共生社会の実現とインクルーシブ教育について


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 共生社会が実現すれば、おのずとインクルーシブ教育は実現します。

 本当に共生社会を実現し、インクルーシブ教育を実現するには、何よりもまず現状を直視するとともに、人の生き方とか生きがいに関わるところの教育の意義と福祉の意義について改めてよく考えてみることだと思います。

 それはいわゆる “合理的配慮” の問題を考えることにも通ずることだと思います。




共生社会の実現と障害児者の教育・福祉

「障害のある人もない人も共に」とは

共生社会/インクルーシブ教育と「合理的配慮」







共生社会の実現と障害児者の教育・福祉

 共生社会の実現やインクルーシブ教育について考えるうえで、これまでの日本の障害児者の教育や福祉を振り返ってみることが大切だと思います。
 今日に至るまでの障害児者に関する教育や福祉の諸問題を概観すれば、それはいわゆる障害(者)をどのように受け止めるかということころから始まっているといえます。

 いわゆる「障害」を直視すること、そして障害を障害としてどう受け止めるかということ、そこから共生社会の実現への第一歩が始まるといってよいのではないでしょうか。
 国連総会で採択された1971年の「知的障害者の権利宣言」と1975年の「障害者の権利宣言」は改めて重要視すべきものと考えます。

 教育を受ける権利を保障するということでは、障害児の教育が義務制になった意義は大きいと思います。しかし義務教育を修了すればそれでよいということではないわけで、何のための義務教育か、誰のための義務教育かというところが重要です。また義務教育としてどのようなことを、どのような観点で行うかということが明確でなければなりません。それは義務教育終了後をどのように見据えるかということでもあると思います。

 日本の障害児者の教育や福祉に関する本格的な取り組みは戦後から始まったといってよいと思います。戦後に制定された日本国憲法によって、基本的人権及び国民の生存権、国の保障義務、教育を受ける権利と受けさせる義務などが定められ、教育も福祉もそれなりに充実して現在に至っています。
 しかし障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題や課題の本質は、あまり変わってはいないと思います。それはなぜかという点がきわめて重要だと考えます。

 おそらくそれは、障害児者の一生をどのように考え、どのように見据えるかという視点を欠いたままのステレオタイプの思考から脱皮できないでいるためではないかと思います。

 障害児教育の義務制は、教育を受ける側に対する十分な配慮を伴うものでなければならないわけですが、その配慮がともすると、教育を施す側の一方的な価値観や評価基準の枠にとらわれたものになりがちであり、その結果として素晴らしい理念や言葉を並べてはいるが、具体的、根本的な解決には至らないままの施策の中で、教育を受ける側は不本意ながらもそれに甘んじてきたといってよいのではないかと思います。

 人の一生は、学校を卒業したらそれでよいというものではありません。学齢期よりもずっと長い学校卒業後をどのように暮らすか(暮らせるか)、ということはきわめて重大なことであり、障害児者の支援においても人の一生をどのように考えるかという視点が重要です。
 なぜなら人の生き方や生きがいは多様であり、その一生はかけがえのないものであり、障害の有無に関係なく尊重されるべきものだからです。
 

 特別支援教育というからには、特別な支援を必要としているその状態や程度に応じた適切な教育の内容や教育方法、教育の場、の工夫や設定ができるような教育制度でなければなりません。また学校だけが教育の場ではないという柔軟な認識に基づく教育施策の充実を図ることが必要だと思います。
  障害のある子どももない子どもも分け隔てなく「学ぶ権利」を同等に保障するための教育環境を整備するという意図が、「共に」を強調することで、何もかも同じことを同じようにしなければならないというような誤解が生じ、混乱を招いているということがあるのではないでしょうか。





「障害のある人もない人も共に」とは

 「障害のある人もない人も共に」よく生きるというためには、互いの関係が無理なく理解し合えるような関係でなければなりません。障害の有無に関係なく人は人であり、同じ人として生きる権利を同等に有するわけですから、そこには人それぞれの価値観や人生観を伴う問題が介在します。その点を踏まえた上で互いにどのように理解し合い、納得し合い、認め合うことができるかどうかというところの問題があるわけですが、そもそも一般社会における価値観や評価基準、人間関係が通用しにくい問題を抱えている状態が障害を有するということだと思います。

 障害のある人とない人が互いに理解し合うことができなければそこに無理が生じ、その関係はむずかしいことになるわけですが、そのむずかしさの度合いこそが障害の内容やその程度や状態に関係することになります。したがって一般的な価値評価や一般的な人間関係を基準とする自立支援、就労支援、生活支援で解決しようとこだわるだけでは無理は解消しないと思います。知的障害や発達障害の状態やその程度によっては、そうした無理を抱えたままの状況が続いてきたといってよいかもしれません。

 障害のある人もない人も共にとはいっても、それは障害のある人とない人が何もかも同じことを同じように一緒にすることではないはずであるにもかかわらず、障害とは何かをよく理解しないままの人情論や人権論のなかで勘違いや誤解による混乱が生じているようなことが往々にしてあるのではないでしょうか。
 障害の多様性についての具体的な理解認識が不十分なまま、〝障害〟と一括りにして、「障害のある人もない人も共に」ということを強調する標語が掲げられて、実態が伴わない状況がこれまで続いてきたように思います。

 障害があるから無理だというよりも、無理があるからそれが障害だという考え方や視点が障害者支援においては大切だと思います。障害の特質をすべて承知した上で、どのように共に生きるか(生きられるか)を具体的に考えるということでなければ、共に生きるという支援にはならないであろうし、障害(者)問題の根本的な解決にはならないと思います。




共生社会/インクルーシブ教育と「合理的配慮」

 日本の現状において、「共生社会」や「インクルーシブ教育」を考える上で、障害者権利条約と「合理的配慮」の考え方がとても重要だと思います。


 世界人権宣言と障害者の権利宣言

 障害者の権利条約と「合理的配慮」について

 日本の障害者施策と「障害者権利条約」の批准について

 日本の障害児(者)の教育と福祉

 特殊教育から特別支援教育へ 障害児教育の義務制の意義と課題






〈参考〉



◆バリアフリー教育充実「共生社会」実現目指す
  東京五輪向け推進 
2016(平成28)年7月15日 朝日新聞
 政府は、2020年東京五輪・パラリンピックに向け、障害のある人もない人も支え合って生きる「共生社会」の実現を目指す計画をまとめた。計画は、東京五輪を「成熟社会における先進的な取り組みを世界に示す契機で、我が国が共生社会に向けた大きな一歩を踏み出すきっかけにしたい」と位置づけた。

内閣府:共生社会政策
 国民一人一人が豊かな人間性を育み生きる力を身に付けていくとともに、国民皆で子供や若者を育成・支援し、年齢や障害の有無等にかかわりなく安全に安心して暮らせる「共生社会」を実現することが必要です。
 このため、内閣府政策統括官(共生社会政策担当)においては、社会や国民生活に関わる様々な課題について、目指すべきビジョン、目標、施策の方向性を、政府の基本方針(大綱や計画など)として定め、これを政府一体の取組として強力に推進しています。

文部科学省:共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進 平成24年7月23日初等中等教育分科会



◆マンションでグループホーム認めず
 管理規約違反
 大阪地裁判決 
 2022(令和4)年1月21日 朝日新聞
  大阪市淀川区のマンション管理組合が社会福祉法人に対し、障害者のグループホーム(GH)として部屋を使わないように求めた訴訟の判決が20日、大阪地裁であった。龍見昇裁判長は、住宅以外のン使用を禁止する管理規約に違反するとして、GHとしての使用を禁止した。被告側によると、GHのマンション使用を禁じた判決は異例という。

 日本グループホーム学会の調査(2018年度)では、障害者のGHは約2割がマンションなどの共同住宅にあるとされる。判決によると、法人は遅くとも15年以上前から、分譲タイプの15階建てマンション(251室)の2室を借りてGHを運営。障害者らが生活し、入浴や食事の介護などの福祉サービスを受けてきた。

  龍見裁判長は、自力での避難が難しい障害者らのGHがあることで、マンションは毎年、消防法令上の点検義務を負い、将来、消防用設備の設置に伴う金銭的負担も想定されると指摘。管理組合は、管理のあり方が変わらないように、部屋の用途を管理規定で住宅に限定していたとし、GHとしての使用は(他の入居者らを含む)共同の利益に反すると結論づけた。
 管理組合側代理人弁護士は「正当な判決だ」とするコメントを出した。法人側代理人の弁護士は記者会見し「障害のある方が地域で暮らすために不可欠なGHが、マンションなどで軒並み使えなくなる判決だ」と述べた。

(森下裕介)







共生とは やまゆり園事件から
朝日新聞2020(令和2)年1月8日 


グループホームのそば「反対」の旗 
 「なぜこんな住宅地の中心に建てるのか」 
 東京都町田市で2019年2月、知的障害や精神障害のある人が暮らすグループホーム(GH)
の建設が始まると、激しい反対運動が起きた。

  GHの建設を計画した運営会社「セレリアンス」(東京都新宿区)は、住民からの希望で説明会を何度も開いた。だが、村松良記・事業推進部長は「聞くに堪えない言葉ばかりで、理解を得るのは無理だと思った」と振り返る。粛々と建設を進める予定だという。「犯罪者を住まわせるのか」。住民が説明会で放った一言が頭に残る。

  GHは家庭的な雰囲気のもと、共同生活を行う住まい。厚生労働省によると、約13万人が利用している。かつて、施設や病院での生活を余儀なくされる知的障害や精神障害の人が多かった。できる限り地域で生活できるよう国は地域移行を進めており、GHはその受け皿となる重要な場所だ。
 だが、障害者施設などの開設に近隣住民らが反対し、事業者側と対立する「施設コンフリクト(紛争)」と呼ばれる状況が、各地で起きている。

  「運営反対!」「子どもたちの安全を守れ!」
  一戸建てが並ぶ横浜市都筑区の住宅街に旗がはためく。 そのなかで、軽度の統合失調症の人などが暮らすGH「YACHT(ヨット)」は市の認可から4カ月たった19年10月、障害者を受け入れ始めた。「どうしたら良かったのか、今でもわからない」。運営会社「モアナケア」(同区)社長の篠田長造さんはため息をつく。

 着工は18年9月。篠田さんによると、その2カ月後に近隣住民から説明を求められた。複数回開いた説明会などで、住民から「子どもの安全が脅かされる」などの声があがった。そして19年3月、近隣に一斉に旗が立つ。内覧会を5月に開くと、住民ら十数人が「運営反対」と書いた黄色い旗を持ち、GHの前で抗議した。
 ある住民は「障害者を差別しているわけではない」という。「近くには小学校や幼稚園もある。子どもたちに何かあったらどうするのか」と強調する。

 GHを開設するにあたり、事業者が近隣住民らに説明をする必要はない。13年に成立した「障害者差別解消法」の付帯決議では、GHの認可などに際して周辺住民の同意を要件としないことを徹底するよう国や自治体に求めている。
 篠田さんらも住民に求められるまで説明会は開かなかった。その点も批判されたが、「説明会を開いていたら理解してもらえたのか」。同法の制定を機にできた市の条例に基づき、紛争解決のための相談対応とあっせんを19年5月、市に申し入れた。

 市障害企画課は「旗にかかれている文言は差別にあたると認識している」と明言。旗の撤去を住民らに要請しているという。GHの定員は10人だが、入居の受け入れは遅れ、今のところ4人。反対運動が起きて1年経つが、旗は立ったままだ。

「漠然とした不安」/建設後 住民「生活変わらない」
 大阪市立大学大学院の野村恭代准教授(社会学)によると、00年から10年間に精神障害者を対象に開設した施設を調べたところ回答した154施設中26施設で何らかの反対運動が起きていた。そのうち12施設は予定地の変更、計画の断念などをしていた。 野村さんは「漠然とした不安を反対住民の多くは抱えている」と指摘する。
 法務省が発行する犯罪白書によると、刑法犯で18年に検挙された精神障害者(知的障害者も含む)は全体の1.3%だった。

 野村さんは「入居する障害者のことを考えれば、近隣住民から理解されているのが理想。ただ、現実はそうではなく、残念ながらまだ事業者側が汗をかかないといけない実態がある」と話す。「反対する住民が悪いのではなく、障害について知る機会がなかったのが悪い。人と人との関係を築くのが先決で、場合によっては行政などが積極的に仲介する必要がある」
 施設コンフリクトの問題に長年関わってきた池原毅和弁護士は「精神障害者らが地域で暮らすために、近隣住民に説明しないといけない社会はおかしい」と強調する。

 池原さんらは現在、精神障害者らのGHでの生活や思いを広く知ってもらおうと、啓発DVDの作成に取り組んでいる。DVDの作成に協力するNPO法人「たま・あさお精神保健福祉を進める会」も14年、川崎市多摩区にGHを開設。その際に近隣住民から反対運動を受けた。
 理事長の三橋良子さんは最近、反対運動に関わっていた住民から「あの頃は、精神障害のことを知らなかった。町内会の掃除にもよく出てきてくれて。ご近所なんだから気兼ねしないで」と声をかけられた。何か特別なことをしたわけではない。でも実際に住み始めて、受け入れてもらえていると感じるという。
 近所に住む男性は言う。「あれだけ大騒ぎしたけど、できる前とできた後、何も変わっていないよね」

(有近隆史)



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日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円 A5判 316頁





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