外と比べて国内は普及が進んでいない。
 社会の急速な変化に伴い、大学に対する圧力は今後も強まるだろう。政権の一部や産業界からはすでに、東京23区の大学の定員抑制など「学問の自由」や「大学の自治」を揺るがしかねない提言が出ている。今回の中教審の中間まとめや、文科省の政策にもその影響が表れ始めている。大学はこうした提言に向き合う必要があるが、高等教育の役割は時代にあわせて変化する部分もあれば、普遍的な部分もある。 政界や経済界の求めに応じて合理性を追求するあまり、社会の大きな課題解決につながる可能性がある学問分野を排除してしまっては本末転倒だ。
 そのためにも、大学は「建学の精神」や「ミッション」に立ち返り、あるべき姿を自ら考えなければならない。自ら「強み」となる特徴を再確認してアピールし、社会の理解を得ることが重要だ。


朝日新聞 社説 2018(平成30)年9月29日
◆大学の将来像 連携深め地域に貢献を


 少子化の大きな流れのなか、2040年ごろの大学進学者数はいまより2割ほど減り、経営が成り立たなくなる大学が増えると見込まれている。そんな時代を見すえ、中央教育審議会の部会が先日、国立大学同士の法人統合や私大間の学部の「譲渡」を可能にする改革案をまとめた。大学間の連携をしやすくして運営の効率化を図る制度改正や、設置基準の見直しも盛りこまれている。

 経営破綻によって学生が行き場を失うことがないよう対策を講じておくのは社会の責任だ。実現を急がねばならない。特に心配されるのが地方の小規模大学だ。なくなると地域の灯が消えるだけではない。都会と地方の進学機会の格差はますます広がる。県f外の大学に進むには多くの経費がかかる。経済的な理由で進学を断念する子を生まないためにも、一定の規模で地方に大学は必要だ。

 もちろん、存続しさえすればいいという話ではない。それぞれの地域で、大学の果たせる役割を再確認し、強みを生かす道を探ることが求められる。参考になる動きが前橋市で進む。市内にある国公私立の6大学・短大と商工会議所、市役所の三者が手を結び、地域人材の育成と定着のために知恵を出し合う協議の場を設けた。

 大学が活性化すれば、地元に就職して産業を支える人材が育つ。保育士不足や中小企業の後継者難といった地域の課題に対しても、大学は社会人の「学び直し」の場を提供するなどの貢献ができる。そんなん共生の関係を築き、地域に活力を生み出す。そのために、それぞれ何ができるか、何をなすべきかを検討する場にしていくという。

 参加する共愛学園前橋国際大の大森昭生学長は「学問分野が異なる6大学・短大が組めば、大きな総合大学ができるのと同じ」と話す。単なる生き残り策ではない、「連携」の可能性に期待を寄せる。
 他大学との協力により、自校にはない分野の講義を受けられるようにする試みも広がる。

 京都工芸繊維、同府立、同府立医科の3大学は、4年前に教養教育の共同化を始めた。年に82科目が用意され選択の幅は格段に広がった。学生の半分は他校の講義を経験するという。
 連携による教育内容の充実は大学の魅力を高め、学生の成長につながる。どの大学からも通いやすい講義場所の確保や学生の移動に必要な費用など、運営コストの一部を公費で援助することも含め、意欲のある大学を社会全体で後押ししたい。



「ランク付け助長」大学ピリピリ
 
全国学生調査 国の公表めぐり  朝日新聞 2020(令和2)年1月20日
 文部科学省は昨年11月~12月、全国の大学生に授業の満足度や学習時間などを尋ねる「全国学生調査」を試行した。この調査結果の公表について、朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」で各大学の学長に考えを聞くと、ランク付けを嫌って慎重さを求める回答が目立った。

 文科省が2021年度に本調査の実施を目指す全国学生調査の主な狙いは①各大学が教育を改善する➁公表し大学教育の現状を社会に理解してもらう③国が政策作りに使うことだ。調査方法や質問項目の点検のため、学部3年生を中心に実施した試行調査には、学部のある大学の67%に当たる515大学が参加した。

 学生はスマートフォンなどで回答した。授業内容の質問には、「理解しやすいように教え方が工夫されていた」「教員から意見を求められたり、質疑応答の機会があった」などの8項目について、「よくあった」から「ほとんどなかった」まで4択で選んだ。受けてきた授業を分類すると、「大講義」(出席者100人以上)や「実験・実習」など5タイプのうち、それぞれ何割程度だったかを尋ねる質問もあった。
 また、「研究室やゼミでの少人数教育」や「3カ月以上の海外留学」などの経験の有無や有用性を聞いたり、1週間のうち「予習・復習・課題などに関する学習」や「アルバイト」「(学習以外の)スマートフォン使用」などに何時間使うかを聞いたりした。

 文科省は、本調査では大学ごとの結果を公表する方針だ。だが、試行調査では回答率や回答内容が予測できないとして、全体の集計結果だけを公表する。

「結果は成果の一部」慎重論も
 「ひらく 日本の大学」調査は昨年6~7月、761大学を対象に実施し、90%に当たる683大学が回答した。
 文科省の試行調査結果の公表について学長に尋ねたところ、「一覧にして公表すべき」は21%、「一覧にせず大学・学部ごとに結果を公表すべき」は18%、「大学・学部ごとの結果は公表せず、合計した数字のみ公表すべき」は27%、「公表せず政策づくりの内部資料として活用すべき」は17%だった。

 「一覧を公表」とした中国地方の国立大は「全大学共通で実施するのであれば、他大学と比べて参考にしたい」と理由を説明。「一覧にせず公表」とした北海道の国立大は「人材養成の目的を大筋同じくする学部との比較検討に意味がある」とした。私大は「合計した数字のみ公表」や「内部資料として活用」との回答が多かった。
 「合計のみ」とした東京都の有力私大は「大学個別の情報は、まずは各大学の判断により公表すべきだ」。「内部資料」とした九州の私大は「各大学が教育の改善に結びつけることが本来の調査目的であり、質問内容も教育成果の一部に過ぎない。大学名を公表すれば大学のランキング付けを助長する」と懸念を示した。

 国立大や入学定員3千人以上の大規模大は、それぞれ3割弱が「その他」を選んだ。このうち早稲田大は「目的がその大学の改革を促すことなので、公表する必要はない。ただ、大学も自らの立ち位置がわからないので、規模別、選抜方法別の平均値などのデータは公表すべきだ。各大学でも分析できるようなデータの提供も希望する」とした。

独自調査 8割に増
 「ひらく 日本の大学」調査では14年、18年、19年と、学生が大学で身につけた知識や技能(学修成果)を把握するための取り組みを各大学に尋ねてきた。
 「全学で実施」と答えた大学の割合が最も増えたのが、「学生の学修経験などを問う調査(学修行動調査)」だ。14年の29%から18年は63%、19年は83%にまで増えた。国立大は90%、私大は84%、公立大は71%が実施していた。

(増谷文生、宮崎亮)


「私大が多すぎる」学長も懸念  朝日新聞 2020(令和2)年1月20日 
 大学の数が多すぎるという声が各方面から上がるなか、大学自身はどう考えているのか。朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」で学長に尋ねると、3分の2が「私大が多すぎる」と答えた。一方、今後の学生の収容定員についての方針は、減員を検討している例が国立大に目立った。

「進む少子化 淘汰避けられず」
 調査は昨年6~7月、大学院大学などを除く761校を対象に実施し、90%に当たる683校が回答した。
 平成の30年間に、18歳人口は193万人から118万人(2018年度)に減ったが、大学は499校から私大を中心に782校に増えた。この間に大学進学率は25%から53%に倍増し、学生数も207万人から291万人に増えた。

 この現状を大学自身はどう受け止めているのか、学長に尋ねた。国立大の数が「多い」との回答は27%、公立大は30%だったが、私大については67%に達した。私大の学長ですら65%が私大の数は「多い」と答え、「適正」の28%の2倍以上だった。
 私大の数を「多い」と考えている大学は、入学定員が3千人以上の大規模大は80%に達するなど、規模が大きいほど多い。私大の数が多いと考える理由について、東北地方の公立大は「多くが定員割れ状態にあり、少子化の進行に伴い、今後淘汰されることは避けられない」とした。また、大学数について帝塚山大(奈良県)は「今後の少子化を考えれば、当面は500校程度が適正と考える」とコメントした。

学生定員 私大は増員・国立は減員目立つ
 各大学に、今後5年間の間に、全学年の学生定員について増減させる予定があるかも尋ねた。
 全体では、学部については「現状維持」が73%と大半を占めた。一方、「増やす・増やす方向で検討中」も18%あり、特に私大は21%に達した。私大が大半を占める入学定員3千人以上の大規模大は24%、大都市圏の大学は22%が増員を検討していると答えた。首都圏への学生の集中を是正するため、政府は東京23区の大学の定員増を抑制しているが、都内の大規模大の増員意欲は依然として強い。
 一方、「減らす・減らす方向で検討中」はわずか4%だった。だが、国立大は7%と公立大や私大より多く、大都市圏より地方大学で多かった。大学院でも傾向はほぼ同じだった。

国立大改革方針 回答に影響も
 学部も大学院も、私大より国立大に、減員を検討している大学が目立つ。国立大の回答に影響を与えたと考えられるのが、今回の調査を始めた昨年6月に文科省が公表した「国立大学改革方針」だ。教育や研究などの将来構想に応じて、各大学が学生定員などについて考えるよう求めている。
 18年11月の中央教育審議会の答申は、40年の大学のあるべき姿を示し、国立大の定員などの規模を検討するよう文科省に提言した。同省は一時、各大学に一律に定員減を求めることも検討。だが、最終的に改革方針では、各大学に考えさせた将来構想に応じて定員を考えるよう求めた。

 これを受け同省は昨年末、イノベーション創出の基盤となる基礎研究の強化▷女性や外国人研究者らを積極的に登用するための環境整備▷教育研究力の強化・向上につながる再編・統合のあり方の検討――などについて、具体的な構想や取り組みを示した資料を各大学に提出させた。
 今月17日から資料をもとに同省が教育・研究の改革や定員などの方針について各大学と議論する「徹底対話」を開始。3月まで同省の担当者と全86大学の学長らが、各大学の課題や国立大全体としての対応、国として取り組むべき制度改革などについて意見交換するという。

(増谷文生)




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