法定雇用率への不適切な算入
<中央省庁・地方自治体が障害者雇用数を水増し>


2018.8.31/2018.11.30/2019.8.10/2019.12.27/2020.9.12/2021.1.17







 障害者雇用促進法は、国や自治体、民間企業等に対して一定割合以上の障害者の雇用を義務づけています。これを「法定雇用率」といいます。国や地方自治体には、率先して障害者雇用に取り組むために、民間企業に比べて高い法定雇用率が課されています。

 厚生労働省は、法定雇用率に算定できる障害者についてのガイドラインを策定。「身体障害者手帳」「知的障害者の療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「精神保健指定医などの判定書」の交付を受けている人と定めています。しかし、国の中央省庁や全国の自治体の多くが対象外の職員を法定雇用率に算入して、障害者雇用数を水増ししていたことが明らかになりました。

 厚生労働省によると、ガイドラインの解釈について省庁からの問い合わせがあり、法定雇用率を算定する際に、省庁によっては、ガイドラインには該当していない、障害の程度が軽い人を算入している可能性が浮上。このため2017年(6月1日時点)の法定雇用率をどのように算定したのかを改めて精査する調査を開始したとのことが新聞等で報道されました。

 障害者の雇用義務のある一般の民間企業が法定雇用率に達しない場合には、不足する人数分に応じて納付金が課せられます。算定が正しく行われているかどうかの定期的な訪問検査もありますが、国の行政機関は対象外で、不適切な算入が長年続いていたようです。公的機関に対するチェック体制の在り方にも問題があるようです。



朝日新聞をもとに作成

《省庁・自治体による障害者雇用率への不適切算入が明らかに》
《障害者雇用 政府が2017年6月1日時点の再調査結果を公表》
 国27機関 3460人分水増し

《雇用の水増しが発覚し、雇用率を満たすための大量採用が始まる》
《雇用率を満たすための大量採用についての懸念》
《再調査で判明した障害者雇用数水増しの手法》
《障害者雇用数の水増し発覚後の報道から》
《水増し発覚後の障害者雇用》






省庁・自治体による
障害者雇用率への不適切算入が明らかに




◆障害者雇用率 省庁が水増し
 農水省、不適切算入認める 「精査中」多数  朝日新聞 2018(平成30)年8月18日
 障害者雇用促進法で義務づけられている障害者の法定雇用率について、国の複数の中央省庁が対象外の職員を算入して水増ししていた疑いが出てきた。制度を所管する厚生労働省が各省庁に再調査を求めており、農水産省は取材に対し、一部で水増しがあったと認めた。
  実態をチェックする仕組みがないため、障害者雇用を促進する立場の国の機関で不適切な参入が常態化していた可能性もある。

◆水増し 山形・愛媛県も
    総務・国交省も認める
  朝日新聞 2018(平成30)年8月21日

 山形県と愛媛県は20日、対象外の職員を算入していたと発表。雇用率の水増しが、地方自治体でも広がっていた。 総務省が水増しを、国土交通省が水増しがあった可能性をそれぞれ認めた。
 朝日新聞の取材に対し、国交省は「可能性があり精査している」とした。


朝日新聞 社説  
2018.8.23


 総務省や農林水産省など複数の省庁で、法律で義務づけられた障害者の雇用割合を過大に算出し、「水増し」していた疑いが出ている。自主的に再点検した地方自治体でも、同様の問題が次々と見つかっている。
 ずさんな算定は公的機関で横行していたとみるべきだろう。

 国や自治体に一定割合以上の障害者の雇用を求める障害者雇用率の制度ができたのは1960年。76年には民間企業にも義務づけられた。心身に何らかの障害を持つ人たちの働く権利を保障し、それぞれの人が能力を発揮し、生きがいを持って働ける社会を目指す。そんな理念に根ざす制度だ。とりわけ国の機関や自治体には、民間企業より高い目標が設定されている。率先して取り組む姿勢を示すためだ。

 なぜ中央省庁でずさんな算定がまかり通ったのか。民間企業との運用の違いも一因だろう。
 従業員100人以上の企業が法定雇用率に達しない場合は、その人数に応じて納付金を課せられる。算定が正しく行われているか、定期的な訪問検査もある。こうした仕組みは、公的機関にはない。チェック体制の在り方を見直すべきだ。

 障害者の法定雇用率をめぐっては、2014年に厚労省所管の独立行政法人で、障害者を多く雇ったように装う虚偽報告が発覚。厚労省はこれを受けて独立行政法人の検査を進めているが、国や自治体は対象から外した。身内への甘さにほかならない。
 いくら目標を掲げても、実体把握もできていないのでは絵に描いた餅だ。徹底的に調べ、悪質な行為には厳正に対処する。そのことなくして信頼回復はない。



◆障害者雇用不適切算入28県 証明書類確認せず
  環境省でも水増しの疑い
     朝日新聞 2018(平成30)年8月24日(1面)

 朝日新聞が22、23日に47都道府県(教育委員会などを含む)の状況を調べたところ、半数以上の28県で障害者手帳などの証明書類を確認していない職員を雇用率に不適切に算入していたことがわかった。大半が、対象を具体的に定める厚生労働省のガイドラインの理解不足を理由としている。
 中央省庁では環境省が水増しの疑いがあったことが23日、関係者への取材で分かった。国交省では昨年6月時点で雇用していた890人の障害者のうち、半数以上が障害者手帳を持っていないとみられるという。中央省庁での水増しは千人規模になる可能性がある。



障害者手帳や診断書などを確認せず、雇用率に算入していた28県 
※朝日新聞が各都道府県と教育委員会を取材。県警は発表分のみ含む。三つのいずれかで明らかになった都道府県を集計 
 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 埼玉 千葉 富山 石川 福井 長野 静岡 兵庫 奈良
 島根 広島  徳島 香川 愛媛 高知 佐賀 長崎 熊本 宮崎 沖縄



◆厚労省通知を拡大解釈
 障害者雇用 手帳確認「必須と思わず」  
朝日新聞 2018(平成30)年8月24日 
 多くの自治体の担当者は、厚生労働省が示す障害者の確認方法を「拡大解釈していた」と釈明するが、結果として数字を実態より大きく見せていた。厚労省は2005年に作ったガイドラインで、対象となる障害者の具体的な確認方法を、障害者手帳などの証明書類で確認すると定めている。しかし、多くの自治体はこの規定に反して、手帳や診断書などを確認せずに雇用率に算入していた。

 原因の一つは、厚労省が雇用状況を確認する際に毎年出す通知だ。障害者の確認方法について、昨年まで「身体障害とは、原則として身体障害者手帳の等級に該当するもの」と説明。ガイドラインと一部が異なっていた。そのため多くの自治体が「 『原則として』とあったので、必ず手帳が必要と思っていなかった」(高知県の担当者)などと「拡大解釈」していた。

 ほかにも分かりにくい説明があった。ガイドラインは「採用後に障害を明らかにすることを望んでいる者」については手帳の確認方法を明記している一方、「障害を明らかにしたくない人」には記述がなく、算入の可否が判断しにくい。ある自治体の担当者は「手帳を確認するのはプライバシーを侵害する、と解釈してしまった」。 別の自治体の担当者は「ガイドラインにあいまいな部分がある」と批判する。ただ、自治体にとって、対象者の確認方法があいまいなことでメリットもあった。 厳密な手続きなしに雇用率を引き上げられるからだ。

 厚労省は今年5月に出した通知から「原則として」の文言を削除。 障害者雇用対策課の松下和生課長は朝日新聞の取材に「説明をより分かりやすくするため」と答えたが、今年から削除した理由は「現時点では回答しない」としている。



◆障害者雇用の水増し
  自治体の調査を検討
  朝日新聞 2018(平成30)年8月25日

 障害者の法定雇用率を中央省庁が水増ししていた疑いがある問題で、政府は地方自治体を対象に調査する方向で検討を始めた。 調査の範囲をどこまでにするかなどをつめた上で、近く実施する見通し。
 厚労省によると、 昨年6月1日時点で都道府県(教育委員会を除く)では約8600人、市区町村(同)では約2万6400人の障害者が勤務。 雇用率はそれぞれ2.65%、2.44%で、当時の法定雇用率2.3%を上回っていた。




障害者雇用
政府が2017年6月1日時点の再調査結果を公表
 国27機関 3460人分水増し




◆障害者雇用 実際は半数
 国27機関 3460人分水増し
  朝日新聞2018(平成30)年8月29日(1面)

 中央省庁で障害者の雇用数が水増しされていた問題で、国の33行政機関のうち約8割の27機関で不適切な障害者数の算入があった。平均雇用率は、従来の2.49%から法定雇用率を大幅に下回る1.9%に半減した。自己申告の持病の記述や健康診断の結果を元に、本人の同意のないまま独自の判断で障害者と認定しているケースもあった。

 従来の調査では、計約6900人の障害者を雇っていたとしていたが、このうち半分の計3460人が水増しされていた。27機関が当時の法定雇用率2.3%に達せず、このうち18機関では1%を割っていた。
 最も水増しが多かった国税庁では、7割強の1022.5人が不適切な算入だった。申告のあったがんや糖尿病などの持病をもとに本人に知らせずに障害者にしていたケースもあったという。

 経済産業省では、人事担当者の間で「障害者手帳などを確認しなくてもいい」との運用が、少なくとも10年以上前から引き継がれていた。水増しが意図的だったのかどうかについては、制度を所管する厚生労働相は新たに設ける弁護士らが加わる第三者検証チームに調査を委ねるとした。

 政府は、関係府省連絡会議を開き、原因究明と再発防止策の検討を始めた。水増しが起こった経緯と背景の検証や、法定雇用率達成に向けた計画的な国での取り組みなどを検討し、10月中にまとめる。
 法定雇用率については、各省庁にできる限り年内に達成するよう要請。今年中の達成が難しい場合には、来年1年間の障害者の採用計画をつくり、来年中に達成できるよう求めた。


 一方、水増し問題は国や地方自治体に加えて、国会の機関にも広がりを見せだした。参院事務局と国立国会図書館は再調査結果を報告。昨年6月1日時点で参院事務局は雇用数を25.5人としていたが実際には9人。国会図書館は22人としていたが12人で、それぞれ実際は法定雇用率を下回っていた。衆院事務局はこれまで33人としていたが、取材に対して実際は23人だったと明らかにした。


◆障害者雇用 官の無自覚 
 手帳確認せず・本人に無断で算入  
 朝日新聞 2018(平成30)年8月29日(2面)
 国の障害者雇用の水増しが中央省庁の約8割に広がっていた。算入できる範囲の解釈が違っていたなどの弁明が相次いだが、法令を無視していたような実態も明らかになった。障害者雇用の牽引役となるべき国の機関で、「数合わせ」が横行していた背景には何があったのか。

法無視 甘いチェック体制 民間企業には厳しい目 3年ごと監査・未達成ペナルティーも
 民間企業へのチェックは、行政機関より格段に厳しい。厚労省への報告に加え、独立行政法人に年1回、雇っている障害者の名前や障害者手帳番号を報告する必要がある。3年に1回は同法人の監査を受け、手帳のコピーなどを確認される。
 法定雇用率を達成できない企業は、不足1人につき月5万円を国に納めなければならない。法定雇用率を大きく下回ったら、雇用率を達成するための計画作成を命じられ、それでも達成できなければ社名を公表されるケースもある。 
 一方、各省庁は、障害者の雇用の数を厚生労働省に毎年報告するものの、障害者手帳のコピーなどの証拠書類は必要なく、集計した数字を報告するだけ。監督機関も、虚偽報告をした際の罰則もない。行政機関の法定雇用率が企業より高いのは「模範となる」という考えに基づくが、今や国が企業を見習うべき状況だ。



◆障害者雇用の水増し 司法6割・立法4割
 行政機関も含め半数前後が不適切  朝日新聞 2018(平成30)年9月8日
 障害者の雇用数水増し問題で、各地の裁判所が雇っていたとしていた障害者数のうち62%、衆参の議院事務局など立法機関の雇用者数のうち44%が不適切な算入だった。
 厚生労働省が7日、昨年6月時点の雇用者数の再調査結果を公表した。すでに公表されている中央省庁は約半数が水増しで、これで司法、立法、行政の3権の機関すべてで半数前後の水増しがあったことになる。
 最高裁や高裁、地裁などの司法機関では従来調査の雇用者数641人のうち399人、立法機関で84.5人のうち37.5人の水増しがあった。 司法機関の障害者雇用率は2.58%から0.97%に、立法機関は2.36%から1.31%に低下。ともに当時の法定雇用率2.3%を下回った。
 最高裁によると、障害者手帳などを確認せず、異動時に引き継がれた書面や前年の資料などから認定していたケースが多かった。健康診断結果や医師の意見に基づいて判断していた例もあったという。堀田真哉事務局長は「裁判所への信頼を揺るがす遺憾なことで、深くおわび申し上げる」とのコメントを出した。
 厚労省は7日、中央省庁の水増し原因究明に関する検証委員会の初会合を11日に開くと発表した。委員は5人で、委員長の元福岡高検検事長の松井巖(がい)氏を含む3人が弁護士だ。ほかに障害者雇用や行政監察の学識経験者が委員となる。厚労省は独立行政法人337機関の再点検も実施する。9月末までに報告を求めるという。






雇用の水増しが発覚し、

雇用率を満たすための大量採用が始まる
 


朝日新聞:公的機関の水増しに揺れる障害者の雇用。現場の課題を3回で報告する。(担当:内山修、土屋亮、村上晃一、本田靖明、滝沢卓、志村亮、千葉卓朗)をもとに作成 


 

求ム障害者[上]
 雇用水増し 拙速な採用 

  仕事と特性 不一致を懸念  
朝日新聞 2018(平成30)年10月3日
 公的機関で相次いで発覚した障害者雇用数の水増し。大幅に下回った「法定雇用率」を来年中までに満たそうと近く障害者の大量採用が始まる。だが、雇用の現場で今広まっているのは期待感ではなく、不安だ。

 2014年10月のこと、全国の労災病院を運営する厚生労働省所管の独立行政法人「労働者健康福祉機構」(現労働者健康安全機構)が、分母となる職員数を減らし、分子の障害者雇用数は増やすという水増しの手口を歴代の人事担当者や幹部が引き継いでいたことを公表。機構は全国の労災病院に、法定雇用率を達成するため1カ月間で不足人数分の障害者を採用するように指示した。その性急な対応のひずみは、現場に現れた。

 「会議録が締め切りに間に合わない。パソコンが使えると聞いて任せたが、能力が追いついていない」。14年末、関西地方の労災病院では5人ほどの障害者を新たに雇い、パソコンを使った会議録の文字起こし作業やポスターづくり、患者向けイベントの運営など、看護師らの業務の一部を切り出して任せた。採用面接時に「パソコンができる」と言っていた障害者は、文字起こしを引き受けた。
 しかし仕事中、作業の進め方について細かいことを何度も同僚に聞いてくる。質問のたびに作業が中断するため、本人も周囲も仕事が進まなくなっていた。採用時に分からなかった障害の特性が採用後にわかり、職場が戸惑う事態がほかの病院でも続発した。要因の一つは、精神障害者の急増だった。外見からは障害の特性がわかりにくく、受け入れ側にも知識が必要だ。

 大量採用後の同年12月以降、機構は急きょ、精神障害者支援の専門家を採用。専門家は、障害者本人や同僚、人事担当者らと面談し、別の職場に移っていくつかの業務を試してもらうことや、仕事量を減らして徐々に慣れてもらうことを勧めた。障害者との接し方が分からない人には相談するよう呼びかけ、専門的な知識を身につけってもらった。

 国や自治体の法定雇用率の達成について、政府は来年中までの達成を目標に掲げる。こうした大量採用を急ぐ姿勢に、支援者や企業は受け入れ態勢への懸念を強めている。障害者団体などの関係者から、「雇用率を上げるためだけの数字合わせの採用はやめるべきだ」といった意見が相次いだ。


求ム障害者[中]
 「即戦力」は青田買い  朝日新聞 2018(平成30)年10月4日
 
9月下旬、特別支援学校の東京都立水元小合(こあい)学園(葛飾区)で開かれた企業向け見学会。参加した企業55社の人事担当者は、障害を持つ生徒たちの授業風景に釘付けになった。同校の「就職技術科」には、中学を卒業した知的障害がある生徒が通う。3年制で、今年3月に卒業した1期生70人は全員企業に採用され、「就職率100%」を達成した。

 「即戦力の育成」を目指し、実践的な技術や能力を学ぶほか、資格取得のサポートも充実している。身につけた技能を就職につなげる課程が「企業実習」だ。2年生になると年2回2週間ずつ、実際に企業の職場で働く。3年生では3週間ずつになる。生徒の特性と企業側のニーズとのすり合わせが進み、就職先が決まるケースが多い。

 同校を訪問する企業は一年中途切れない。 背景には、企業に義務付けられる障害者の「法定雇用率」が今春に2.0%から2.2%に上がったことがある。入社後の教育が減り、労務管理の負担も軽い同校の生徒のような障害者への採用活動が過熱している。企業にとって実習先となれば、採用のチャンスが広がる。
 障害者専門の就職支援会社の幹部は「3年生の就職活動は秋から始まるが、企業によっては2年生の夏の実習から生徒を囲い込むケースもある。事実上の青田買いが起きている」と明かす。

 厚生労働省の17年の調査では、企業で働く障害者は49万6千人で、比較可能な11年調査から13万に増加。ただ、18歳以上65歳未満の障害者350万人超に対し、企業で働く人は2割に満たない。
 都内のハローワーク職員によると、企業が求める人材は比較的軽い身体障害者や知的障害者に集中し、程度が重い障害者や調子を一定に保つのが難しい精神障害者が働ける職場の求人は少ない。と打ち明ける。


求ム障害者[下]
「数字ありき」助長も   朝日新聞 2018(平成30)年10月5日
 「法定雇用率」は、障害者雇用の拡大に一定の役割を果たしてきた。しかし、今では「数字ありき」で達成を目指す動きもあり、障害者それぞれの特性をいかした働き方が企業に根付かない要因にもなっている。

 32棟のビニールハウスが並ぶ千葉県船橋市の「わーくはぴねす農園」。地元の障害者96人が週5日働き、月10万円を受け取る。この給料を払うのは農園ではない。ハウスを借りる民間企業が雇用しているためだ。その多くは東京都内に本社を置く東証1部の大企業やその子会社で、障害者の農作業は本業とは関係がない。

 農園を運営するのは人材紹介会社「エスプールプラス」(東京)。同社がハウス1棟当たり3人の障害者を紹介。企業は1棟ごとに月24万円の賃借料も払う。企業がそうまでするのは、「障害者雇用を増やせるサービス」(採用担当者)だからだ。法定雇用率を達成できないと不足人数1人あたり月5万円の納付金を国に支払わねばならず、社名を公表される可能性もある。
 法定雇用率が2013年と今春に0.2ポイントずつ断続的に上がったことで採用のハードルもあがり、同社のサービスを利用する企業は急増。5年で5倍増の200社になった。農園は千葉県と愛知県に計12カ所、総面積は東京ドーム約4個分に広がっている。

 中小企業も厳しい事情は同じ。ただ、法定雇用率を達成できなくとも、国の「特例」が適用されるケースもある。兵庫県姫路市にある建物では連日、精神障害者ら数人が近くの養鶏場から仕入れた卵をパックに詰める作業をする。地元のNPO法人の事業者が雇うが、全く関係がない別の企業の雇用率を底上げしている。「事業協同組合等算定特例」のためだ。
 卵のパック詰めをNPOに委託する「ひょうご障害者福祉協同組合」は15年に発足。 国から特例の認定を受けている。認定されると、組合に加入する企業・団体を「一つの法人」と見なして障害者雇用率を算出できる。組合として法定雇用率を超えれば、自社で雇用率を下回っていても納付金を支払わなくてよい。

 この組合では中小企業4社とNPO1法人が特例の対象で、社員・職員は計約1600人。うち障害者は約50人で雇用率は3.3%だ。4社はいずれも単独では法定雇用率未達成だが、NPOが障害者を27人雇っているため組合の雇用率を押し上げている。このうち1社では、働く障害者が1人だけで雇用率0.4%。特例の対象になるには組合内の障害者がつくる製品などを年間60万円分買う要件があるが、男性役員は「雇用を増やしたいが、中小企業は仕事の種類が少なく、障害者に任せられる作業が限られる」とする。


◆働く障害者に配慮 行政向けの新指針
 省庁 来年4000人採用へ
    朝日新聞 2018(平成30)年10月20日
 中央省庁が障害者の雇用数を水増ししていた問題で、政府は障害者の法定雇用率を満たすため、2019年末までに各省庁で計約4千人を新たに採用する目標を掲げることになった。障害者が働きやすい環境を整えるため、職場で障害者に「合理的配慮」をすることを求める指針もつくる。
 政府はこうした障害者雇用促進策と再発防止策について、地方自治体や独立行政法人での水増し実態の調査結果とともに22日に公表する。中央省庁の水増しの原因究明をしている第三者委員会も、報告書を出す。





《雇用率を満たすための大量採用についての懸念》
・政府は、障害者の大量採用を急いでいるが、肝心の採用後の受け入れ体制は整っているのだろうか
・障害それぞれの特性を理解し、能力に合わせた仕事を用意できる職場づくりが重要
・求人は障害の程度が比較的軽い身体障害者や知的障害者に集中しているのが現状
・省庁が一挙に4000人もの障害者を雇用することになれば、民間企業の障害者雇用に影響が出るのではないか
・「雇用率を上げるためだけの数字合わせはやめるべきだ」


 障害者を採用するための国家公務員選考試験の受験案内を人事院のホームページで見たという知的障害の子をもつ親から 「知的障害者とその他の障害者と、筆記試験の問題が同じで、高等学校卒業程度の問題が出題される」ということについて、これでは知的障害者が受験するには無理がある。結局、国は障害者のことをわかってはいないという主旨の投稿が、朝日新聞の「声」欄(平成30年11月25日付)に掲載されていました。
 この投稿は、障害者問題、特に障害者の働く権利に関する問題を真に考える上でとても大切なことを投げかけていると思います。




◆障害者の採用へ国が業務説明会 
   雇用水増し問題受け  朝日新聞 2018(平成30)年11月28日
 人事院や厚生労働省などは27日、障害者を対象とした、業務説明会を初めて開いた。政府は障害者の法定雇用率達成のため、2019年末までに約4千人の障害者の採用を計画しており、約300人の障害者や支援者が参加した。
 人事院の担当者は、障害者に限った採用方法には、来年2月に初めて実施する統一試験(常勤)、各府省庁ごとの常勤と非常勤の採用の計三つの方法があると紹介。統一試験は12月3~14日に申し込みを受け付け、来年2月3日に1次選考を実施。2次選考を経て676人の採用を予定していることなどを説明した。






再調査で判明した障害者雇用数水増しの手法





◆障害者雇用 退職者を算入 第三者委報告 
 省庁、「うつ状態」「裸眼0.1以下」も   朝日新聞 2018(平成30)年10月23日(1面)
 中央省庁の障害者雇用数水増し問題で、原因を検証してきた第三者委員会(委員長=松井巌・元福岡高検検事長)は22日、多くの行政機関で健常者の職員を恣意的な解釈で「障害者」と見なしてきたとする報告書を公表した。また政府は全国の自治体で計3809.5人の不適切な障害者雇用数の算入があったとの再調査結果を公表。障害者雇用を牽引すべき行政機関で水増しが横行していた実態が改めて鮮明になった。

 再調査で判明した各機関の障害者雇用水増し数
昨年6月1日時点  
雇用者の水増し数 7744.0人
 雇 用 率
 従来調査 再調査後
  中央省庁      3445.5人  2.49%  ⇘   1.18%7
  司法機関       399.0 2.58   ⇘   0.97
  立法機関        37.5  2.36   ⇘   1.29
  地方自治体     3809.5 2.40  ⇘   2.16
  独立行政法人      52.5  2.40  ⇘    2.38
 厚生労働省まとめ。重度身体障害者と重度知的障害者は1人を2人と数え、重度ではない短時間勤務者は1人を0.5人と数える

 報告書が指摘した水増しの手法
 診断書や人事調査に「うつ状態」「適応障害の一歩手前」「不安障害」と記載があることを根拠に算入(国税庁)
 障害者職員の引き継ぎ名簿に名前があるとして、退職者を算入 (国土交通省)
 障害者数に計上ながら、法定雇用率の分母となる職員数に参入せず (法務省)
 眼鏡の使用やしぐさなどから視力が悪そうな者に裸眼視力を聴いて算入 (農林水産省)
 うつ状態で病気休暇に入ったと診断書で確認できた人を算入 (財務省)
 採用時の健康診断で裸眼視力0.1以下の人を算入 (総務省)



◆水増し 低い規範意識 
「恣意的」手口 動機解明できず   朝日新聞 2018(平成30)年10月23日(2面)
 中央省庁の水増しを調べた第三者委員会は、水増しを「恣意的」と認定。第三者委は各省庁に計35時間のヒアリングをし、報告書で悪質な手口を明らかにした。 厚労省が、毎年示す通達の内容があいまいで、障害者の認定で各行政機関の独自の「解釈」が広がった点も指摘した。
 例えば、「うつ状態」と診断された職員を「身体障害者」と算入した国税庁に、第三者委は「極めて不自然。特異性がある」と考え、担当者へのヒアリングを2回実施し、理由をただしたが、国税庁からは「原因不明」との回答しか得られなかったという。
 報告書は、各省庁が長年引き継いできた法定雇用率を満たすために在職中の職員から新たに障害者を選ぶ手口を「まことに不適切」としたが、松井委員長は「最初の源流は残念ながら解明できなかった」と述べ、調査に限界があったことを認めた。
 民間企業と違い、行政機関には監督機関のチェックがなく、障害者手帳のコピーなどの証明書類の保存義務すらないことが、水増しが長年にわたって続いた背景にある。だが、この日政府が示した再発防止策は依然として、複数職員によるチェックや内部点検の強化など、実効性に疑問符がつくメニューが並んだ。今回の問題では、関係者の処分も具体的に議論されていない。
 ある国税庁の若手男性職員は「税務調査では、帳簿の数字を水増しした納税者がいくら『悪気はなかった』といっても許されない。世間の理解を得るためにも、歴代の担当者の責任を問うべきだと思う」と話す。 

(土屋亮、花野雄太)



 
 法定雇用率の推移

  1976年10月  1988年4月  1998年7月   2013年4月   2018年4月  2021年4月までに
国・地方自治体 1.9%⇒  2.0%⇒  2.1%⇒  2.3%⇒  2.5% ⇒  2.6% 
 民 間 企 業 1.5%⇒  1.6%⇒  1.8%⇒  2.0%⇒  2.2% ⇒  2.3 %


◆障害者算入「勝手に」「漫然と」
雇用水増し 地方自治体3.8千人   朝日新聞 2018(平成30)年10月23日(35面)
  障害者雇用の水増しが自治体でも広く行われていた。法定数に64人足りず、不足人数が全国最悪だった山形県。 朝日新聞の取材に対し、県人事課の課長の説明は、医師の診断書を確認せず、職員の自己申告をもとに障害者と算入していたという。「担当者が前任者から引き継いで算出していた。ガイドラインの理解が不十分なまま漫然と続けていた」。法定雇用が義務付けられた1976年度から続いていたといい、障害者が担う仕事を精査するよう各職場に求め、速やかに求人を出す方針だ。

 なぜ、不適切な算入が相次いだのか。各地の担当者の話から浮かぶのは、引継ぎを漫然と繰り返し、本人への確認なしに診断書などをもとに算入する姿だ。 群馬県でも障害者手帳を確かめず、病気休暇取得時の「内臓疾患」や「難聴」と記された診断書や本人の申告などをもとに算入。長年、履歴は引き継がれ、本人に確認しないままになっていた事例もあった。
 調査では、自治体の水増し全体の6割を占めた教育委員会の深刻さも浮かんだ。厚生労働省の関係者によると、教員は資格がある障害者が少ないため、教育委員会での障害者雇用率は低くなりがちだという。
 東京都は知事部局や教育委員会では不適切な算入がなかった。



<厚生労働省>
「公務部門における障害者雇用に関する関係府省連絡会議」の開催について
都道府県の機関、市町村の機関、都道府県等の教育委員会及び独立行政法人等における平成29年6月1日現在の障害者の任免状況等の再点検結果について 平成30年10月22日
国の行政機関における障害者雇用に係る事案に関する検証委員会報告書 .平成30年10月22日
公務部門における障害者雇用に関する基本方針の概要 平成30年10月23日公務部門における障害者雇用に関する関係閣僚会議決定







障害者雇用数の水増し発覚後の報道から



◆障害者求人に「自力で通勤できる」
 
28都県と省庁、不適切条件  
朝日新聞 2018(平成30)年10月27日(1面)
 都道府県のうち少なくとも28都県や財務省など複数の中央省庁で、障害者の職員を募集する際に「自力で通勤できる」などの条件を課していたことが26日明らかになった。厚生労働省は、障害者の採用差別を禁じた法律の趣旨に反するとみている。障害者雇用への意識の低さが改めて問われる事態となっている。


◆障害者求人 あしき「前例踏襲」
「自力で通勤」40年続く自治体も  朝日新聞 10月27日(2面)
 
民間企業を指導すべき官公庁、障害者雇用数の水増しに続き、不適切な求人条件を付けていたことが明らかに。

 埼玉県は1978年度から、障害者を対象とした選考で「自力により通勤」できることを求めてきた。介護者なしに1日働けることも、併せて条件にしていた。40年前から文言を変えておらず、県人事委員会事務局の担当者は「前年踏襲でやってきた」。これまでに302人が合格し、今年度の選考も始まっているが、見直しを検討するという。

 群馬県は、身体障害者を別枠で採用し始めた13年になって「介護者なしに職務の遂行が可能な人」と条件をつけた。食事や排せつなどを自力で行えない人でもできる仕事を用意したり、十分な職場環境を用意したりすることが「現実的に困難と判断した」と県人事委員会は説明。

 東京都は「自力により通勤が可能な人」という条件があるのに、通勤に介助者が同行してもいいという分かりにくさだ。担当者は「介助の費用などは負担しないという意味だ」と説明。

 条件をなくしたところもある。
 神奈川県は16年度から、募集要項にあった「自力による通勤及び職務遂行が可能な人」との文言を削除した。同年4月に改正障害者雇用促進法が施行され、「障害者には、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない、という法の趣旨を踏まえた」(県人事課)という。青森県も昨秋の募集から条件をなくした。


◆障害者雇用 周知に不手際
 厚労省 処分せぬ方針  朝日新聞 2018(平成30)年11月13日(夕刊)
 中央省庁の障害者雇用数水増し問題で、障害者雇用制度を所管する厚生労働省が同省職員を処分しない方針を固めたことが13日わかった。原因を検証した第三者委員会は、厚労省から各省庁への制度の周知に不手際があったと指摘したが、厚労省は長年続いた不手際の責任を個々の職員に問うのは難しいと判断した。
 会見で、根本匠厚労相は「二度とこのような事態を生じさせず、障害者雇用の推進に全力で取り組むよう、事務次官と職業安定局長に(口頭で)注意と指導を行った」と説明。全部局の幹部にも、障害者を雇用する行政機関の手本となるよう取り組むことを口頭で求めたと述べ、 一連の問題について自ら対応したと強調した。職員への処分をする考えは示さなかった。
 制度を所管する厚労省の職員が処分されないことには、障害者団体や野党が批判を強めそうだ。



◆雇用の水増し 処分なし 国交省  朝日新聞 2018(平成30)年11月21日
 障害者雇用数水増し問題で、国交省は省庁のなかで2番目に水増しが多く、退職者などを不適切に計上した例があった。 石井啓一国交相は、水増しについて「障害者雇用に対する意識が低く、長年にわたり不適切な計上が行われてきたのはあってはならないこと」と指摘。その上で「法令に違反していると認識しながらあえて行ったものではない」として国家公務員法に基づく処分は行わない考えを示した。


◆障害者雇用法改正を検討
 省庁水増し チェック機能を強化へ 朝日新聞 2018(平成30)年11月21日
 中央省庁や地方自治体での障害者雇用の水増し問題などを受けて、厚生労働省は障害者雇用促進法の改正の検討を始めた。法改正で、障害者が能力を発揮できる環境の整備や、中央省庁での障害者数の算定が適切に行われているかチェックする機能を強化したい考えだ。来年の通常国会への提出を目指している。
 知的障害者を支援する「全国手をつなぐ育成会連合会」の会長は、短い時間しか働けない障害者は、企業への就職が難しい現状を説明。その上で、同法で障害者雇用率に算入できる対象を週20時間以上働ける人としていることが影響していると指摘し、より短い時間の勤務でも算入できるように改正を求めた。
 全国精神保健福祉連合会の理事長も「短時間でも職場に参加できることが大事」と強調。週数日の勤務や在宅勤務の支援策の拡充が必要だとした。

◆障害者雇用 未達成は予算減 

  政府方針 中央省庁にも「罰則」  
 政府は法定雇用率が達成できなかった省庁の予算を減らす仕組みを導入する方針を固めた。民間企業には事実上の「罰金」となるペナルティーがあり、類似の仕組みをつくることで法定雇用率を確実に達成する狙いがある。2020年度からの導入を目指す。
 障害者雇用促進法で義務づけられている法定雇用率は、現在は国や地方自治体が2.5%、企業業が2.2%だ。民間企業が達成できなかった場合、原則、不足1人につき月5万円の納付金を国に支払わなければならない。
 一方、国や地方自治体にはこうした制度がなく、批判が出ていた。自民党の部会は6日、未達成の場合には、「予算面における対応を行う」ことなどを政府に求める決議をまとめた。

 今後、厚生労働省と財務省などが具体化に向けて協議する。減額する予算項目としては、雑費などに充てられる「庁費」などが選択肢にあがっている。また、障害者を雇う予算は「人件費」や「庁費」(非常勤などの場合)として計上されている。予定していた人数の障害者を雇えなかった場合、それぞれの項目で定められた目的の範囲内ならば、障害者を雇う以外に使うことも一定程度は認められている。これについて、障害者雇用の予算が別の目的に使われることに批判があるとして、障害者の雇用促進策などに限って使えるようにすることも検討するという。

 水増し問題をめぐっては、厚労省は今国会に再発防止策などを盛り込んだ改正障害者雇用促進法案を提出する予定。本来は法定雇用率に算入できない人をカウントしていた事例があったため、確認の仕方を法令に明記することや厚労省に他省庁への調査権限をもたせることなどが柱だ。今月中旬に閣議決定される見通しだ。今国会で成立すれば、一部を除き20年4月に施行される。政府は、予算減額の仕組みもこれに合わせて導入することを目指す。

(松浦祐子)



◆障害者雇用率 省庁も「罰則」 
  未達成なら1人60万円予算減  朝日新聞 2019(平成31)年3月12日
 政府は11日、中央省庁に法定雇用率の達成を促すための対策を決めた。達成できない場合、不足1人あたり年60万円を翌年度の予算から減額する。また、必要な障害者数を雇えなかった際に余る人件費は、別の用途に使わせずに民間企業も含む障害者の雇用促進策に活用する。この日の関係府省連絡会議で了承した。
 まずは2020年6月1日時点の達成状況を確認し、雇用数が足りない省庁には21年度当初予算から雑費などに充てる「庁費」を減らす。余った人件費の活用は、早ければ20年度予算から対応する。地方自治体には、余った人件費の使い道などについて政府を参考に対応を取るよう要請するとしている。
 民間企業には未達成の場合、不足1人につき原則、月5万円(年60万円)の納付金を支払う「ペナルティー」がある。






◆国の障害者採用 政府が統一試験 
  水増し問題を受け、初めて  朝日新聞 2019 (平成31)年2月4日 (1面)
 中央省庁での障害者雇用者数の水増し問題を受け、政府が初めて行う障害者対象の国家公務員統一試験が3日、全国9都道府県の22会場で実施された。676人採用枠に対し、約13倍となる871人が申し込んだ。この日の、1次選考は筆記と作文で、2次選考を経て年度内に選考が決まリ、働き始める。

 政府は2019年末までに約4千人の障害者を採用する計画を立てた。応募者は全国の17~59歳(1月1日時点)で、手帳別にみると精神障害者保健福祉手帳57%、身体障害者手帳など40%、知的障害者らの療育手帳など3%となっている。
 都内の会場で受験した視覚障害がある会社員男性(46)は、「急に大勢を受け入れることになると思うので、省庁側の態勢が整っているか疑問がある」と話す。

(別宮潤一、国吉美香)


◆障害者 働ける場もっと 国家公務員試験 受験者の思いは
「周囲が理解してくれるか」  朝日新聞 2019(平成31)年)2月4日 (31面)

省庁 受け入れ態勢手探り

 全省庁で最多の「1068.5人」(昨年6月時点)が不足していた国税庁は障害者の採用枠を設けるのは初めてで「民間企業の取り組みも参考に準備している」と担当者。
 防衛省と防衛装備庁は、本省や各地の駐屯地などの仕事を洗い出し、健常者と同じ業務や補助的な事務を任せることにした。必要な配慮について、外部の専門家を招いて研修する予定。担当者は「本人の希望も踏まえ柔軟に対応したい」と言う。
 「いろいろなバックグラウンドの職員がチームワークで働いています」とアピールする国土交通省は、「書類作成、データ作成・管理などの業務」を担ってもらう。

「民間のお手本に」 支援者側から注文

 支援する関係者には不安や戸惑いがある。障害者のための労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」(東京)の久保修一書記長は「具体的な職務や障害への配慮が不透明で、雇用率の数合わせの印象は否めない」と言う。組合には民間企業からの転職相談が多いという。待遇の良さや安定したイメージが主な理由で、「慣れた職場環境から転職するほどかどうかは、慎重な判断が必要だ」と指摘。
 軽度の知的障害者らが通う都立永福学園(杉並区)。高等部3年生の94人は誰も受験しなかった。 民間企業への3週間のインターン(就業実習)などで適性を見極めるのと比べると、「長く働ける職場か分からない」のが主な理由だ。筆記試験が「高卒程度」と難易度の高さもある。 進路指導を担当する森川崇主任教諭は、省庁の担当者が学校視察に訪れる際に「職場定着について意見を交わしたい」と話す。
 障害者専門の人材紹介事業を手掛ける「ゼネラルパートナーズ」(東京)の首都圏統括マネジャーの森田健太郎さん(39)は「中央省庁にはまだ民間でも雇用の機会が限られている人にこそ門戸を開いてほしい」と言う。短時間しか働けない精神障害者や、在宅勤務を希望する重度身体障害者たちだ。「省庁がお手本を示し、民間に波及するきっかけになれば」と期待する。



主な国の機関の障害者雇用と今回の採用予定数(常勤) 
   雇用率(%)  不足人数 採用数 
 国 税 庁  0.67  1068.5   50
 国 交 省  0.76   713.5  169
 法 務 省  0.79   574.5  125
 防 衛 省  0.95   350.5   60
 農 水 省  1.15   212.5    27
 法定雇用率は2.5%。雇用率と不足数は昨年6月1日時点で常勤以外も合わせたもの。
 重度身体障害者と重度知的障害者は1人を2人と数え、重度でない短時間勤務者は1人を0.5人と数える。

(国吉美香、村田 悟)


◆国家公務員試験 

   障害者754人合格  朝日新聞 2019(平成31)年3月23日
 中央省庁での障害者雇用者数の水増し問題を受け、政府が2~3月に初めて実施した障害者対象の国家公務員統一試験に754人が合格した。人事院が22日発表した。採用枠の676人を上回り、人事院の担当者は「一部の省庁で前倒し採用があった。歓迎したい」としている。
 人事院によると、合格者は17~58歳(昨年4月1日時点)。省庁別では、国土交通省が174人で最も多く、法務省138人、国税庁90人と続いた。持っている障害の手帳別では、身体障害者319人、精神障害者432人、知的障害3人。知的障害者は「高卒程度の知識を問う形式のため少なかった」(人事院)といい、今後、各省庁ごとの個別採用で対応する。

◆政府の障害者採用 約2700人  朝日新聞 2019(平成31)年4月23日
 中央省庁での障害者雇用者数の水増し問題を受け、政府が新たに採用した障害者数が4月1日時点で2700人程度になる見通しであることが22日、わかった。政府は今年末までに約4千人を雇う計画。
 国の行政機関では障害者の雇用数が水増しされ、昨年6月1日時点の実際の雇用率は1.24%と、法定雇用率(2.5%)を大幅に下回った。達成に向けて障害者対象の国家公務員統一試験を初めて実施し、3月に正職員として754人に合格を出した。これに非常勤として採用した人数を加えると、2700人程度が採用されたとみられる。

◆政府の障害者採用 民間からは337人 朝日新聞 2019(平成31)年4月24日
 中央省庁での障害者雇用数の水増し問題を受け、政府が新たに採用した障害者数は2755.5人で、その1割強に当たる337人が民間企業を辞めて公務員になった人であることが明らかになった。厚生労働省が23日、自民党の部会で説明した。
 この問題の再発防止策を盛り込んだ改正障害者雇用促進法案はこの日、国会で審議入りした。国の大量採用の影響で、法定雇用率が未達になる企業が出る可能性も指摘されており、厚労省は、企業の法定雇用率が未達でも、年内は適正実施勧告や特別指導、企業名の公表などの措置を見送る方針を示した。
 昨秋から4月1日までに採用した障害者数は常勤職員が764人、非常勤が1991.5人だった。


◆障害者採用試験 4574人  朝日新聞 2019(令和元)年8月10日
 人事院は9日、障害者を対象に9月に行う2回目の国家公務員統一試験で、248人の採用枠に4574人の申し込みがあったと発表した。出願倍率は約18倍で、初回の13倍から上昇した。今年末までに合格者を採用する。
 昨年8月に発覚した中央省庁での障害者雇用数の水増し問題を受けて、政府は今年末までに計約4千人の障害者を採用する目標を策定。その一環で、人事院が障害者を対象に統一試験を行うことを決めた。




◆障害者雇用率を発表  朝日新聞 2019(令和元)年12月26日
 厚生労働省は25日、今年6月時点で行政機関や民間企業で障害者をどれだけ雇っているかを示す障害者雇用率を発表した。
 教育委員会を除く都道府県の機関全体の雇用率は2.61%と、昨年6月時点の2.44%から上昇し、公的機関の法定雇用率(2.5%)を上回った。

 このうち知事部局に限ると、都道府県の47機関のうち33機関が法定雇用率を上回った。知事部局で最も高いのは大阪府の3.63%、最も低かったのは島根県の1.78%だった。
 一方、中央省庁などの国の機関の合計は2.31%だった。昨年夏に障害者雇用数の水増しが発覚し採用を増やしているが、昨年(1.22%)よりは増えたものの、法定雇用率には届かなかった。国の行政、立法、司法機関では、44のうち17が法定雇用率を達成していない。中央省庁では外務省(1.05%)が最も低く、内閣府、消費者庁、文部科学省、農林水産省、特許庁、防衛省などが1%台だ。


◆障害者雇用水増し 中央省庁が「解消」 朝日新聞 2020(令和2)年2月22日
厚労省が発表 採用は非常勤78%
 2018年に発覚した中央省庁の障害者雇用数の水増し問題にからみ、厚生労働省は21日、国の35行政機関すべてが19年12月末時点で公的機関の法定雇用率(2.5%)を満たしたと発表した。法定雇用率を満たしていなかった29機関が障害者4748人を雇って水増しを解消した。ただ、このうち77.9%の3697人は非常勤の職員だ。

 今回の調査は、18年6月時点で法定雇用率を満たしていなかった国の行政機関と19年4月に新設された出入国在留管理庁の計29機関が対象。法定雇用率を満たしていた厚労省、警察庁、内閣法制局、個人情報保護委員会、海上保安庁、原子力規制委員会の6行政機関は対象から外した。
 29機関の全職員に占める障害者の割合は2.85%。新たに採用した4748人の内訳は、精神障害者が最も多く56.8%(2699人)、身体障害者が40.8%(1939人)を占め、知的障害者は2.3%(110人)にとどまった。厚労省は「学科試験がネックになるなど、知的障害者が挑戦しにくい状況があった」と分析。今後の採用では工夫が必要との認識を示した。
 採用者のうち12月末までに離職した障害者は8.9%の424人で、定着率は91.1%だった。

 調査の対象外となった立法機関では、衆議院事務局(2.78%)、参議院事務局(2.99%)、国立国会図書館(2.77%)のいずれも法定雇用率を上回った。同じく対象外だった司法機関は、全国の高裁、家裁の一部の23機関で法定雇用率を下回った。

(内山修)





水増し発覚後の障害者雇用

 
社会部 土屋 亮 

記者解説 Commentary 朝日新聞2020(令和2)年3月30日より抜粋 
  /中央省庁の障害者雇用の水増し。大量採用で水増しは解消したが、雇用の質に課題
  /民間企業の障害者雇用は低調なまま。法定雇用率を満たす企業は半数に満たない
  /障害者雇用に後ろ向きな考え方が「数合わせ」を生む。小さな工夫の積み重ねを




環境整えぬまま大量採用→次々離職


法定は満たしても
 働きたいのに働く場がない……。
 そうした思いを抱える多くの障害者が耳を疑うような国の不正が明るみに出たのは、おととしの8月だった。中央省庁障害者雇用数の水増しが発覚。調査の結果、28機関で3700人分もの不適切な参入が見つかった。

 引き継がれてきた職員名簿を使って退職者や死亡者まで雇用数にカウントしたり、眼鏡やコンタクトレンズで矯正できる裸眼視力0.1以下の人を勝手に障害者に数えたりしていた。運用が適切かどうかのチェックがずさんで、長年の水増しを防げなかった。障害者と働く職場をつくる意識の欠如が露呈した。
 障害者に「労働」という形で社会参加を促すのは国の方針だ。障害者の生活を支える障害基礎年金の支給額は月6万5千~8万円ほど。これだけで自立して生活するのは難しいが、1千万人近い国内の障害者のうち民間企業などで働く人は1割に満たない。

 障害者雇用数の水増しの発覚を受け、国は急きょ、約4千人を採用する計画をまとめた。「昨年12月末でこの計画を達成した」と国が発表したのは先月のことだ。
 発表によれば、各機関で法定雇用率は満たされたが、これで一件落着とはいえない。各機関はあらかじめ離職者が出るのを見込んで多めに募集をかけ、計画を大きく上回る4748人を採用した。大半が非常勤職員で、うち424人は職場環境や体調悪化などを理由に昨年12月末までに離職している。

 厚生労働省のある幹部は「法定雇用率は達成できたが、障害者が能力や適性に合った仕事に就き、やりがいをもって働いているかという雇用の質の面では課題がある」と認める。



民間企業は達成半数弱 
 
民間企業に目を転じれば、障害者雇用数は少しずつ増えてはいるが、法定雇用率(2.2%)を満たしている企業の割合は48%と、半数に届かない。
 現状の障害者雇用の仕組みには、民間企業の雇用を後押しする一方で、雇わずに済む「抜け道」がある。常用労働者100人超の企業は、法定雇用率を達成できない場合、不足する1人につき原則月5万円を払う「納付金」の制度だ。集められた納付金は、法定雇用率を上回って障害者を雇う企業に調整金として渡される。超過1人あたりに支給される調整金は月2万7千円。受け取り手には大企業が目立つ。

 慶応大商学部の中島隆信教授(応用経済学)は「中小企業が大企業に補助金を出すおかしな構図になっている」と指摘する。納付金が調整金を上回る傾向が続き、余剰金は2018年度末で約200億円にのぼる。
 人件費が税金で賄われる役所とちがい、民間企業、とりわけ従業員を1人や雇うにも慎重にならざるをえない中小企業が障害者雇用を広げていくには、相当な工夫が求められる。


特例子会社の制度にも課題
 
企業に障害者雇用を促す「特例子会社」の制度にも課題がある。特例子会社は一定の規模以上の企業を念頭に置いた仕組みで、障害者を自社で雇えなくても、子会社をつくってそこで雇用すれば、グループ全体として法定雇用率に算入できる。年々増えて全国で500社超にのぼるが、多くは事務補助や清掃など親会社の業務の一部を請け負っていて、業績を追求するところは少ない。

 野村総合研究所が19年に全国の特例子会社を対象にした調査では、「グループ全体での障害者雇用が進まず、特例子会社任せになる」との回答が43.6%にのぼった。「障害者の社員の業務内容やキャリアパスが限定される」との回答も32.0%あった。


脱「数合わせ」へ定着支援を
 
精神障害者も雇用義務化 誰もが働きやすい職場へ
 
18年から身体、知的障害に加え精神障害者の雇用も義務化されたことが現状に一石を投じている。
 精神障害者には、専門的なスキルを身につけ、健常者と変わらない成果を出す人が少なくない。 一方でコミュニケーションが苦手だったり、気分の好不調の波が大きかったりするため、健常者と同じペースで働くのは難しいことが多い。雇用数はまだ多くはないが、身体障害者と比べて若い世代が多く、採用数の増加が見込まれる。精神障害者が働きやすい職場づくりが企業にとって大きな課題になりつつある。



 <日本の障害者雇用の歩み>
 1960年  身体障害者雇用促進法を制定。法定雇用率制度を開始(公的機関は義務、民間企業は努力目標)
 76年  民間企業に法定雇用率を義務化
 87年  法改正し、法の対象範囲を知的障害者や精神障害者にも拡大
 88年 法定雇用率を1.6%に引き上げ 
 98年 知的障害者の雇用を義務化。法定雇用率を1.8%に引き上げ 
 13年 法定雇用率を2.0%に引き上げ 
 18年 精神障害者の雇用を義務化。 法定雇用率を2.2%に引き上げ


 <水増し問題発覚後の中央省庁の障害者雇用>
 省庁名  採用者数 離職者数   障害者雇用率の変化 
国税庁  1537人  201人 採用前  ⇒  採用後
0.67%    2.93% 
 国土交通省  814人  55人 0.76%    2.85%
 法務省  603人  60人 0.79%    2.74%
 防衛省  383人  21人 0.95%    2.79%
 農林水産省  228人  11人 1.15%    2.82%
 財務省  212人  13人 1.18%    2.75%
 経済産業省  127人  12人  0.89%    2.98%
※100人以上を採用した省庁を抜粋。採用時期は2018年10月~19年12月。離職者数はこの間に採用された人のうち、19年12月末までに退職した人の数。障害者雇用率は18年6月1日時点と19年12月末時点の比較




◆国の障害者雇用 2.83% 
 6月時点 前年同期比0.52ポイント上昇 朝日新聞 2020(令和2)年9月11日
 厚生労働省は10日、中央省庁や裁判所など国の45機関で働く人に占める障害者の割合は、6月時点で2.83%だったと発表した。前年同期より0.52ポイント上昇。国の機関に達成が義務づけられている法定雇用率(2.5%)を下回ったのは、前年の17機関から「地方裁判所」1機関のみに減った。

 行政・立法・司法の区分でみると、障害者雇用率は中央省庁が2.85%、衆議院事務局などの立法機関が2.74%、裁判所などの司法機関が2.61%だった。法定雇用率の計算ルールに基づく障害者数は9336人で、1759人増加。精神障害者が905人、身体障害者が852人、知的障害者が2人増えた。

 中央省庁では2018年に雇用の水増しが発覚。政府は19年末までに約5千人を採用し、中央省庁としては昨年末時点で法定雇用率を達成したと発表していた。
 ただ、18年秋以降に中央省庁が採用した障害者のうち、今年6月時点で働き続けていた人は83.4%で、職場への定着も課題となっている。

(岡林佐和))


◆障害者雇用率、民間で法定届かず  朝日新聞 2021(令和3)年1月16日
 
厚生労働省は15日、障害者雇用率について、昨年6月時点の民間企業と都道府県の状況を発表した。民間企業は2.15%で、前年より0.04ポイント上昇したが、法定雇用率(2.2%)には届かなかった。都道府県全体(教育委員会を除く)は2.73%で前年より0.12ポイント上昇し、法定雇用率(2.5%)を上回った。知事部局に限ると、42(前年は33)都道府県が法定雇用率を達成。最も高いのは大阪府の3.45%だった。
 中央省庁などの国の機関については昨年9月に公表済みで、2.83%と法定雇用率 (2.5%)を上回っている。








令和3年3月1日から
障害者の法定雇用率が引き上げになります


<事業主区分>令和3年3月1日以降の法定雇用率の引き上げ
  民間企業 2.2% ⇒ 2.3%
  国、地方公共団体等 2.5% ⇒ 2.6%
  都道府県等の教育委員会 2.4% ⇒ 2.5%

<対象となる事業主の範囲> 従業員43.5人以上に広がります
 今回の法定雇用率の変更に伴い、障害者を雇用しなければならない民間企業の事業主の範囲が、 従業員45.5人以上から43.5人以上に変わります。
 事業主には、以下の義務があります。
◆ 毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければなりません。
◆ 障害者の雇用の促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」を選任するよう努めなければ なりません。

<留意点>
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク:令和3年3月1日から 障害者の法定雇用率が引き上げになります。https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/content/contents/000733495.pdf









 障害者の働く権利と「福祉的就労」の意義

 知的障害と就労について

 障害者雇用法制度の変遷

 発達障害と障害者雇用制度

 障害者の権利条約と「合理的配慮」について
















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