発達障害と特別支援教育について

2013.1.6
 

更新:2015.1.12/2017.4.30/2019.6.8/2020.8.29/2021.6.12/2022.7.31/2023.4.15

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 日本の教育制度は、原則として障害の有無で教育を受ける場としての学校を分けてきましたが、 2007年(平成19)年4月1日から「学校教育法等の一部を改正する法律」によって、従来の、盲(もう)学校・聾(ろう)学校・養護学校(知的障害・肢体不自由・病弱)という障害種別による学校の区分をなくし、特別な教育的ニーズを抱えるいわゆる「発達障害」に対する教育的支援も含めた「特別支援学校」に一本化する特別支援教育の制度が始まりました。

 特別支援教育の制度をどのように充実発展させるか、そのための教育的環境条件をどのように整えていくかということは、今後の重要な課題だと思います。

 障害種別の区分をなくすということは、障害の内容等には関係なく誰もが教育を受けられるようにするということであって、障害の内容やその程度状態等についての配慮を何もせずに、単に一緒に学ばせるということではないのですが、そこに誤解や混乱が生じているようです。









文部科学省の平成24年12月の調査結果について

 文部科学省では、今後の教育に関する施策の在り方の基礎資料とするため、「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」を実施し、その調査結果を平成24年12月5日に公表した。

 この調査で、全国の公立小中学校の通常学級に在籍する知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた発達障害の可能性のある子どもが6.5%いることが分かった。35人学級なら2人程度いることになる。しかしそのうち約4割は特別な支援を受けていないという。

 「学習面で著しい困難を示す」とは、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」などのうちの一つあるいは複数で著しい困難を示す場合を指す。
 「行動面で著しい困難を示す」とは、「不注意」「多動性―衝動性」あるいは「対人関係やこだわり等」について一つか複数で問題を著しく示す場合を指す。



文部科学省:通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果
 平成24年12月5日 (PDF)




通級による指導について


 
小・中学校の通常の学級に在籍する比較的軽度の言語障害、情緒障害、弱視、難聴等のある児童生徒に対して、各教科等の指導を通常の学級で行い、必要とする特別な指導を通級指導教室などの特別の指導の場で行う指導方法。必要に応じて他校への通級も認められている。
 平成18年4月より、発達障害のある児童生徒も通級指導の対象に加えられた。




通級指導 教員増の方針 発達障害の子ら担当 2016(平成28)年4月13日 朝日新聞
 
文部科学省は、公立小中学校の教職員定数の配分ルールを見直す方針を固めた。 発達障害のある児童らに、一部の授業を別に行う「通級指導」を担当する教職員が不足しており、改善するのがねらい。
 公立小中学校で通級指導を受けているのは 約8万4千人(2014年度)。これに対し、発達障害の可能性のある小中学生は全体の6.5%(約60万人)と推計されている。


「通級指導」先生足りない 発達障害の子の別室指導 拡充求める声
 
受けられない希望者も 保護者らが署名集める 2016(平成28)年11月4日 朝日新聞 

 授業中に席でじっとしていられないといった発達障害の小中学生の学びを支援するため、一部の授業を別教室で行う「通級指導」という制度がある。しかし、教員不足で希望者の多くが受けられないのが現状のため、保護者らが制度の拡充を求めて署名活動を始めた。

発達障害教育 増員へ 通級指導1人が13人担当  
2016(平成28)年12月20日 朝日新聞
 文部科学省は2017年度から、発達障害のある子らが別室などで学ぶ「通級指導」や外国人児童に日本語を指導する教員の配置を今より手厚くすることを決めた。「通級指導」の教員1人当たりの子どもの数は16年度の16.5人から13人になる。


◆ 支援学校3400教室足りない 朝日新聞 2017(平成29)年4月30日

 
障害が比較的重い子どもが通う「特別支援学校」で深刻な教室不足が続き、2016年10月現在、3430教室が足りないことが文部科学省の調べでわかった。特別支援学校の在籍者が近年急増し、教室数が追いついていない。同省は教育に支障が出るおそれがあるとして、教育委員会に補助金の活用などによる教室不足の解消を求めている。

 特別支援学校小、中学部の1学級は6人が上限で重複障害の場合は3人。 幼稚部から高等部までの在籍者は15年に13万8千人で、10年で1.36倍になった。特に知的障害のある子が増え、全体の9割を占める。比較的障害が軽い子が通う小中学校の特別支援学級の在籍者も15年に20万1千人で10年で約2倍に。背景には、障害の診断が普及したことがある。障害があると診断されると、支援が得やすい教育を望む保護者が増えたとみられ、「特別支援教育への理解が深まった」(文科省担当者)との見方がある。

 一方、支援が必要な子に対応できていない小中学校の課題を指摘する声もある。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」(東京)によると、通常の学級を希望した知的障害児や発達障害児の保護者が、教育委員会や学校から「高学年になると勉強が難しくなる」などとして特別支援教育を提案されるケースがあるという。

 特別支援学校の教室不足は神奈川県(256室)、東京都(245室)、埼玉県(232室)、愛知県(224室)など都市部で目立つ。特に高校に当たる「高等部」の教室が足りず、教室を間仕切りしたり図書室などを教室に充てたりしてしのいでいる。

 文科省は障害がある子とない子が共に学ぶ 「インクルーシブ(包摂的)教育」を進める。障害が一定程度重い子は原則、特別支援学校に進むとされていたが、13年から、どの学校で学ぶかは本人と保護者の意見を尊重して決めることになった。しかし一定の重い障害があり、小中学校の通常の学級に通っている子は2千人にとどまる。

(片山健志、斉藤寛子)










障害のある子どもの就学について
(内閣府「障害者白書平成28年版」)


 インクルーシブ教育システム構築という障害者権利条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方についての検討を行うため、中央教育審議会の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」において審議が行われ、平成24年7月には、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(初等中等教育分科会報告)が取りまとめられた。

 本報告においては、①共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築について、②就学相談・就学先決定の在り方について、③合理的配慮の充実とその基盤となる教育環境整備等について、④多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進について、⑤教職員の専門性の向上等について提言された。

 同報告等を踏まえ、平成25年8月には、障害のある児童生徒等の就学手続きについて、特別支援学校への就学を原則とする従前の仕組みを改め、市町村の教育委員会が、障害の状態、教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、総合的な観点から就学先を決定する仕組みとするなどの学校教育法施行令の改正を行った。



特別支援教育について:文部科学省

  特別支援教育について(新着情報等最近の動き)

  
 特別支援教育の現状

  
 障害のある子供の就学先決定について

   卒業後の進路


   令和元年度特別支援教育に関する調査結果について:文部科学省


 特別支援教育を担う教師の在り方等に関する検討会議報告 令和4年3月31日 /報告概要








◆医療ケア必要な子の公立小就学
 横浜地裁認めず「安全でない」  朝日新聞2020(令和2)年3月19日

 人工呼吸器をつけて車いすで生活する川崎市の光菅(こうすげ)和希君(8)と両親が、神奈川県と市を相手に、特別支援学校ではなく公立小への就学を求めた訴訟で、横浜地裁の河村浩裁判長は18日、請求を棄却する判決を言い渡した。公立小への就学を認めなかった市教育委員会の判断について「安全な学習の場を提供するもの」と認めた。

 判決などによると、和希君は全身の筋力が弱く、たんの吸引など医療的ケアが必要。通常の幼稚園に通い、他の子どもから刺激を受け育ったといい、両親は公立小への就学を希望した。だが、市教委は一昨年、特別支援学校への就学を決定。和希君は現在、特別支援学校へ通う。
 判決は、決定当時、就学を希望した公立小には看護師がおらず、児童同士がぶつかる可能性などもあり、安全確保にふさわしい場所ではないと指摘した。 

(山下寛久)

医療的ケア児 通学支えるには
親の付き添い条件 教室内で常に  
朝日新聞2021(令和3)年1月14日
 人工呼吸器の使用などが必要な「医療的ケア児」が増え、障害がある子どもが通う特別支援学校でも、保護者の付き添いを求めるケースが相次いでいる。学校での受け入れ態勢は地域差も大きい。教職員への研修や看護師の確保などが課題となっている。



◆医療的ケア児支援法成立へ
 保育所・学校に看護師配置  
朝日新聞2021(令和3)年6月11日

 胃ろうやたんの吸引、人工呼吸器といった医療的ケアが日常的に必要な子ども「医療的ケア児」と、その家族への支援を充実させる法案が今国会で成立する見通しになった。保育所や学校などに通う機会が平等に得られるように、医療的ケアを行う看護師らの配置を設置者に求めることなどが柱となっている。

 厚生労働省によると医療的ケア児は全国に推計で約2万人いる。新生児への医療技術の進歩を背景に、こうした子どもたちは年々増えている。2015年から、超党派の国会議員や支援団体などでつくる「永田町こども未来会議」が法案内容の検討を進めた。提出した法案は国と自治体が支援の拡充へ必要なことをする責務がある、と明記。保育所や学校などへの看護師の配置のほか、各都道府県に相談や情報提供を行う支援センターを設けることも求められる。

 法律上はこれまで、児童福祉法に自治体の努力義務の規定があるだけだった。医療的ケアができないとして、保育所で受け入れてもらえなかったり、保護者が学校に付き添ってケアを求められたりしていた。保護者の離職にもつながり、家族だけに大きな負担が集中することが問題となっていた。

(久永隆一、山下剛)



◆特別支援学校 教室が足りない
 児童生徒10年で2割増■分割や会議室転用  朝日新聞2020(令和2)年3月24日

 障害のある子どもが通う「特別支援学校」で、教室不足が深刻化している。児童生徒の数はこの10年で約2割増え、全国的に教室の確保が追いついていない。各地の教育委員会は、一つの教室を分割したり、会議室を教室に転用したりと、対応に苦心している。

 特別支援学校は、07年に盲・ろう・養護学校の各学校が一本化され、幼稚園から高校にあたる各部が設けられた。学校教育法施行令に基づき、比較的重い障害をもつと判定された子が対象となる。
 文部科学省が毎年行う学校基本調査によると、特別支援学校に通う子どもは、09年度に約11万7千人だったが、今年度は約14万4千人と、10年間で約2万7千人増えた。少子化が進むなかで、増加傾向が続いている。

 国は16年度、全国の教室不足の状況を調査。全国の特別支援学校で約3400教室が不足していた。神奈川県で256教室、東京都で245教室、愛知県で224教室など、都市部での不足が目立つ。
 調査時に唯一、「不足がない」と回答していた石川県も、今年度は学校併設の寄宿舎の一部を教室に転用している。

学校新設 地域の理解課題
 特別支援学校の新設には、さまざまな課題がある。
 ある県教委の担当者は「最近は市街地が高騰し、新校の用地確保が難しくなっている」と明かす。別の県教委の担当者は、将来的には障害がある子どもも、少子化の影響で減っていくと予測する。「学校を新設しても、10年程度で空き教室が出るようになるかもしれず、新設のリスクはある」

 地域の理解を得ることも課題の一つだ。
 大阪府教委によると、ある支援学校新設説明会で、近隣住民から、通学バス十数台が往来することによる渋滞を心配する声があがった。
 15年に開校した府立牧方支援学校(牧方市)では正門前の敷地の一部を市道の拡張に提供した。校内で育てた野菜を近くの駅前で販売するなど、地域の理解を得る努力を続ける。今では、児童らが郊外へ散歩に出かけると、地域住民から声をかけられるようになり、入学式や体育祭に訪れる住民も増えたという。

(渡辺元史)



◆特別支援学校 開校相次ぐ
 深刻な教室不足 背景  朝日新聞2020(令和2)年8月24日(1面)

 少子化で子どもの数が減り、学校の統廃合も進むなか、障害のある子どもらが通う特別支援学校が次々に開校している。
 朝日新聞の取材では、2018年度以降に全国で17校が開校し、さらに今後、全国で36校の新設計画がある。専門的な支援教育を望む保護者が増えたことなどで、支援学校に通う子どもはここ10年で約2割増加。深刻な教室不足が背景にある。


通う子ども10年で2割増
 47都道府県の教育委員会に取材したところ、支援学校は18年度から今年度までに東京や愛知など12都道府県が17校を開校。さらに来年度以降、埼玉、東京各6校、福岡3校など、19都道府県に36校の新設計画がある。ほとんどが教室不足への対応だった。昨年度、教室が足りず、会議室などを教室に転用した支援学校は、すべての都道府県にあった。

 文部科学省によると、全国の小中高校に通う児童生徒数は1985年度の2226万人をピークに、昨年度は1280万人にまで減少し、学校も約4万2千校から7千校減った。
 一方、支援学校に通う子どもは2009年度に11万7千人だったのが、昨年度までに2万7千人増えて14万4千人に。知的障害のある子が約9割を占める。学校数は116校増え、1146校となった。
 昨年5月の文科省の調査では、全国の支援学校で計3162教室が不足していた。国の有識者会議は支援学校が最低限備えるべき施設などの設置基準をつくるよう求め、文科省が検討中だ。

 国は障害がある子とない子がともに学ぶ「インクルーシブ教育」を進めようと、13年に学校教育法の施行令を改正。通常校か、支援学校か、子どもの就学先を決める際に保護者の意見が反映されるようにした。
 就学時の検診で障害児を見つけやすくしたこともあり、通常校に通いながら校内の特別支援学級で学ぶ子どもも、この10年間で倍増した。ただ、17年度の調査では、どちらにも入学できる障害の重さと判断された約1万人の7割が支援学校を選んだ。

 背景について、支援学校6校を新設する埼玉県教委の担当者は「子どもの特性に合わせた、より専門的な教育に期待する保護者が増えた」とみる。2校を新設する大阪府教委の担当者は「就労を想定した専門の授業もあり、福祉事業所などへの就職に期待する保護者もいる」という。

 こうした状況について、特別支援教育に詳しい都留文科大学の堤英俊准教授は「支援学校も保護者の大事な選択肢の一つ」としたうえで、「教室不足への対応として学校を新設するのはあくまでも緊急対処。通常の学校にも、一人ひとりの個性や特性に応じた授業ができる少人数学級を設けるなど、保護者が安心して子どもを預けられる態勢を整えるべきだ」と話す。

(渡辺元史、玉置太郎)

我が子が笑顔で通える学校は  朝日新聞2020(令和2)年8月24日(3面)
 障害のある子どもの就学先をどうするか、悩んだ保護者は少なくない。専門的な支援を求め、特別支援学校を選ぶ家庭が増え、学校の新設が相次ぐが、教育現場では障害の有無にかかわらずともに学べるよう、通常校の特別支援学級を充実させる取り組みも続く。

(玉置太郎、渡辺元史)

特別支援学校 ペースに合わせて
 京都府に住む母親(34)は、長男は生後3カ月で、ダウン症の診断を受けた。障害児が通う療育施設を卒園したが、母親には地元の小学校に通わせたい思いがあった。入学前年の秋、最寄りの公立小へ、特別支援学級の見学に行った。けれど、障害がある子の自立を最優先に考えているように感じられ、「この子の優しい気持ちとか、発達検査の結果には出ないような長所を大事にしてもらえるだろうか」と不安が残った。
 後日訪れた支援学校の教師からは、子どものペースに合わせる姿勢を感じた。懇談の間に他の教師と遊んだ長男が「楽しかった」と笑っていたことも決め手になった。「親として、これをできるようになってほしい、という思いは置いておこう。この子が笑顔でいられる場所が一番」。そう決心し、支援学校を選んだ。

特別支援学級
 共生の気持ち育む
 国は障害がある子とない子がともに学ぶインクルーシブ教育を進めている。 通常校にある特別支援学級に在籍する子も増えており、昨年度は全国に計約28万人。過去10年で倍増した。支援学級の数が全国最多(昨年度約7千学級)の大阪府。うち約2千学級に9千人が在籍する大阪市の教育委員会は、2016年にインクルーシブ教育推進室を設け、態勢を整えてきた。
 ある市立小は、児童約340人のうち約50人が特別支援学級に在籍。主に国語と算数の授業で、ふだん学ぶクラスから支援学級に移る。障害別に8学級あり、担任が1人ずつ付く。

 ふだんのクラスでの授業では、支援学級の児童も他の子らと議論し合い、自分の意見を発表する。校長(62)は「一緒にいるのが当たり前という環境で、共生の気持ちが自然と育まれる」と話す。
 大阪府教委によると、担当者は「子どもの増加とともに支援のニーズも多様化しており、対応するための人材や予算、専門性を確保していく必要がある」と話す。

 インクルーシブ教育を進める上での課題について、「通常校の教員の間で、支援教育に関わる専門性がまだ十分に高まっていない」(宮城県教委)、「通常校の現場で障害への理解はまだ十分とは言えず、研修を通した専門性の向上に努めている」(栃木県教委)などの声があった。



文部科学省:新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告
   令和3年1月 新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議

新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議では、令和3年1月に「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告」を取りまとめました。


◆特別支援学校 3740教室が不足
 在籍者 10年で16%増  朝日新聞2022(令和4)年3月2日

 昨年10月1日現在、3740教室が不足していることが1日、文部科学省の調査で分かった。特別支援学校に通う児童生徒は増えており、2年前の調査からさらに578教室が足りなくなった。文科省は補助金を手厚くして解消を目指すが、都市部では用地の確保が難しいといった課題もある。
 文科省は、休校中を除く全ての公立特別支援学校(1096校)を対象に調査した。不足分の3740教室のうち最も多かったのは大阪府の528教室。東京都(514教室)、千葉県(220教室)、埼玉県(191教室)が続き、都市部での不足が目立つ。

 特別支援学校に在籍する子は今年度、14万6300人で、10年前から16%増えた。文科省は、障害がある子とない子が共に学ぶ「インクルーシブ教育」を進めるが、個別支援が得やすい環境を望む保護者も少なくないとみられる。文科省の担当者は「特別支援学校への理解が深まっているからでは」と話す。特別支援学校の小・中学部の1学級は6人以下とされ、人数増は教室不足に直結する。
 文科省は昨年9月、特別支援学校の校舎面積や備えるべき教室・施設などを定めた「設置基準」を初めて制定。また、2020~24年度、教室確保の改修費などの国庫補助率を3分の1から2分の1に引き上げて整備を促している。

(桑原紀彦)







朝日新聞社説 2022・3・10
特別支援学校 教室不足 見過ごせぬ
 ひとつの部屋をカーテンで仕切り、別々のクラスで使うのは珍しくない。体育館や廊下にパーティションなどを立て、教室にしている例も全国で100近く報告された――。
 障害のある子が通う公立の特別支援学校の教室が足りず、様々な策を講じて学びの場を確保している様子が、文部科学省の調査でわかった。

 原因は通う子どもの数の増加だ。特別支援学校は07年、複数の障害を持つ子に対応できる態勢を取るため、盲・ろう・養護学校の各学校を一本化してできた。1学級の人数はおおむね10人以下で、障害に応じた専門的な教育や、卒業後を見すえた自立のためのサポートを行う。
 かねて言われているように、障害のある子が地元の学校に通い、そうでない子と一緒に学ぶ意義は双方にとって大きい。一方で、手厚い指導を評価・期待して特別支援学校を選ぶ保護者も多く、昨年の児童・生徒は約14万6千人と、発足当初の07年に比べて3割以上増えた。

 教職員の確保もさることながら、より深刻な問題が教室不足だ。文部科学省は各自治体に対し、学校の新増設や改修にかかる経費を国が補助する制度を利用するなどして、対処するよう求めてきた。改善傾向がみられた時期や地域もあるが、用地の確保が難しい都市部を中心に、抜本解決にはほど遠い。
 とりわけ心配なのは9割以上を占める知的障害のある子だ。聴覚や視覚への刺激を減らして授業に集中させたいのに、間仕切り方式では隣の「教室」から声や物音が聞こえるなどして、支障が出ているという。
 文科省は昨秋、特別支援学校の設置に必要な施設や、校舎・運動場の面積などに関する最低基準を初めてつくった。しかし既にある学校には適用されず、努力義務にとどまる。

 20~24年度をこうした既存施設の改修に取り組む集中期間とし、費用の国庫補助率を3分の1から2分の1に引き上げる施策をとっているが、どこまでの進展が見込めるか。政府は状況を見ながら、期間の延長を柔軟に検討してほしい。
 統廃合で閉鎖された校舎などの活用も、管轄する自治体や部署の垣根を越えて積極的に進めるべきだ。通学環境の整備や人員のやり繰り、地域の協力の取りつけと課題は多いが、手をこまぬいてはいられない。
 障害の有無にかかわらず、全ての子どもに学びの場を確保・提供する。それは行政の最も大切な責務のひとつだ。







発達障害の児童生徒 通常学級で支援拡充
 文科省
 一部の指導だけ別室    2022(令和4)年6月15日 朝日新聞 
 発達障害のある児童生徒らが通常学級で学んでいくための支援策を議論する文部科学省の有識者会議の初会合が14日、開かれた。障害のない子と一緒に学ぶインクルーシブ(包括する)教育を進めるため、一部の指導だけを別室で受ける「通級指導」などを充実化させる提言を今年度中にまとめる。

 文科省によると、通級指導を受ける公立の小中高生は約13万4200人(2019年度)で10年前の2.5倍に増えた。12年の小中学校への調査では、通常の学級で発達障害の可能性のある児童生徒の割合は6.5%。発達障害への認知が進み、この割合は今後も増えるとみられるという。文科省は特別支援学級に在籍する通級指導を拡充したい考えだ。

 通級指導には児童生徒が在籍校で受ける「自校通級」、他校で受ける「他校通級」、他校の教員が訪問してくる「巡回指導」がある。文科省は26年度にかけ小中学校の児童生徒13人に対し教員1人の配置を進めて自校通級に対応する計画だが、1校で13人に満たなければ他校通級となるケースが出てくる。他校通級では、子どもが慣れない環境を嫌がったり、保護者の送迎が負担になったりして、必要な指導を受けられていない事例もあるという。

(桑原紀彦)


「専門性高い教員 もっと」
 「通級指導」を受けている児童生徒数は、学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)なども対象になった06年以降大幅に増えた。
 この日の会議でも話題にのぼった東京都では、保護者による送迎の負担などの課題を解消するため、昨春までに全小中学校に独自モデルの「特別支援教室」を設置し、担当教員が巡回指導する形式をとっている。

 巡回指導をする都内のある教諭は、1週間に三つの小学校を回り、各校の対象児1人当たり週2時間程度、計10人以上の指導にあたっている。子どもたちにとっては在籍校で指導が受けられることで負担は減ったと思う。一方で、自校通級と違い限られた巡回の時間の接触では日頃の学級での様子や変化がわかりにくく、担任らと連携する時間も足りないと感じている。
 「様々な特性の子がどんどん増えるのに、特別支援教育の免許や経験がないまま配置される教員も多い。専門性の高い教員を育て、配置するとともに、各担任も特別支援の視点を学ぶ必要があるのでは」と話す。

 18年度から新たにできた高校の通級指導も課題が山積だ。関西地方で担当した教諭は「教職員間でさえ『通級指導って何?』という声がまだ聞こえるぐらいの認識」と明かす。特別支援教育の経験のある高校教員も少なく、元校長らを配置するなど枠組みを整えることが優先され、個々の特性に応じた指導ができていない学校も少なくないという。「高校にも発達障害の生徒がたくさん進学する時代。発達障害などに興味がある教員を大学院などで学ばせて現場に戻したり、特別支援学校の高等部と積極的に人事交流したりといった態勢づくりが必要ではないか」としている。

(編集員・宮坂麻子)









文部科学省の令和4年12月の調査結果について


 文部科学省では、通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査を平成24年に実施後10年が経過し、この間、発達障害を含め障害のある児童生徒をめぐる様々な状況の変化があったこと等を踏まえ、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態と支援の状況を明らかにし、今後の施策の在り方等の検討の基礎資料とするため、令和4年に本調査を実施しました。その調査結果をまとめた報告書が公表されました。


文部科学省:
 
令和4年 12 月 13 日 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課
通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する 調査結果について

○発達障害は通常、医師が診断するが、この調査結果は、抽出調査で、発達障害に関する質問に当てはまるかどうか、担任らが回答した結果よるものである。学校での特別支援には診断は不可欠ではなく、状況把握のために調べたという。

○質問の内容は学習障害(LD)や注意欠如・多動症(ADHD)、高機能自閉症などの評価軸などを参考にした。具体的な項目は、「思いつくままに話すなど筋道の通った話をするのが難しい」「座っていることを要求される状況で席を離れる」など。

○公立小中学校の普通学級で、知的発達に遅れはないものの学習面や行動面に著しい困難のある「発達障害」の可能性のある子が8.8%いた。前回調査(平成24年)より2.3ポイント増えた。
 調査方法が一部変わったため平成24年の調査結果と単純比較はできないが、低年齢ほど多く、小1と小2は各12%以上で、35人学級なら4~5人はいることになる。中1は6.2%だった。実際にはもっといるとされる。

○発達障害の可能性のある8.8%のうち、7割は校内全体では特別な教育的支援が必要だと判断されていなかった。個別の教育支援計画や指導計画が作られていなかったのは8割近くに上る。スクールカウンセラーらの専門家に意見を聞いている例は15%足らずだった。

○成長に伴って適応したり、苦手な部分を補う方法を身につけたりするケースもあるが、適切な年齢で支援や配慮がなされなかったために困難が大きくなる例も少なくない。
 つまずきの背景を見極め、将来を見据えた支援をするには、学校に専門家や支援スタッフを増やして支援体制を充実させる必要がある。一部の時間を別室で学ぶための通級指導も広がるが、支援体制は十分ではない。

○インクルーシブ教育に関連して、障害のある児童生徒が通常学級から隔離されているとの懸念を示す2022年9月の国連の障害者権利委員会による日本に対する勧告に対して、永岡桂子文部科学大臣はいち早く、「現在、多様な学びの場において行われている特別支援教育を中止することは考えていない。勧告の趣旨を踏まえて、引き続きインクルーシブ教育システムの推進に努めたい」と述べ、現行の特別支援教育の取り組みを進める考えを表明。




 日本の障害児者の教育や福祉の現在までの戦後史を顧みたとき、障害児の教育も義務制となり、福祉サービスは誰もが契約により利用できる形にはなりました。しかし、義務教育終了後の実際の状況はどうでしょうか。

 特別支援教育の対象者が増加傾向にあることなども踏まえ、また障害者権利条約の締約国として共生社会やインクルーシブ教育の実現を強調するからには現行の障害児者にかかわる学校教育のあり方について抜本的な改革が必要だと考えます。

 
障害児教育の義務制は何のため、だれのための教育かということを原点に立ち返って、反省すべきは反省し、大切にすべきは大切にし、世界に誇れる日本流の教育と福祉を構築するために、今改めるべきチャンスが与えられているのではないでしょうか。








   発達障害をどのように理解するか


   日本の障害児(者)の教育と福祉


 
  障害児教育の義務制の意義と課題

   教育を受ける権利と学歴偏重


   共生社会とインクルーシブ教育を考える


   障害者の権利条約と「合理的配慮」について

   障害児者に関する相談窓口

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日本の障害児(者)の教育や福祉をめぐる問題、課題を考察し、今後を展望
田研出版 3190円 A5判 316頁

第1章 日本の障害児教育の始まりと福祉
義務教育の制度と障害児/学校教育と福祉施設/精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)の制定/教育を受ける権利の保
第2章 戦後の復興から社会福祉基礎構造改革へ
社会福祉法人制度と措置委託制度/社会の変化と社会福祉基礎構造改革/「措置」から「契約」への制度転換と問題点
/社会福祉法人制度改革の意義と課題

第3章 障害者自立支援法から障害者総合支援法へ

障害者自立支援法のねらい/障害者自立支援法をめぐる問題/自立支援法から総合支援法へ/障害者総合支援法施行3年後の見直し 
第4章 教育の意義と福祉の意義
人間的成長発達の特質と教育・福祉/人間的進化と発達の個人差/教育と福祉の関係/「福祉」の意味と人権

第5章 展望所感

 障害(者)観と用語の問題/新たな障害(者)観と国際生活機能分類の意義/障害児教育の義務制の意義と課題/障害者支援をめぐる問題










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