知的障害と精神障害について
《知的障害と精神障害についての誤解と偏見》 

   
2015.4.10
    更新2016.2.20/2017.4.26/2018.10.21/2020.7.19



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知的障害と精神障害についての誤解と偏見

 障害者を支援するという場合、その前提として「障害」をどのように理解するかということが重要ですが、一般的には、身体障害といえば身体上の諸機能や諸能力に問題のある状態をいうわけで、身体的な変化として外見からも比較的理解しやすく受け入れられやすい。
 しかし知的障害や精神障害の場合は、身体障害のようには外見上からの具体的な理解が得られにくいために、人格的欠陥を意味するようなことが強調されるなど、誤解や偏見を招きやすい。

 知的障害(者)についての法律上の定義規定は現在のところありません。社会通念上知的障害と認められればよいということであろうと思います。 つまり「身体障害者手帳」のような、手帳の所持について明文化された法律上の定めはありませんが、知的障害のための「療育手帳」制度があります。療育手帳は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障害であると判定された者に対して交付されることになっています。

 注意を要することは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(略称:精神保健福祉法)の第5条で『 この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有するものをいう。』と定義していますが、一般的にはこの定義はわかりにくいのではないかと思います。

 知的障害と精神障害は、重なる場合(重複)もありますが、知的障害と精神障害は区別する必要があります。
 精神障害は心のコントロールの状態に問題を抱えることによって、ものごとの正常な理解や判断、認知がうまくいかないために、精神的に安定した生活(正常な生活)を送ることに問題が生じると考えるとよいと思います。
 知的障害は知的能力の発達に問題を抱えることによって、ものごとの理解や判断、認知がうまくいかないために正常な生活を送ることに問題が生じると考えるとよいと思います。

 どちらにしてもその程度や状態は様々です。しかし、そのすべてが「何をするかわからないからこわい」というようなものではありません。また知的障害と精神障害を混同した誤解や偏見も根強いようです。その点を理解した支援があれば、一般的な社会生活は可能なわけですが、法による措置入院(都道府県知事、政令指定市長は、その障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼす恐れがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる)が必要な障害だと決めつけて、危険で恐ろしい存在のように思い込まれてしまっているようです。

 知的障害や精神障害であれば、必ず危険な犯罪や重大な事件を引き起こすというわけでは決してありません。日常的な犯罪や事件、トラブルの多くが、知的障害でも精神障害でもない人々によるものであるということについての冷静なとらえ方がなされないまま、知的障害者や精神障害者の犯罪だけを強調するようなこであるならば、それは偏見差別です。

 知的障害にしても精神障害にしても外見からはわかりにくいと思います。しかしその障害の程度や状態にもよることではありますが、知的障害の場合も精神障害の場合も、日常の言動において何か様子がおかしいなどの所見は比較的認められやすいといえます。その意味では、何をするかということについての注意はむしろ向けやすい。
 したがって、「何をするかわからないからこわい」という見方をあえてするならば、それはむしろ知的障害でも精神障害でもない人々のほうではないでしょうか。

 こうした言い方が不適切だというならば、そもそも人間とは、何をしでかすかわからない高度に進化した生物だと考えたほうがよいのではないでしょうか。だからこそ人間にはそれだけ多様な可能性が秘められているということにもなると思います。
 「何をするかわからないからこわい」とする拒否的な根強い偏見差別を解消するための英知を発揮することが可能なのも人間です。

 障害者の人権が強調されています。平成28年4月から、「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」が施行されました。
 「障害者権利条約」の締約国となった日本が、本気で「共生社会」の実現を目指すというのであれば、そのための「合理的配慮」のあり様が問われるところだと思います。






  「精神薄弱」から「知的障害」へ / 発達障害・精神遅滞・知的障害の用語について

  障害(者)についての日本の法的定義

  障害者の権利条約と「合理的配慮」について


  内閣府 : 障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)
          平成25年6月19日成立。同6月26日公布・平成28年4月施行 


  相模原市 障害者施設の殺傷事件について考える





  



  




日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円  A5判 316頁



















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