発達障害と障害者雇用制度
    2018.5.20/2021.3.21/2022.7.8


 発達障害のある学生に対し、各地の大学が就職支援に取り組んでいる。発達障害のある人が企業で働くための支援も進んでいる。
 それは、障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)が、企業に対して一定割合以上の障害者の雇用を義務づけているため、企業側の障害者雇用についての関心が高まってきたからだと思います。






発達障害 大学が就職支援  朝日新聞 2018(平成30)年3月24日

 日本学生支援機構の16年度調査では、全国の大学などで学ぶ障害のある学生計約2万7千人のうち発達障害は約4千人に上り、5年間で約3倍に増えた。
 厚生労働省によると、発達障害の人が就職する場合、障害を開示して周囲の配慮を受ける障害者枠で就労する人、開示せずに障害のない人と同じ条件で就労する人など様々という。

 障害の特性に合わせた対応をとれば職場に適応できるため、学生が得意や不得意なことに気づく手助けをしたり、卒業してからも相談に応じたりしている。働く意欲を引き出し、実力を発揮してもらいたいと、企業への情報提供や連携のあり方などの模索が続く。

インターン重ね得意発見
 
 大阪大(大阪府吹田市)は2013年から、発達障害がある学生の就職支援に乗り出した。インターンシップに力を入れ、夏休みや冬休みに1週間ほど企業に学生を送り出す。最終日には、大学職員が同席し、学生と企業の担当者と仕事ぶりを振り返り、課題や成果を就職に生かせるようにしている。

 自動車教習所の紹介事業を手がける「I.S.コンサルティング」(神戸市)に入社して2年目の前田高志さん(24)は、 阪大卒業生。1年の夏から事務や清掃など7社でインターンを経験した。
 相手の気持ちを推し量ることが苦手で、手先が不器用という前田さんは、3年の夏にスライドソフトを使った資料作りを経験し、文章を書いたり、レイアウトを工夫したりすることが得意だと気付いた。卒業後世話になった同社に就職。ホームページの更新や記事作成を担当する。
 支援した阪大アクセシビリティ支援室の吉田裕子さんは「インターンを通して仕事をすれば、就職後の具体的なイメージを持てる」と狙いを話す。

 約6年前から発達障害のある学生を採用してきた「I.S.コンサルティング」は全社員30人のうち、発達障害がある社員が計8人いる。今井真路・代表取締役は「障害の特性でできない仕事はあるが、それぞれ得意なことがある。やりたいことに挑戦できる環境をつくっていきたい」

力発揮できる工夫 企業に提案
 
 富山大(富山市)は2008年度から就職支援を始めた。面接官の質問の意図がくみ取れず就職活動でつまづく学生や、就職しても職場での悩みを抱え込んでしまう卒業生がいたことがきっかけだったという。
 障害者の職業訓練をする「就労移行支援事業所」と連携し、在学中から働くことを体験させる。卒業後も定期的に面談の機会を設け、相談に応じている。
 関西学院大(兵庫県西宮市)は14年から発達障害がある学生に特化した就職支援プログラムをつくり、大学の図書館業務の体験や企業の見学を実施している。

 採用する企業側の理解を深めるため、大学と企業との連携も進んでいる。京都府内の大学関係者らでつくる「発達障害学生キャリア支援隊」は昨年7月、企業がどのような配慮をすれば学生が力を発揮できるかを冊子にまとめた。「複数の仕事を一度に伝えず、一つずつ依頼すれば集中できる。「『あれ』『これ』など抽象的な言葉ではなく、なるべく具体的な指示を」などと提案する。

 富山大学生支援センターの桶谷文哲・特命講師は「職場の理解やサポートがあれば社会に有用な人材になる。大学からも情報提供していきたい」と語る。

特性に合わせた職場の工夫
  仕事は一つずつ
  具体的に話し、ミスを回避
  質問しやすい工夫をする
  目標を明確にし、作業効率をアップ
  手順書があれば安心
     「発達障害学生キャリア支援隊」作成の冊子から

(沢木香織)




発達障害 働く環境一歩ずつ 専門の支援会社 特性に応じ訓練  朝日新聞 2018(平成30)年4月3日

 発達障害の人に特化して企業などへの就労をサポートする株式会社「Kaien」によると、この1年ほどで、企業が発達障害のある人を雇う機運は高まっている。就職活動をする身体、知的障害があまり増えない一方、発達障害が広く知られるようになった。法定雇用率引き上げに直面し、発達障害者の雇用に意識が向いてきたという。
 Kaienは首都圏7カ所の事業所に加え、夏ごろ大阪市にも開設予定。同社以外にも、この数年で発達障害の人向けの就労移行支援事業を行う企業が複数誕生している。

企業 部署つくり適所を判断  
 
 企業側の受け入れ態勢づくりも進む。富士ゼロックスシステムサービス(東京都)では、人事部内に障害者全般サポート部署「チャレンジドセンター」を5年前に立ち上げた。現在、障害者雇用約30人の3分の1程度が発達障害のある人だ。

 理系の大学を卒業した男性(27)は、パソコンのスキルが高いが、定められた手順で物事が進まないと混乱するため電話は苦手だった。1カ月ほどセンターで電話の練習を繰り返した。現在は総務部で会計処理や代表電話の対応を任されている。人事担当者は「障害のある人が働きやすい職場は、一般社員にとっても働きやすい。これからも積極的に採用していきたい」

接し方の講座 厚労省が開催

 厚生労働省は、昨年9月から「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」を全国で開いている。障害のある人を雇用する企業や従業員が対象で、すでに470回以上開催し、約1万8千人以上が参加した。

 発達障害を含む精神障害者の雇用数は、2017年に5万人を超えた(前年比約19%増)。身体障害者は約33万3千人、知的障害者は約11万2千人。伸び率はいずれも前年比約2~7%増にとどまる。

法定雇用率
 
 障害者雇用促進法は、民間企業に一定割合以上の障害者の雇用を義務づけている。厚生労働省は、平成30年4月より発達障害者を含む精神障害者も雇用義務の対象に加え、法定雇用率を2.0%から2.2%に引き上げた。そのため雇用義務を課す企業は従業員50人以上から45.5人以上(短時間労働者を0.5人に換算)以上に広げられた。
 従業員100人超の企業は、法定雇用率未満の場合、不足する人数1人あたり月5万円(一部経過措置あり)を国に納めなければならない。法定雇用率を超えて雇用すると1人あたり月2万7千円が支給される。100人以下の企業は、別の基準で報奨金が支給される。

(船崎桜)



障害ある学生の就活 支援の輪  朝日新聞 2022(令和4)年6月20日
 6月から就職活動シーズンが本格化し、障害のある学生たちも活動に力を入れている。ただ、一般枠での就活と比べ、企業説明会などの情報が乏しく、苦労も少なくない。入社してもミスマッチで早々に退職する例もあり、企業や大学が支援の輪を広げている。

企業が情報 ミスマッチ防ぐ
仕事内容は? 配慮は? 特化したオンライン説明会も

 「障害者雇用は、枠も情報も少ない。最初はどうしたらよいか全然分からなかった。」こう話すのは、神奈川県内の私立大学4年生(22)。来年の新卒入社を目指して就活中だ。
 女性は精神障害者保健福祉手帳の1級を持つ。中学1年のとき、友人とのトラブルなどから、うつ病を発症。全身に力が入らず、徐々に学校に通うのが難しくなった。

 カウンセリングや投薬を続けたほか、女性アイドルの応援という新たな趣味を見つけ、症状は徐々に回復。予備校に通いつつ高卒認定試験に合格し、2019年に大学に入学した。
 3年生になり、就活を始めた。当初は一般枠で説明会やインターンに参加していたが、定期的な通院や、満員電車が苦手で時差通勤が必要なことなどから、障害者枠に切り替えた。

 そこで壁になったのが、情報の少なさだ。どんな配慮があるのか、どんな仕事を任されるのか――。障害者を採用する会社はあっても、情報や説明会は乏しかった。気を使われたくないとの思いから、障害者手帳を持っていることを友人に伝えておらず、情報交換もできない。大学の進路相談室でも十分な情報は手に入らず、「孤独で不安だった」と振り返る。
 そんな中、障害がある学生の就労支援を行う「エンカレッジ」(大阪市)を知った。同社は20年3月から、「家でも就活オンライン」というサービスを展開。エントリーシートの添削や採用面接の練習などを無料で行っている。

 中でも力を入れているのが、障害者雇用に特化した「オンライン企業説明会」だ。月数回行われ、企業が1日数社ずつZOOMに登場する。エンカレッジの窪貴志社長は「障害者雇用の説明会は少ない上、そもそも自宅外での説明会に出かけられない学生も多い。一般枠と比べて、企業研究が非常に難しい」と指摘する。企業の実情を知らないまま入社し、ミスマッチですぐに退職する例は一般より多いといい、「説明会を活用し、障害への配慮などを会社ごとに比較するのが重要だ」と話す。
 参加企業にとってもメリットは大きい。清水建設の担当者は「どのような配慮が可能か、どんな社員が活躍しているか。そうした情報を大勢に対して発信できる貴重な機会」と話す。

増す需要 大学がイベント
 日本学生支援機構によると、障害がある大学生は06年度に約4400人(全学生の0.16%)だったが、20年度には約3万1千人(同1.04%)に増えた。発達障害が広く知られるようになったほか、16年に施行された障害者差別解消法で、各大学の受け入れ態勢が整ったためだという。
 求人情報の提供や支援機関の紹介などに力を入れる大学も増えている。支援機構の報告書によると、08年度に「進路・就職指導をしている」と答えた大学は62校だったが、20年度には288校になった。

 明治大学は昨夏、「オンラインしごと体験」を実施した。学生100人がバーチャルオフィスに出勤し、実際の企業の文書作成などを体験。今夏も実施する予定だ。早稲田大学でも同様のイベントを今年3月に実施したという。臨床心理士の資格を持つ就職アドバイザーを置いたり、インターンをあっせんしたりする大学もある。

 障害者雇用に詳しい大妻女子大の小川浩教授(障害者福祉)は「障害がある学生がミスマッチなく働くには、自身の適性と必要な配慮を早期に把握することが大切。インターンなどは非常に重要だ」と話す。昨年3月に障害者の法定雇用率が引き上げられたことにも触れ、「今後も障害者雇用の需要は増えていくが、大学と企業の連携は一部にとどまっている。社会全体での取り組みが一層求められている」と指摘した。

(田中紳顕)



     

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